5日目②:誰かと一緒にご飯を食べること
テーブルの上に置かれているのは、湯気が立つご飯に春雨スープ
そしてかぼちゃが入った煮物に、切り干し大根
カップ麺生活が長い俺からしたら、誰かの手作りというのはやはり新鮮
そして、今回は・・・一つ、また異なる点がある
「今日もおいしそうだな・・・」
「夜も遅いですし、がっつりでは胃が休まないので・・・今日はこんな感じです」
「ありがとう、りんどう。気を遣ってくれて」
「いえ。お腹を空かせているであろう夏彦さんには物足りないかと思いますが・・・」
「十分すぎるほどだよ・・・」
俺は成人男性にしてはあまり食べない方であり、これぐらいでも十分満腹になる
しかし、りんどうが作るご飯が美味しすぎてどうにも食べ過ぎてしまう
嬉しい悩みだ。昔は食べることすら珍しかったのに、今は食べ過ぎて悩むなんて
「冷めないうちに食べないとだね。りんどうは?」
「今日は一緒に頂こうかと思い、待っていました」
「まだ食べてなかったの?」
「はい。夏彦さんが帰ってきてから頂こうと思いまして」
「ごめんね、待たせて・・・早速食べよう。お腹すいたし・・・けど、りんどう。君は・・・普通の食事ができるの?」
その・・・お供え物風にしなければ食べれないとか制限があったりするのだろうかと思い聞いてみる
今まで、一緒に食べたことがないから
饅頭を食べた時だって、分けた後にすぐ別の場所に行ってしまうし
帰ってきた時も、食べたタイミングは別
それに、今までも何かとタイミングが合わず・・・二人で一緒に食事というのはなんだかんだで初めてなのだ
「私は・・・物ですので」
「実は、食べれない?お供え風じゃないといけない?」
「と、いう訳ではありません。夏彦さん同様普通に食事が可能です。ただ・・・」
「ただ?」
「私が、ご一緒してもいいのですか?」
それがどういう意図で告げられた言葉なのか、なんとなく理解できた
俺だって、かつて同じようなことを思ったことがある
自分は、家族ではない
そんな俺が、この人たちと同じテーブルで同じ食事をしていいのかと
りんどうもまた、同じような感じなのだろう
りんどうが自分の事を「物」と表現するならば、俺は所有者になるはずだ
物であり、使われる立場にある自分が、仕えるべき人間と同じテーブルで食事をしていいのかということではないかと思う
りんどうは不安そうな顔で俺の方を見ていた
俺の答えはもう、決まっている
「いいに決まっているじゃないか」
「いいのですか?」
「むしろ逆に俺が君と一緒に食べてもいいのかって思うぐらいだよ。神様と一緒に食事するなんて、ね」
「神様なんて、そんな・・・」
「謙遜することはないと思うよ。君は付喪神なんだから。神様でしょう?」
「夏彦さん・・・。そうですね。付喪神、ですから!」
りんどうの表情に笑顔が戻る
「ほら、早く座って。折角りんどうが作ってくれたご飯が冷めてしまう」
「そうですね。早く食べてしまいましょう。撫で時間の続きが短くなってしまいますし!」
いつもの調子のりんどうは尾を左右に揺らして、嬉しそうに食事の準備を進めてくれる
「ご飯はどれぐらいがいいですか?」
「少な目でいいよ。りんどう基準でいいから」
「了解です!」
パタパタと炊飯器の元に駆けて、俺の茶碗と少し古びた茶碗にご飯を盛る
じいちゃんの家から持ってきた、かつてじいちゃんが俺の為に用意してくれていた茶碗だ
一度も使われたことのないそれは、やっとその役目を果たしていた
「・・・」
その様子を見ながら・・・そういえば、と思う
昨日、色々と買い物はしたけれど、彼女が使う日常的なものは一切揃えていないのだ
着替えは・・・なんだろう「付喪神パワー」とやらで変えられるそうなのだが、それを抜いても、この家にはりんどうに合わせた茶碗もなければ、未だに割り箸を使って貰っている状態だ
布団は覚が止まる時に使っていた布団があるから今はそれを使って貰っているが・・・男の匂いが染みついた布団なんて、抵抗感があるのではないかと思う
ふと考えていると、俺の目の前に茶碗が置かれた
「これぐらいでいいですか?」
「ありがとう」
お礼を聞いた後、りんどうは茶碗を持って椅子に座る
そして俺たちは手を合わせて「いただきます」と声を出して、遅い夕飯を摂り始めた
「ねえ、りんどう」
「なんですか、夏彦さん」
「今度の土曜日、買い物に行こうか」
「買い物、ですか?」
「うん。りんどうのお茶碗とか、お箸とか入用なものを買いに行こうと思うんだ」
「いいんですか?」
「勿論。色々と買いに行こう。箒もね」
「はい!あのですね、この前ハイターが切れて、ああお風呂の洗剤も全くないので未だに水洗いだけなんですよ。ちゃんとしたものを!」
興奮気味に語ってくれるが、それはりんどうが使うもの・・・かもしれないが「彼女個人の物」ではない「家で使う物」の話
「それもいいけど、メインは君が日常的に使うものだからね、りんどう・・・」
「わかっています。あの、できれば・・・ですね」
「できれば?」
「付喪神パワーの温存の為に、服も購入したいのですが・・・」
「なるほど」
もしもの時に使えないとか、効果が切れたりしたら大変だからだろう
「わかった。りんどうが好きなものを選んで買ったらいいよ」
「ありがとうございます!」
「ただ・・・お金は渡すから一人で選んできて」
「何でですか?」
俺のお願いに、りんどうは不服そうに頬を膨らませていた
さっきよりもぷくーとしている頬はまるで風船のようだ
「その、君は傍から見たら「小学生」なんだよ。俺の年齢からみたら親子というのは違和感がないことはないけれど、俺には違和感だし、だからと言って兄妹というのも・・・無理が・・・あるし」
「・・・夏彦さんが好きだというものを買いたいなと思っていたのですが」
露骨にしょんぼりしたりんどうの頬は一気に萎んで風船から干し柿みたいな状態になる
どうしようかと思って頭を巡らせる
そもそも、りんどうの「夏彦さん」と呼び方に問題があるのかもしれない
それさえ変えれば・・・・
「わかった・・・その代わり、外では絶対に「夏彦さん」って呼ばないでね」
「それ以外にどう呼んだらいいのでしょう」
「・・・出かける時までに考えておく」
「答えが出るまでお待ちしていますね」
「お願い」
話が終わると同時に、近くにあった切り干し大根を箸で掴んで口に運ぶ
しっかりと染み込んだ出汁の味が口いっぱいに広がっていく
「・・・おいしいね、りんどう」
「はい。そう言っていただけて嬉しいです」
「それと、さ」
「どうしましたか?」
「誰かと食べるご飯は、もっとおいしいね」
「・・・それはよかったです」
「これからも、君さえよければ一緒に。帰りが遅いときは先に食べていていいから」
「いえ。そういっていただけるのが嬉しいので、これからも待ちますよ。一緒に食べましょう、夏彦さん」
久々に、誰かと共に摂る食事
それに、少しだけ心が温かくなるのを感じていた
同時に、昔の事を思い出して、少しだけ胸が痛んだ
それでも俺は今起きている目の前の幸福を、暖かい食事と共に噛みしめていった
気が付けば、今日は昨日になっていた
食事の後は、洗い物を二人で分担し、寝る準備をする
食べたばかりで寝るのは、と思い・・・彼女と共に深夜番組を見ながら昼間の出来事を話し、彼女の要望に応えて頭を撫でたりと過ごす
そうしているうちに眠気が来て、互いにお休みを言ってから二人別々の部屋で眠りについた
一人、布団の中で静かに考える
互いを尊重しつつ、誰かと一緒に暮らすというのは俺の人生で初めての出来事だ
「どうしていけば、もっと楽しくなれるだろうか」
これからのことを考えながら、静かに目を閉じる
明日はなにがあるのだろうか
こんなにも次の日が楽しみなのは、いつぶりだろうか
久々の感情を抱きながら俺は眠りにつき、朝に備えた




