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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第二章:神を宿す者たち
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21日目④:私は貴方を今度こそ

「卯の隠密。巳の毒蛇。料理の中に混ぜられないようにしなきゃ・・・」

「さっきからどうしたの。三人の方をちらちら見て・・・」

「え、いや・・・」

「もしかして、りんどうは・・・・」


夏彦さん、もしかして私が付喪神ではない存在だと気が付いている?

ドラゴンではなく、辰だと

付喪神ではなく、憑者神という人の悪しき文化から生まれた存在だと


「りんどうは、人見知り?」

「え」


全然違う問いを投げかけられ、変な声が出てしまう

そうだ。この人は付喪神って言っても普通に信じる人だもの

嘘みたいな話を、疑いを抱くことなく信じた無垢な人

そんな人だから、私は・・・


「あ、なんか気にしているのなら言わなくていい!ただ、覚とか東里はともかく、丑光さんと話す時も、俺の後ろにいたし、話しづらそうにしていたから、気になって・・・」

「実は、なんです。でも、仲良くなりたいとは思っています。夏彦さんの大事な方ですから」


だからこそ、罪悪感が私の中で深く積もっていく

嘘をつき続けるたびに、心が痛くなる


嘘をつくたびに、鈴がなる。あの人がくれた、二つの鈴が

あの人を導くための鈴が、嘘だと告げるように小さく主張するのだ


心の中では正直にいたい。本当はあの三人と仲良くしたくないのだ

前世の彼らがちらつくのだ。特に、あの二人

智の子孫である巳芳覚。そして、祝の子孫である丑光恵

何の偶然だろうか。雪霞様、智と祝に縁がある人物が集まるなんて、とても不思議だ

しかし、何よりも・・・


「どうしたの、りんどう」

「え?」

「俺の服の裾は野菜じゃないよ?包丁を構えないでくれる?」

「え、あ、すみません!」


夏彦さんの服の裾を放し、包丁をまな板の上に置く


「初対面の人ばかりだから緊張しているんだよね。しかもまともに紹介もしていなかったし、配慮が足りなかったね。ごめんね、りんどう」

「い、いえ・・・」


違う、そうじゃない

なんだろう。何というのだろう

取られて、寂しい?


「酒飲んでるのが巳芳覚。兎耳が卯月東里、唯一の女の子が丑光恵さん。簡略だけど」

「巳芳さんに、卯月さんに、丑光さんですね。覚えました」


・・・顔がそっくりだから全員覚えやすい

覚は智、東里は俊至、恵は祝に・・・瓜二つなのだから

そして、隣にいる彼も・・・


「りんどうは覚えるのが早いね」

「これぐらい当然です!」


いつものように、頭を撫でようとするが寸で手を止める

また後で、と口パクで伝え、彼は再び野菜を切り始めた


「りんどうはさ、うちのアパートから一人で出たのは一回だけだよね」

「そうですね。酉島さんとも、フロアで少し程度ですし・・・」

「純粋に心配って言うのもあるけどさ、束縛しすぎかな」

「心配する理由はわかりますから、これぐらいでいいです。外出も夏彦さんとの方が安心ですし・・・」

「そう言ってくれると助かる。でもさ、やっぱり、俺とか、酉島さんとか、限られた人だけでなく、りんどうには色々な人と関わってほしいなと思うこともあって」


手を止めて、仕事仲間であり友人でもある三人を見る


「そして俺は、りんどうを沢山の人に知ってもらいたいと思う」

「・・・私を?」

「うん。付喪神だってことは言えないけどさ、こんなにも優しい子だって。沢山の人に知ってほしいんだ」


私がついた嘘に気が付かない夏彦さんは、小さく笑いながら楽しそうに語る

彼の表情の変化は珍しい。だからこそ、罪悪感がさらに積もる

心から思っていないことを言ったのに、それを本当だと思って・・・ああ、心が痛い


「なんだかんだで、東里と覚は高校時代から付き合いが長いし、あそこまで長い付き合いになったのは、拓実先輩ぐらいだな。一馬先輩は少し、特殊だけどね」

「拓実?」


知らない体で聞いたが、あらかじめ夏彦さんの交友関係は調べてあるので彼の事も把握している

一葉拓実。夏彦さんの一つ上の学年だけど、同い年である高校時代の喧嘩相手。こちらも元不良だ

今は小学校教師らしい。世も末だ

前は顔を合わせるたびに殴り合いに発展していたようだが、ある期を境に彼は牙を折られたようで、不良界から姿を消した

どうやら独身のようだ。女の気配すら感じない。そういう趣味でもあるのだろうか

・・・いや、ないな。油断していたら女子高校生に翻弄されていそうな感じだったし


「そういえば、拓実先輩の知り合いの元になるんだが、出会った頃は女子高生だった子が結婚したらしいんだ。もう二年前になるんだけどな」

「おめでたい話ですね」


それ、偽装結婚ですよ

あの男の動向を追う内に知り得た情報だ

しかしそれを口に出してはいけないし、態度に出してもいけないので目を逸らして話を聞き続ける


「ああ。しかし、学生時代から女の気配がなかったのに・・・どうやって五年前に女子高生の知り合いなんて作ったんだろう」


最近は電子機器も発達して、えすえぬえす・・・・だったか。あれでコミュニケーションをとれると聞いた

そういうのを利用した出会いかもしれないが、調査した限りでは・・・ただぶつかっただけみたいだった


「案外、道端でぶつかったみたいな感じかもしれませんよ」

「意外とあり得そう。たまに抜けてるところあるし」


そういえば、友人たちも派生してその交友関係を調べていたのだが・・・一葉拓実には奇妙な交友関係が一組ある

それこそ、その話に上がった元女子高校生

神社の巫女さんで経歴に後ろめたい部分はなかったのだが・・・問題なのはその旦那になった男の方

・・・直接、やりあうことになったらどうしようと思う程度には厄介だ

できれば関わりたくないと心から思っている


「りんどうは、じいちゃんのところにいた時、いやそれ以前も含めて友達とかいた?」

「いえ。いなかったですね。夏彦さんが初めての友達だと思います」

「俺は友達」

「友達ではないのですか?」

「俺はどちらかと言えば家族じゃないの?」

「家族、ですか・・・」


家族、というのは初めて言われた

物心ついたときには、一人で過ごしていたし

花籠はなかごの家に引き取られて、彼の御付として過ごしていた私には無縁の言葉

大切だとは言われたことがあるけれど、家族だとは一度も言われたことがないから、なおさら・・・


「・・・嬉しい」


鈴はならない。正直な気持ちをよく伝えたというように


「そうか。もしかして今まで色々な場所を転々としていたのかな」

「はい。そんな感じです」

「嫌になるまでここにいていいからね。そうだ、学校とかどうする?十二歳的には」

「いいですよ。学校なんて・・・私二十三歳ですよ?」


それに今、何月だと思っているんだ。十一月だぞ

四月ならともかく、十一月から編入なんて気まずいにもほどがある

それに、年齢も、この身体も・・・上手く誤魔化せる自信はない


「そっか。でも、時代的には学校とか行ったことないかなって思って。行きたかったらいつでも言って。頑張るからさ」

「わかりました。けれど、どうして、夏彦さんはそこまで・・・」


学校とかむしろ嫌っていそうなのに、と聞こうとするが問いを言い終える前に夏彦さんが口を開く


「俺、元ヤンってばらされただろう?」


私は無言で頷く

別に驚くことではない。調査で既に知っていたのだから

「暴風龍」とかとんでもない仇名を付けられていたようだ

なんでも、彼に蹴飛ばされた人間は竜巻に巻き込まれたように回転しながら上昇するそうなので・・・そんな仇名が付けられたそうだ


「毎日喧嘩に明け暮れていてさ。碌に勉強してなくて。拓実先輩みたいに地頭がよかったとかでもなかったし・・・」


包丁を動かす手が止まる


「随分前に両親が離婚したのは覚えてる。それから俺はじいちゃんに育ててもらったんだ・・・その、優しさを受け入れなかったんだけど。そんな風に生きて、じいちゃんに迷惑をかけっぱなしで、恩の一つも返せないまま逝かせた」

「夏彦さん・・・」

「少し強引気味だったけどさ、君と一緒に暮らすのも悪くないと思っているんだ。むしろ、とても楽しいと思う。それに、君と一緒にいたらさ、爺ちゃんが俺にやりたかったことも、わかる気がするんだ」


彼の口から直接私に語られることになるなんて思っていなかった

ずっと、隠したままにしておくかと思ったから


「付喪神だって聞いたときは驚いたよ。けれどさ、それでも・・・人らしい暮らしを体験させてあげたいなって思ったんだ」


人らしい暮らし

二百年近く生きているが、それをさせてもらえたのは、実際に人として生きていた時代であり「彼の側」にいた時以来だった

言葉から感じる

ああ、この人は本当に―――――――――――――――


「ありがとうございます。とても、嬉しいです」


鈴はならない。だって心から思った言葉なのだから


「お金のことは気にしないで、りんどうがやりたいことをしたらいい。部活とかきっと楽しいと思うから」

「夏彦さんは何か部活をされていたんですか?」

「いいや。中学時代からグレたから部活どころかまともに学校通ってないよ」

「典型的な不良だったんですね」


調査で知ってはいたが、ここまで強烈だったとは

・・・雪霞せっか様とは真逆ですけど、でも根本は全て一緒

彼も健康であれば、少しはやんちゃをしたのだろうか

それは、もうわからないけれど・・・


「さて、野菜を切らないとだ」

「そうですね。夏彦さんの手が止まっている間に私は一品完成させました」


鍋のふたを開けて、夏彦さんに完成した料理を見せる

今日は大人数

それでいて簡単なもので、好き嫌いがほとんどないと言われるものにしてみた


「今日はカレーか。美味しそう」

「甘口のルーがあったのでそれを基準に作っています。辛いのがよさそうな方は?」

「覚ぐらいじゃないかな?丑光さんは食堂で甘口カレー頼んでたし、東里は見た目からして甘口だし、俺も、甘口が好きだから」

「じゃあ、巳芳さん用に辛いのを作りますね」


一人分を別の鍋に移して香辛料を入れていく


「気遣いありがとうね」

「いえ。お気になさらず!」


作業をしながら横目で野菜を切る夏彦さんを見る

その面影は彼そのもの。荒い素行以外は彼と瓜二つ

それもそうだろう。目の前にいる巽夏彦は

私が、竜胆が・・・二階堂鈴にかいどうすずがかつて仕えた盲目の主人

花籠雪霞はなかごせっか」の生まれ変わりなのだから


夏彦さん。私は貴方の前世に当たる方に、何度も救われました

雪霞様だけではありません。貴方になるまでの、同じ魂を持つ方々に、何度も救われました

特に、この身を神に捧げる決意をするぐらいには、雪霞様に何度も救われたのです

私はその恩を返すために、そして今度こそ守るために

来世の貴方を利用していると言ったら

貴方は、どういう反応を返すのか・・・知りたいような知りたくないような


けれど「家族」だと「人らしい暮らしをさせたい」と言ってくれた夏彦さんにもきちんと報いたい

前世からの恩返しという形ではなく、きちんとした形で・・・


リビングの方に視線を向ける

卯月東里が再び発情モードに突入している

兎の発情期は万年だという。その性質が先祖返りとして出るなんて難儀なものだ

・・・まあ、夏彦さんに危害を加えなければ放置していても差し障りはないだろう


問題は巳の方だ

彼はどうやら夏彦さんの護衛。敵ではないらしい

しかし、彼の場合・・・その力は卯の比ではない。どう動くかわからない分、警戒を怠らないようにしなければならない

それに、話から察するに、戌の存在も引き継がれているようだ。ああ、あの男。次会ったら八つ裂きに・・・

しかし、問題は・・・・


「社長!?重要な話の途中ですよ!?先輩キチに戻らないでください!?」


丑光恵・・・彼女もまた、可能性を秘めている

彼らとは異なり、覚醒はまだのようだ

しかし、夏彦さんの近くにいるのだ。血筋に刻まれた憑者神の残痕がそう遠くないうちに覚醒を促すだろう

そして、兎と巳のように憑者神の力が使えるようになる


呪詛の覚醒はかなり厄介だ。できれば、彼女とのかかわりは絶ってほしいのだが、無理な話だろう

夏彦さん。雪霞様もそうでしたが・・・なぜ貴方は神に好かれるのですか

その疑問は、今は口に出せないけれど


いつか、正体を明かす日が来たならば・・・聞いてみたい

彼の久しぶりの休みは、急な客人たちの来訪で潰れてしまった

明日こそは、と思いながら私は辛口のカレーを完成させた


日は暮れて、夜になる

あの人が常に体験していた、暗い闇が占める時間


「夏彦さん。カーテンを閉めてきますね」

「お願い」


リビングの方に行ってカーテンを閉めようと手を触れる


「・・・これ」


ベランダの外に、花が一輪。拾う必要はない。鍵を開けたらきっと、奴が来る

二つに手折り、折れ曲がったそれは、いつしかの「彼ら」を連想させるものだ

向こうも夏彦さんの存在に気が付いたか

・・・これからは、巳と卯の力も借りなければ守り切ることはできないかもしれない

また、同じ繰り返しをしてしまうかもしれない

戌たちが再び来る前に、できることをしなければ


「どうしたの、りんどう?」


何も知らない彼は私が窓の外をじっと見つめていることに疑問を抱いたのだろう

台所から声をかけてくる


「なんでもありません。夏彦さん。さあ、お皿を出して、晩御飯にしましょう!」


鈴が鳴る。また嘘をつく

これも何度繰り返せばいいのだろう

うるさくなる鈴を握り締めて、私は彼の元へ戻った


今日は予想外の事ばかり

昔の事を思い出したのも久々で・・・なんだか嫌な予感がする

そんな不吉な予感が、なぜか私の心を埋め始めていた

実際、その不安が当たることになるなんて、私は思っていなかった


・・・・・


「夏彦さん!夏彦さん!」

「・・・・うぐ」


血に沈む彼の姿は、雪霞様と瓜二つ

目を離してしまった。不安を覚えていたのにも関わらず

私はまた同じ繰り返しをしてしまうのか


「龍のお気に入り。花籠の生まれ変わり」

「・・・だから、ですか」

「うん。だから消す。お前が、本物の神に至るために、彼の死は必要」


戌は、くるりと回って、その醜い歯を、夏彦さんの前世で、私とかつて暮らした春子の命を奪い、夏彦さんに重傷を負わせたものと同じ歯を見せつける


「ほら、早くしないと死んじゃうよ。それとも死ぬまで待っている?今度こそ、神へと至る秘術を使う?てかもう使えるの?」

「・・・・さい」


私の青緑色の髪が燃え上がるように輝く

全身に炎を纏い、目元にたまっていた涙は全て蒸発してしまった

人の心を失うように、その心は憑者神としての私へと切り替わる

夏彦さんの「厚意」を溶かさないように、影響を受けないポケットの中にいれ、握り締める

龍の尾と角を顕現し、髪は桜色の髪に変わった

能力をきちんと使うため。夏彦さんを救うため

戌を、静かに見据える


けれど感情は嵐のように、波を立てる。抑えきれる気がしない

抑える気も、ないけれど


「うるさい!畜生風情が・・・!命令しか聞けない駄犬ごときが・・・!」


楽しい休日のはずだった

なかなかできなかった買い物に行き、色々なものを買った

私の物。私がここにいていい証明

夏彦さんから、沢山もらった

けれどその全てが、彼の血に沈んでいる


「今度こそ、お前を八つ裂きにしてやる!」


どうして、こうなったんでしょうかね、夏彦さん

たったの一月でしたが、私たちの平穏な日常は

どこに、いってしまったんでしょうね

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