砕けた剣
侵略者との一戦での代償
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!???」
エエカトル、リングネル中央冒険者ギルドを通り越して山全体にヴァンダルの叫び声が響いた。
「そこまで衝撃を受けるものでもあるまい」
「あるわボケエエエエエエエ!!? 何してくれとんじゃああああああああ!!!!!」
場所はヴァンダルの鍛冶場。そこで対面していたのは椅子に座る魔王だった。巨人状態のままのヴァンダルとの間には砕けた剣があった。この間打ったばかりの『ヴィオラフラム』だ。この間の戦いのせいで木端微塵に砕けたのだ。
「全力で振って砕けたのならそちらの落ち度であろう。責められる筋合いは無い」
「正論ぶつけんじゃねえ!! 剣を折られるのは鍛冶師にとって子供殺されたみたいなもんだと前にも言ったろうが!!!!!」
10m以下サイズ用のスペースを何度も叩いてくる。その度に巨大な振動が発生する。
「落とし前付けろ馬鹿野郎!!!!!」
拳を振り上げ魔王目掛けて全力でパンチを打ち込んだ。
『拡散』
魔王は指一本、座ったままでヴァンダルのパンチを止めた。周囲に衝撃波の突風が吹き荒れバタバタと物が揺れるが、それ以上の被害は無かった。
「ヴァンダルよ。我はこの程度全く問題無いが、椅子が砕けてしまうぞ?」
「こんの、次元違いめ……!!」
「そこまで我と戦いたいなら体格を同じにしなくてはな」
魔王から魔力が溢れ出し、さっきの衝撃よりも凄まじい風が吹き荒れる。
「げ!? これは!!」
・・・・・
ギルドの外では冒険者達が迷宮へ挑む準備をしていた。
「今度5階層まで行こうぜ! 巨大魔獣に挑戦だ!」
「おいおい、最低でも50はあるぞあれ」
「大丈夫! なんたって俺はいずれ最強になる……」
直後、ギルドの裏から大爆発が起こった。
ギルドから冒険者やギルド職員が蜘蛛の子を散らすように飛び出してきた。
「何だ何だ?!!」
「あれを見ろ!!」
指を差した方を向くと、立ち込める煙からヴァンダルが後退する形で飛び出してきた。いや、殴り飛ばされた態勢で飛び出したのだ。
「あのギルドマスターが宙に浮かされた、のか……!?」
「それだけじゃない。よく見ろ」
煙からもう一つ、巨大な影が現れる。全長はヴァンダルと同じくらいの大きさだ。
山の様な黒い肉体、浮き出る真っ赤に燃えた血管、王冠の様な角、そして顔には目が八つあった。
「あれってまさか」
「前に一度だけ見た事がある。魔王様だ。あの状態は確か……」
・・・・・
「『モード:ヨトゥンヘイム』。これで体格は互角だ」
魔王は格闘技の構えを取り、起き上がるヴァンダルと対峙する。
「くっそお、そのモードになったら全裸になるからしないとか言ってませんでした?!」
「【装備変更】で下半身は隠した。何も問題は無い」
「手際のいいことで!!」
両者同時に踏み込み、取っ組み合いが始まった。力で押し合いどちらも一歩も引かない状況になる。それでも周囲に力の衝撃が拡散し、振動となって降り注ぐ。
冒険者達はその光景を異様な盛り上がりで見ていた。
「いけいけえええ!! そのまま押し倒せえ!!」
「おーい酒とツマミ持ってこい! こいつは見ものだあ!!」
「負けるなギルドマスター!」
「山が震えるとはこの事だ!! どっちもやっちまえええ!!!」
「ナイスバルク! ナイスバルク!!!」
こういう肉弾戦はどの世界でも盛り上がる物だ。
一方でヴァンダルは取っ組み合い突き放され、パンチを入れようとしてカウンターでチョップを入れられた。
「ふぐお!?」
倒れそうになるが、踏ん張って耐える。その隙を見て魔王は跳躍してドロップキックをかました。見事に胸に蹴りが入り、数歩ふらついて転倒した。転んだ衝撃で山がひび割れ、野生の動物達が逃げ出した。
「どうした? この程度か?」
「こんのくらい、どうって事無いですよ!!」
ヴァンダルは転んだ状態から両足蹴りを放つ。そのままいけば魔王の顎を貫いていたが、完全に見切られており最小限の動きで躱される。
魔王は飛んで来たヴァンダルの両足を勢いを殺さずに掴み、勢いを利用してヴァンダルを回し始めた。回転は徐々に速さを増していき、エエカトル全域に強風を巻き起こした。
冒険者が叫ぶ。
「あの技は!!」
「知っているのかベテラン!?」
「ヨトゥン族に伝わる伝説の奥義だ!! まさかこの目で見られるとは……!」
「技名があるのか?!」
「ああ、その名も……!!」
『ラグナロクヨトゥンスイング』!!!!!
魔王は威力最大になったタイミングでヴァンダルを投げ飛ばした。
「うおあああああああああああ!!!???」
ヴァンダルは絶叫しながら宙を舞い、雲を突き抜け3つ向こうの山脈へ激突した。ドッゴオン、と大質量の爆発が起きたかの様な爆音が鳴り響き、衝撃が後から届いた。
魔王はフン、と鼻息を鳴らし、冒険者達の方を向いて拳を天高く上げた。
冒険者達から歓喜の声が上がる。
「「「「「魔王様万歳! 魔王様万歳!!」」」」」
一斉に万歳を始め、街は大いに盛り上がった。
一方で、
「お前最強目指すんなら超えるべき壁があれだぞ?」
「……程々にします」
「それがいい」
現実の厳しさを知った者もいたのだった。
・・・・・
ヴァンダルが目を覚ますと、既に夕陽が赤く染まる頃だった。
「いけねえな……、久し振りにサボちまったぜ」
「気が付いたようだな」
ヴァンダルの隣に魔王がいた。いつもの5mサイズに戻っていた。
「魔王様……」
「落ち着いたようで何よりだ」
「いえ、こちらこそすいません。いきなり攻撃なんかして……」
流石のヴァンダルもやり過ぎたと反省していた。
「構わん。あれくらい受け入れられずして何が魔王か」
「その割には全力で来ましたね」
「あれでも対等な条件でぶつかったと思ったがな」
ヴァンダルは愛想笑いしてエエカトルの方を見る。ギルドには大きな穴が開いていた。
「工房は自分で直します。ヴィオラフラムも前より格段に強く改良してお渡しします」
「期待しているぞ」
互いの拳を突き出し、合わせた。
互いに笑い、沈む夕焼けに身を焦がすのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『復旧工事』になります。
お楽しみに。
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