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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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+)14日目①:初めてのおつかい

「むむむむむ」


夏彦さんが熱を出した翌日

まだまだ体調が良くならない夏彦さんのために、栄養のあるものを食べさせてあげたいのだが、冷蔵庫の中には食材がほとんど入っていない

そろそろ買い出しに行かないといけないな、と思っていたけれど・・・私一人で行かないといけないんだよね


「夏彦さん」


寝室に向かい、眠る彼に話をしに行く

流石に一人で外出するのも、買い物に行くのも・・・彼に一度了解を得ておくべきだと思ったから


「どうしたの、りんどう・・・」

「ああ、体を起こさなくていいですよ。ゆっくりされていてください」


昨日よりはマシになったけれど、まだ熱があるのは変わりない


「食材がないので、買い出しに行かせて欲しいなと思いまして」

「ああ、そうか、そろそろ買いに行かないとだったか・・・大変かもしれないけれど、頼んでいいかな。お金は使い方わかる?」

「ええっと、電子決済?を頼めばどうにかなるとは聞きましたが・・・」

「使い方、教えてなかったもんね。クローゼットの中に外出用の鞄があるはず。その中に俺の財布が入っているから中身見てくれる?」

「はい」


私はクローゼットを開けて、中を見てみる

スーツとその替え、アイロンというものがかけられているワイシャツ

その隣には冬用の上着がいくつかかけられている


どこに直しているかと考えてはいたが、まさかここに入れているとは

ワイシャツだって、いつもちゃんとアイロンがかけられているからいつかけているのか気にはなっていた

まさかこの部屋で、こっそり自分でかけていたとは


「・・・言ってくれたら、アイロンの一つしたのですが」


アイロンはかけられないが、服のシワ取りぐらいお手のものだ

使い方も覚えられると思う。元気になったら提案してみよう


「ええっと、こっちの黒いのは仕事用の鞄だから、こっちの鞄だよね」


中に置いてあった、夏彦さんの外出用の鞄を手に取る

その中に入っている、シンプルなデザインのお財布を片手に彼の元に戻っていった


「現金、どれぐらい入ってる?」

「そうですね、一万円が入っています」

「それで足りそう?」

「これだけあれば十分どころか・・・」


現代で一番価値のあるお金だ

これさえあれば、通常の食材だけじゃない

この家に足りないものもいくつか買える


熱はまだ下がったとは言っても、四十度近くあるし・・・頭を冷やすのに氷枕の一つは欲しくなるものだ

この家には、病人に必要なものがほとんどない

花籠の家も大概だったが・・・この家はさらに酷い

夏彦さんが一人暮らしだということもあるだろう。現代は皆こんなものなのだろうか


「夏彦さん、ちゃんと買い出ししてきますね」

「お願い。残ったお金で好きなものを買ってもいいから。おやつとかね」

「そんなのはまた別の機会に!でも、好きなものと言っても・・・そうですね。あ、昨日病院で見た「ひえぴったん」というのは買って来ていいでしょうか?今、額に乗せているタオルの代わりに」

「ああ、うん。いいよ。りんどうが必要だなって思ったものは買っておいで。君が選んだものなら絶対に大丈夫だろうから」

「ええ!お任せください!お使い程度、こなして見せます!」


この二週間で色々あったわけだ。短期間の間に喧嘩したり、気まずくなったりしたけれど・・・仲良くなれているようで安心した

そして同時に、こうも信頼を置いてもらえているとは思っていなくて・・・別の意味でも嬉しくなる

その期待に応えられるよう、元気と自信をたっぷりに宣言すると、夏彦さんが小さく笑ってくれる


「鞄は俺のものを使って・・・エコバッグはいつもの、ところで・・・」

「ああ、夏彦さん。きついのでしょう?もう寝てください、あとは自分でなんとかしますから」

「うん。お言葉に甘えるね、りんどう。何かあったら、連絡して・・・」


指示を出す声に、どんどん覇気がなくなっていく

流石に体力を使わせすぎたようだった。話を終えると目を瞑り、休息を取り始める

荒い息が寝息に変わるまでそう時間はかからず、それを確認した後に私は外出の準備を始める


彼が使っている鞄。買い物に行く時に持っていくエコバッグ

通信端末はきちんと充電はできている。お財布もちゃんと持った

家の鍵は、彼がいつも持って行っているものを借りて行こう


「夏彦さん、行って来ますね。ゆっくり休んでいてください」


眠る彼に挨拶をした後、家を出て買い出しに出かける


「あ、りんどうちゃんだ!」

「丁度よかった。でも今からお出かけかな?」

「酉島さん。絵未ちゃんもこんにちは。ごめんなさい。今からお出かけなんですよ。何かありましたか?」


丁度、私を尋ねて来てくれたご近所さんの酉島立夏とりしまりっかさんがやってくる。娘の絵未ちゃんも一緒だ


「お歳暮がたくさん届いてて、あまりにも多いからお裾分け。りんどうちゃんなら、この大量の缶詰も使いこなせるだろうなって思ってさ」


酉島さんは私に大きな袋を手渡す

結構な重量があるそれを覗くと、中にはフルーツからサバ缶まで、多種多様な缶詰食品が正直貰い過ぎを疑うほど大量に入っていた


「こんなに・・・いいんですか?」

「勿論。料理上手なりんどうちゃんに使ってもらいたいな。できれば、作ったものも食べたいかも・・・」

「では、ありがたく頂きます。お礼は調理してお返ししますね」


私と酉島さんの関係は、つい最近始まったものだ

郵便物を確認するためにホールまで出た際、丁度彼女を待っていた絵未ちゃんと出会った

てっきり迷子か何かだと思った私は、お母さんらしき人が来るまで一緒に待っていた・・・そして彼女がやって来た時に話したのが、彼女と話すようになったきっかけだった


ハンドメイド作家である酉島さんから、料理の時に使うエプロンや裁縫、物作りのことを教えてもらっている

対して私は、彼女に料理を少しだけ。夏彦さんの時にやらかした失敗を糧に、程々に妥協を覚えて教えている

短い間柄だが、上手くやれていると思う。夏彦さんと同じくらい


むしろ同性だから、酉島さんの方が仲良くなれているのかもしれないと思うぐらいに

彼女の友好的な性格がそれ関係をよりよくしているのかもしれない


「ありがとう!それで、お出かけって何しにいくの?買い物?手伝おうか?」

「今、一緒に住んでいる方がインフルエンザで寝込んでいまして、ありがたい提案なのですが、お二人にうつしてはなんですから」

「そっか。気にかけてくれてありがとうね。でも、りんどうちゃんの同居相手、今お家にいるんだ・・・いつもお仕事みたいだから、なんか珍しい」

「言われてみれば、そうですね」


缶詰を置くために家の鍵を開けると、その隙間を縫って絵未ちゃんが家に入り込んでしまう


「ちょっと、絵未!?」

「絵未ちゃん!?」


私と酉島さんの手は絵未ちゃんを捕まえることができず、絵未ちゃんは近くの・・・よりによって夏彦さんの部屋の扉を開く


「・・・ん?」

「おにーさん?」

「夏彦さん、起こしちゃいましたか?」

「あ、うん・・・大丈夫だけど、うつしちゃうかもしれないから家から出してあげて」

「はい。それと、少しだけここに荷物置かせてもらいますね。では、ごゆっくり!」


困惑する夏彦さんを背に、私は絵未ちゃんを抱き抱えて家を出る

缶詰を置いてくるという目的は達成できたのでよかったが・・・


「絵未、勝手に人のお家に入ったらダメでしょ?」

「ごめんなさい・・・」


流石に家に無断で入るのはよくない事だと言おうとすると、先に酉島さんが絵未ちゃんに目線を合わせつつ、穏やかな口調で冷静に言い聞かせをしていた


「謝るのはお母さんじゃなくて、りんどうお姉ちゃん」

「ごめんなさい、りんどうちゃん・・・」

「うん。今度入るときは、先に私に家に入っていいか聞いてね。特に今回みたいに、一緒に住んでいる人がお風邪だったりする時もあるから・・・」


私も酉島さんに倣い、絵未ちゃんと目線を合わせて伝えたいことを述べる

もしも絵未ちゃんにインフルエンザがうつったら大変だろうから、もしもがないことを祈りつつ話を終える


「分かった」

「ごめんね、りんどうちゃん」

「いえ。気になさらないでください」

「買い物、行かないとだよね。ごめんね、長時間立ち往生させて。そろそろ戻るね」

「いえいえ。お気になさらず、途中まで一緒にいきましょう」

「うん」


階段を一緒に降りていく

彼女たちの家は、私たちの二階下

目的の階にたどり着いて、そこで私たちは次会う約束を交わして行動を別にした

そして私は買い出しの為に、初めて一人・・・アパートの敷地街に出て道を歩くことになる


・・・・・


三階・酉島家


「あのね、あのね、ママ」

「なあに、絵未」


りんどうちゃんに懐いている絵未は、彼女と会った後はいつもテンションが高い

今日もまた例外なく・・・

母親としては、少し複雑だが、彰則と離婚してからずっと塞ぎ込んでいた絵未がこうして笑えるようになったのはりんどうちゃんのおかげだ

彼女には色々なところで支えられている。料理だけじゃなくて、家のことも


「お家にいたの、男の人だった!パパみたいな人!」

「パパみたいな・・・」


りんどうちゃんみたいな家事万能な子を周囲が放っておくわけないとは思っていたが、ちゃんと同居人・・・いや、同棲相手がいるようだ

小学生みたいな姿だが、中身は立派な成人女性

むしろどこか古風な雰囲気も持っている不思議な友人にも、やっぱりいい人はいる


「なんか安心したかな」

「?」

「なんでもない。ほら、お昼ご飯作ろうか、何が食べたい?」

「うーん、残りチャーハン!りんどうちゃんの「おつけ」つき!」

「お漬物ね。こんなに小さいのに渋いんだから・・・」


冷蔵庫から昨日の残り物と、ラップで包んだご飯。そしてりんどうちゃんからお裾分けしてもらった彼女のお手製漬物を取り出す

今度会ったら、一緒に住んでいる人がどんな人か聞いておこうと考えながら私たちはいつも通りの生活に戻っていった

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