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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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19日目:病み上がりのいつもの日常

インフルエンザというものはかなり長引く病のようで、落ち着くまでかなり苦しんでいた

苦しむ彼の姿が、あの方と何度も重なる

私が助けられなかった、彼の姿に


姿が一緒だからか・・・何度も、別の意味合いで苦しめられた

同時に、未だに夏彦さんと彼を重ねてしまう自分に申し訳なさも覚え続けた

敬愛する我が主

信用している、ごく普通の男性

同じだけど、同じでない大事な二人


手を握り締めて、彼がどこにも行かないように祈り続ける

今度は、死なせない

病気でも、事故でも、陰謀にも・・・絶対に二度と失ってたまるものか


・・・・・


風邪を引いてから、一週間

熱が引いてから二日間。安静にする時間も終わり

俺はやっと、まともに動けるようになったのだ


「おはようございます、夏彦さん。体調はいかがですか?」

「もう大丈夫。毎日ありがとう。大変だっただろう?」

「いえいえ。これぐらいは平気です。今日はお仕事に?」

「うん」


俺はソファーに座って、台所の彼女と会話を続ける

病み上がりだからか、少し体力が落ちているらしい

まだ、少しだけ・・・きついな


「そうですか。無理をなさらないでくださいね」

「わかってる。早速で悪いけど、今日の朝食づくりは任せていいかな」

「勿論です。なるべくゆっくりしてくださいね。いきなりいつも通りにすると、大変なことになりますからね」

「空に飛んだら落ちるとか?」

「それは、言わないお約束では?」


頬を風船のように膨らませて、不服そうに彼女は告げる


「ごめん。少し悪ノリした」

「まあ、別に事実ですからね・・・構いませんよ。それより、夏彦さん。今日の朝食はいつも通り食べられそうですか?」

「ううん。少し、少な目で。まだ食欲は本調子じゃないみたいだ」


事実をきちんと告げると、りんどうは心配そうにした後、なんとなく安心したように笑ってくれる


「そうですよね。わかりました。いつもより少なくしますね。お弁当も、揚げ物とかは避けて食べやすいものを入れておきます」

「ありがとう」


最近のりんどうは、冷凍食品をお弁当に使うようになった

理由としては、お弁当を作る時間の効率化ともう一つ。自分では作れない洋食を食べたくなった俺の為のようだった

和食ばかりだと飽きてくるだろうから、と彼女は言う

・・・りんどうのご飯は美味しいから和食をひたすら出されても気にしない

強いて言うなら、和食だとほとんど肉がない。たまに肉料理がとても恋しくなるぐらいだ


「凄いですよね。冷凍食品。こんな便利なものがあるとは」

「りんどうは、何か食べてみたいものはある?買ってこようか?」

「そうですねえ・・・この前、カマボコの磯部揚げが気になりましたかね」


やはり、昔に生きていた名残か、渋い選択に笑みがこぼれた

それを見ていた彼女は、無言でわなわなしつつ、再び頬を膨らませた


「やっぱり、可愛さ重視だったりします?」

「・・・いや。らしいなって感じかな。そこがりんどうの可愛さじゃないの?」

「そもそも、可愛いの基準とは?」

「さあ・・・」


朝から難しい会話をしつつ、いつもの日々を過ごしていく

もう少しで二十日。一ヶ月

けれど、それ以上に長い時間を過ごした気さえする

それほどまでに、彼女と過ごした時間は俺の今までを一気に変えたのだろう

それも、いい方向に


「可愛いの基準はわからないけど、俺はりんどうの事が可愛いと思うよ」

「なっ・・・!そんなことを言っても、夕飯の品目が一品増えたりしませんからね?」


お玉をぶんぶん振りながら、彼女は照れ隠しをし始める

その行動すら可愛いなと思いながら、朝食ができるのをのんびり待った


・・・・・


「おはよう、覚」

「はよっす、夏彦。やっと治ったのか?」


出勤すると、やつれた顔の覚が俺を出迎えてくれる

隣には、なぜか丑光さんもぶっ倒れていた


「ああ。すまなかったな、大変だったか?」

「気にすんなよ・・・」

「丑光さんはなんで倒れているんだ?」

「まだ寝不足続いてるらしい。眠いってさ。始業まで寝かせてやってくれよ」

「まだ・・・それは大変だな。うん。始業まで寝かせてあげよう」


彼女の寝不足問題はまだ解決していないらしい

眠そうにうなされる丑光さんを見て、大変そうだなと思う事、そして気遣ってやるぐらいしかできないことに申し訳なく思った


「それよっか夏彦。お前、体調平気なの?四十一度って」

「ああ。インフルエンザだった。今はもう落ち着いてるけど、体力かなり落ちた」

「そりゃ災難だったな。でさ、養子の子は・・・学校とか平気だったわけ?」

「学校?」

「ああ。子供なんだろう?学校とか行かずに、夏彦の面倒見たのかなって」

「・・・」


ヤバい、こんなところで問題が出てくるとは思わなかった

子供なら学校に通わせておかないとおかしいじゃないか!?

実際は二十三歳です。とも言っていいけど・・・それなら「なんで養子とかいうんだよ。それは大人だぜ」とか返事が返ってくる気がする

養子なのだから子供として話を進めないと、覚に色々と追及される気がする

そ、それなら・・・・!


「あの子はかなりの人見知りでね。小学六年生なんだけど、新生活に慣れるまでバタバタしたし、この時期に転校って言うのも気が引けるらしくてね。中学からって・・・」


よくもまあ、こんなペラペラ嘘が出てくるものだと自分でも思う

それでも、嘘をつかなければいけない状況だ

覚は話が確かなら、小中は家庭教師を家に呼んで勉強していたと言っていた

・・・そんな事はあり得ないなんて思わないだろう。そういうこともあるのだろうとしか思わないだろう

まあ、俺もロクに小中通っていないからそれが認められるかよくわからないけれど


覚に盛大についた嘘をバレていないことを祈りながら、俺は嘘をつく

作り話を終えて、彼の表情を伺う

覚を上手く騙せただろうかと若干不安になりながら・・・


「なるほどな。確かにこの時期じゃ、人見知りの子は気まずいよな。ちゃんと面倒見てやれよ」

「勿論だ」


よかった。信じてくれたようだった・・・意外とあっさりで逆に怖いけれど


「そう言えば、お前電話でその子の名前言ってただろう?「りんどー」って。竜胆でいいのか?女の子?」

「ああ。りんどうであっている。女の子だ」

「そうか。竜胆か。御袋たちにも伝えておくよ。夏彦と一緒に暮らしているのは女の子だって。それ用のお土産よろしくってな」

「あんまり気遣われたくないんだがな・・・」


覚の両親「巳芳栄太みよしえいた」と「巳芳彩花みよしさいか」は俺を実の息子と同じように思ってくれている

両親のように甘やかしてくれる?のだが・・・それが結構度を過ぎている

遊びに行くたびに、菓子折りは持って行くのだが・・・それの倍以上のお土産を持って帰るように言われるとか・・・

まあ、息子以上に溺愛される時の方が多い

俺が来る日は必ず休みをねじ込むという筋金っぷりだ


覚は面白がって見ているが、覚の弟七人はそれを面白く思っていないらしくて、かなり敵対心を・・・いや、そんなものは可愛いか

殺意を向けられている。一度、包丁を持った弟さんと向き合ったことがあるぐらいだ


「実の両親みたいに甘やかしてくれってオーダーも入れておくか?」

「勘弁してくれ」

「そう言えば、親父が久々に煙草談義したいって」

「・・・いい銘柄入ったのかな」

「煙草と言えば、お前・・・最近、禁煙してんの?」

「あ?ああ・・・そう言えば、ほとんど吸ってないな」


胸ポケットの中にいれている煙草の本数を確認してみる

月の初めに新しいのを買った気がするけど、それはまだ二本しか減っていなかった

いつもなら、一月に三箱は吸うんだけどな・・・

彼女が来てからバタバタして、煙草を吸う気になれなかったこともあるかもしれない

しかしそれよりも・・・彼女のおかげで本当に健康的な生活を送っていると実感させられる


「まあ、ヘビースモーカー化してたし、いい傾向なんじゃねえの?この機に禁煙したらどうだ?」

「そうだな。少しは頑張ってみるよ」

「飴ちゃんぐらいは提供してやろう」

「飴ちゃんって・・・大阪のおばちゃんかよ・・・」


時計を確認すると、時刻は九時

そろそろ真面目に仕事をしないとなと思いながら、彼女を起こす


「丑光さん、始業だよ。起きないと」

「む・・・あ、え、巽先輩!?おはようございます!今日から復帰ですか!」


俺の姿を見て飛び起きた丑光さんは若干顔を気にしながら俺に朝の挨拶をしてくれる


「おはよう。今日から復帰なんだよ。まだ寝不足続いているんだって?」

「はい・・・また、同じ感じの夢で」

「そっか・・・相談に乗ることぐらいしかできないけどさ、なんでも言ってね。力になれることだったら、力になるからさ」

「ありがとうございます、先輩。では、今日も一日お仕事頑張りましょう!」

「そうだね。ほら、覚。お前も逃げないで仕事するんだよ」

「なぜ逃げようとしたことがわかった・・・わかったよ。やればいいんでしょう・・・もう」


今日も元気に頑張る丑光さんが仕事に取り掛かり、逃げようとする覚を捕獲した後・・・俺は自分の仕事に取り掛かり始めた


「復帰といえば・・・もう少しか」

「どうされました?」

「ううん。なんでもない。ほら覚、電話なってるぞ。出ろ」

「へーい。わかりましたよ−」


馬場さんのところの話はまとまったし、来年から俺は元の場所に戻る

その前に・・・


「先輩?」

「早めに新規、取ってくるから」

「はい?」


丑光さんとの約束をきちんと果たしてから戻るために、俺は可能性のある企業へと一本の電話を入れることにした

せめて俺が事務に戻る前に・・・彼女に自信をつけてもらうための仕事を果たすために


・・・・・


「ただいま、りんどう」

「おかえりなさい。夏彦さん」


今日も仕事を終えて、家に帰るといつもどおり彼女が出迎えてくれた


「今日は早かったですね。きつくないですか?」

「病み上がりだから定時に帰ってきた。大丈夫。少し疲れたけど、気にするほどではないよ」

「夕飯、できています。早速食べますか?それともお風呂ですか?」

「ご飯から先に貰おうかな」

「はい。では、温めてきますね」


そう言って彼女は台所に、俺は自室に行って上着脱ぎ、スーツから部屋着に着替えてリビングへ向かう


「これ、テーブルに運んでいい?」

「はい。お願いします」


既に用意されていたご飯をテーブルに運んでいく

その中で、ある違和感に気が付いた


「これで全部ですね。では、食べましょうか」


一通り終えた彼女がテーブルにやってきて、俺たちは「いただきます」を一緒にする

そして、いざ食べ始める前に俺は一つの違和感を消すために彼女に質問した


「うん。ねえ、りんどう。今日は夕飯のおかずが一品多いね?」


いつものおかずは三品なのだが、今日は四品だ

今朝の会話が影響しているのだろうか

そこはわからないけれど、その影響だったら・・・と、思うと面白いと思うと同時に、可愛いなと再び思ってしまう


「きょ、今日はいいことがあったので作りすぎただけなんです。ほら、いただきましょう」


照れ隠しをするように、ご飯を口に入れる

これ以上の追及は無理だと悟り、俺も食事を口に入れる

うん、今日も美味しい

病み上がりでも、いつもと変わらない日常が過ぎていく

予定通りに買い物はいけなかったし・・・今度こそと思いながら、少しでも身体が回復するように、食事を摂り続けていった

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