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スキルプレデター Ⅲ


略奪者に常識は通じない。


 

 数分前、エイダは星の落とし子達に追跡されていた。



 高速で飛び回る人魚や半魚人に追われ、振り切ろうと建物の間をすり抜けたり、複雑な経路を進んでいた。


 さっき連絡のあったワンガと合流しようにも一筋縄ではいかなかった。


「あっちに行ったわよ!」


「待ちなさい小娘!!」


「しつこいなあもう!!」


 エイダの服装にも原因があった。如何せん目立つ赤色の忍び装束を身につけているものだから、白い街並みの中ではかなり浮いていた。


 それでも追跡してくる何十体もの追っ手を撒きながらワンガとの合流地点へと近付いていた。


「(ここまで来たら、あれを使うか……!)」


 手で印を結び、魔術を発動する。


 魔術は本来詠唱や魔術回路を用いて魔力を変化させて行使する技術だ。彼女の場合、手で印を結ぶ事で魔術回路を確立し、魔術を発動する。



 しかし、彼女の発動するは魔術に非ず。その名は、


 

 【忍法・影分身の術】!!



 彼女が行使するは【忍法】。本来の魔術とは異なる【固有魔術】だ。



 エイダの影分身が無数に出現し、四方八方に散る。


 これには星の落とし子達も困惑してしまった。


「ちょっとお!? どうするの副隊長?!」


「ああんもう仕方ないわね! 全員散開して追うわよお!!」


「イア! イア!」


 隊員達は力強く答え、それぞれ散ったエイダを追跡する。


 

 ・・・・・・



 増えたエイダをエミリーとアスカが追いかけていた。


「中々捕まらないわね!」


「っていうか、何で街の道知ってるんですか?!」


 空中用兵装の最高速で一気に接近すると、細い路地に入り込んで回避する。こっちが回り込んでも、それを察知して屋上へ逃げてしまう。ここ数十分はそんなイタチごっこが続いていた。


「仕方ないわね。アスカ! 召喚魔術でイソギンチャク出して!」


「でもあれは設置型ですよ?」


「この先に大通りがあるから、そこで出すのよ!!」


「!! なるほど!」


 エミリー達は空中用兵装を全開にして一気に加速し、大通りに出た。


 この街には大通りが8つ存在し、それぞれ港に向かって伸びている。エミリー達が到着した大通りには大きな水路が通りの真ん中に整備されている。


 アスカは水路の中に飛び込んだ。


「『我が血と魔の盟約において命ずる。今こそ我に力を! 【召喚(サモン)】!』」


 詠唱と共に魔法陣が出現し、巨大な生物が姿を現した。


 一方、エミリーはエイダが来るのを見張っていた。


「!! 来たよ!」


 エイダの姿を確認し、水中にいるアスカに伝える。


 そして、エイダが大通りを飛び越えようと大きく跳躍した瞬間、


「いっけえ!! 『キャッチャーアネモネ』!!」


 アスカの叫びと共に、水路の中から彩り豊かな触手が一斉に飛び出した。水飛沫を上げてエイダに襲い掛かり、見事捕縛する。


「やったあ!!」


 アスカが水面に顔を出して喜んでいると、エイダから煙が出て小さな人形になってしまった。


「あれ?」


「ああもう! こっちはハズレねえ!!」


 エミリーは地団駄を踏んで悔しがった。その間に【念話(テレパス)】で副隊長に繋げる。


「こちらエミリー! ハズレだったわ!」


『そっちもお? 他の子達もなのよお。他にいないか追跡して頂戴』


「分かったわあ」


 【念話】を切って空中用兵装で飛行し、他にいないかを確認しに行く。



 ・・・・・・



 一方、副隊長のルクパッドは3人目のエイダを捕まえていた。


 空中に巨大な水の塊が出現し、エイダはその中に閉じ込められ藻掻いても脱出できない状態だった。


「【水界呪縛牢】。これって結構キツイのよね」


 ただでさえ大量の水を出現させ、固定するのに魔力を大幅に消費してしまう。更に逃げれないように各種弱体化、封印も施さなければいけない非常に維持しづらい魔法の一つだ。


 しかしこんな堅牢な魔法を使っても、本体を捕まえなければ意味は無いだろう。現に、入れたエイダは全て分身だったからだ。


 そして入ってくる情報も『捕まえたのは分身だった』としか入ってこなかった。


「(この街に初めて来たのに道が分かってたって事は、『地図作成(マッピング)』のスキルでも持っているのかしら)」


 そう考えている内にクトゥルーから連絡がきた。



 ・・・・・・



 そして現在、エイダはクトゥルーの背後から剣を突き立て、見事胸を貫通したのだ。



 血だらけになったクトゥルーはゆっくりと後ろを振り向いて姿を確認する。


「あら~、3人目の子じゃな~い? まさか、気配を完全に消せるだなんてね~」


「【忍法・隠蓑術(かくれみのじゅつ)】。油断したわね化け物、お前はここで死ね」


 剣を引き抜き、付いた血を振り落とした。クトゥルーは覚束ない足で数歩歩き、エイダと距離を取る。


「忍法。初めて聞く魔術ね~。アギパン様なら興味深々の代物だわ~」


 呼吸が荒くなり、出血する胸の傷口を押さえる。更に吐血で服は血塗れになっていた。


 エイダは剣をクトゥルーの首に突き立てる。


「私達の会話を盗聴していたわね?」


「ええ、ええ、正解よ~。私のスキルで何でもできちゃうのよ~」


 薄気味悪い笑みで答える。


「悪質ね。私と同じ魔力反応でワンガをここにおびき寄せるなんて」


「スキル『偽装』よ~。これくらい見破れないとダメじゃな~い?」


 エイダは奥歯を強く噛み、苛立ちを見せた。


「未熟だったのは認めるわ。だからここで仇を取って取り返すの」


 剣を構え直し、溜めの態勢に入る。


「主要機関の場所を言いなさい。そうすれば命だけは取らないであげる」


「言うと思うのかしら~?」


「そうよね。じゃあ死んで」



 エイダは大きく踏み込んでクトゥルーの首を斬りつけた。


 剣はクトゥルーの首を断ち、頭部は宙を舞って落下した。



 エイダは落ちた頭を見て、命を絶ったのを確信した。


「カリオ、ワンガ。仇は取ったよ」


 剣を鞘に納め、クトゥルーの死体に背を向けて歩き始めた。



 それと同時に、肩を誰かに掴まれた。



 後ろを素早く振り向いて、誰が掴んで来たか確認する。


 そこにあったのは、首の無いクトゥルーの体だった。


「首を落としたら死ぬなんて、誰が言ったかしら~?」


 首の切断面には大量の触手が詰められ、一本一本が蠢いていた。


「ひっ!?」


「あ~ら失礼な反応~。でも許し上げる。だって……」




「ここで死ぬんだから」




 スキル『狂気山脈』




 服が裂け、元の体の数十倍の体積の大量の触手が獣の様な形を取り、エイダに噛みつき、飲み込んだ。


 そのまま触手達は縮み始め、クトゥルーの体の形へ戻っていく。数秒後には元の大きさに戻り、服も直っていた。体は頭を取りに行き、頭を首の上に乗せると触手がグチョグチョと嫌な音を立てながら戻った。


 首を数回回して正常に動くか確認し、大きく息を吐いた。


「は~い終わり」


 服の血も綺麗に落とされ、剣で開いた穴も塞がっていた。


「クトゥルー様~」


 周囲から星の落とし子達が集合し始めていた。


「あの赤い子の分身全員片付けたわよお」


「ご苦労様~。こっちは貴重なスキルと情報が手に入ったわよ~」


「あらあ! 聞かせて聞かせて!」


「ダ~メ、魔王様に報告しなきゃなんだから」


 総勢30名程度の星の落とし子達が全員集まり、両性独特の雰囲気で混沌としていた。


「でも先に、街の修繕工事依頼からね~」


 カリオの攻撃により港の設備が殆ど大破、クトゥルーが戦った噴水広場の周辺もワンガの攻撃であちこち損傷していた。


「近くの街の建築関係者に声掛けして集めてきて~! そしたら緊急復興会議よ~!」


「イア! イア!」


 独特な挨拶で各自散開して業務に向かっていった。


 クトゥルーは胸のあたりを擦りながら【隠蔽念話】を開始する。



『は~い魔王様、今いいかしら?』




お読みいただきありがとうございました。


今回でクトゥルー戦終了となります。

次回はむさ苦しい連中の熱い戦いの予定です。

お楽しみに。


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