表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

8話.どんなに偉くなっても逆らってはいけない人が必ず一人はいる

ーグリフィン王国ー



建国して1500年と歴史の古い国だ。初代国王は〈レン・グリフィン・フォスター〉で“神子”であった。


その初代国王が国を造りそして神子の力で人々の暮らしを豊かにしていった。その評判を聞きこの国で暮らす人も増えますます国は大きくなっていった。


このグリフィン王国は神子の助力のお陰か他では類を見ないほど栄えていた。


宮殿はルネサンス様式で建築されている。広大な土地に見合う大きさの宮殿は誰が見ても素晴らしい造りであった。


その中で特徴的なのがドーム型の半球形の屋根をしているクーポラ。


一番大きく立派な宮殿が正門の正面に見える宮殿で主に王や役職に就いている貴族達が政治や行政を行う場である。他にも騎士が訓練する場所や、魔術研究所と色々な施設がある。


他にも王が住む王宮に、正妃や側妃が住む後宮、王の子供達が住む離宮と数多くの宮殿があるがそのどれもが立派だ。


宮殿はドーム型の屋根(クーポラ)がそれぞれ違う色をしていて分かりやすい造りとなっていた。


今の国王はオリヴァー・グリフィン・フォスターだ。

代々この国の王は初代国王の〈漆黒の髪〉を受け継いでいる者だけ。オリヴァー自身も漆黒の髪をしていた。


そして不思議な事に王族に漆黒の髪を持つ子が生まれるとその後何人子供が生まれようが漆黒の髪を持つ子は生まれてこない。歴史的に見ても王には漆黒の髪を持つ子が一人だけしか生まれないのだ。

他国では骨肉の争いになり時に国を傾ける勢いで内乱になる王位継承争いが今まで一度も起きたことがなかった。


そんな国の国王をしてるオリヴァーは今、何故だかグラース聖教会の礼拝堂で膝をつき目を閉じていた。


……その理由(わけ)は昨日にあった。




◇◇◇◇



オリヴァーside。


オリヴァーはその日王宮の私室で目が覚めた。昨日は後宮へ渡る事なくその分の時間を睡眠時間にあてたお陰で疲れが取れスッキリとした目覚めであった。


今日は仕事が(はかど)りそうだと考えながら少し残る眠気を払う為にシャワーを浴びる。季節は冬で外は寒いがオリヴァーが住む王宮は関係ない。寒くないよう魔道具で床や空気が暖められ薄着でも問題ない気温に調節されていた。


オリヴァーはシャワーが終わると入ってきた使用人に身なりを整えられながら今日の予定を従者に確認する。その後朝食をとり仕事のために執務室に向かう。


執務室に着くとすでに出勤していた王専属の執務補佐官達から挨拶を受ける。その声に応じながら仕事を始めようと机に向かい椅子に腰掛けた時、執務室内にノックが響いた。


許可を出すと一人の従僕が入室してきた。その手には手紙が握られている。


「国王陛下お早う御座います。早くに大変申し訳ないのですが急ぎ伝えたい事があると教会から手紙を預かっております。返事はすぐに欲しいとの事で別室で教会の使いの者が待っておられます」


「教会から手紙だと?」


手紙を従者が預り先に中身を確認する。


「陛下どうぞご覧下さい」


確認し問題ないとされた手紙がオリヴァーの手に渡る。


それは謁見申し込みの手紙であった。しかも至急会って伝えたいことがあると書かれている。普段の大司教ならこちらの予定も伺わずこんな手紙は出さない。余程緊急の用事があるようだ。


謁見許可の返事を書き従者に渡すと受け取った従僕が教会の者に急ぎ渡しに行った。


「しかし一体どんな用事なんだ?あの大司教が慌ててこんな手紙を出す位だ余程のことだろう」


「そうで御座いますね。それよりも陛下、謁見の予定が入られましたしこの後のスケジュールを変更しなくてはなりませんよ?」


「あー……確かにそうだな。急ぎ調整し周りの者に伝えておいてくれ」


「畏まりました」


従者は周りに控えていた自分の部下達に王の政務補佐官達へスケジュール変更を伝えるよう頼み他の使用人達には謁見の準備をするよう指示を出す。


慌ただしく動く従者達を尻目(しりめ)に仕事をしながらオリヴァーはこの後の事を考える。


(しかし本当に緊急な用事とは一体何だ?厄介事じゃないだろうな?頼むから俺の手に負える範囲であってくれ……)



◇◇◇◇




謁見の為に用意された応接室には国王オリヴァー、そしてオリヴァーの従者と護衛の騎士達、大司教トマス、トマスの補佐神官が揃っていた。



「それで重要な話とは?」


「はい。話の前にまずはこの度急な申し出にも関わらず早急に対応して下さり誠に有難うございます」


「普段の貴方らしくない手紙だったので。余程の事態なのだろう?」


「はいその通りです。あまり陛下のお時間をいただく訳にはいきませんので手短にお伝え致します」

「気を使わせてすまない」


明日(あす)の朝、神が降臨なさいますので教会に来ていただきたいのです」



______あまりに手短すぎた。



「は?」


トマスの予想外すぎる言葉に室内にいたオリヴァーを含む関係者全員の顔に驚愕の色が見えた。


「明日の朝、神が降臨なさいますので教会に来ていただきたいのです」


______何故同じ事を2回言う?


「い、いや聞こえてなかった訳ではない」


「そうですか。ではそう言う事ですので明日宜しくお願い致しますね」


これで話は終わったとばかりに会話を終了させにかかるがそんな説明でオリヴァーが納得するはずがなかった。


______むしろこんな説明で納得するやつを見てみたい。


「いやどういう事だ!ちゃんと一から説明をしてくれ!」


予想だにしてなかったトマスの要件はオリヴァーを見たこともないくらい混乱させた。


奇しくも(エルピス)と同じ事をしてるとトマスは気付かないまま話を続ける。何故ならトマスも未だに混乱しているからだ。


______一応トマスの名誉のために言っておくが普段は人一倍気遣いができる男なのだ。


「申し訳ありません。早くお伝えしなければと気が焦ってしまいました……」


「……頼むから詳しく説明してくれ」



そうオリヴァーに言われたトマスは今朝の出来事を事細かく話す。そしてトマスが話をし終わると応接室は沈黙に包まれていた。


「___という事がありましたので明日必ず教会にいらしてください」


「……」


「聞きたいことはありませんか?」


______いや、オリヴァーか聞きたいことだらけだと思う。


タチの悪いジョークではないのかとオリヴァーは思った。しかしトマスは真面目な男だ、冗談をわざわざ言う為にこんな手の込んだ事はしないかと考え直しとりあえず気になった事を聞くために口を開く。


「……色々聞きたいことはある。気を悪くしてしまったら申し訳ないのだが……」


「遠慮なさらず聞いてくださって構いません」


「……その神託スキルとはなんだ?もちろん知識としてなら知っているんだが我々には一切馴染みがない。疑っているわけではなく、ただ知りたいだけなんだ。よければ詳しく教えてはくれないだろうか?」


「ええ、大丈夫ですよ。教会関係者以外は馴染みのないスキルですからね。説明しても宜しいでしょうか?」


「こちらから言い出した事だ。宜しく頼む」


「神託スキルとは神の声を聴くことができるスキルです。ここまでは大丈夫でしょうか?」


「ああ」


トマスは神託について詳しく語りだす。


神は人に伝えたい事、して欲しい事がある時に神託を下ろすのだ。しかし神の声は誰にでも聴こえるわけではなく、スキルを持つ者だけが聴くことができる。


声を聴き神の代わりにその言葉(神託)を他の人々に伝える謂わば、メッセンジャーの役割を持つ者がトマスの様なスキル持ちである。


神託の種類は主に2つで、災害や危機が迫っている時に下す〈予知〉そして神子が誕生する時に下す〈告知〉である。


神託を受けた者は直ちにこの内容を周囲の者達に告げなければならない。

この世界には今までの神託によって救われた人が沢山いる。


「そういった事により神託スキルとはこの世界にとても重要なスキルだと考えられているのです」


「……成る程な。その神託が下る頻度はどの位なんだ?」


「頻度は高くありません。そもそも神託自体とても稀なのです。私は今回の神託が3度目です。少なく思われるかもしれませんが他の者と比べるとかなり多い方です。生涯一度も神託が下ることがない者もいるくらいですから」


「そうなのか……。神託の内容は絶対に他の者には分からないのか?」


「はい神託スキルを持っている者しか分かりません」


オリヴァーはその言葉に引っかかりを覚えこの疑問をぶつけていいのか悩みながらも重々しく口を開く。


「あー……少し気になることがあるのだが……」


「大丈夫です、陛下が仰りたいことは分かりますよ」


「え?」


「誰も事実が分からない事をいいことに神託と偽る者がいないか気になってらっしゃるんですよね?」


「……」


「心配には及びませんよ。私達スキル持ちは神託について嘘を付くことができません(・・・・・)


「できない?嘘を付くことをしないのではなく?」


「はい。まずそもそも神の言葉を偽る事自体赦されない大罪です。しかし誠に遺憾ながら過去に聖職者でありながらもその大罪を犯した者がいました」


「……そいつはどうなったんだ?」


「神により天罰()が下りました」


____そう、エルピスはとても優しい神様なのだが神託(伝言)と神子に関してだけは非常に心が狭かった。多分散らかった部屋の床くらい狭い。


「は?」


「ですから偽りを述べた瞬間その者は死んだのですよ」


あまりの事にオリヴァーは言葉を失った。


「神託スキルを持っている者は偽りを述べれば天罰()が下ります。ですので神託について嘘を付く事は絶対に不可能なのです」


___命懸けのメッセンジャーだ。時限爆弾を一生背負ったまま生きていくなんて絶対嫌だ。レアスキルでも命の危機があるスキルなんて呪いと一緒だ。


「そ、そうなのか。教えてくれてありがとう……」


有難いとは絶対思ってないだろう。何なら知りたくなかったとさえ思ってるはずだ。これから神託スキルを持つ者に会った時どんな顔をすればいいか分からなくなる。これもまさに誰も幸せになれない真実(本当の話)だ。


「貴方に聞くことではないとは思うが……そのスキルは本当に大丈夫なのか?」


___本当にトマスに聞く事ではない。宗教と政治関連の話は繊細なのだ。そこら中に地雷が埋まっている。


しかしオリヴァーはその爆心地に果敢に突っ込んで行く人間であった。しかも周囲を巻き込み爆発させていく誘爆スタイルだ。


____オリヴァーほんと、そういうとこだぞ?さっき学んだばかりだろ。気になるからって何でもかんでも聞くな?いつか怪しい黒ずくめ男に毒薬飲まされないよう気を付けろ。


「当たり前です。神が天罰を下すのは大罪人だけです。偽る者が悪なのです。罰が下るのは当然の事です。神はそういった者(大罪人)以外にはとても慈悲深いのです。そもそも神託とはこの世界で生きる私達の為にして下さっているのです。神託がなければこれまで多くの命が失われる場面が多々あったことでしょう。神の言葉を聴けるスキルを与えて頂けた私は幸福者(しあわせもの)なのです。ですので陛下にはもっと神の素晴らしさを知って頂きたいです。」


___ほら言っただろ?トマスは常識人だが聖職者(神様大好き)だぞ。信仰心は人一倍凄いんだぞ?



その怒涛の勢いにオリヴァーは口を引きつらせながら無言で頷いておいた。


人には越えてはいけない境界線(ボーダーライン)があるのだ。だてに王様はしてない、そこら辺を察知するのは一応得意だ。


まあ、先程のように好奇心のまま聞いてしまい周りを凍りつかせることもよくあるのだがさすがのオリヴァーも人は選んで聞いている。突っ込んではいけない人には絶対聞かない。


トマスに関しては若干ライン(地雷)を踏んでしまった気がするが知りたいことだったので仕方がないと頭を切り替える。


「では明日の予定について聞いてもいいか?」


そしてオリヴァーは今のトマスの話をまるっと聞かなかった(なかった)事にした。トマスはその事に気付いてはいたが特に不快に思う事なく明日の予定を話し出す。


___何度も言うがトマスは神様(エルピス)が関わらなければ常識人なのだ。子は親に似るって言うでしょ?ほら、エルピスも神子が関わらなかったらただの慈悲深い神様だし。


「はい。明日は早朝4時に教会にいらしてください」


____ほらな?唯一が関わるとぶっ飛ぶところとかホントそっくり。だって今神様が関わってるせいでトマスがぶっ飛んでるでしょ?朝4時って。新聞配達の人かな?一応ねオリヴァーは王様なんだよ。


「4時!?何故そんなに早いんだ!」


「詳しい時間が分からないので仕方ありません。神は“朝降りる”と仰ったのです。もしかしたら5時かもしれませんし、6時かもしれません。でしたら早めに集合しておかなければ。神が降臨なさる時に誰もいないなんて赦されるでしょうか?そんな事あってはいけません」


___エルピスが深い理由もなく時間を告げなかった事で明日きっと無駄な時間を過ごすことになるだろうが決してトマスのせいではない。全ての元凶はアイツ(エルピス)だ。



「……分かった。明日4時にそちらに伺わせてもらう。それから私以外の者も行っていいんだよな?」


言いたい事は多々あったが全て呑み込み話を続ける。

きっと反論したところで却下されることが目にみえてる。


そもそもオリヴァーは神が降臨するなんて非現実な事は専門外なのだ。こういった事は本職の者(聖職者)に任せるに限る。


___この瞬間オリヴァーは数時間待たされる事が決定した。


「勿論、陛下以外にも来ていただいて結構です。しかし神は大人数になる事は望んでいません。大所帯で来るのはご遠慮下さい」


「何人だったらいいんだ?」


「できれば3人以内にして下さい」


「私以外は誰でもいいんだよな?」


「はい。陛下さえ居てくだされば問題ありません」


「分かった。神にお会いする時に必要な事や物はあるか?」


「特にありません。ですが決して失礼のないようお願い致します」


「相手は神だぞ?無礼な真似ができるものか」


「それでは大丈夫ですね」


「……最後に一つ聞きたいのだが、今回の(神託)について何か心当たりはないのか?」


「一切ありません。聖職者以外の者が降臨の場に立ち会うのは今回が初めての事なので……。嫌な想像をしたくはありませんがもしかしたらこの国に余程の危機が迫っているのかもしれません……」


「想像でもやめてくれ……」


「ご気分を害してしまい申し訳ありません」


「いや気にするな、私が聞いた事だ。そう言えば予知以外にもう1つあっただろ?」


「……神子様誕生の告知でしょうか?」


「そうだ!それじゃないのか!?」


___※大 正 解!!!!!


「そうだったら喜ばしい事ではありますが陛下を呼ばれる理由がありません。告知の神託に聖職者以外をお呼びした事は一度もありませんので。ですから今回の神託は告知ではないでしょう。」


___※不 正 解!!!!!


「……今考えても仕方ないか、明日になれば分かる事だしな。心の準備をしておくか。」


___いや、オリヴァー今正解してたよ!当たってたから!自分を信じて!必ずしも専門家(聖職者)が正しいわけじゃないからね!?


「はい。では明日は宜しくお願い致します」

「こちらこそ迷惑をかけるかもしれないが宜しく頼む」


___気付け。今現在迷惑をかけられているのはお前(オリヴァー)だ。


挨拶をしトマス達は応接室から出ていった。

オリヴァーは完全に客人の姿が見えなくなった瞬間座っていた椅子の上で格好を崩し深く息を吐いた。


「まさかこんな要件だったとは……」


暫く呆然としていたが残された時間は少ない。明日の為に予定を調整しなければいけないし、共に連れていく者も選ばなくてはならない。


今日も謁見の為に午前中の予定をずらしたんだ。明日の予定もずれるとなると執務が滞ってしまう。ああ、考えることがありすぎる、と痛む頭を押さえながらも仕事の為に執務室に向かう。


執務室に着いたオリヴァーは机の上に溜まった書類を処理しながら従者に話しかける。


「明日一緒に連れてく奴の一人はロバートでいいよな?」


「お言葉ですが陛下、ウィルソン宰相は今日から休暇に入られています」


「ああ……、そうだった。あいつの奥方がもうすぐ出産するんだったな」


「はい。それに陛下を合わせて3人しか許されてないのです。どうか身の安全の為護衛の者をお連れください」


「そうだな……。では明日連れてく護衛を選んでおけ。それからお前は連れていくからな。早起きしろよ?」


「勿論承知しております。私は何があっても陛下のお側を離れることはありません」


オリヴァーは従者の言葉に満足気に頷きそして明日の事に頭を悩ませるのであった。

誤字・脱字があった場合は報告して下さると嬉しいです!

またも建築様式についての説明がありますが、めっちゃ簡潔に書いています。

ルネサンス建築様式が詳しく知りたい方は是非ネット等で調べてみてください。

今回の宮殿イメージはイタリアにあるサンタ・マリア・デル・フィ◯ーレ大聖堂です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ