夢幻の拳は砕けない Ⅲ
勝利の拳はマスターの力
「『甲殻装着』!!!!!」
マサルの全身に黒い甲冑と金のライン、兜に赤いマフラーが装着される。
以前よりも筋肉が増強された事により、威圧感が跳ね上がっており、より禍々しくなっていた。
「来いよ。手加減はいらない」
マサルは一歩一歩詰め寄り、間合いを詰めていく。
「っ!! 来んなテメエ!!!」
暴貪は咄嗟に左のジャブを打った。
マサルの顔面に綺麗に直撃する。『最強のボクサー』と『女神の加護』により、音速を超える速さと破壊力を持つ一撃だが、結果はまるで違うモノとなった。
兜に当たった左拳は砕け、手の甲から骨が飛び出していた。手首も折れ、早々に変色を始めていた。
「あ、がああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
理解するのに数秒かかったが、理解した瞬間に激痛が走り蹲ってしまう。
甲が滅茶苦茶になってしまったため、満足に指も動かせず出血が続いていた。手首も腫れて少し動かすだけでも痛い。今まで経験した事の無い痛みに対応できずに苦しむしかなかった。
「野球部の田町はお前が金属バットで手を潰したせいで大会までどころか一生動かせなくなった」
マサルは暴貪のすぐ目の前に移動していた。
「ぐ、くそ!!」
暴貪はすぐに距離を取ろうと後ろに飛ぼうとしたが、左顔面にハイキックが先に決まりその間合いから逃げられない。
暴貪はあまりの衝撃で鼓膜が破れ、耳から血が噴き出す。
「同級生の小石はお前がいたずらに殴ったせいで右耳に聴覚障害を患った」
鼓膜が破られ、平衡感覚が狂いまともに立っている事ができず倒れそうになる。
マサルは暴貪の髪を掴み、顔面に膝蹴りを叩き込んだ。鼻と口が潰れ、大量の血を噴き出した。膝蹴りの反動で少し離れた時を見落とさず、髪を掴んだままもう片方の手で腹に一撃入れてみせた。
「げはあ!!?」
殴られた衝撃で肺から酸素が一気に押し出され呼吸が苦しくなる。
「そして正木はお前がサンドバックと称して殴られ続けたせいで内臓破裂を起こした!」
掴んだまま暴貪を空中に投げ飛ばし、顔面目掛けてアッパーを決める。破裂音の様な音を上げて暴貪は回転し
ながら宙を舞う。
「それだけじゃ飽き足らず! 八つ当たりで他の奴にも暴行を加えた!!」
マサルは大きく構えを取り、正拳を放つ態勢に入る。
「そして! 俺から金を巻き上げるために殴り続けた!! これはその全ての恨みを乗せた一撃だ!!!!!」
暴貪が落下してくるタイミングに合わせて、正拳突きを放った。
『夢幻鉄拳・影遠ノ衝撃』!!!!!
マサルの拳は暴貪の体の中心に命中し、空中でくの字に折り曲げた。
肉体にめり込んだ拳から第一の衝撃が暴貪の全身に内出血を起こした。めり込んだままくっついた暴貪を中心にマサル自身が体を高速で動かし、殴る前の溜めの態勢に持ち込んだ。
そして片足を地面にクレーターができるほどの全力で踏み込み、持てる筋力と技術でもう一度拳を放ち、暴貪を殴り飛ばす。
「ぶっ飛べえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
凶治の時よりも強力な衝撃波が発生し、辺り一面にあった岩が吹き飛び、地面も抉っていき、まるで爆現地の様な有様になっていく。
拳が伸び切り暴貪が殴った衝撃で吹き飛んでいく瞬間、暴貪の体が発火する。
そして、暴貪は殴り飛ばされた。
暴貪は地面に大きな跡を付けながら飛んで行き、途中にあった岩を貫通しながら追加で重傷を負っていく。
数十㎞あるミッド高地を飛び出し、森林の上を通過し、徐々に下降していく。
森林を抜け、最後に到達したのは海だった。そのまま下降して海面に激突し、数十mにも及ぶ大きな飛沫を上げて停止した。
海に沈んでいく暴貪は既に死体となり、海底に沈んでいった。
沈む途中で魔獣に食われたのは、言うまでもない。
殴り終えたマサルは筋肉を冷却するために大きく呼吸を繰り返していた。
あれだけの威力を出した後はどうしても筋肉が高温になってしまい、しばらく冷却しないと動けなくなる。
「(これで、終わりか……)」
マサルは目を瞑って苦しんだ過去を思い出す。だが、以前よりも苦しさは無い。
「本当に、終わりだ……!」
拳を天に突きあげて、笑った。
・・・・・・
マサルが拳を上げている後ろで、瓦礫の下から誰かが這い上がってきた。
凶治だ。
怪我は完全に治り、全身を地上に出した。
「(『万通販』で買ったパーフェクトポーションのおかげで何とか回復したが、……あの野郎、調子に乗りやがって……!)」
『収納空間』から新たな銃を引っ張り出す。
対人用狙撃銃『バレットM82』。50口径12.7㎜NATO弾を発射し、当たれば体の上下が分かれ即死する威力を持つ。
凶治はマサルに向けてスコープを覗く。しっかりと頭に狙いを定め引き金に指をかける。
「今度こそ、死ね!!」
轟音と共に巨大な弾丸がマサルに向かって発砲された。弾丸は真っ直ぐ狂いなくマサルの頭目掛けて飛んで行く。
凶治は今度こそ決まったと確信を得て気色悪い笑みを浮かべる。
乾いた音が周囲に響き渡り、直撃した音が聞こえた。
マサルに直撃したと思った。
「全く。諦めの悪い奴だ」
しかし弾丸はビクトールの手によって握りつぶされたのだ。
弾丸を握った手から落とし、空いてる手に持ち変える。
「マサル、いいか?」
「……俺のやれる事は全部しました。後はそちらの判断にお任せします」
「分かった」
ビクトールはデコピンをするようにして親指と中指の間にさっきの弾丸を挟む。
「俺の勘では、お前はどっちの世界にもいてはいけない存在だ。だから、ここで死ぬがよい」
弾丸をデコピンで弾き、凶治の額に直撃したかと思いきや、そのまま貫通して頭をパァンという音を上げて吹き飛ばした。
断面から大量の鮮血を噴き出しながら、ゆっくりとその場で倒れた。再生する気配も無く、本当にただの死体となった。
見届けたマサルの肩に手を乗せる。
「これで遺恨は無いか?」
「ええ、もう大丈夫です」
マサルはゆっくりと立ち上がり、頭の兜だけ外す。
「これでやっと、過去を忘れる事ができます」
「そうか」
互いに肩を並べて滅茶苦茶になったミッド高地を見渡した。
「……さっきの恨み云々はお前らしくなかったな」
「でしょうね。まあ、他にも色々あったんですけど、一番最初に出てきたのが前の世界での悪行に対する怒りでした」
「全部ぶつける前に死んでしまったか」
「そういう事です」
ほくそ笑んで風に当たる。何とも清々しい気分だった。
「あ、そういえばもう一人いたような……」
【視覚共有】で見た映像にはもう一人女子がいた。
「ああ、それならウィナー達が制圧したぞ。こっちだ」
ビクトールに連れられて来たのはミッド高地の斜面の中腹だった。そこにいたのは【視覚共有】で見た女子高生と見た事ない魔女の様な女性、2人を取り囲むゴールデンマッスル達だった。
女子高生の方は気絶して簀巻き状態に、魔女はウィナーにアルゼンチン・バックブリーカーを決められてグッタリしていた。
「ど、どうしたんですかこれ?」
「説明すると長いんだが、こっちの女子はある理由で気絶した」
「え、どうしてですか?」
ビクトールはあからさまな溜息をついた。
「その原因はマサル、お前が全裸で男性器をぶら下げていた事だぞ」
マサルは咄嗟に股間を押さえ、恥ずかしそうにモジモジする。
「見られてましたか……」
「お前のを見て鼻血出して卒倒したそうだ。まあ通常で20もあれば致し方あるまい」
「幼子の腕より大きいですからね。人間としてはかなり巨大ですよ」
ウィナーとゴールデンマッスルの面々が会話に混ざってくる。
「ゴールデンマッスルの筋トレは全身を鍛え上げるからな、男性器も例外ではない!」
「しっかり効果が出ていて何よりだ!!」
「恥ずかしいのでそれ以上は……」
「ちなみにあっちの魔女はスキル『双極の存在』で出現した魔女らしくてな。相棒が気絶したせいで魔力供給できなくなって何もできずに捕まったぞ」
「それはご愁傷様で……」
ビクトールは一度咳払いをする。
「何はともあれ、犠牲者0で目的を完遂した! ご苦労!!」
そしてすかさずポージングを取った。
「さあ諸君! 勝利のポーズ行くぞ!!」
「「「「「「おう!!!!!」」」」」」
全員がポージングを取り、決めに入った。
「「「「「「「勝利のポーズ!!!!! はぁい!!!!!」」」」」」」
全員ポージングを綺麗に決めて、筋肉をしっかりと隆起させるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
マサル&ビクトール戦、おしまいです。
次回から別キャラで進みます。
お楽しみに。
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