表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
序章:付喪神との遭遇
16/304

6日目②:付喪神パニック

一方、真昼の巽家

夏彦さんがお仕事で不在な中、この家を守るのは私のお仕事。お役目だ


「しかし、一通り終えてしまえば退屈・・・」


掃除を一通り終えた私は手を洗ってからソファーに腰かける

仕事が終わればやることがない


「昔は色々とすることがあったけれど・・・散歩の付き添いとか、看病とか」


けれど今はそんなことをする暇もなければ、する必要もない

なんせ夏彦さんは夜遅くにしか帰ってこない

早くても日が暮れてから・・・深夜の散歩というのはいかがなものか


そして「今の彼」は看病する必要がないぐらい健康だ

今までは食事も生活習慣も適当具合が目立っていたけれど、今は随分変わっただろう

この生活を続けていけば、少なくとも過労死だとか、栄養失調とか生活習慣病?だったか。それらに陥ることはないだろう

もし陥っても・・・私が・・・


「・・・この考えはとても悪い。気を変えよう」


私は思考を振り払うように頭を振って、別の事をし始める

例えばテレビを見る、とか

電源を付けてはみるが・・・興味を引くようなテレビ番組はない

録画も今日の分を含めて見つくした。作り方はもうもう今日特集された料理は材料さえ買ってくれば完璧に作れる


これも何もかも、私に料理の基礎を教えてくれた三陽みよさんのお陰だ

見て覚えることを教えてくれた彼女はもういないけれど、その教えは私の中で確かに生きている


後は、この首についている「これ」

夏彦さんが先日買ってくれた連絡を取りやすくするための通信端末、と言っていた

これを使えば、いつでもどこでも夏彦さんに「電話」というものができるらしい

電話というのは、遠くの人とおしゃべりできる魔法みたいなものだと言われた

他にも、これを使えば、料理のレシピが調べられたり・・・と


「料理のレシピ」


この通信端末で調べられるというのなら、それを見て、晩御飯の種類を増やすことができるのではないだろうか

私はこういっては何だが、和食しか作れない

テレビに出ている洋食とか、中華とか全く分からない


けれど、現代は和食より洋食を好む人の方が多いとテレビで言っていた

夏彦さんも美味しそうには食べてはいるけれど、やはり現代人!

和食より洋食がやはり好きなのではないだろうか・・・!


「そうと決まれば・・・・」


私は、通信端末の電源を付けて、確か・・・ブラウザ機能だったかを立ち上げる

彼はとても嬉しそうに、たくさんのご飯を食べてくれる

毎日似たようなものだったり、和食ばかりでは物足りないだろうから

ここは洋食を勉強して、夏彦さんを驚かせる!そして・・・撫でをご褒美に!

目標が決まればいざ!と、夏彦さんから教えてもらった手筈でブラウザ機能を立ち上げる

そして・・・そう、検索!


「しかし、何と検索したらいいのやら・・・」


カラフルなアルファベットと、検索と書かれた棒が並んでいる画面で私は悩む

そうだ、料理名!料理名を検索したらいいのではないでしょうか

例えば・・・今日の番組で紹介されていた「あれ」を言ってみましょう


「おでん」

『音声検索を開始しますか?』


突如、どこからともなく声がする

周囲を見渡してもどこにも何もない


「わ、え、・・・ど、どこから・・・」

『はじめまして。私は貴方のライフサポーター。エアと申します』


私の正面、それこそ目の前に現れた小さな丸い生き物がバウンドして「私がエアだ」と自己主張する

それに手を伸ばしてみるが、触れられない

そう言えば夏彦さんが言っていた


『ナビゲーションソフトがあった方がいいかもしれないと思ってオプションで入れておいたよ。エアって名前なんだけど、呼べば出てくるから、やりたいこと、それに聞いてみてね』


・・・これが「なびげえしょんそふと」なのだろうか


「なんとも頼りがいのなさそうな・・・」

『貴方のライフをより良きものにするために、貴方の事を教えてください』

「さりげなく個人情報を抜き取ろうとするなんて、末恐ろしい・・・」

『端末登録情報はこちらです』

「・・・既に、知られているのですか。隠し事は無用、素直に話せという事ですね」


しかし、私の本名はまだ知らないようです・・・流石に此奴も、与えた情報以外はなにも知らないというわけですね・・・此奴から夏彦さんに私のことが漏れる心配ななさそう

球体は何事もないように、さも当然というように跳ね続けている

私はゆっくりとそれから距離を取ろうとするが、それはなぜか一定間隔の距離を保って私についてきた


「なんて奴なのですか・・・こんなものが、こんなものが存在していいのですか!?まるでお化けではないですか!?」


別に、個人情報が急に出てきたから驚いているわけではないですし!?

おおおおおおおお化けなんて怖くありませんし!?

こここここ個人情報だって、ほぼ嘘ですし!年齢、桁が一つ違いますし!?

この姿になったのは十六歳の時だけれども、この端末を購入するときには契約上面倒くさくないように二十三歳ってことにしました・・・が!実際は二百二十三歳ですし!?

生きた年数も、そんじゃそこらの幽霊に比べてはるかに長いのです。私は、お化けなんて・・・!


『お化けの検索結果です』

「ひにゃあああああああああああああああああああああ!?」


目の前に表示される異形の数々

その中でも特段異彩を放っていたのは皺くちゃの老婆が包丁を持ち、恐怖を過剰に感じさせるようなイラスト

それは、私の目の前に表示される。それも、特段大きく


私はそれに驚いて、私はソファーから落ちてしまい、床を這いつくばる

しかし老婆は当然のように私についてくる。ひいいいいいいい!?

そして、奴もまた突然に


「カサッ(やあ)」

「・・・ごき?」


この家に、黒き異形が現れたのは本当に偶然であり、突然だった

別に、そいつの一匹程度どうにかなる。嫌いだけども

しかし、エアとかいう球体は私に追い打ちをかけように・・・・・


『ごきの検索結果です』


老婆の代わりに、沢山の異形の写真を目の前に表示する

勘弁してくれと思いながら、まずは動き回るそれを叩き潰し、亡骸を処分する

それから、画像を消す処理をしたのだが、うっかりその隣にあった女性のイラストに触れてしまう

すると、今度は目の前に全裸の、全裸の・・・・ああ、もう言葉にするのも憚られるようなことを、ことを・・・!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


それが何をしているのかわからないほど私だって子供ではない

そして、それを見て動じないほど・・・私は冷静でいられない

無意識に、角と羽根が生え、尻尾が動き出す

それから先、私の意識はぷっつりと切れてしまい・・・私自身も、彼が帰ってくるまで何をしていたか思い出すことは一生叶わない話になる


・・・・・


「・・・何が、起きたんだ」


夜十時。少しだけ帰るのが遅くなった俺は、家の惨状を目撃することになる

荒れた部屋。壊れた食器

更には・・・なんだ、黒い魔物の遺骸がなぜか丁寧に並べられている


その部屋の真ん中にはりんどう

おそらく彼女がやったのだと思うけれど・・・なにやら様子がおかしい

肩を震わせて、顔を真っ赤にした彼女の目からは大粒の涙が零れていた

尻尾もいつもの緑色の尾ではなく、ゆであがったタコのように赤くなっていた


「・・・なちゅひこさん」

「りんどう?」

「おばけ!ごき!おむね!」


姿相応に泣き叫びながら帰ってきた俺に飛びついてくる

お化け・・・?おかしいな。この部屋の下は確かに曰くつきのそれだが・・・この部屋には何も影響はないはずだ

強いていうなら、リビングで寝たら床下からギシギシ異音がする程度

下の階の住民はみんなリビングで自殺したから、その影響でポルターガイストが起こる。それだけだ


ごきはわかる。なんせご丁寧に遺骸が二十九体並べられていたし・・・

それから、おむねって御胸のことだろうか?それは何があったのか全く分からない


「うん、何があったかわからないが、とりあえず泣き止もうな・・・」


思考を放棄し、泣き続ける彼女の背中と頭を撫でて落ち着かせる

彼女が元通りになるのは、今日が昨日になる少し前の事


落ち着いた彼女の話を聞く限り、俺がオプションで入れていたナビゲーションソフト「エア」がお化けの正体のようだ

検索結果で翻弄されたりんどうは、おばけがどうやら怖いらしくその画像で驚き、家の中で暴れてしまったようだ

それから、黒い魔物が襲撃し、画像の検索結果もそれになったらしい

聞いているだけでぞっとしてきた


そして最後に、その検索結果を取り消そうとして・・・なんというか、彼女の言葉を借りるのなら「大人なゲーム」の広告をクリックしてしまったらしく、そういうことをしている画像を見て、さらに暴走・・・というのが今回の惨状を生み出してしまったらしい


「夏彦さん・・・ごめんなさい。お家・・・」

「強盗に入られたかびっくりした・・・けど、りんどうが無事でよかったよ。どこも怪我をしていない?」

「して、ません。あの、夏彦さん」


彼女は申し訳なさそうに顔を上げて、また泣きそうな顔で俺に問う


「怒らないんですか、その・・・私の事」

「起こるわけない。むしろ俺が謝らないと」


きちんとりんどうに説明をしないといけないことを放置したから起きたのだ

それに、彼女は・・・話を聞く限りでは俺の為に行動を起こしてくれた

ほとんど何もわからない機械で、俺を驚かそうとして・・・

誰かが俺の為に何かをしてくれるというのは滅多にない


今回のことだって、俺の為にりんどうがしてくれている事だ

結果はこうなってしまったけれど・・・それでも、彼女が何かをしてくれようとしていたのには変わりない

責めるのはお門違い。むしろ俺は・・・


「りんどう」

「はい、夏彦さん」

「俺の為にありがとう」


彼女の小さな体を抱きしめて、お礼を言う

彼女は俺のシャツに顔を埋めながら、小さく頷いてくれた


「明日、土日休みだから掃除しよう。買い物はまた今度でもいいかな」

「はい。けれど食材の買い出しにはいきたいです。明後日でもいいので・・・」

「わかった。じゃあ、今日はもうお風呂に入って休もう。俺が少し片づけておくから、先にお風呂に入っておいで」

「そう、ですね・・・」


返事を返してくれるけれど、彼女が動く気配はない

なんだか、震えている?


「もしかして、怖い?」

「べ、別に・・・そんなわけでは」

「いいんだよ。怖いものは怖いって言って。馬鹿にしたりなんかしないし、むしろ、教えてくれた方がきちんと対応できるから、隠さないでほしいと俺は思う」

「・・・夏彦さん」


「それに、君はあまり我儘やお願い事を言わないよね。いつも俺に選択をさせる」

「それは・・・私が、居候ですし」

「りんどうには色々してもらっているんだから、居候じゃなくて同居人みたいなものだと思ってるよ、だからさ」

「だから・・・」

「もう少し、我儘とか言ってほしい。俺にしてほしいこと、りんどう自身がやりたいこと、全部聞かせてほしい。俺は、それをなるべく叶えたい。ダメ、かな」


これから彼女と関わっていくうえで怖いものだけではなく、好きな事、嫌いな事・・・他にも色々と知っておいた方がいいだろう

短い間だけど、いつ終わるかわからないけれどそれでも、彼女と共に暮らすのには変わりないのだから

しかしそう思えるようになったのは、一緒に暮らすからという体面的な理由ではなく

それ以上に「りんどう」という付喪神の少女へ興味の方が大きいかもしれない

もう少し、仲良くなりたい。彼女の事をもっと知りたい

短い関係の彼女に対して、俺はこの時点で「未知なる興味」を抱き始めていた


「・・・・?」


しかし、その時の俺はまだその興味に名前を付けることができなくて、変な感覚だなと違和感を抱いていた

胸の中に生まれた違和感に首をかしげていると、りんどうが小さく笑う

やっと笑ってくれた。よかったと思いつつ、彼女の頭を撫でる

すると、彼女は結んでいた口をゆっくりと綻ばせる


「ダメじゃないです、夏彦さん。いいんですか、我儘言っても。お願いしても」

「うん」

「じゃあ、早速いいですか?」


彼女は何回か深呼吸した後、俺に向かって、自分の隠している事をを伝えてくれた


「一人は、怖い・・・です。夏彦さん」

「うん。じゃあ、一緒に部屋を軽く片付けた後、りんどうから先にお風呂を。その間、俺は浴室の前にいるから、君が安心できるようずっと声をかけるよ。それじゃダメ?」

「・・・ダメじゃ、ないです」


俺としては一緒というのは流石に・・・と思うし納得してくれてよかった


「寝るときは大丈夫?」

「一人に、しないでください」

「じゃあ布団を持っておいで。眠るまでは一緒にいるから」

「夏彦さんはどこで?」

「ここで・・・寝れたら」


・・・と、部屋を見渡す

片付けるといっても、完全には片付けられないだろう。ここで寝るのは流石に無理だと思う

それにお化けが怖いなら・・・ここで寝たらポルターガイストに遭遇してさらに大惨事なことになりそうだから却下だ


「無理でしょうね」

「無理だろうな・・・」

「それに、布団で一人は嫌です」


我儘だけど、ちゃんと伝えてくれる彼女のご要望に応えるとなると選択肢は一つだけ

できれば取りたくなかったが・・・仕方がない


「一緒の布団でいいのなら・・・枕だけ持って俺の部屋に」

「勿論です。私が間借りする形ですし・・・ありがとうございます」

「いいんだよ。ちゃんとお願いも、我儘も言えるじゃないか」


彼女の初めての我儘は、とても可愛らしくて笑いが零れる

それは彼女がきちんと我儘を言えた安堵も含まれているような気がした


「はい。それと、お願いを一つ」

「何かな」

「眠るまで夜通し語り通りましょう。私は、夏彦さんの事をもっと知りたいです。折角なので、眠るまで・・・お話したいです」

「そっか。俺もりんどうの事、まだ知らないことの方が多いし、教えてよ。折角一緒の布団で寝るんだからさ、そうだな。君の好きなものとかから、教えてほしいな」

「・・・!はい!」


滅茶苦茶になった部屋の中で、付喪神の少女の表情はコロコロ変わる

最終的に俺たちは部屋を軽く片付け、話し合い通りにお風呂に入り・・・

全部終えて、布団の上で対面する頃にはもう今日は昨日になっていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ