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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
序章:付喪神との遭遇
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7日目②:巽家のお掃除会

朝、目覚めると既にりんどうは起きていた

今日の朝食はいつもと比べたら、少しだけ簡素なもの

それでも、しっかり、それでいて優しい塩味のきいたおにぎりは美味しく、何個でも食べられそうだ・・・と思ったが、四つで我慢した


今日の朝食が簡素な理由はわかっている通り、昨日の「あれ」が原因である

リビングが滅茶苦茶ということは、すぐ隣の台所も滅茶苦茶なのだ

まだ炊飯器やら電子レンジやら、電子機器が生きていたことが救いだろう


しかし、フライパンが真っ二つになったり、鍋が変形していたりと調理器具は大変な事になっている

その為、いつものしっかりした朝食は作れないということだ

朝食を食べ終わった俺たちは、早速その処理に取り掛かっていく


「・・・テーブル、思いっきり壊れてるな」

「うう・・・ごめんなさい」


リビングは昨日軽く片付けたとはいえ、まだ凄惨な光景が広がっている

彼女の動揺はここまでの破壊をもたらすのだろうか

驚かせないように対策を・・・彼女にとって怖いものとか、見たくないものはなるべく表に出さないようにしよう

・・・彼女の通信機器にはフィルタリングを付けるべきだな、うん


しかし、それよりもまずは掃除の事

いつもご飯を食べていたテーブルはなにをどうしたらこうなるんだみたいな形にひしゃげていた


「・・・捨てるしかないね。細かく切ろうか。鋸はどこに置いたかな」

「あ、私が燃やします。手間にならないよう灰も燃やしますね」

「燃やせるの!?」

「はい。先に言っておきますが、私の炎は万物を燃やすことができます」

「そんな凄いことができるんだな・・・」

「はい。なのでお任せください!」


そう言って彼女はテーブルの破片や、その他ゴミを一箇所に集めて、先日のドラゴンブレスを放つように頬を膨らませる

すると、彼女の口から炎が飛び出してきた

ドラゴンブレスといえば、これといえる炎の渦がテーブルの破片を包んでいく

みるみるうちにテーブルは焼け、灰になり・・・灰すらも燃えて消えてしまった

あんなに燃えていたのに、天井や床には焼け焦げた後の一つもない

ただ、彼女が集めたゴミだけが灰すら残さず消えてしまったのだ

焼け焦げた匂いすらもない。何から何まで、目の前で起きたのは不思議以外の言葉で表現できそうになかった


「・・・・・」

「これで完了です。夏彦さん?」

「い、いや・・・凄いね」

「そうですか?そうですか?」

「今度ちゃんとしたドライヤー買おう」

「!?」


あんなものを見せられたんだ。あのドライヤーみたいなドラゴンブレスには感謝しているが・・・炎をうっかり出されては困るというか、死んでしまうというか・・・!


「次は、と行きたいけど、テーブルを捨ててしまったわけだし、代わりをどうするかだね」

「新しいのを買いますか?」

「いや。そう・・・だな。椅子は生きてるし、テーブルは後で台替わりに使えそうな小さなテーブルを買えばいいか」


どうせ、あと一年ほどしたらこの家は引っ越しているだろうから

俺の夢が詰まったあれは、来年には完成している

それが完成したら、それに合わせて家具も買い替える予定なのでここは凝ったものを新しく買わず、簡素なもので代用しておこう


「さて、代用品を買うまではしばらく、和室に収納したこたつテーブルを使おう」

「そんなものが・・・はい。後で準備しましょう」

「ついでに、炬燵用布団も干して、本格的な炬燵を作ろうか」

「早くないですかね・・・?」

「少しぐらい早くてもいいさ。もう十一月だしさ」

「そう言われるとそうですね。十一月ですし、もう出してもおかしくないといえばおかしくありません」

「じゃあ、早速出そうか。その時はお手伝いよろしくね。次は、床を・・・・」


次の行動に移ろうとすると、箒を笑顔で構えたりんどうがすでに終わらせていたようで、綺麗な床が広がっていた


「早いね」

「付喪神パワーを使いました!」


すぅーと、俺の方に頭が向けられる

普段の俺ならば、その頭に手を乗せるのだが、ここは我慢だ

ビニール手袋を付けていたとしても、俺の手は掃除中のみ

そんな汚い手で、彼女のふわふわの頭を撫でるわけにはいかない


「何でもありだね付喪神パワー。ああ、はいはい、頭を撫でるのは全部終わって手を洗ってからね。今の俺の手、汚いから」

「とか言いながら、さりげなくビニール手袋を外して撫でているあたり、夏彦さんは撫でるのが癖になっていませんかね?」

「はっ!?」


彼女に指摘されるまで、俺の意識は無意識になってりんどうの頭を撫でていたらしい


「ごめん、汚い手で・・・」

「いいですよ。撫でられたいときに撫でられるのが一番いいので」

「そうなんだ。でも、続きはまた後でね。無意識とはいえ、俺はちゃんと掃除を終えてからと思っていたから」

「わかりました。では、次は拭き掃除をしましょう」

「了解」


彼女の頭から手を離し、再びビニール手袋を装着する

それから拭き掃除・・・で終わるかと思えば、彼女のこだわりで、普段はしないところまで掃除をしていった

テレビの裏、ガラス戸、ベランダ、はたまた押し入れの中まで


「・・・夏彦さん。お掃除中ですよ。押し入れでサボらないでください」

「ごめんね。なんだか、落ち着いちゃってさ」


押し入れは暗くて狭くて、なんだか落ち着く空間なのだ

幼少期のほとんどをここで過ごしたことも起因しているだろう。俺にとって押し入れはうっかり入ってしまえば気を抜いてしまう空間と化していた

だからだろうか。手ごろな空間を見つけたらすっ・・・と入ってしまうのだ


「落ち着きますか?」

「うん」

「暗い所とか、狭い所が好きなんですか?」

「少しね」

「広い所が落ち着かないとか、そんなことは?」

「昔はあったけど今は大丈夫だよ」

「・・・それなら、いいですけど」


鈴は心配そうに、俺に手を差し伸べる


「さあ、お掃除の続きをしましょう、夏彦さん。急がないと日が暮れちゃいます」

「そうだね。もう少し頑張ろう」


彼女の手を取って、押し入れから出る

あの時は、自分で出るしかなかったけど・・・今は、彼女が手を引いてくれている

なんだろうか、この安心感は

まるで、彼女に手を引かれる行為が・・・当たり前のような気さえするのだ


「夏彦さん、どうされました?」

「あ、いや・・・なんでも、ないんだ。あ」

「夏彦さん?」


ふと、立ち上がった時に、彼女の髪の間に隠れた鈴を見つける


「鈴」

「っ・・・!」


俺の手を握ってくれていた彼女の手の力が一瞬だけ込められる

何に、驚いたのだろうか。見つけられると思っていなかったから?


「鈴を、つけているんだ。音が鳴らないから気が付かなかったよ」

「あ、そう・・・ですね。この鈴、少し不思議な鈴なんです。だから、普通の時には鳴らないんです。なので今まで気が付かなかったのだと思います」

「なるほど。凄い鈴だな。それも、付喪神パワーで?」

「いえ・・・これは、私を拾ってくださった方がくれたものなのです」


りんどうはそれを凄く大事そうに握り締める

とても大事なものなのだろう。二百年近く共にあったに違いない


「大事なものなんだ」

「はい」

「よかった」

「よかった、とは?」

「りんどうに、大事なものがあって。かな」

「・・・夏彦さんには、ないのですか?」

「俺にはないよ。誰かからもらったのは、知識とかそういうので、形には何も残っていない」

「そうなのですか・・・」


りんどうは複雑そうに落ち込んだ後、鈴に触れる

チリン、と心地よく鳴る音色を確認した後、彼女は俺の手を握り締めたまま、小さく笑ってくれた


「いつか、私が夏彦さんに贈り物をします。この鈴のように、二百年近く一緒にいられるほど、常に身につけられて、使いやすいものを」

「そんな、いいのかい?」

「はい。だから、いつかを待っていてくださいね、夏彦さん。約束ですよ」

「うん。約束。その日を待っているよ。それと、俺からもいつか、君に贈り物を」

「それは、とても嬉しいです!ありがとうございます。お待ちしていますね」


指切りで約束を交わして、俺たちは再び押し入れの整理に取り掛かる

今日だけで沢山、りんどうの事を知れたような気がする

それに嬉しさを覚えるが、少しだけ心残りもある

まだ彼女が話せないことは多い

いつか、それを話してくれる日を待ちながら、俺は今日もごく普通の一日を彼女と過ごした

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