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世話焼き神様と社畜の恩返し。  作者: 鳥路
序章:付喪神との遭遇
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4日目②:夕暮れ時にお買い物と次の約束を

仕事を終わらせ、俺は帰路を早歩きで進んでいく

そんな中、道の端にその人はいた


身体より大きな荷物を持ったお爺さん。息を切らしながら地面に座り込んでいる

道行く人は、誰かがどうにかしてくれるだろう。自分には関係ないというように、彼の姿を一瞥しては、何事もなかったかのように進んでいく

かつての俺ならば、同じように通り過ぎていただろう

けれど、今はその姿を爺ちゃんに重ねてしまって、そのお爺さんをどうしても放っておくことができなかった


「・・・大丈夫ですか?」

「え、あ・・・わしか?わしが見えるのか、君」

「見えるって、そりゃあ見えるでしょうに」


不思議なことを言うお爺さんだな・・・他の人に無視されていたから自分を見えていないものと錯覚するなんて・・・と思いながら、彼と話を続ける


「大丈夫。少し休んでいただけだよ」

「息、かなり切らしていたので・・・飲み物買ってきましょうか?」

「お気遣いありがとう。じゃあ、水をお願いしても?」

「わかりました。少し待っていてください」


近くにあった自販機で、ご要望通り水を買って戻る

飲みやすいようにキャップを開けて、ペットボトルを彼に手渡した


「どうぞ」

「ありがとう。いただきます」


お爺さんはそれをゆっくり飲んだ後、一息つく

その様子で、彼が大丈夫だと思ったのだが・・・なんにせよこの荷物。一人で抱えてどこに行くつもりだったのだろうか


「あの、良ければ目的の場所まで荷物運びましょうか?」

「いやいや。すぐそこだし大丈夫だよ。色々ありがとうね、君。そう言えば、名前は?」

「巽夏彦といいます」

「そうか、巽君。うん、私は浦野。今度、ちゃんとしたお礼をしに来るよ」

「そこまでの事・・・」

「いやいや、気にせんでくれ。それじゃあ、巽君。またいつか、ちゃんとお礼をしに来るよ」


お爺さんは体力が戻ったのか、再び身体ほどのある荷物を抱える

そして俺に頭を下げながら、彼は道行く人の中に溶け込んでしまった


「・・・なんだったんだろうか」


ふと、見あげた先には街中のデジタル時計

時刻は四時半。りんどうが待っている


「・・・早く帰らないと」


俺は、目的を思い出し、再び自宅への帰路を急いだ


・・・・・


「あ、ウーラノス。やっと見つけた!何してたの?」


黒髪の女性はお爺さんの元に駆け寄って、彼に向かって少しだけ怒っていた

場所は公園のど真ん中。その組み合わせに、呼び方に疑問を抱くものはいない

なんせ二人は見えていないからだ


「おお、アマテラス。久しいのぉ。その姿では、日向と呼んだ方がいいのか?」

「いいわよ別に。それより、なんで日本にいるのよ。ギリシャでデウスが泣いてるらしいわよ。早く戻ってあげなさいな」

「少し観光をな・・・それにあいつも若造じゃあるまいし、一人でどうにかできるだろう?クロノスとわしはそれを見込んであいつに最高神の立場を与えたというのに・・・」


お爺さんもとい・・・ウーラノスは祖国に残してきた泣き虫の少年の事を思い出す

それはどうやら目の前にいる日向も同じだったようだ

それよりも、ウーラノスの興味は別のところにあった

神々の危機よりも、一人の神語りの方に


「そういえばの、日向。お前のお気に入りの・・・そう、あの神語りの少年に会ってきたよ」

「夏彦ちゃんと?」

「ああ。ほら、これを運んでいる時に休憩してたら声をかけられてな。水貰っちゃった」

「・・・私でも貰ったことないのに」

「そりゃあ、お前が会っていた時は子供だったからだろう。彼は立派な大人になっていた。記憶の一部に蓋をしているみたいだが・・・問題はないだろう。神語り以外は普通の男だよ」

「そう。それなら安心した・・・蓋は少し引っかかるけどね」

「わしの姿をはっきり捉える神語りは今までいたことないからなあ・・・彼、さぞ苦労したのではないか?」


日向はそれに無言で頷く

その通り、彼の力は強すぎた

見えないものがはっきり見えるその力は、他者から疎まれていた

それは、彼の両親も例外ではない


「今更だと思うが・・・今度、神語りの力を抑える結晶を作るから持って行ってやってくれ」

「わかったわ。ありがとう、ウーラノス」

「いいんだよ。わしも、あの子の事が気に入ったからなあ」


一応、見えていた。あの時は、自分の姿を全員に見えるほどの力を出していたから

それでも、通り過ぎる人々を見る中、彼だけは手を差し伸べてくれた

今の時代、それができる人はなかなかいない


「・・・渡さないわよ」

「構わんよ。紹介はするけどなあ。日本に、いい神語りがいると広めることは許してくれてもいいだろう?」

「まあ、それならいいかな。私の大好きな子を知ってもらえるのは、嬉しいことだから」


神々は宙に浮く

そして、少し駆け足気味で帰りを待つ人がいてくれる家へと戻ろうとする「かつての少年」と、今しがた自身を助けてくれた「優しい男」を見守りながら、彼らも天へ戻っていった


・・・・・


「ただいま、りんどう」

「お帰りなさい、夏彦さん。どうしたんですか、息を切らして・・・」

「少し急いで帰ってきた。出かける準備はできている?」

「できていますが、今、お茶を淹れてきますね。少し休んだ方がいいですよ」

「・・・今度は俺が、か」

「?」


今度は俺が、りんどうにお茶を貰う番らしい

先程の出来事とデジャブを感じて、少しだけ笑いそうになる

玄関先に座り込んで、一息つく

着替えていってもいいが、面倒くさいしこのままでもいいかもしれない


「しかし、まあ・・・初めてだな」

「はじめて、とは?はい、お茶です」

「ありがとう」


コップに淹れてもらった緑茶を飲み、空になったそれを両手で持って、りんどうの疑問に答える


「「ただいま」を言ったら、誰かから「おかえり」を貰える生活?」

「なんですか、それ。じゃあ「行ってきます」を言ったら、「いってらっしゃい」が帰ってくる生活も初めてですか?」

「そうだね。初めてばかりだ」

「そうですか。それはいいことですね。コップ、置いてきます。夏彦さんはお出かけの準備を・・・」

「じゃあ、お願いしてもいい?」


彼女にコップを預けると、洗い場にそれを素早く置いてきた彼女は再び玄関に戻ってきてくれた


「これで大丈夫です。戸締りも大丈夫です!」

「ありがとう。りん・・・どうさん?」


彼女は頭を俺の方へ向けて何かを求めるように、期待を込めて揺れていた


「ああ、そう言うことか」


俺は彼女の頭に手を伸ばし、頭を撫でる

すると、嬉しそうに顔があげられ弛んだ笑顔の彼女と目が合った


「ふへ・・・・」


なんだか気持ちよさそうにしているし、俺自身も彼女の頭のふわふわ具合を堪能してしまいそうになるが、時間が迫っている


「り、りんどう!」

「はい。夏彦さん」

「そろそろ、出かけようか」

「はい。わかりました・・・」

「不満気だね・・・」

「また、満足してませんので」


どうやら、このご褒美的な撫では、彼女が満足するまで続けないといけないらしい

頬を膨らませている彼女に掛ける言葉は一つだけ


「じゃあ、帰ってきてからね」

「・・・!はい!」


嬉しそうに笑う彼女と共に、俺は再び家を出る


「夏彦さん、夏彦さん」

「なに、りんどう」

「楽しみですね、お買い物!」

「ああ、そうだな」


さりげなく、彼女の手が俺と繋がれる

自分の手より一回り小さい彼女の手を握り、彼女と共に町へ繰り出した


・・・・・


街中。最初の目的地へと辿りつくと、隣のりんどうはなぜここにと考えているようで俺の手を小さく引っ張りながらここに来た理由を問う


「夏彦さん、夏彦さん」

「どうしたの、りんどう」

「ここは、夏彦さんが腕につけている「それ」が売っているお店ですよね」


りんどうは俺の腕についている通信端末を指差しながらそう告げる

最初は、俺が身に着けているこの通信端末を買いに行くことにしよう


・・・A―LIFEというのだが、なんというか説明が面倒くさい

身に着ける携帯電話とか、パソコンだとか思ってくれればわかりやすいだろう


「うん。今日みたいなことがあったら、すぐに連絡をとれるようにしたいなって思って。うちには固定電話ないから」

「固定?よくわかりませんが、連絡方法が確立されているのはいいことですよね」

「他にも帰りが遅くなるから、とか。すぐに分かった方がいいだろう?」

「それはそうですが・・・」

「一応、一緒に暮らしているわけだから、いつでも連絡が付くようにしたいんだ。ダメかな?」

「夏彦さんがそう仰られるのなら・・・」

「決まりだね。じゃあ、行こうか」


店に入り、彼女に通信端末を買い与える

少し契約に手間取った部分があるが・・・


「お嬢様は――――――」

「むう、私、二十三歳です。身分証出してもいいですよ!」

「し、失礼しました!」


りんどうは年齢の概念がないらしいが、どこから二十三の数字が出てきたのだろう

いや、そもそも身分証はどこから出てくるんだ?

いつか、ボロが出なければいいのだが・・・なんか不安だ

それと、もう一つ

契約も、口座も俺の物と結び付ければいいが・・・


り、りんどうって・・・どう書くのだろうか

記憶を必死に思い返す

そして、俺はその記憶に辿り着いた


『夏彦―。りんどうの花はね、竜の胆って書いて竜胆なんだよ。鈴に堂じゃないからね・・・しっかり覚えようね』


はっ!これ、一馬先輩が教えてくれたところだ!

竜の、胆・・・で、りんどう!これだ!

それに苗字、苗字は・・・・・怪しまれないように俺の苗字でいいのか

他に、苗字があるのなら別だが、とりあえずここは、巽竜胆でいこう・・・


色々と不安要素バリバリの中、りんどうは無事に通信端末を手に入れる

端末カラーは好きに選べたのだが、どうやら彼女は落ち着いた黄色が好きなようで、俺の髪の色とよく似た色を選択していた


「そういえば夏彦さんの髪は、綺麗な稲穂色ですよね」


稲穂色とはどんな色なのだろうか・・・山吹色とか、黄金色と言われたことはあるが・・・想像がつかない。同系統の色でいいのだろうか


「そう、だろうか?」


しかし、いくら綺麗と言われようとも俺はこの地毛が嫌いだった

この外見は両親の特徴を全く引き継いでいないのだ

母親との血縁関係はあったかもしれないが、父親との血縁関係は間違いなく、ない

この髪と、目・・・変なものが見える目でもあるが、それ以上に、藍色の瞳は絶対に異国の血が入っている

それさえなければ・・・嘘でも親子を続けられたのだろうか


「夏彦さんは、その色が嫌いですか・・・・?」


信じられないものを見るように、りんどうはそう問う

もしかしたら、彼女の知り合いに俺と似た容姿で、受け入れている人がいるのかもしれない

その人は環境が良かったのだろう。だから受け入れられていた

けれど、俺は・・・


「まあ、色々あったからね。好きか嫌いかと聞かれたら、嫌いだよ。髪の色も、目の色も」

「・・・私は、好きですよ。夏彦さんの、その綺麗な髪も、海のような、その目も。それが映す世界も。貴方が嫌っていようとも」

「・・・りんどう、君は」


一つだけ、奇妙な発言があったのを、俺は放っておかなかった

彼女は知っているのか。俺が、変なものを見えることを・・・

神様だけではなく、他のものも、見えることを知っているのだろうか


「さあ、夏彦さん。次は箒です!早く見に行きましょう?日が、暮れちゃいますから」

「あ、ああ・・・そうだな」


はぐらかされた気がするが、なんだかそれに安堵さえ覚えてしまった

深く聞かれなかったこと、バレているかバレていないのか曖昧な部分に身を委ね、俺たちは次の買い物へ向かっていった


・・・・・


すべての買い物を終えて家に帰る

両手いっぱいの買い物袋の中には、彼女の作る料理に必要な材料が

そして満足そうに室内用の箒を抱えるりんどうは、俺の方を見て、にっこりと笑った


「今日はありがとうございます、夏彦さん。買っていただいたもの、大事にしますね」

「ああ。よろしく頼むよ。りんどう」

「はい!」


初めての買い物は、何事もなく終わった・・・わけではない

けれど、これでひと段落だ

スーパーで離れて、探し回ったり・・・

箒にこだわりがあるりんどうのお眼鏡にかなう箒を探すために色々な店に行ったりと大変だったが、誰かと一緒の買い物はそれこそ久しぶりで、楽しかった

しかし、まだ彼女のお目当ての品は、まだ揃っていない

今度は大きな町へ行って探しに行った方がいいだろう。だから・・・


「また」

「はい?」

「また、行こう。今度は少し遠出して、大きなお店も見てみよう」

「・・・!はい!」

「また」と、次の約束をしながら俺たちは買ってきた荷物の整理を行っていった


その日も穏やかに、終わっていく

彼女と過ごす日々は、最初はどうなるかと思っていたが・・・上手くやっていけそうな気がした

初めてばかりのことも、二人なら・・・どうにかなるし、それに楽しめる


「夏彦さん?」

「いいや、何でもない。ほら、早く荷物を整理し終えよう。深夜になってしまう」

「そうですね。じゃあ、頑張りましょう!」


明日はどうなるだろうか、明日もこんな風に楽しい日々を過ごせるのだろうか

そう思うと、なんだか心が温かくなる

未知なる心情に、不思議な感覚を抱きながら・・・その日も、ゆっくりと幕を閉じた

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