大悪魔・アモン
第3の魔境、地の底の大地
ヘリドット大陸の地下には大きな領地が存在する。
そこは古代から存在する魔族達が先住している国でもあるが、地上の何十倍の重力、歪な魔素、不可思議な現象が多数発生する過酷な環境が支配している国でもある。故に弱肉強食、力こそが正義の実力至上主義が根付いている。
魔王がサキュバス族の街を造る際に環境改善した矢先に侵攻してきたが、逆に侵攻され実力で統治された。それが今から2599年前の話である。
それ以来地下の領地は『地底領』と命名された。
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地底領 首都 レヴォルゲトン
地面の岩盤で日が絶対に射さないこの領地の街はどこも魔造光で明るく照らされており、光の明暗を調節して一日の昼夜を再現している。以前は『吸光魔石』で明るくしていたが、効率が悪いため今の魔造光に取り替えられた。ここレヴォルゲトンは特に明るく、昼間の時間帯はどの街よりも光輝いている。
魔王とサクラはレヴォルゲトンの中枢『冥府議会殿』に来ていた。
中は妖怪族、悪魔族、堕天族、ガーゴイル族など議会で働いている者達が忙しく右往左往していた。その間を縫って受付へ進んでいく。
「大君主階級との面会予約をしている魔王だ。少し早いが繋げるか?」
受付嬢は一瞬目を丸くして驚いていた。
「しょ、少々お待ち下さい」
すぐに内線で連絡を取り、短いやり取りで完結した。
「お待たせしました。こちらのカードをあちらの転送機の扉にかざして下さい。扉が開き中に入り次第転送機が作動して大君主階級の皆様がお待ちしている大応接室に転送されます」
魔王は差し出されたカードを受け取る。
「説明感謝する。行くぞサクラ」
「はい魔王様」
魔王達は転送機へ向かい、そのまま転送された。それを見届けた受付嬢は緊張が一気に抜けて背もたれに寄り掛かった。
「あー、びっくりした……」
「ねー、魔王様が来るなんて」
隣にいた別の受付嬢が声を掛ける。
「何かあったのかしら?」
「さあ。お偉い様の事は私達下々には理解できないことよ」
「それもそうね」
「あのー、すいません」
談笑している最中に別の来客がやってきた。
「どうなされましたか?」
即座に仕事モードに切り替わり、適切な応対をするのだった。
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魔王とサクラは大応接室に到着していた。
かなり広い大部屋に何百席も用意されており、各所に気味の悪い装飾が多数設置されていた。応接室というより大広間と言った部屋だった。
室内には数名の魔族が既に待っていた。
「ようこそ魔神皇帝殿。どうぞこちらへ」
スーツ姿で顔に目、口、鼻、耳が何も無い妖怪族の男『ノーマン』が魔王達を上座に案内する。案内された場所に座り、その後から魔王の隣にサクラ、下座側に待機していた魔族達が魔王達とテーブルを挟んだ位置の席に着席する。
魔王の正面に座った魔族が口を開く。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。魔神皇帝」
「ここまでのメンバーを集めなくても良かったのだぞ? アモン」
大悪魔・アモン
顔に一切の毛は無く、眉毛も睫毛も無い。あるのは禍々しい大角と黄色一色の眼、顎の付け根まで裂けた口、スリムで華奢なな肉体に張り付く漆黒のスーツ、鋭く尖った爪を強調する黒い皮手袋、黒い光沢を放つ革靴で身を包んでいた。
アモンはこの地底領を治める領主であり、七つの冠の一柱である。
固有付与魔術【インフェルノ】はあらゆる魔術魔法の威力を通常の数万倍以上に引き上げる。
アモンは魔王の返しに口元を歪ませる。
「いえいえ、魔神皇帝がいらっしゃる以上不足がないようにするのが当たり前ですので、これくらは当然かと」
アモンの周囲を固めているのは地底領を治める組織『ゲヘナゲート』の幹部達だ。それが一同に会しているのだから、これはもう重要な会議レベルの集合だ。
魔王が来るだけならアモンだけでも十分のはず、それなのにこれだけ集めているのは大袈裟なのではと疑問を感じた。
「何が目的だ?」
その言葉を待っていたかのようにアモンは裂けたような口を大きく開けて笑みを作る。
「この間の報酬として、魔族領の予算を少々回して頂ければと思いましてね」
魔王とアモンの間に緊張が走る。
アモンが報酬を吊り上げようという算段なのはすぐに分かった。魔王は表情に出さず話を進める。
「予算か、我の権限で安易に決められる物ではないぞ?」
「何をおっしゃいますか。魔神皇帝の一声で皆納得してくれるでしょう」
下手に出ているような口調半分、有利にしようという思い半分で喋っている雰囲気が感じ取れた。
「渡す渡さない以前に増やした予算を何に使う気だ?」
「それはもちろんインフラ事業ですよ」
アモンの言っている事は矛盾していない。しかし予算は不可思議な現象による災害の数を考慮して多めに割り振っている。ましてや、ここ数年予算が足りなくなる程の災害は起きていない。故に魔王は快諾を渋っている。
アモンは指を合わせて前のめりになった。
「予算が難しいようでしたら、お願いを一つ聞いて頂きたいのですが、よろしいですか?」
「ほう、何だ?」
アモンは魔王の前に一枚の紙を出した。そこには『大悪魔・アモン領主2500周年記念式典』と大きな見出しが書かれていた。
「私事ではありますが、領主になってから2500年を記念して式典を行うのです。その式典に是非出席して頂きたいのです」
「……なるほどな」
魔王はこちらが本当の目的だと察した。
さっきのはこちらを受け入れ易くしてもらうための手段にしか過ぎない。断られそうな大きな要望を先に提示して、後から本当の要望を提示する手法だ。
この式典はアモンにとって大きな意味がある。それは先代領主だった『サタン』を超えるためだ。魔王が統治する前まで地底領を5000年統治した実力者であり、アモンの実の父でもある。その背中を超えるためのパフォーマンスの一環として世の権力者である魔王を招待したいのだろう。
魔王は案内の紙を手に取った。
「いいだろう。式典に参加しよう」
アモンはその言葉を待っていたかのようにニヤリと笑った。
「ありがとうございます。詳しい日時が決まり次第すぐに連絡します」
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魔王とサクラは冥府議会殿を後にし、レヴォルゲトン内を歩いていた。
「魔神皇帝殿、ですか」
サクラはポツリと呟く。
「今回も魔王様とは頑なに言いませんでしたね」
「仕方あるまい。サタンが悪魔王と名乗っていたからな」
何故アモン達が魔王を魔神皇帝殿と呼んでいるのかと言うと、先代領主のサタンが自らを『悪魔王』と名乗っていたからだ。サタンの現役を知っている者は区別して『魔神皇帝』と呼んでいる。
サクラは振り返って冥府議会殿を見る。
「彼らは何を考えているのでしょうか?」
「地底領の完全なる支配。第一に目指すはそこだろうな」
「アモン派とサタン派、未だに分かれているのが驚きです」
「現領主を指示するアモン派、サタンが死してなお思想を継いだ者達のサタン派。2500年経っても分かれているのはサタンに絶大な影響力があったのだろうな」
サクラは魔王の顔を覗き込むような態勢を取る。
「魔王様はサタンと戦って支配下に置いたのですよね? どんな方だったのですか?」
「そうだな、我が知る限りでは、統治者として素晴らしい才を持っていたぞ」
魔王は目を細めて遠い過去を思い出す。
「その話は帰ってから聞かせてやろう。それよりも式典の日時を予知したからすぐに調整をするのだ」
「承知しました。魔王様」
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アモンは魔王達の背中を窓越しで見ていた。
「父を超えた時、次は魔神皇帝、貴様を超えてやるぞ」
その眼にはどこまでも深い強欲の炎が渦巻いていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『古代覇龍・サザーランド』の登場です。
お楽しみに。
生きた山脈、破滅の権化
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