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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
第一章:日常が壊れる予兆
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11日目:丑光恵は夢で過去を辿る

また、この夢だ

着物姿の女の人が、力が欲しいかと問う夢


でも、今日の夢は少しだけ違う

大きな日本屋敷の縁側。そこに一人の青年が座っていた


「お前がいるなんて珍しいな、祝?」

「お久しぶりです、雪霞せっか様!いかがなされましたか?」


私によく似たいわいと呼ばれた少女は、山吹色の青年の呼び声に反応する

その青年の面影はどこか、私が憧れ・・・以上の感情を抱く頼りになる先輩に似ている

しかし、どこか儚げで、触れてしまえば消えてしまいそうな印象を抱いた


「今日は、さとしと一緒ではないのか?」

「どうせ、村の中央にある狩人の小屋で酒でも飲んでいるかと思いますよ」

「智は酒が好きだからな。憑者神に成ってから、それはさらに酷くなったように思う」

「こんなことになったから逃げの手段にしているんですよ、と言えればいいのですが・・・彼の場合は体質だと思います。どれだけ飲んでも酒に飲まれることはありません。それが幸か不幸かわかりませんが」


祝は吐き捨てるようにそう告げる

雪霞は複雑そうに、そして申し訳なさそうに顔を俯かせた


「・・・すまない。私が大人しく死んでおけば、こんなことには」

「雪霞様が謝ることではございません。鈴は、貴方を救いたいから、成る決意をしたわけですし・・・どちらにせよ、私たちが憑者神に成る運命は変わらなかったのです。それが少し早く訪れただけですから」


でも、まあと彼女は付け加える


「・・・もう少し、悪い時期が訪れたのが先であれば鈴が憑者神に成る運命だけでも変えられたかもしれないとは思いますね」

「ああ。私もそう思うよ。それはそうと祝、お前はその、性質的な問題は?」

「智が吸い取ってくれています。毎日彼には苦労をかけていますよ」

「そうか。まあ、智も好きにやってくれているのだろう?気にせずに頼るといい。私はお前たちに何もしてやることはできないからな」


雪霞の顔に影が差す

それに祝は気が付かない。彼の心配よりも我が身の方が大事だから


「雪霞様。あの、一つ・・・先に言っておかなければなりません」

「なんだ?」

「・・・先日、智からこの村を共に出ないかと言われました」

「まあ、妥当な話だろうな。お前はなんと?」

「・・・雪霞様にお伺いを立ててからと返答をしました。それに、この身体のままで逃げ出すのも無理な話ではないかと思うのです」


彼女の身体が一瞬にして、変化を遂げる

牛みたいな尾と耳を揺らす祝は黙って雪霞の目を見続けた

彼に、助言を求めるのか。それに彼も気が付いたようで、ゆっくりと口を開いてくれる


「祝。お前がこの先、この村のおかしさから逃れたいと望むなら・・・秋の祭典が終わった後に、智を連れてこの村を出るといい。できれば、鈴も一緒に。逃げる時間は稼ぐから」

「ありがとうございます。しかし鈴も、ですか?鈴は雪霞様と一緒にいるのでは・・・?」

「私は秋の祭典が終われば、少し遠い場所に行かなければならない。なかなか帰ってくることはできないだろう。その間、彼女をこの村の因習から守ることができない。だから、彼女も連れていってはくれないか?」

「雪霞様の頼みであれば、聞かないわけはございません。丑光祝、謹んでお受けいたします」

「ありがとう、祝。すまないな、本当に・・・私にできるのは、お前たちをお役目から解放させることだけだから」


雪霞の小さな呟きは、祝には届かなかった

だからこそ、彼女はあんなに後悔しているのだろうか

着物姿の女性は泣き続けている

少しやつれた表情を浮かべる彼女こそ、私のご先祖「丑光祝」なのだろう

さっきも、そう名乗っていたし・・・


彼女の肩に手を触れようとした瞬間、視点が回る

今度は、初夏だろうか

先程の秋の光景ではない、縁側には雪霞と呼ばれた青年と、これまた私の先輩によく似た青年が縁側で語らう光景だ。先程の時間より前のような気がする

私をからかう巳芳先輩によく似た青年が、お茶を口に含む


「雪霞」

「智。久方ぶりだな。元気そうで何よりだ」

「ああ。お前も元気そうだな。鈴は?」

「鈴は今、食事を作りに行っているよ。巳芳に教えてもらったとかで、私に振る舞いたいと」

「御袋に?ああ、うちに女が生まれていれば、料理教えたいって言ってたしなあ・・・鈴が丁度いい贄になったか」


彼が、先程話に出ていた智か


「巳芳家は八人とも男だからね」

「ああ。労働力はあっても家の事は何にもしねえからな。御袋は俺を贄に出して、家に箔をつけて・・・そのお陰で次男と三男に嫁が来ました」

「それはよかったね。ところで君と祝はいつ、祝言を挙げるんだい?」


智の口から勢いよくお茶が噴き出る

それは彼の口から出てくるなんて思っていなかったのだろう

しかし、顔が巽先輩と巳芳先輩に似ているものだから、巳芳先輩を巽先輩がからかうという珍しく、そして面白い光景が繰り広げられている


「ぶっ・・・雪霞、その話どこで・・・!?」

「この前、祝と森の中に入っていっただろう?」

「神語りか」

「違うよ。普通に見てたんだよ。鈴は気が付いていなかったけど・・・逢引だろう?私には、わかるんだ・・・神語りがなくてもな?」

「ああ。ああ!そうだよ!全く、色恋のいの字も気配もねえ雪霞にバレるとは思ってなかったけどな!」


智は勢いよく湯呑を置いて、雪霞を睨みつける


「お前こそどうなの、鈴とは」

「どうって何が?」

「だからよぉ・・・」

「智、何を遊んでいるのですか?」


智の後ろに、青緑色の髪をした女の子が静かに立つ

彼女から睨みつけられた智は、縁側から離れて、少しずつ彼女と距離を取った


「鈴、いいではないか。まだお役目の時間ではないのだし」

「雪霞様がいいというのなら、構いませんが・・・」

「どうした、鈴」

「・・・そろそろ、起きる時間では?ねえ、そこの方?」


見えていないはずの私の方をじっと見つめる、鈴と呼ばれた少女

彼女が近づいてくると共に、視界が揺れる


「おい、おい」

「丑光さん?」


目の前にいる、雪霞と智に声がとても似ているけれど・・・馴染みのある声

けれど、その声に引っ張られるのを阻止するように着物の女性が私の腕を掴んでいた


『ねえ、私の子』

「・・・ご先祖様?」

『力が欲しいときは言ってね。私がきちんと助けるから。だから、お願い』

「お願い、ですか?」

『うん。時が来たら、雪霞様の生まれ変わりと、私の大事な友達である鈴を助けてあげて。それとね』

「それと・・・・」


どんどん意識が覚醒に向かっているのだろう

祝さんの声も、どんどん遠くに聞こえて言ってしまう


『智の子孫を・・・』

「おい、恵ちゃん!」


祝さんの声は、意識の覚醒と同時に聞こえなくなる

そして、目の前にいたのは・・・着物姿の男性二人ではなく、巽先輩と巳芳先輩

二人とも心配そうに私を見ている。周囲の人も同じだ


「え・・・あ、みよし、せんぱい?」

「急に倒れたんだよ。覚えてる?頭痛いとか、変なところはない?」

「いえ・・・」


それを聞いた巳芳先輩は安堵したのか床に座り込む

その後ろから、巽先輩が顔を出す


「最近変な夢を見ているんだよね。そのせいで寝不足だったりする?」

「そう、ですね・・・休まった気がしないのです・・・ごめんなさい。迷惑をかけるつもりは・・・何時間ぐらい?」

「二時間ぐらい。丑光さん、今日はもう帰っていいよ。早めに休んだ方がいい」

「はい・・・」

「立てる?」

「・・・まだ、少し」


周囲を見渡し、事情の把握に努める

どうやらここは休憩室のソファーのようだ

誰かが運んでくれたのかな・・・


「覚、君も帰っていいから送っていってあげて」

「え、そこは夏彦が」

「・・・俺、まだ仕事あるから。送ってあげたいのはやまやまだけどね。車も取りに行かないとないし」

「そういえばお前徒歩出勤・・・」

「そういうわけだ。後の仕事はやっておくからさ、早く行った」

「それなら、まあ・・・」


休憩室の扉がノックされる。その先から現れたのは事務の日辻課長代理だった

そういえば、事務の課長って誰なんだろう・・・今まで見たことないけど・・・いるのかな


「失礼します。夏彦君、お客さんだよ。応対お願いします」

「ああ、日辻さん。わかりました。じゃあ、覚。お願いね」


彼は日辻課長代理と共に休憩室を出て行ってしまう


「・・・俺でよければ、送りますよお嬢さん?」

「ありがとう、ございます。お願いしてもいいですか?」

「もちろん。でも、夏彦じゃないのが残念かな?」

「・・・」

「反応なしか。まあいいや。行こうか。頑張って歩いてね。俺、流石にもう抱える体力ないからねー・・・」


ここに運んでくれたのはどうやら彼らしい

夢も混じっているせいで、頭がほやほやする


「あ、猿渡さわたり君。ごめん。俺と丑光のタイムカード押しといて。送ってそのまま直帰する」

「了解です。お疲れ様です、巳芳先輩。丑光さんも、お大事に」

「お疲れ様です、猿渡先輩・・・」


ちょうどすれ違った猿渡先輩に頼みごとをした後、巳芳先輩はふらつく私を支えて帰りまで付き合ってくれた

その間、私の頭の中は夢の話でいっぱいだった

・・・助けるってなんなんだろう。それに、智の子孫って


私を支えてくれている巳芳先輩を見上げる

そういえば雪霞という人が、巳芳という人物の話をした時、智という人はその人物をお袋と言っていた

それから考えるに、先輩そっくりな人の名前は巳芳智なのだろう


まさかその人の子孫って、先輩のことじゃないよね・・・?

ご先祖様が告げた言葉の意味を考えながら、私は疲労だらけの身体をゆっくり動かして、帰路を歩いていった

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