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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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21日目➂:当事者は何も知らないまま

あの後、東里と覚は人の家で勝手に酒盛りをはじめ、長時間家に居座った

・・・お前ら仕事中じゃないのかよ


「なちゅひこーおしゃけー」

「お前ら早く帰れ」


酒がないとうるさいのでとりあえず、台所にある棚にストックしていた缶ビールを投げておく

こちらも、かつて東里からお中元を貰った残りだ

・・・サラダ油など、一人暮らしの身としてはとてもありがたいものをくれるのは非常に助かる

けれど一人で消化しきれない量を押し付けるのは勘弁してほしい

今は二人だから、どうにかなる・・・かな


「わあ、ビールが沢山。お肉料理にも、揚げ物にも使えますね・・・」


缶ビールのストックを見たりんどうが嬉しそうに、尾を出していた

明日は絶対揚げ物だな・・・しかし、それよりも重大なことが起きている


「りんどう」

「あ、すみません。夏彦さん・・・見られてないです?」

「大丈夫。向こうからだと見えない位置だから。でも気を付けてね」

「はい。気を付けます。あ、そろそろ洗濯物取り込んできますね」

「頼むよ」


りんどうは人の姿を保って、ベランダの方に向かっていく

しかし・・・もう夕方だぞ。あいつらいつまで居座る気だ

東里はまあ自由が効きそうだけど、一応・・・覚は就業中だよな・・・隣に社長がいるからいいのか?

色々と考えていると、俺がいる台所に気まずい表情を浮かべた丑光さんがやってくる


「あ、あの、巽先輩」

「あ、丑光さん。ごめんね。あの馬鹿共が・・・仕事、大丈夫?部長に怒られそうなら社長に連れまわされていたって言えば覚だけ怒られるから。それに、網走さんならむしろ同情してくれると思う」

「は、はい・・・それはいいのですが・・・その、そろそろ」

「ああ。夕方だもんね。りんどう、夕飯の材料はあったかな?買いに行った方がいい?」

「え、あの・・・そういうつもりじゃ!?」


丑光さんの困惑を背に、洗濯物を取り込もうとしていたりんどうに声をかける

彼女は俺の問いに少しだけ考え込んだ後、答えを出してくれる


「三人分なら買い出しなしでいけますよ」

「三人分でお願い。あの二人は放置。どうせ酒が飯だろうしね」

「はい。任されました!」


りんどうは笑顔で受け答えた後、洗濯物を取り込むためにベランダへ出て行った


「あの、先輩。私も何かすること・・・」

「居心地が悪いのはわかるけど、流石にお客さんに家の事をさせるわけにはいかないから。座って待っていて」

「わかりました。でも、お手伝いできることがあれば何でも・・・」

「ありがとう。ねえ、りんどう、今日は何を作る?」

「まだ決めていませんので、とりあえずお野菜を冷蔵庫から出しておいてください!」

「了解。ついでにお風呂の設定もしておくね」

「お願いします!」

「・・・連携とれてるな」


丑光さんはソファーに戻り、用意されたお茶を飲みながら俺とりんどうの方をじっと見ていた

その間、俺たちは家の事を素早く終え、二人並んで台所に立つ

そして、丑光さんの隣の東里は、頭を抱えながら動き出す


「・・・夏彦。とんでもないものと暮らしているね」

「え。なんです社長。再び正気に戻って」

「発情期は抑えられないと言っているじゃないか。意識は再び発情モードになるから理性があるうちに君に伝えておくよ。君もこちら側の人間だから、巻き込まれても問題ないからね」

「は、はあ・・・?」

「りんどう、だっけ?彼女、普通の人間じゃない。やっぱり、覚が危惧していた通りだった」


東里も意識を取り戻したようで、丑光さんに何か話していた

しかし、なんとなくその会話は「どうでもいい」と思い、夕飯の準備の方に取り掛かった


「りんどう、今日は・・・」

「・・・やはりあの男、卯の・・・先祖返りか。それだけじゃない。苗字から察するに、残りは蛇と、丑・・・智と、祝の・・・」

「・・・りんどう?」


りんどうの表情が今まで見たこともないような、感情の抜けた表情をしていた

なんだか、彼女を遠くに感じてしまう。遠くに行ってしまうような、錯覚も


「りんどう。どうしたの?」

「あ、すみません。なんでもありません。さあ、夕飯を作りましょうか」


いつもの調子で微笑む彼女の笑顔は何となく、作り物のような感じを覚えた


「夏彦さんは、こちらのお野菜を切ってもらえますか?」

「いいけど、多くない?野菜炒めでも作るの?」


手渡された籠の中には、三人分とは思えない量の野菜が載っていた


「三人分作るのも、五人分作るもの一緒ですから。ほら、時間がありませんから素早い作業をお願いします!」

「了解・・・」


俺は東里と丑光さんの会話も、りんどうの表情の理由も聞くことなく、作業に集中してしまい、考えていた疑問はすべて意識に溶け込んで忘れてしまった


・・・・・


一方、リビングで僕と丑光さんは内緒話をするように顔を近づけていた


「実は、僕は彼女と同類なんだ」

「同類?変態ということですか?りんどうちゃんが?冗談も大概にしてくれます?」

「君が普段僕の事をどう思っているかよく理解したよ」


まあ、否定はしないし・・・失礼な事を言ったからって減給とかしないけど、言葉にはよく気を付けてほしいとは思う

同時に、思ったことをすんなり伝えてしまう素直な子なんだなと印象も抱いた


「僕と彼女は「憑者神つきものがみ」という存在でね・・・人に神を憑依させる術で生まれた人神なんだよ」

「つまり、社長は神様なんですか?」

「僕の場合、正確には半分だけどね。僕は、その術をかけられた者の子孫であり「先祖返り」という存在なんだ。術は使えるけど、先祖様ほど使えるわけではない」


白いうさ耳を動かしながら自分の事を伝える

それを見たら、丑光さんも嫌でもそれが「事実」だと理解する他ない


「動いていますね、うさ耳・・・」

「そりゃあ、本物だからね」

「人間の耳と、うさ耳、両方本物なんですか?耳が四つ?」

「この姿の時は・・・」


僕は耳にかかっている髪の毛、そして耳を持ち上げ、今の自分の身体がどうなっているか見せる

人の皮膚から直接生える、獣の耳

人の姿をしているときは普通の人間の耳だが、憑者神の姿の時は耳が変化し、こうなってしまう

それを隠すために、嫌でも少し髪を長くしておかなければならない

境目は、自分でも気持ち悪いと感じるから


「こうなっているよ」

「へえ。聴力も倍ですか?」

「最近の若い子の興味はそこじゃないんだね・・・。うん、兎と同等だよ。この姿の時は兎っぽくなるんだ。発情期もその一環、なんだけど・・・その、君は耳の事・・・」

「聞いてほしいんですか?聞いてほしくなさそうな顔をしているのに」

「・・・助かるよ」


彼女は僕の表情を伺ってくれたらしい

その反応に、心の底から安堵しながら僕らは話を続けていく


「じゃあ、りんどうちゃんも先祖返りという訳ですか?先輩のお爺様の養子でも、血縁関係にある可能性はあるんですよね?先輩の家系も憑者神の家系ということですか?」


彼女は台所にいる二人を一瞥してから、僕に問う


「夏彦はあの子と血縁関係はないよ。夏彦の家系は皆一人っ子。例外ないから親類はいない」


僕の隣で呑気に酒を飲み続けていた当事者の一人、覚がやっと口を開いた


「偶然かもしれないし、必然かもしれない。方法はまだわからないけれど、彼女は夏彦の養子という設定で、彼と共に暮らしている。それが、今わかる事実だ」


僕は話に区切りをつけるためにお茶を一杯飲む

丑光さんはなんでこんな話をされているのか理解が追いつかない様子だけれど、それでも必死についてきてくれている

一方、覚は再び呑気に酒を飲んでいた


「・・・しかも、僕みたいに中途半端な存在ではなく彼女は本物なんだよ」

「・・・本物?」

「ああ。あの子は術をかけられた時代に生きていた「辰の憑者神」で間違いない。竜胆という名の神を宿した、女の子」


夏彦をどう納得させたかわからないけれど、目の前にいる「りんどう」と名乗る少女は元人の異形だ


「ちなみに、その術を施していたのって何年前のお話なんでしょう・・・」

「ざっと二百年前ぐらいじゃないかな。残っている文献から見て江戸時代ぐらいだって言ってたし・・・。あの子、十二歳なんかじゃないよ。二百年生きているんだから、桁が一つ違う」

「えええ!?」

「しっ、静かにしなよ。夏彦と彼女に気づかれる」

「気づかれたくなければここで話さなければいいのでは?」


確かに言いたいことはわかる。けれど、僕にとってはこの状況は割と都合がいいのだ

それが、僕が持つ憑者神としての力なのだから


「先祖返りと言っただろう?僕も憑者神の力が多少使えるんだ」

「今、能力を使われているんですか?」

「ああ。隠密をね。大きな声さえ出さなければ存在感を消せるものなんだ。大きな声を出さないように」


口元を抑えられた丑光さんは、僕の言葉に対して無言で首を縦に振った


・・・・・


私は社長から口を抑えられつつ、考える

どうしてこうなったのだろうと


今日は普通にサラダ油を先輩の元に届けに来ただけだったのに、あっという間に異次元の話になっていた

けれど、なぜかしっくり来る話

欠けていたピースがぴったりはまるような・・・安心感すら覚える話だ

見に覚えはないはずなのに


そんな自分にも、はたまた社長が話す話にも、なかなか理解が追いつかないけれど、私はきちんと話についていくために必死に話を聞き続ける


「あの、社長はなぜ先輩の近くにいるのですか?」

「先祖代々、夏彦を・・・正確には夏彦の前世、そしてお気に入りを監視しているんだよ。それが僕らの家の役割なんだ」

「・・・先祖代々、先輩の魂単位のストーカーなんですか」

「まあ、彼女がここに来たのに気が付いたのは俺なんだけどね。けっこうポンコツ気味なんだよ、東里の家は」


酔っぱらっていたと思われていた巳芳先輩も会話に本格参戦する

よく見れば、あんなにお酒を飲んでいるのに・・・酔っている気配の一つもない

いつもの、巳芳先輩だ


「話は大分聞いていたけど、とりあえずあの子は人ではない。で、東里もそれに力は劣るが似たような存在でー・・・」


突如、巳芳先輩の身体から「細長くにょろにょろしたもの」が落ちる

私はその気持ち悪さに大声を出しそうになるが、社長から言われたことを思い出し必死に声を抑えた

よく見るとそれは「蛇」

まさか、と思い顔を上げる


今まで先輩と慕っていた、少しだけふざけが入った巳芳覚の顔色は一変していた

顔の半分は鱗みたいな紋が刻まれ、片目は爬虫類のような真っ赤な目

そして、全身の至るところから、蛇が生まれて来ていた


「で、俺と同じってことだもんな?俺の正確な役割は監視みたいなもんだけど「護衛」だから。花籠雪霞同様「龍のお気に入り」である夏彦を戌と子から守るのが俺の役目だよ」


私はやっと理解した。ああ、そういうことか

再び後ろを向く

今度見るのは、りんどうちゃんではない

その隣で野菜を切る、自分の先輩「巽夏彦」


彼は今もなお、普通のよくある日常を生きているのだと思っているのだろう

けれど、それは大きな間違いだ

彼が今まで生きていた日常は、元々、存在するものではなかったのだ

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