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巨大な鶏の足が生えた山小屋が絶妙なバランスで片足立ち。
浮いた足で掴んだ眠男をそっと、地面に下す。
因みに、バケツには妖精中学3年2組と書いてある。
ピタリとバケツはジジイの顔の位置で止まった。
中からけたたましい音が鳴る。
ガチャリとジジイが受話器をとった。
黒電話である。
ネットでしか見たことがない代物である。
ラスボスがスイートゴーレムを呼び寄せる。
「お坊ちゃまに、ご挨拶がしたいそうです」
甘いにおいを振りまきながらゴーレムが小さな黒電話を摘まんで持ってきた。
「も、もしもし、お電話かわりました。鎧森 勇里です」
『働かへんで』
黒電話から聞こえたのは、関西弁ロリボイスである。
「ちょっと?! ダーリン?! ヤーガちゃんじゃない?! ヤーガちゃんよ!!」
「誰だよ? それ?!」
「ま、まさか! あの伝説の妖精であるか!」
絡まった黒髪と格闘している鋼鉄人形の胸からIDが声を弾ませる。
伝説の妖精?
『絶対働かへんでエエ云う条件で、ウチは月光のパートナーになったんや! 絶対に働かへんのやああああああ!!!』
「知るか!! 初対面で後ろ向きなこと言ってんじゃねぇ!」
「おい! ジジィ! ロリ妖精騙して監禁か?! このクサレロリコン!!」
「おぼっちゃま、それは言いがかりというもの。我が天秤の妖精『ババ・ヤーガ』とはこういう妖精なのでございます」
「そうよダーリン! ヤーガちゃんは、妖精小学、妖精中学、妖精高校、全てを引きこもりながら皆勤賞をもらった伝説のヒッキー妖精!!」
『引きこもっとるんやない! 自宅を警備しとるんや! 嘗めた口叩くといてまうぞ!』
「やかましい! 引きこもり! 皆勤賞って、お前家ごと通学してたのかよ?!」
『通学だけやないわい! 日課のジョギングかって家ごとや!』
思いっきり黒電話を電話線ごと引っ張る。
上のほうで、ゴンって音がした。
「ねぇねぇダーリン! このロリコン爺の5大魔法って悪意あると水瓶は思うの!!」
「確かにな! 最後の影に潜んでいたのは『ピーピング・トム』と言う下級悪魔じゃ! 覗きと痴漢の悪魔じゃぞ!」
頭上のウサギとロリ鎧も参戦してくる。
「不潔なの!」
「なるほど、スイート・ゴーレムでお菓子を作り、ユニコーンとパペット・マスターで幼女の注意をひいて、スリープの呪文で眠らせた後にピーピーング・トムで悪戯をするので御座いますね? さっさと吊れ! このヘンタイ老害」
「ロリコンなの! 気持ち悪いの!!」
「流石に、長髪の剣の教皇御座います! 高尚なご趣味をお持ちかと思っておりましたが、よもやペデロフィリアとは! 本気で死ねばいいのに!」
いいからお前ら二人はさっさと絡みついた黒髪から逃げろ。
「どういうことじゃ! ゲッコウ教皇殿! ロリコンな上にモウンオールにこのような仕打ち! 唯で済むとは努々思うではないぞ!!」
人差し指を軽く回して。
オレの左手がリズムを刻む。
「さんはい! ローリコン! ローリコン!」
「「「ローリコン! ローリコン!」」」
シュプレヒコールである。
「ち、違いますな!」
おぉ、流石の摂津 月光も女子に一方的になじられるのはダメージが入るか?
このまま、精神攻撃で追い詰めるのもありだな。
「お菓子を配り、人形劇で楽しませ、眠りについたままユニコーンでお家まで送るので御座います。もちろん、帰り道の安全はピーピーングトムで完全監視。ジジィは!!」
「紳士という名のヘンタイであり続けたい」
両手を広げ、天を仰ぎみるロリコン。
くっそ! コイツのメンタルが女子の罵倒ぐらいで傷つくわけがなかった。
「順番なんかどーどもいいわ!! 紳士だろうがヘンタイだろうがどうでもいいわ!」
「ねぇねぇダーリン! 怖いんですけど! このおジィちゃんきっと本物だと水瓶は思うの!!」
ロリも、ウサギも、縦ロールもドン引きしている。
「確かに転生してから3年程は人形劇の一座として放浪しておりました。もちろん、幼女の木戸銭は無料で御座います」
オレは何故ロリコンを師匠と呼んでいたのだろうか?
「ある日、星の天蓋に抱かれ眠りについた時、天啓に撃たれたので御座います」
「あれ? ワシ世界征服出来るんじゃね?」
「うっるせぇよ! 思い付きで魔王になってんじゃねぇよ!!!」
「おい! 引き籠り妖精!」
蹴る。
ニワトリの足を全力で蹴る。
『な、なにすんねん! このボケが!! やんのか? やんのか?!』
ゲシ! ゲシ!
「うるせぇ!! あと一歩の所で邪魔しやがって! なんだよ、引き籠りのクセに皆勤賞って?! コレか? この家から一歩も出ずに通学してやがったのか?!」
ゲシ! ゲシ!
「ヒッキーのクセに修学旅行とか音楽祭とか出てやがったのか?! 悔しいわ!! オレの青春返せよ!」
ゲシ! ゲシ!
「連休や夏休みに友達とカラオケとか行ってたんやろ?! オレなんかな、休みの日は鍛錬か戦場やったんや! オドレに解るかあ?! GWが終わる度に生きててよかったと胸を撫で下ろす青春がああああああああああ!!!」
「ダ、ダーリン。私情がダダ洩れよ! 血の涙がでてるわよ!! ゴーレムと一角獣が狼狽えてるわよ! 可哀そうだからやめてあげて!!」
そして全力のローキック!
倒れた。
終に、ババ・ヤーガが倒れた。
「「「?!!!」」」
驚嘆と驚愕。パペット達でさえだ。
この巨体を蹴り倒す人間?
人間離れしてないか?
「その通りでございます。お坊ちゃま」
ババ・ヤーガーが生み出した土煙の中からジジイが声をかけてきた。
チッ!
怪我一つなしかよ。
のそりと立ち上がるババ・ヤーガを背後に大剣を肩に担ぐ偉丈夫の老兵。
腹立たしいが絵になっている。
「お坊ちゃまのチート能力ならば、ババヤーガを素手で倒すことも可能でございましょうな。実に厄介な能力ですな」
クソ鎧め。
べらべらオレの事を全部喋りやがったな。
「何を言ってるのかしら? ダーリンはチート・オブ・チーター! グリッジの帝王と呼ばれる男なのよ!」
誉めてねぇ、それ全く誉めてない。
『完全にただの卑怯モンやんけ! ズルやんけ!』
ババ・ヤーガが、屋根の四方に備え付けてある拡声器でツッコんできた。
「ズルじゃないわよ! 水瓶の主なのよ? 転生特典だって気前がいいのよ! 全スキル開放! 全魔法開放! ついでにレベル最高! 『やれやれ』とか言いながらハーレムの美少女に囲まれてゆるい日常系ラブコメファンタジー! 目指してるのはそんな感じよ!」
目指していたのかよ。
初めて知ったわ。
「相対的ってことかよ」
「早引けなの!!」
「それは早退でございます。頭の弱いアルメリィリィ様」
「因みに爺のチート能力は『経験値獲得率 20倍』それでも、上限は見えませぬ」
嘗めてた。
この世界を、嘗め切っていた。
剣と魔法の世界。
レベルが存在し、スキルが存在する。
フォークロアと神話の世界を数値化することによって、汎用性を与えた世界。
数値化されているのだから、英雄にだって魔王にだって神にだってなれるはずだ。
レベル100にさえなれば、誰でもいっぱしになれる。
結局は単純化モデル。
「どうしたのよ? ダーリン? 顔色悪いわよ?」
「作戦ターーーイム!!!」




