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闘技場、槍の極意:Ⅱ



 剣が切り裂く音が木霊する。



「な、に?」


 バーウィンは確かな手応えを感じていた。


 しかし、目の前にラディオンの姿は無かった。


「あっぶねえ!!」


 ラディオンは間一髪で身体を動かし、剣の直撃を免れた。しかし、


「(足は、思いっ切り切られたか)」


 太股を両側から切られ、派手に出血していた。片足だけで2人から離れ、その場で座り込む。


「【大回復】」


 すぐに魔術で手当てするが、治りが遅い。出血は止まっていないが、動くのに必要な筋肉は繋がった。


「(やっぱりあの剣、何か特殊なスキルかなんか付いてるみたいだな。……たく、迂闊に飛び込んじまったぜ)」


 そう考えている内に、バーウィンだけ突っ込んでくる。


「おっと」


 ラディオンは咄嗟に槍で払い、地面を抉るほどの一撃を放つ。当たる寸前で急停止するが、土煙を被ってしまう。


「ぬう……!」


 土煙が目に入るのを防ぐために片腕で顔を覆い、追撃が来る前に後退した。


『大丈夫か爺さん?! あんまり無茶はすつなよ!』


 ピュルスが【念話】で呼びかける。


『ああ、すまんな』


 バーウィンの額から汗が流れる。息も上がり、少し倦怠感も出てきた。


「(やれやれ、歳は取りたくないのお)」


 

 こちらに来る際、女神に力を貰ったが、どうやら一番相性が良くなかったらしく、以前いた世界にいた時とあまり能力に差が無い。


 どうして呼ばれたのかと言うと、『魔族に対して強い敵意』があるからだそうだ。


 そういう理由でこちらに来た者はそれなりに多いが、比例して女神の恩恵を得られる訳ではないらしい。


 現に、カイトは魔族に強い恨みや敵意を持っていない。女神の加護との相性が相当良かったからこちらに呼ばれた。


 その能力の差を埋めるために、『聖剣・ミストルティン』を貰った。この剣のおかげで不足している攻撃、防御と魔力を補っている。



 それでも老いまではどうする事も出来なかった。

 女神の力との相性が悪いため、転生する事も叶わず、この老体に鞭を打って戦っている。


 

 ミシェルの【治癒】でも老いから来る疲労までは回復できないらしく、全快してもこの様だ。


 呼吸を整え、ラディオンがいる方向を睨む。


『ピュルスよ、そっちのチャージは済んだのかの?』

『ああ、さっきは使い過ぎてトドメに回せなかった。悪いな』

『ワシが押し負けたのがそもそもの原因じゃ、気にしなくていいぞ』


 徐々に土煙が晴れ、視界が良くなってくる。


「(さて、どう来る?)」

『もうそこにはいないぞ!!』


 突然、ダルクからの【念話】が入った。ダルクの方を向くと、ラディオンがダルクに突っ込んでいた。


「いつの間に!?」

「ダルク!!」


 2人が急いで近付くが、ラディオンの突きがダルク目掛けて飛んで行く。


「ちい!!」


 ダルクはラディオンの突きを躱してバーウィン達と合流する。


「大丈夫か?!」

「無傷だ。だが仕留め損ねた」


 ダルクはアバンギャルの【結界魔法】を破壊し、剣で斬りかかる手前までいっていた。しかし、そのタイミングでラディオンが攻撃してきたのだ。防御するという選択肢は敵がもう1体懐にいる時点で無かった。


 ダルク達が合流したのと同じ時に、ラディオンとアバンギャルも合流していた。


「大丈夫かアバンギャル?」

「私の事なんかより、ラディオン様の方が重傷ですぞ! 早く治療を……!」

「もうした。それでこれだ」


 ラディオンは血が流れたままの足で立ち続けていた。血が止まる気配はまだ無い。


「突きは難しい。ここからは接近戦だ」

「畏まりました。全力で援護します」


 ラディオンは突きの構えではなく、剣を持つようにして槍を持ち直した。



 『螺旋槍術・剣技の型』



 ラディオンの大槍は、いわゆる騎兵槍と呼ばれる細長い円錐の形に大きな笠状の鍔が付いたものだ。


 本来は『突く』に特化したものだが、ラディオンの扱う流派『螺旋槍術』はこれを『払う』『斬る』にも応用が利く技を持ち合わせている。


 最高速で突きを放てない今、剣技の型に移したのだ。



 その構えを見た4人は、それが付け焼刃ではなく、長年鍛え上げて身に着けた武術だとハッキリ分かった。


 ダルク、バーウィン、ピュルスは剣を構え、間合いを取る。ミシェルは3人と合流して、援護できる位置まで移動してきた。


(俺が先制する。バーウィンは後から来い。ピュルスとミシェルは遠距離攻撃で援護だ)


 ダルクが小声で指示を出す。3人はそれを黙って頷いて承諾する。


(行くぞ!)


 ダルクが一気に駆け出し、ラディオンに突っ込んでいく。その後をバーウィンが追いかける。


 ラディオンもそれに合わせて突撃する。アバンギャルはその後ろを【浮遊】で追いかける。


「『ダークシュート』!!」


 ダルクが【闇魔法】の弾を数発撃って先制する。ラディオンは槍で全て弾き、突撃を緩めない。


 バーウィンがダルクの後ろをから跳躍し、ラディオンの頭目掛けて剣を振り下ろす。同じタイミングで、ダルクはラディオンの懐に潜り込み、剣を振り払う。


 ラディオンは槍を上段に構え、一気に振り下ろす。



 この時、槍に回転がかかり、それが竜巻となった。



 『螺旋斬』!!!



 目の前で突如発生した竜巻に、ダルクとバーウィンの攻撃が弾かれる。


「(竜巻だと?! 一体どうやって!?)」


 ダルクは弾かれた勢いで後退させられ、バーウィンは空中に投げ出されたが、何とか着地する。



 【聖なる閃光】!!

 【多重防壁】!!



 その隙を埋めるためにピュルスが攻撃を放ち、ミシェルが2人を防御する。



 【拡散結界】!!

 【妨害】!!



 しかしそれをアバンギャルが食い止め、防御を無効化する。



「何?!!」

「っ!?」


 ピュルスは自身の攻撃を防がれた事に、ミシェルは防御を剥がされた事に驚いていた。


 2人の魔法と魔術はそう簡単に突破できる物ではない。女神の加護も付いているのだからなおさらだ。


 

 何故この2人の攻撃と防御を攻略できたのか。


 それは、アバンギャルが探知に長けた魔法使いだからだ。


 魔法魔術と言った魔導に長けており、特に遠くの敵や見えない敵を探知することに長けている。


 それと同時に、どんな敵なのかを見極める【分析】にも長けている。


 その分析能力で敵の使用した魔法魔術を解明し、次には対応できるようにしているのだ。


 それが攻略できた最大の理由だ。


 

 ラディオンは相手の援護が無効化されたのを見て、そのまま勢いを殺さず突っ込んでいく。


 そこへ再び突撃して来たのは、ダルクだった。


 剣と槍がぶつかり合い、火花を散らす。だが、拮抗しているわけではなくダルクが押されている。


「ぬうう!!!」


 弾き飛ばされないように踏ん張り、ラディオンの動きを止め、隙を作る事に成功する。


 その一瞬の隙に飛び込んだのはバーウィンだ。今度は跳躍せずに、真横に付いた。


 ラディオンの脇腹目掛けて剣を振る。


 

 【結界魔法】!!



 剣が脇腹を切る直前、空中に壁の様な物が出現し、剣を弾いた。


 アバンギャルの【結界魔法】は、座標を固定することで出現させるため、一定の場所に固定出現させるのはお手の物だ。


「どっせい!!!」


 槍を薙ぎ払い、ダルクを吹き飛ばした。ダルクは地面を引きずりながら停止する。


「(あの回転、どうやら魔力で起こしていないみたいだな)」


 槍の握り部分に注目すると、握りに筒が通してあり、それを握っていた。


「あの槍、『管槍』か」



 管槍


 本来は柄のある槍に短い管を通したものだ。

 こうすることで、片方の手で管を握り、もう一方の手で柄を握り、ピストン運動の様にして勢い良く突きを繰り出すことができる。



「(あの形はおそらく、回転を加えるために付けられた物だ。あの竜巻を起こせたのもそのためか)」


 握りの管を持ち、槍本体を高速回転させてあの竜巻を起こしたのだ。一見滅茶苦茶だが、実際に起こしているのだから信じる他ない。


 

 バーウィンも後退し、態勢を立て直す。


「(このままじゃ埒が明かない。温存しておきたかったが、やるしかないか)」


 ダルクは深呼吸して、呼吸を整える。



 そして、目を見開き、全身から大量の魔力が噴き出した。



 魔力が噴き出したのを見て、3人はダルクから離れた。


「ダルクの奴、あれを使う気か?!!」

「……推奨できんが、奴がそう決めたのなら仕方あるまいか」

「ダルクさん……」


 

 ダルクを黒い影が包み、不定形の鎧へと姿を変えていく。

 目が赤く光り、牙と爪が生え、まるで獣の様にも見えた。

 そして、雄叫びと共にそれが完成する。



 『シャドウ・バーサーカー』



 低い唸り声を上げながら、剣を握りしめ四つん這いになる。


 ラディオンは槍を構え、いつでも迎撃できる態勢に入った。



 だが、次に瞬きした瞬間、黒い獣は姿を消した。



 ラディオンは目だけで周囲を見渡し、どこへ消えたか探す。


 

「ぐあ!!?」

 

 すぐ後ろで呻き声が聞こえた。


 振り向くと、アバンギャルが攻撃を受けていた。一撃を直撃したのか、腕から大量に出血している。



「アバンギャル!!?」

 心配するのも束の間、今度はラディオンに襲い掛かった。


 初撃は槍で防ぐが、次の攻撃までは防げず、攻撃を受け続けてしまう。高速で動けるラディオンですら追いつけない速さだ。


 速さはさらに増していき、まるで黒い竜巻が周囲を取り囲むように強風が巻き起こっていた。



 『ノワール・ストーム』!!!!!



 ラディオンとアバンギャルの全身を切り刻み、鮮血の嵐を作り上げた。



 そして、唐突に黒と赤の嵐が止まった。


「が、はあ……!!」


 アバンギャルは吐血し、その場で倒れてしまった。


 ラディオンは沈黙し、大量の切り傷と出血をしながら、膝をついていた。



「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」




 ダルクの蛮声が、闘技場に響き渡り、建物全体を振動させた。




お読みいただきありがとうございました。


次回に続きます。

お楽しみに。


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