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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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21日目②:初めての対面

「・・・・・?」


手を繋いで道のりを歩く

そこで、りんどうが不思議そうに背後を向いた


「どうしたの、りんどう?」

「・・・背後から視線を感じまして」

「背後・・・?」


もしかしたらと思い、俺は背後を見てみる

そこにはスーツを着た三人の男女が身を隠せていると信じながら電柱の陰に収まっていた


「・・・東里と覚だけでなく、丑光さんもか。今日は土曜日だよな。休日出勤までして何やってるんだよ、三人とも・・・」

「お知合いですか?」

「うん。会社の。だから」

「はい。十二歳の設定ですね。お任せください」


彼らに声をかける前に、改めて設定の確認をしておく


「一言声をかけておこうか。面白そうだし」

「もう。面白がったらダメじゃないですか」

「ごめんね。でも、たまにはね」


俺たちは来た道を引き返して、電柱の方へ歩いていく

三人に話しかける素振りではない。家に忘れ物をしたような体で戻っていく


「ああ、笑顔の夏彦も最高にいいねぇ・・・というか笑えたんだ。珍しすぎる・・・脳内メモリに永久保存待ったなしだよぉ」

「相変わらず気持ち悪いな東里・・・」

「社長・・・安定過ぎて今すぐ退職願出したくなりますって先輩方!?先輩来てますよ!」

「ん。ああ。東里を置いて二人だけで逃げるぞ。頑張れ恵ちゃん」

「サラダ油持ったままの私が逃げられると思いますか!?一箱ぐらい持ってから言ってください!」


三人揃って電柱で様子見していたものだから、三人で計画的に行っているものかと思えばどうやら思いつきのようだ

早速仲間割れも起こしているし、このまま放置していたら面倒なことになっていたかもしれない


「・・・三人とも、何をしているの?」


三人に声をかける


「せ、先輩。こんにちはー・・・偶然ですね」

「こんにちは、丑光さん。営業・・・にしては大荷物だね?」

「いえ、今日は営業ではなく、先輩のお家にサラダ油を・・・」

「また東里の差し金か・・・」


電柱に張り付いてぐへぐへうるさい兎は無視して、彼女を見る

俺の会社の後輩である彼女はお中元と思われるサラダ油の箱を抱えて歩いていた

しかも五箱だ。おかしい、凄くおかしい


「・・・ちなみに、五箱も?」

「はい」

「よく持てたね。持つの代わるよ。ここまでありがとうね」

「いえ・・・」


丑光さんが持っていたサラダ油の箱を受け取る


「一度家に戻ってもいいかな、りんどう」

「勿論です。サラダ油も置きたいですし、ここまで持ってきてくださった丑光さんもお疲れでしょうし、お茶とかお出しした方がいいかと」

「・・・助かるよ。お願いしていい?」

「お任せください。夏彦さん」


りんどうに予定の変更を告げると、彼女は何となく嬉しそうにサラダ油を見ながら頷いていた

・・・明日ぐらいには揚げ物が食べられるかもしれない


しかし、彼女も少し変わった行動をとる

丑光さんをチラチラと見ながら俺の背後に隠れたのだ。照れているのだろうか

いや、服の裾を握る感覚から察するに・・・人見知り、なのかもしれない

今まで気が付かなった分、その意外な反応に俺も少し驚いた

・・・警戒しているような気さえ感じるけど、気のせいだろうか

りんどうの様子も気になるが、それ以上にやらなければならないことがある


「ところで丑光さん」

「は、はい!」

「これ、どっちと運んできたの?それとも両方?」

「巳芳先輩と一緒に、です」


今回は覚と一緒のようだった

まあ、東里が一緒に来るわけがないと思っていたし、当然と言えば当然だけど・・・

一応、灸を据えておかないと


「・・・覚?」

「よっ、よう・・・夏彦。なんだか顔が怖いが、どうしたんだ?」

「なんで丑光さんがサラダ油五箱も抱えていたのかなって気になってね?」

「君が、一緒に来たんだよね?女の子にこんなに重いのを持たせるなんて、二十九の男がやることじゃないよね?」

「・・・はい」

「・・・歯ァ食いしばれ、覚」

「・・・はい」


サラダ油五箱を左で持って、右で覚の頬に一発入れておく


「きゃぁ!きゃぁ!」


なんだかうるさい東里の横へ向かって飛ぶ覚を気にしている場合ではない


「さあ、りんどう。家に帰ろう。サラダ油置きにいかないと」

「は、はい・・・。大丈夫なんですかね、この人・・・」


道端で伸びている覚の方を一瞥して、彼女はその様子を覗く

けれど俺がお構いなしなものだから、どうしたらいいか少し考えていた


「丑光さん。疲れただろう?家に上がって」

「い、いいんですか?あと、先輩方は・・・」

「もちろん。ああ、その二人は放置でいいよ。後で起き上がってうちに来るから」

「放置で・・・巽先輩、意外と辛らつだな」

「昔からの付き合いがあるから。大丈夫なことは何度か確認しているよ」

「確認済なんだ・・・」


サラダ油片手に再び家への道を歩く

そこまで距離はないのであっという間に家に辿り着き、俺はサラダ油を開封しつつ、りんどうはお茶をだして丑光さんと向かい合っていた


「・・・・」

「・・・・」


初対面同士の二人は無言のまま

何を離したらいいかわからないようで、リビングのソファーの周囲は静寂の空間が広がる


「・・・夏彦さんって一体何者なんでしょう」

「元ヤン」

「・・・ああ、夏彦の香りがいっぱい・・・幸せすぎて果ててしまいそう・・・」


りんどうの疑問に答えるように、頬を保冷材で抑えた覚と笑顔の東里が勝手に家に上がり、のんびりと答えを述べる


「もう起きたんだね覚。丈夫になった?」

「おかげさまでな。ムカつくことがあればとりあえず殴る癖、そろそろ自戒したらどうだ?」

「これでも収まった方なんだよ・・・」


覚にお茶を出し、俺も四人と合流する


「ところで覚」

「なんだよ」

「東里はつまみ出してくれる?気分が悪くなる。まだ発情モードは終わってないみたいだし」

「だってよ。東里」

「そういう冷たい所も愛おしい・・・。結婚しよ。まずはパートナー制度から」

「断る・・・」


卯月東里は身体を無駄にくねくねさせながら、頬を赤らめて熱の入った視線で俺を見た

それにうんざりしながら、彼らと出会った当時の事をふと思い出してしまった


覚と東里とは元々同級生なのだが、全員年齢は異なる

俺はかつて覚が言った通り、荒んでいた時期がある

その影響で高校を一浪しており、俺は覚の一歳年上の三十歳だけど同級生なのである


一方、東里は海外で飛び級し、十三歳で過程を終えたらしい

その直後「暇つぶし」にと、なぜか日本の高校生をするためにうちの高校に来た

しかし、そういう経歴もあってかなり浮いていた

そして同じ教室の中に、飛び級した東里、一浪して浮いていた俺、そして普通に入学した覚が集まったわけである

俺たちの出身校は、名前さえ書いておけば受かるような高校で、まともに授業なんてものはない

基本的に学校に来ても遊んでいた。それは俺たちも同様。あの人に、一馬先輩に出会うまでは


これは、一年の九月ぐらいの時だったか

俺はやられたらやり返す。やられそうならやり返すタイプだったのだが・・・二人は多方面に喧嘩を売って回っていた

覚は例の癖もあるし、多方面から恨みを買ってしまった。痴情のもつれは恐ろしい

東里は年齢もあるし、最初は少し見下した態度が目立ち、誘拐拉致計画まで立てられた

それをなぜか偶然助けたことで、彼らとの縁が生まれたといわけである

今では覚とは普通の友人をやれているが、東里からはこうして変に懐かれ、ストーカー行為も辞さない変態へと進化させてしまった


それ以上にも、東里には不思議なことがある

今まで「飾りだろう」と、気にも留めていなかったがりんどうが来てからは、東里にもかなりの疑問が増えていく


「僕は、夏彦の冷たい所も大好きですよ」

「・・・気持ち悪い」

「お前、相変わらずキモイな」

「社長、先輩の前ではまともかと思えば、さらに気持ち悪くなるんですね・・・」


覚と丑光さんと共に東里へ冷えた視線を送りつつ、三人揃ってお茶を飲んだ


「・・・あの、夏彦さん」

「どうしたの、りんどう」

「あの方・・・東里さん、ですかね」

「あの変態の事?うん、卯月東里であっているけど、どうしたの?」

「・・・あの方の耳、本物ですよね?」

「・・・やっぱり?」


りんどうが指さしたのは、やはり東里の髪

彼の腰まで伸びる「それ」は、かつては髪だろうな・・・とか思っていたけれど、間違いなく彼の意志で動いている

東里は俺の視線に気が付いて、腰まで伸びる「うさ耳」をひょこひょこさせている


「ところで夏彦。その子は一体誰なの?噂の養子さん?」

「急に冷静にならないでほしい・・・びっくりする」

「ごめんね。発情期は抑えられなくて」

「万年じゃねえか。うさぎじゃあるまいし」


覚のツッコみに、俺とりんどうの視線は東里の耳に移る

ああ、あの異常さもうさぎだからか・・・と、府に落ちるのが何とも言えない


「まあ、夏彦。お茶を飲んで落ち着いているうちに話してくれると助かるよ」

「あ、ああ。紹介が遅れたね。この子はりんどう。うちのじいちゃんの養子だった子を俺が引き取ったって話したと思うけど」

「へえ、この子が・・・・先輩の」

「この子がりんどうちゃん?可愛いね」

「・・・へえ」


三人の視線が一気にりんどうへ向く

その視線に耐え切れなくて、りんどうは俺の後ろに隠れて背後から三人の様子を見ていた


「見ての通り、人見知りでね」

「あの、先輩。この子いくつなんです?」

「ええっと、確か・・・」

「・・・十二です」

「十二歳、だって」


せっかく事前に話したのに、俺が設定を忘れてしまっていた。何たる不覚・・・

しかし、人見知りをしつつも、設定どおりに彼女は動いてくれる。俺のサポートまでしっかりだ

三人が帰ったらお疲れ様も兼ねて撫でであげようと考えながら、話を進めた


「なあ、夏彦」

「どうしたの、覚」

「その子、実はお前が十八歳の時の子か?」

「・・・もう一発?」

「すみませんでした」


覚の失言はいつもの事だからとりあえずスルーして、俺は再びお茶を飲む

外出の予定は、予想外の来客のお陰で無事につぶれた

しかし、休みはまだ一日ある

早く帰ってくれれば予定通りにいけるが、東里がいるから無理だとは思う


心の中で溜息を吐く

明日、今日予定していた買い物をしに行こうと心に思いながら、三人の来客の出方を俺は伺った

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