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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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13日目:密会と体調不良の知らせ

キャッチボールをした日の翌日

私はいつも通りの時間に起きて、朝食の準備を終える

夏彦さんは起きてこない。今日も一緒に作るものだと思っていたから、少しだけ残念だ


「・・・遅い」


朝七時。そろそろ起きなければ遅刻してしまうだろう

私は彼の部屋まで様子を見に行ってみる

部屋のカーテンは閉め切られたまま。どうやらまだ眠っているようだった


「夏彦さん、そろそろ起きないと」


先にカーテンを開いて、朝の光を部屋の中に取り込んだ


「夏彦さん、朝ですよ・・・あれ、どうしたんですか」

「・・・りんど?」


呂律の回らない声で私の名前を呼ぶ

彼の顔はゆでだこのように赤く、鼻はそれ以上に真っ赤だった

ベッドの横に置いてあるゴミ箱にはティッシュの山が、サイドテーブルのティッシュ箱は空になっている


「てぃっす・・・ずびっ」

「あああああ、鼻をすすってはダメです。待っていてくださいね。すぐにティッシュを持ってきますから」


私はリビングの方からティッシュを持ってくる

ストックはどこにあっただろうか。後で聞いておかなければ


「はい、ちーんしましょうね」

「ぷぴー」

「まだ出ますか?はい、ちーん」

「ぷぴぴー」


彼の鼻水は止まる気配がない。何度かんでも鼻水が垂れる


「・・・きつい」

「真っ赤ですよ。熱も凄いですし・・・」

「んー・・・ひきだし、たいおーけい」

「たいおうけい?ああ、体温計ですね。少し待っていてください」


リビングに置いてある棚のところに、救急箱が入ってある

その中に入っている体温計・・・これのことだろうか。細長いものを手に取って、再び彼の部屋へ戻っていく


「ありがと・・・」

「無理に起き上がらないでください。はい、体温計。熱、測れますか?」

「んー・・・」


起き上がれたはいいが、頭をふらふらさせながら彼は私から体温計を受け取る

脇に挟んで計るタイプなので寝巻のボタンを少し外さないといけないのだが、手元も覚束ないようでボタンが上手く外すことができなかった


「少し待っていてくださいね。ボタン外しますから」

「んぅ・・・」


上二つのボタンをはずして、脇に体温計を差し込む

しばらくすると、検温が終わった音が部屋に鳴る


「ぜろ、てん、いち、えいち?・・・じゃなかった逆ですね。これは、四十一度・・・?」


想像以上にかなり酷い状態のようだ

私の治癒で治せれば・・・いや、私は今、憑者神である事を黙っている

治癒なんて使ってみろ。意識が混濁していようとも追及は避けられないことになる


「よんじゅーいちど?」

「はい。四十一度です」

「まってて・・・」


夏彦さんはゆっくりとした動きで宙を操作する

おそらく、通信端末を操作しているのだろう


「あー・・・さとる、おれ、うん」

「・・・よんじゅーいちど?だって。きょうやすむ」

「ん。だいじょーぶ。りんどーいるから。ん、びょーいんいく。じゃ」


呂律も回らないまま、覚という方に電話をかけ終わった夏彦さんは、ベッドに倒れこんで再び眠り込んでしまった


「あら・・・」


一応、会社はお休みで大丈夫みたい。私から連絡をしたりとかは必要とないらしい

しかし、今思うことではないが・・・


「私がいるから、大丈夫・・・か」


彼から少しは信用を貰っているらしい。こんな状態だが、嬉しさを覚えた

それよりも、今の私が考えないといけないのは病院だ

私は現代の病院の行き方を知らない。昔のように医者を呼んでくるシステムではないのだ

とりあえず、私は自分の通信端末で病院の行き方を検索してみることにした


・・・・・


「あ、巳芳先輩おはようございます」

「おはよう覚。君が先なんて珍しいね。槍が降るんじゃない?」


時刻は朝八時。会社に出社した俺を、後輩と同級生が迎えてくれる

東里のいうことはごもっともだったりする

俺は普段、定刻ぎりぎりにしか来ないから

けれど、朝からあんな電話貰ったら少し早く行くしかないだろう


「失礼な!ところでストーカー。少しこっちにこいよ」

「君こそ失礼な。「夏彦の」を前につけなよ」

「・・・つければストーカー扱いでいいのかよ、クソ兎。すべこべ言わずこっち来い」


彼の襟首を掴んで、俺は社長室へ彼を引きずり込む

念入りに鍵をかけて、誰も入ってこられないようにした


「「お家」の話をしようぜ、卯の憑者神殿?」

「・・・何かな」


彼を別の呼び方で呼ぶと、部屋の空気が大きく変わる

俺だっていつもの調子ではいられない

今回は、事情が異なるのだから


「おいこらストーカー。お前全然機能してねえじゃねえか。一応「監視」がお前の仕事だろうが」

「・・・何が言いたいのかな」

「夏彦のところで一緒に住んでいる養子の名前「りんどー」・・・「竜胆」みたいだぞ」


その名前を告げれば、東里の表情もたちまち変わる

その名前は、俺たちにとって最重要人物が持つ「神様の名前」なのだから


「・・・なんで、彼女が」

「夏彦が花籠雪霞・・・尊き神語りのお方の生まれ変わりだから。それしか理由がないだろう?」


彼女が現れたのは悪い兆候だ

彼女の細い情報源でも、夏彦を見つけ出した

それはつまり、戌と子が動く兆候でもある

彼女でも見つけられた夏彦を、奴らが見つけていないわけがない


「今代の龍のお気に入りは夏彦だって知ってたよ。でも、実際にそう言う事態になると、自信を失う。僕は、夏彦を守れるのかな」

「弱音なんて吐くな。俺とお前がきちんと役目をやり遂げないと、夏彦は死ぬぞ」

「・・・わかってる」

「それならいい。それよっか、東里。近いうちに夏彦の家に行くぞ」

「今日は、流石に無理だよね。お見舞いを兼ねて・・・とか」

「四十一度だぞ。あいつ呂律すら回ってなかったし、事情を聞くにしても治ってからがいいだろう。それっぽく理由作れるか?」

「もちろん。任せてよ」


俺と東里の密会は終わる

少しずつ、俺たちの事情も動き出していくのを、ひしひしと感じた


「・・・夏彦が関与してなければ、適当だったんだけどなあ」


ソファに座り込んで、窓越しの景色を眺める

東里もまた、俺の隣で同じように


「同感だね。でも、彼女に会えてよかったよ。彼女を救うのは卯月家の悲願なんだ。僕の一存だけじゃ、逃げられないよ」

「俺はそれ、関係ないからなぁ・・・ご先祖様は仲良しだったみたいだけどね、彼女と」

「智さんだっけ?」

「そうそう。村燃やした奴」

「その覚え方・・・でもまあ、間違ってないから反応に困る」


呆れた東里を横に、熱を出して寝込んでいるであろう恩人のことを思う

まともに学ぶ環境を持っておらず、出会った時は会話すらままならず、聞けば平仮名しか書けなかったポンコツだが・・・武力だけはかなりのものだ

そんな彼に高校時代、俺たちは助けられた


「僕は家の方針に従うつもりはないよ。夏彦は大事な恩人であり友人。死なせはしない。僕の意思で夏彦の助けになるだけだ。辰の事はまあ、二の次かな」

「うげぇ、お前も言うようになったな。昔はお家のことには従ういい子ちゃんだったのに。でもまあ、俺も一緒かな」


俺たちはそれぞれ手を宙に向ける

この手には力がある

しかしそれは、普通の力ではない


「忌むべき力だけどさ、ここぞという時にしか使えない。やり切るぞ、東里」

「勿論だとも」


二人とも戦闘向きでないけれど、やらないといけない時は目前だ

これからはいつも通りの日常を、のうのうと生きてはいられない


・・・・・


昼過ぎ


「んー」


病院から戻った夏彦さんは、上着を着たままベッドの中に入り込んでしまう


「夏彦さん、着替えてください。洋服じゃきついでしょう?」

「さむー」

「部屋の暖房付けますからね。寒いのはわかりますが、我慢して着替えてください」

「ん」


もぞもぞと布団の中から出てきて、服を着替え始めてくれる

新しい寝巻をクローゼット内の棚から取り出し、彼に手渡す

そして普段使っている部屋用の上着も取り出し、ベッドの横に置いた


「着替え終わりましたか」

「ん」

「じゃあ、ベッドで寝ていてくださいね。食欲はないでしょうけど、何か食べてからお薬を飲みましょう」

「ん」


着替え終わってから、彼はすぐに布団の中に入り込む

まだ、寒そうにしていた


「湯たんぽも作ってきますね。少しでも温かくなるように」


若干邪魔そうだったので、額にかかっている山吹色の輝く彼の髪を払い、術をかける

少しでも楽になってくれればいいのだが・・・流石に一瞬だし、無理だろうか


熱はまだ下がっていない

診断の結果、彼はインフルエンザという病気だそうだ

倦怠感もかなりきついみたい。歩くのにも一苦労で、タクシーでここまで帰ってきた

しばらくは安静に・・・熱が下がっても二日開けなければ仕事にも行ってはいけないらしい


「私が付いていますから、何かあったらすぐに」

「んぅ・・・」


辛そうに返事を返してくれる

それを確認した後、私は部屋を出て、軽い食事を作りに行った

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