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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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21日目①:お出かけ前の確認事項

土曜日がやってきた

それは、りんどうと俺が交わしたお出かけの日でもある

俺が風邪にかかったり、部屋が崩壊したりしたが・・・やっと、この日を迎えられた


気が付けば小さいものは色々と買い揃えることが出来ていたので、残るは布団とか大きなものだけになっていた

後は、彼女自身が見るべきもの。例えば服とか・・・

・・・やっぱり、俺も付き合わないといけないのかな


「ふんふふ~ん!」

「楽しそうだね、りんどう」

「だってだって!お出かけですよ!」


朝食の洗い物をしつつ、楽しそうなりんどうに声をかける

彼女の感情に合わせるように尾も揺れる

やっぱり、付喪神の姿の方が彼女にとって楽なようだった

隠す必要がないからというのが大きいだろう

言わないけれど、隠すのにもかなりの力を使っているのではないだろうか


「お出かけするにしてもやっぱり懸念材料は多いんだけどね・・・」

「どんな懸念があるのでしょうか?」

「・・・例えばその尻尾とか」

「これですか?もちろんですが、消せますよ?」


りんどうはそう告げた瞬間、尻尾と頭の角を消す

どこから見ても、普通の女の子だ


「どうでしょう。私としては、付喪神パワーを消費するので、あまり好ましい状況ではないのですが・・・お出かけですからね。しっかり隠しますよ」


再び彼女の頭に角が、そして足元には尻尾が伸びる

いつも通りのりんどうの姿だ


今回懸念しているのは、彼女の体調面だ

一応、元気そうにしているが・・・彼女も先日体調を崩している

いきなり付喪神としての力が消えたりしているのを見ている分、もし、いきなり尾や角がでたらどうしようと思う部分はあるのだ

そして何よりも、元気を繕っているが無理をしていないかと何度も考えた


しかし、今彼女の事を心配すると・・・私の事より自分の事を心配してくださいと返される

だから現状俺は彼女の体調を完全に把握しきっていない

元気なのだろうけど、無理をしないように気遣うぐらいしかできないのだ


「あ、あの、夏彦さん」

「どうしたの、りんどう」

「前々から聞きたかったのですが、夏彦さんはどちらがお好みですか?付喪神の私ですか?人間に擬態する私ですか?」

「君が無理してない方かな。付喪神パワーを消費しているんでしょう?」

「はい。なら、付喪神の方が?」


付喪神の彼女も可愛いと言えば可愛い。尾が揺れて、感情がわかりやすくなるところとか

けど、人の姿の彼女も・・・負けず劣らずなのだ


「じゃあ、両方で」

「・・・そ、それはズルいと思いますよっ!」


尻尾がぶんぶん揺れる。彼女の動揺は明確にそれに反映されていた


「俺からも一つ。前々から思っていたんだけど、付喪神パワーって一体何なの?」

「付喪神パワーは・・・その」

「貯められる方法があるの?」

「い、一応・・・ありはするのですが・・・」

「俺が手伝えることならなんだってするよ。どうしたらいいのかな?」

「その、だい・・・いえ、ないしょ、です!」

「えぇ!?」


教えてくれるかと思った「付喪神パワー」の事は教えてくれないらしい

真っ赤な顔で慌てふためくりんどうは、俺と視線を合わせようとせずに食器洗いに専念してしまう

これ以上は聞けないだろうと思い、俺は彼女自身が話してくれる時を待つことにした


・・・・・


食器洗いが終わった後、早速出かけよう・・・という訳にはいかず、俺とりんどうは床に正座して向き合っていた


「りんどう。改めてお買い物前の確認をしよう。今日は特に、遠出するからね」

「はい!約束の確認ですね」

「うん。じゃあ、もう一度おさらいしようか」


りんどうと話していたのは、お出かけ前の約束事

お買い物前にはいつも確認をしている事だ

これだけは絶対に守ってほしいという約束を二人で交わす


「一つ!この家の中だけ、私と夏彦さんの関係は「付喪神と持ち主」です!」

「その通り。いつも通りの関係だね」

「外でもこの関係でいいのでは?」

「よくない。世間一般では付喪神という存在は信じてもらえないからね?」

「・・・この時代、意外と特殊能力者とか、魔法とか、異形の存在が受け入れられていますし・・・付喪神ぐらい平気では?」

「ダメ。良くない。変な組織に捕まったら、人体実験させられるかもしれないし」

「発想が突飛してません?」


そんなことはないとは言い切れないのだ

そんな何でもありな場所だからこそ、珍しいものが生きていたらすぐに捌きたくなる人間も少なからずいるのだ


「だから、外では普通の人として振る舞うんだよ」

「わかっています。今までもそうしてきましたから」

「ならばよし。では、二を」

「二つ!理由もなく一人で外出しない!外出した先でははぐれないようにする!ですね!」

「正解。そして、これは追加。最後になる。ここは俺にとってすごく大事」


以前話していた呼び方についてだ

元より赤の他人。全く似ていない俺とりんどうが一緒に歩いていたらその・・・言い方は悪いが事案になる可能性もある

最近、色々と怖いし・・・誰にどんな因縁をつけられるかわからない


「大事、ですか」

「うん。大事な事。メモの内容を読んで」


彼女に小さな紙を渡す

そこに最後のお願いを書いたのだが・・・彼女はおかしなものを見るように目を細めた


「三つ。外では夏彦さんの事を「お兄さん」と呼ぶ・・・が、大事なことなのですか?」

「妥協点がそこなんだ」


お父さんとかおじさんとか嫌だし

だからと言って名前呼びもどうかと思う。だからここがぎりぎり妥協できる一線だ


「夏彦さんの趣味ですか?」

「断じて違う!」

「けど、私が二十三歳と言えば、お兄さんはおかしくないですか?」

「・・・・」

「そこ、考慮していませんでしたね?」


りんどうは俺が考えていなかった分を指摘し、おかしそうに笑っていた


「じゃあ、いつも通りの呼び方で」

「はい。夏彦さん」

「それと」

「それと?」


もう一つ、大事なことを伝え忘れないようにしておかなければならない

りんどうの、人間としての設定をきちんと伝えなければ


巽竜胆たつみりんどう

「はい。けれど、なぜ私は夏彦さんと同じ苗字を?」

「伝え忘れたけど、君は祖父が引き取っていた養子ってことにしている。身寄りが無くなった君をさらに俺が引き取った・・・ということにしているんだ。だから苗字とかがないと違和感だと思うし・・・ってことで」

「なるほど。お気遣いありがとうございます」

「後、面倒と思うけど・・・俺の会社の人の前では十二歳になってもらえると嬉しい。小学六年生・・・そういう設定にしているから」

「・・・なるほど。そう言う訳ですね。確かに二十三歳の身元不明な人間と一緒に暮らしているとはいえませんし」

「そういうこと」


とりあえず、会社の同僚対策もできた。後は問題ないだろう


「とりあえず、誰かに名乗ることがあればさっきの名前を名乗ってほしい、かな」

「わかりました。この名前、大事にしますね」

「そう言ってもらえると嬉しい」


そう言った瞬間にりんどうは立ち上がる

そして、くるくる回りながらにやける頬を押さえていた


「たつみ、りんどうかあ・・・」

「どうしたの?」

「いいえ。何でもありません。それよりも、夏彦さん。約束の確認は終わりましたよ。早く行きましょう!」

「はいはい。お出かけの準備をするから、もう少しだけ待っていてね」


急かすように俺の手を取って、りんどうは廊下に俺を連れていく


「財布、通信端末があれば十分かな」

「鍵、ちゃんと持ちました?」

「持っているよ」


必要なものを玄関先に置いてある鞄に入れて、鍵を片手に家を出る


「・・・・」


外に出たのは初めてではないのだが、りんどうは初めてのように、周囲をきょろきょろしている

すでに彼女からは角も尻尾もなくなっている。早速付喪神パワーで消しているのだろう


「りんどう」

「はい」


挙動不審な彼女に声をかける

家を出る前にやるべきことがあるのだから


「出かけるときは、あれを言わないと」

「あ、そうでしたね」


俺の手を握る力が少しだけ強められる

それが合図というように、俺たちは同時に誰もいない家の中に向かって


「「いってきます」」


そう言って、俺は家のドアを閉めて鍵を閉める


「さあ、お出かけ開始ですね!」

「うん」


彼女と二人並んで歩きながら、俺たちは買い物に出かけていく

家の前にある階段を降り、門を出て、近くにある駐車場まで歩く

それから車に乗ってショッピングモールに向かう

駐車場までの道のりを、二人で歩いて行った


「車でお出かけは初めてですので、凄く楽しみです!」

「バスはノーカウント?」

「バスと自家用車は違いますよね?」

「まあ、うん。そうだね」

「助手席なるものに座り、道案内!やってみたかったんですよね!」

「・・・・」


テンションの高いりんどうにいうことではないかと思うが、ちゃんと俺の車にはカーナビが付いているし、俺もショッピングモールまでの道のりは記憶している

・・・案内ができると意気込んでいるところ申し訳ないのだが、りんどうの出番は俺の話し相手ぐらいだ

・・・あえてナビは起動させず、ずっとワンセグにしてりんどうの案内を聞いて行こうかな

彼女をしょんぼりさせるのも気が引けるから

そんな中、入れ違いで客人が二人


「うう・・・休日の先輩に社長がサラダ油の詰め合わせを持って行けって・・・社長、先輩の事好きすぎなんですよぉ・・・一緒にいたいからって理由で残業させるクズですけど」

「頑張れ恵ちゃん。東里は夏彦の事が大好きなんだ。許してやって」

「巳芳先輩は持つのを手伝ってください。何箱あると思って・・・え」

「どうした」


スーツ姿の男女が面倒くさそうに逆方向の道を歩く

二人の視線の先には、彼らの同僚である巽夏彦と、彼と手を繋ぐ見知らぬ少女


「・・・先輩が、小学生と中学生の中間みたいな女の子と手を繋いで歩いている」

「へえ、まさかの・・・東里に写真送ろ。夏彦が遂にロリコンになりました。お前が性癖歪ませるからだぞ。冗談だけど・・・っと」

「火に油を注ぐ真似しないでくださいよ、先輩。でも、まさかって?」

「昔から付き合いがあるからね。小学生と暮らしているって言ったけどマジだとはー・・・夏彦の手を引いている感じだし、包容力高めだね。将来有望だ」


「包容力高めだと、将来有望?どういう意味です?」

「夏彦の好みのタイプは包容力がある子だから」

「・・・ソースは」

「高校時代に付き合ってた彼女は年上だった。というか、夏彦年下と付き合ったことないよ」

「い、今も続いているのでしょうか!?今はフリーなのでしょうか!」

「夏彦の癖のせいで捨てられたみたいだけど。彼女いるとか聞かないからフリーのはずだよ。え、まさかめぐみちゃん夏彦狙ってんの!?」

「いえいえいえいえいえいえいえ!?そそそそそそそそそそういう訳では!?」


「あいつはやめとけよー。癖は酷いし、それどころか色々と酷いから。色々と空っぽ。普通の人間じゃ、あいつの欲しいものは満たせないよ」

「癖・・・?欲しいもの?」

「ま、この話は横に置いて・・・東里も呼んで尾行しよう。面白そうだし」

「ええ・・・先輩大好き社長も呼ぶんです?」

「呼ぶよ。東里は絶対にこんなイベント見逃さないからね!」

「・・・それに、神様も見つけたしね」


覚は自分の通信端末の連絡帳から東里を呼び出す

賑やかな休日は、まだ始まったばかり

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