7日目①:おやすみ前の語り事
「・・・・・」
「・・・・・」
互いに風呂に入り終え、髪を乾かした俺たちはベッドの上で正座して向かい合っていた
そう、先ほどの会話で約束した「互いの事を語る」ためだ
彼女は付喪神パワーでパジャマを作り出していた
淡いピンク色の、フリルのついた可愛らしいパジャマ。なぜかナイトキャップ付き
対して俺は普段はタンスの中で眠る淡い緑色のパジャマだ
風呂上がりの彼女がこの服装で来たのを確認してから・・・長袖シャツとスエットを仕舞い、押し入れに仕舞いこんでいたこれを取り出した
普段なら別にいいかな・・・と思ったのだが、これは所謂パジャマパーティーみたいなものじゃないか!?と思考になぜか至ったのが、事の始まりだ
みっともない格好で参加するのは、恥ではないかと思っただけなのだ
「・・・と、とりあえずまずはどうしましょう」
「名前はわかるし・・・」
とりあえず意見を出してみるが、少しだけ彼女は悲しそうにしょんぼりする
なぜだろうか。言い出したのは自分だけど、意見が出てこないことを気にしている?
けれど、そんな感じのような気はしないのだが・・・
「とりあえず、年齢?少なくとも俺はりんどうの実年齢は知っておきたいかな」
「じ、実年齢、ですか・・・?」
彼女の反応はあまり良くなかった
女性に年齢を聞くのはよくないことだぜ・・・と、かつて覚が言っていたのを思い出す
初っ端からなんて失礼な質問をしてしまったのだろう
「ですよね・・・気になりますよね、実年齢。状況に応じて年齢を変えていますし、なおさら・・・」
「あ、うん。子供みたいに見えるけど、二十三歳だったり・・・実際のところどうなのかなと思って」
「一応・・・二百二十三歳なんです。つき・・・付喪神になる前から数えて、ですけど。この姿になったのは、十六の時になります」
「そんなに長く・・・凄いね」
二百年といったら・・・大体江戸時代ぐらいだろうか
十六歳なら、江戸時代なら平均ぐらいの大きさなのだろうか・・・その辺りはわからない
しかし、付喪神になる「前」か
その言い方だと、彼女には人だった時代があったようだ
・・・そう考えると、付喪神であるというのは嘘なのではないだろうか
人から付喪神に・・・なんて話は聞かない
付喪神は、自然に生まれるものなのだから
彼女が付喪神のふりをしている事は、ほぼ確実だと言っていいだろう
しかしまだ追求する時じゃない。彼女がその真実を話さないということは話せないことなのだろう。それか、かなり不都合なこと
だから今は、聞かないでおこう。彼女が話したい、話すべきだと思った時に俺は彼女の話をちゃんと聞こう、と心に決める
けれど、最初の提案の時の反応だけは気になる
りんどうには、人だった時代の名前があるのだろうか
その名前を、本当は言いたいのではないだろうか
・・・言い出しにくそうだし、俺から
「じゃあ、りんどうには人の時の名前があったりするの?」
「・・・はい。けれど、今は話せません」
「本名を名乗れば、消えてしまうとか・・・そういう制約が?」
「そんなことはないのですが、ごめんなさい。これは、私の事情です。だから、今は、今まで通り「りんどう」とお呼びください、夏彦さん」
彼女は胸に手を当てて、小さく微笑んでくれる
余計な気遣いだっただろうか・・・?なんだか、申し訳がない
「夏彦さんは以前仰られていたとおり、三十一歳なのですよね?」
「うん。三十一」
「誕生日はいつなのでしょう?」
「七月九日らしい」
「らしい、というのは?」
「俺も戸籍謄本を見て初めて知ったんだ。これまで、四月になったら年齢を一つ足していたから、誕生日だと言われてもあまり実感がないんだ」
「ええ・・・?」
高校進学を機に、免許を取る時に必要だから取っておくか・・・ぐらいのノリで住民票と戸籍謄本を貰いに行ったのだが、その結果判明した事実だ
それまで俺は両親の名前も、自分の誕生日の存在すら知らなかった
「そ、そんな・・・夏彦さん」
「ど、どうしたの、りんどう・・・」
「自分の誕生日を今までご存じなかったと!?出生日はお祝いの日だと言われているのに!お祝いされたこともなかったと!?」
「あ、ああ・・・そうだけど」
なぜかりんどうが酷くショックを受けて俺に迫る
なぜ彼女がこんなにも動揺するのだろうか・・・?
「来年は、夏彦さんの好きなものを沢山作りますからね・・・!沢山、お祝いしましょうね・・・!」
俺の手を握り、半泣きになった彼女はぶんぶん振り上げる
「あ、ありがとう・・・りんどうの誕生日は?その日が来たら俺もちゃんとお祝いするよ」
「そうですね。製造年月・・・は冗談です。私にもわかりません」
「もしかして、誕生日が?」
「はい。元々、私は人だった時代も孤児でして・・・誕生日がわからなかったんです。だから、私を拾ってくださった人が、名前を付けてくれた日を誕生日にしています」
「その日は?」
「八月二十一日です。それまでは、新年が来たら歳を足していました」
「一緒だな」
「一緒ですね」
思わぬところで同じような事をしていたので、互いに笑い事ではないのに笑ってしまう
「りんどうの誕生日も、たくさんお祝いしないとだ」
「え、私は・・・その、二百歳を超えていますし、今更・・・」
「いいから。次は二百二十四歳の誕生日を祝わないと。誕生日プレゼントも用意してさ」
「プレゼント?」
ああ、二百年前の話だから、誕生日にプレゼントを贈る習慣とかまだなかったのだろう
「誕生日のお祝いに、プレゼントを贈るんだ」
「そんな習慣ができているのですか?」
「うん。欲しいものがあったら言ってほしい。それをプレゼントするから」
「でも、私は夏彦さんの欲しいものが・・・」
「肩たたき券でもいいよ?」
「肩、凝っているんですか?」
りんどうが心配そうな目で俺を見る
健康を守りたい系付喪神からしたら、少しの異常も心配の証なのだろう
「仕事柄ね」
「もみっちゃいますか?」
「もみっ?あ、うん。お願いしようかな」
テレビでなんか、若い子が使いそう・・・いや、使わなさそうだな。特徴的な言葉で手をわしわしさせるるんどう
しかし、彼女の肩たたき、あるいは肩もみは気になるのでお願いをしてみる
すると、後ろを向くように促され、俺はベッドの外に足を出し、腰かけるようにする
それからりんどうが背後に回り、俺の肩を掴んで、手に力を籠めた
「んぅ・・・・」
「んお・・・」
想像以上に力強い肩もみについつい声が出てしまう
強いだけではない。ツボもしっかり押さえ、揉み心地もいい
「お加減いかがですか?」
「さいこ、うだ・・・」
「顔が溶けてますよ、夏彦さん」
「そう、だろうか・・・?」
「気持ちいいですか?もっと強くしましょうか?」
「いや、このままで・・・」
しばらく、俺はりんどうの肩もみを堪能しつつ、彼女と他愛ない会話を続けていく
「そういえば、夏彦さんは好きなご飯はあるんですか?」
「好きなご飯?んー・・・りんどうの作るご飯」
「遠慮なく、言っていいんですよ。食べたい料理名とか・・・」
「りんどうの作るご飯ならなんでもいい。たった一週間かもしれないが、君のご飯は凄く美味しいんだ」
りんどうとしては困る反応かもしれないが、俺にとっては思ったままの事実なのだ
きちんと伝えたい。伝えずに後悔する前に
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
「俺も、毎日弁当込みで沢山ご飯をありがとう、りんどう」
「いえいえ。夏彦さん、私、料理番組で色々と勉強したんです。それに、レシピサイトをみたらもっとレパートリー?が増えると思うのです!」
「あ、ああ。端末の使い方は明日教えるから・・・また、増えちゃうね」
「はい!だから、和食だけでなく、洋食も作れるようになりますよ!だから、その・・・夏彦さんが食べたい料理とか、あるかなと思いまして」
「料理か・・・」
特にこだわりはないし、先ほど述べた通り、俺はりんどうが作るご飯なら何が来ても構わないと思っている
しかし、食べてみたいと思うのは少なからずあるわけで・・・
「この時期だし、おでんは食べてみたい」
「おでんですか。まだ未知ですね・・・他には?」
「・・・グラタン」
「グラタンはこの前テレビでやっていました。今度、作りますね」
「ありがとう。それと」
「それと?」
料理に対して本格的に触れたのは、彼女がここに来てからだ
どうして、あんなに美味しく作れるのだろうかとか密かに考えていた
だから、俺も一回ぐらいは・・・と思ったのだ
「・・・それと、俺も、まともに自炊したことがないけれど、料理を、してみたい」
「・・・!」
「教えて、ほしい。りんどう」
「はい!ぜひ、ぜひ!私が手取り足取りお教えしますね!」
「あだだだだだだだだだだだだ!?」
りんどうの気分が昂って、俺の肩をとんでもない力で握り締める
「え、あ!?す、すみません夏彦さん!うっかり付喪神パワーを使って握って!?」
「いいいいいいいいいいいいいいから!離して!」
「わ、わかりました!」
りんどうの手が放され、俺の肩は自由になる
うしろを振り向くと、彼女は付喪神の姿で申し訳なさそうにしょんぼりしていた
「すみません、夏彦さん。私、夏彦さんとお料理できることが嬉しくて」
「き、気にしないで。それほどまで、君にとっては嬉しいことだってわかったから」
「うう・・・」
「今日、掃除が終わったら買い出しに行って・・・明日、一緒に、どうだろうか」
「はい。それで構いません。しかし、何を作りましょう」
簡単なものといわれても、中学の調理実習は全くだし
高校の調理実習は調理実習とは言えない、一馬先輩の家庭科授業だけだし
「一人暮らししているんならインスタントばかりに頼ってはいけません!」とか「とりあえず色々切る練習しようか。切るだけでレパートリー増えるよ?」とか言われたので、とりあえずの感覚で炒め物だけは作れる・・・が、彼女の料理と比較すると、それは料理とはとても言えない、と思う
「夏彦さんは、一人暮らしの時はどうされていました?」
「どうって・・・」
「一応、調理器具は少なからずありましたし・・・まともに自炊をしたことないということは、言い換えれば夏彦さんは料理をしていたのではないかと思いまして」
「それは・・・その」
「夏彦さん?」
「・・・炒め物程度、だけど」
小さな声でも、彼女にはきちんと聞き届けられる
後ろを振り向くと、彼女は嬉しそうに頬を緩ませて、そのまま抱き着いてきた
「まあ。まあまあ、まあ!」
「な、なに・・・?」
それほどまでに嬉しいのだろうか。布団の上に足もパタパタ。尻尾もパタパタ
「お野菜は切れますか?お肉は?お魚は?」
「一応全部。魚は釣ってきたものをその場で捌けるようには」
「まあ!凄いです!では、この前のマグロも一緒に捌けましたかね?」
「いや、そこまでは」
そう言えば、この前の夕飯に出てきたマグロは彼女が釣ってきたものだったよな・・・
やっぱり自分で捌いたのか・・・しかしどこで処理をしたんだろう・・・
「なるほど・・・切り方に関しては、釣ってきた普通のお魚を捌ける程度と思っても?」
「うん。それぐらいで・・・」
「なるほど、なるほど。それでも凄いです。では、色々と範囲が広がりましたね。お魚料理もよさそうですし・・・」
りんどうが口に手を当てて考え始める
しかし、それなら・・・一つ俺は彼女と作りたい品目がある
「ハンバーグを、作るというのはどうかな」
「確かに、いいかもしれませんね。では、それでいきましょう!」
「ああ。明日はよろしく頼むよ」
「はい!」
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「わかりました。灯りを消してきますね」
ベッドサイドのランプを消して、部屋は真っ暗になる
それと同時に、彼女は付喪神の姿から普通の少女の姿に戻る
二人で布団に入る。まだ、少しだけ冷たい
眠気が来るまで少しの時間・・・無言なのも気まずいし・・・どうしたものだろうか
「あの、夏彦さん」
「なに?」
最初に口を開いたのはりんどう
彼女も気まずかったのか、暗闇に慣れた目で移った表情は気まずそうな感じだった
「そう言えば、お魚を捌けるところに話を戻すのですが」
「ああ」
「・・・釣りとか、行かれるんですか?」
「東里と覚とね。たまの休みに」
「・・・お魚も、釣りにいかれるんですねぇ」
「今度、一緒に行く?」
「行きたいです。この時期は、サンマ、とか・・・」
「せめてそこは川魚とか、堤防で釣れる程度の魚にしてくれ・・・」
けれど、海の方に行くのもいいかもしれない
少しだけ付喪神の彼女の事をまた一つ知り、彼女と過ごす時間の予定もまた増える
「おやすみ、りんどう」
「おやすみなさい、夏彦さん」
眠る前の挨拶を一つ、互いにかわす
目を閉じ、眠気に身を任せながら俺たちは朝が来るのを待った




