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1人目 マイカ・タチバナ Ⅱ


転生した直後とそれから



 マイカが次に目を覚ますと、城と思わしき部屋に立っていた。


 身体はミノタウロス族の女性へと生まれ変わり、服も自分が指定した可愛らしくも大人な印象の物を着ていた。


「私、本当に生まれ変わったんだ……」


 感想を漏らしていると、


「よく来たな、転生者よ」


 低く、重い声が聞こえた。一瞬ビクッと震えつつも声がした方に体ごと向けた。


 そこにいたのは、スラーパァが説明してくれた『魔王』だった。実際に見ると想像以上に巨大な体をしていて、威圧感がある。立派で巨大な椅子に座り、こちらを見ていた。


 マイカは生唾を飲み込み、口を開いた。


「こ、この度こちらに転生したマイカと申します!! その、よろしくお願いします!!」


 緊張しながら頭を深く下げて挨拶した。


「話は聞いている。向こう半年は能力の把握、育成に専念できるよう住居や訓練場の手配はしてある。好きに使うといい」


 マイカから見て表情が分かりにくいが、色々と準備をしていてくれた。


「ありがとうございます!」


「よい。我の民になったのだから不自由無い生活を送る手助けをするのは当然だ。だが、怠惰を起こし我の手助けを無下にする様な事があれば……」


 どこか威圧的なオーラが漏れる。


「そ、そんな事は絶対にしません! キリキリ働かせていただきます!」


 背中をしっかりと伸ばし、ハッキリと答えた。


「程々で構わん。決められた時間の中でしっかりと働けばそれでいい。仕事のし過ぎで死ぬなど我が許さぬ」


「(魔王様だけどそこら辺もしっかりしてるんだ)」


 心の中で偏見を持ちつつ感心していた。


 魔王は指をパチンと鳴らした。鳴ったのと同時に扉が開き、数名の侍女達が入って来る。


「転生者を案内せよ。くれぐれも失礼な真似はするな」


「「「「畏まりました。魔王様」」」」


 マイカは侍女に囲まれながら謁見の間から退室を促された。その途中で振り返り、魔王の方を見る。


「あの! 突然の転生失礼しました! ご迷惑にならないようひっそり頑張ります!」


 真っ直ぐな瞳で魔王に言った。魔王はそれを聞いて少しだけ微笑んだ。


「……お主の未来に栄光があらんことを」


 励ましの言葉を貰い、マイカの表情が明るくなった。


「はい!!」


 元気よく返事をし、謁見の間を後にした。



 ・・・・・



 それから数週間。



 マイカは名前を『マイカ・ティーチ・フラウ』に変え、ミノタウロス族のパティシエとなるため勉強に勤しんでいた。


 住居は魔都の居住区に一軒家を貸してもらった。


 種族によって味覚が違ったり同じ素材でも毒になるため、そういった点で差異の無いホープ大陸でお店を開く予定だ。経営、調理の勉強以外にも、どんなケーキが好まれ、どんなデザインが好印象になるのか、資料を集めて日々新しい発見の連続を楽しんでいる。


 一通り勉強を終え、一旦伸びをする。


「うーん……、疲れた……」


 窓を見ると、綺麗な海が見える。


 鳥が鳴き、たまに子供の元気な声が聞こえて来る。窓の間から入って来る暖かい優しい風は潮の香りと木々の落ち着く匂いを運んで来る。前の世界では得られなかった平穏な時間だ。


「(こんなに満たされた時間を過ごすの、いつ以来だろう……)」


 毎日セクハラやパワハラでストレスばかりの環境で仕事をし、疲れて帰って寝るだけの生活。その上あんな死に方をして自分の人生は何だったのだろうと本気で後悔した。


 けど、この世界でやりたいことに挑戦できている。それがどれだけ幸せなのか、今噛みしめている。


「(快適な時に加えて、このミノタウロス族の身体。今まで胸無しとか女性らしくないとか散々言われて悩んでたけど、そんな苦悩から解放されて最高の気分!!)」


 ミノタウロス族としては一般的な体型だが、彼女からしてみれば今まで無かった物がちゃんとあるのだからこれ以上に無い喜びを感じているのだ。


 鏡の前に立ってポージングをして自分のスタイルを確認する。


「(スラーパァ様と色々相談して一般的な女性ミノタウロス族の体型だけど、元人間からしてみれば持て余す位のダイナマイトボディなんだよね)」


 胸や尻を触って肉感も確認する。たまに蒸れて痒くなるので気にしているのだ。


 一通り確認し終えた後、時計を見て新しい試作品を作れる余裕があるか計算した。


「……まだ余裕あるし、作ってみようかな」


 腕まくりをし、エプロンを付けて台所に立つ。


「さあ、頑張るぞ!!」


 

 マイカはその後、ホープ大陸の一地方で大人気のケーキ屋さん『フラウのケーキ』でロングセラー商品を打ち出すのだが、それはまた別のお話。






お読みいただきありがとうございました。


次回は新しい転生者のお話です。

お楽しみに。


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