魔王の娘・サクラ
最後の魔境、魔王の住まう都
1981年前 魔族領 ホープ大陸
「この辺りで不審な反応があったのは確かか?」
魔王は森の中を走りながら質問した。質問の相手は女コボルト族の十二魔将『結界公女』マーブルだ。
「はい、結界が異常反応を示したのは確かにこの辺りです。かなり大きな反応でしたのでサイズも大きいかと」
「もし魔獣であれば一大事だ。急ぐぞ」
「はい」
魔王とマーブルは更に加速して森の中を突き進む。
しばらく進むと、木々の隙間から淡い桃色の光が見えた。
「止まれマーブル」
魔王が制止し、ハンドサインで待機を命じる。マーブルは頷いてその場でしゃがみ、魔王の指示を待つ。魔王は単独で進み、光の発生源まで辿り着く。
「何だ、これは?」
そこにあったのは、大きな一本の木だった。
広く伸びた枝に淡い桃色の花を満開に咲かせ、風で落ちる花びらも美しかった。花一つ一つが小さく発光し集まって大きな光になっている。
魔王は木の麓まで近付き『解析眼』を使用する。
「…………魔力を持っているが、問題は無いか」
木の安全性を確認し、マーブルをハンドサインで呼ぶ。茂みから顔を出して傍まで近付いてきた。
「綺麗な花ですね」
マーブルは木を見上げて感想を漏らした。
「これが異常な反応を示した原因らしい。異世界から木だけが来るとは想像できまいよ」
木の周辺を探索していると幾つかの石が立てられていた。半分くらい地面に埋めている。
「何かの印、いや、まさか墓か?」
『死生眼』で石の下に尽きた命の反応が見えた。しかも全て生まれて間もない赤ん坊ばかりだ。
「趣味の悪い習慣だ」
悪態をついていると、木の太い根っこの間に一つだけ生きている反応が見えた。埋まっていないし息もしている。
「(生きている。ということは、転移者か)」
魔王は相手に悟られないように慎重に近付く。太い根っこの間まで近付き、ゆっくりと覗き込んだ。
「む?」
そこにいたのは白い布にくるまれた人族の赤ん坊だった。スヤスヤと眠りとても穏やかな表情をしている。
「今回の転移者は赤ん坊か」
「いかがいたしますか?」
「このままという訳にはいかぬ。ここから出してやろう」
魔王は慎重に根っこの間から赤ん坊を取り上げ、優しく抱きかかえる。
「魔王様、私が持ちましょうか?」
「我の顔を見れば泣くかもしれんからな、たの……」
言い切る前に赤ん坊が目を覚ました。小さくあくびをして、魔王の顔を見た。
魔王はつい動きを止めてしまった。今までこの8つの眼がある恐ろしい顔を見て泣かなかった赤ん坊はいなかった。また大声で泣かれると思い身構えて動きを止めてしまったのだ。
赤ん坊は魔王の顔をしばらく見る。
「…………?」
すぐに泣くと思っていたのに、いつまで経ってもそんな様子は無い。恐る恐る顔を見てみる。
「うー、うー」
赤ん坊は魔王の顔に手を伸ばした。魔王はそれに応えるように顔を更に近付けた。赤ん坊の手が魔王の頬に触れた。
「むう! きゃっきゃっ!」
魔王に触れた赤ん坊は無邪気な笑顔で喜び始めた。両手でペタペタと触り、その度に喜んでいる。
その様子を見ていたマーブルは目を丸くしていた。
「す、凄い赤子ですね。魔王様の顔をこんなに触って……」
魔王はそっと指を近付ける。赤ん坊は近付いてきた指を掴み、また嬉しそうに声を上げた。
「…………大した赤ん坊だ」
その時、布に文字が書いてあるのが見えた。異世界の言語の一つ『カタカナ』だ。
「サクラ、……そうか、サクラと言うのか」
魔王はサクラを小さく揺らしてあやした。そして、優しい表情で語りかけた。
「気に入った。サクラ、今日からお主は我が育てよう」
これが、魔王とサクラの出会いだった。
・・・・・・
現在
魔族領 魔都
魔王とサクラは映画を見た後一緒に買い物へ来ていた。
「見て下さいお父様。これも綺麗ですよ」
「ああ、鉱石に良い細工をしてあるな」
魔都の商業施設が集まったエリアは広大なショッピングモールとなっており、様々な種族が買い物を楽しんでいる。今魔王達がいるのはショッピングモールの雑貨エリアだ。
サクラは手に取ったイヤリングを耳に当てて見せた。
「どうです? 似合ってます?」
「ふむ、髪の桃色とイヤリングの青がいい感じで似合ってるぞ」
「ふふ、ありがとう」
サクラは微笑んで喜んだ。
魔王の娘・サクラ
桃色のショートヘア、赤色と青色が混ざったピンクの瞳、柔らかい白い肌、そして整った可憐で美しい顔立ちが印象的だ。170㎝の瘦せ型の身体に似合わない大きな胸はある意味特徴で、服越しでも分かる。
服装はフワフワとした濃密な綿毛を集めた様な中世貴族風のドレスを着ている。
七つの冠の一柱で、魔王の秘書を務めている。元は異世界から来た人族だったが、50歳の時に転生し魔族となった。
実力は申し分なく、独自の剣術『桜花剣舞』はあらゆる敵を切断する。
サクラは魔王と並んで歩き、ショッピングモールを散策していた。
「まさかサクラの望みが一緒に買い物に来たいとはな」
「いいではないですか、最近忙しくてまともに会話もできていなかったんですから」
秘書をしている時とはまるで別の者の様に楽しそうな表情をしている。
「まあ、これでサクラが満足するならいくらでも付き合おう」
「ありがとうございます。じゃあ……、あれを食べましょう!」
そう言って指を差した方向には、デザート屋さんの屋台があった。
「くれーぷ、か」
「結構有名なんですよ」
サクラに連れられクレープを買い、近くのベンチに座る。
「お父様、またチョコ味ですか?」
「好きだからな。そういうサクラもレッドベリー味ではないか」
「ふふ、そういえばそうでした」
魔王とサクラはクレープにかぶりつき美味しそうに食べる。
「んう、んう。おいひいですね」
「うむ、美味だ」
サクラは魔王の方を見ると、魔王の頬にクリームが付いているのを見つけた。
「お父様、頬にクリームが付いてますよ」
クリームを指で掬い取り、そのまま舐めた。
「ふふ、おいしい」
「……サクラもだぞ」
魔王も指でサクラの口元に付いているクリームを取り、そのまま舐めた。
「レッドベリーも悪くないな」
「もう! お父様ってば!」
恥ずかしそうに顔を赤くして魔王をペシペシ叩くのだった。
・・・・・・
買い物を終えた頃には、日は完全に落ちて空は真っ暗だった。
魔王達は魔王城へ戻り、居住区へ帰って来ていた。魔王とサクラの住まいは区内で分かれているが、そこまで離れていない。
「お父様、今日は楽しかったです。貴重な休日を過ごさせてくれてありがとうございました」
サクラは笑顔でお礼を言った。
「それでは、明日からまたお仕事ですので失礼します」
サクラが振り返って自分の住まいへ戻ろうとする。
「待て、サクラ」
魔王はサクラを呼び止めた。
「はい?」
魔王は指で頬をかきながらサクラをチラチラ見る。
「その、なんだ。……これから晩御飯を作るのだが、一緒に食べないか?」
照れくさそうにサクラを誘い、視線を逸らした。サクラは微笑んで、
「……はい! 是非!」
満面の笑顔で誘いを受けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回で『七つの冠』編、完結です!
お楽しみに。
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