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闘技場、槍の極意:Ⅰ


 ホープ大陸 魔族領 アトゥラント地方 闘技場


 過去、この地を治める十二魔将を決める際に、その実力を示すために決闘が行われてきたのがこの闘技場だ。今は観光名所として存在している。


 その闘技場の周囲をスパルタンの兵士達が警備していた。


「なあ、俺たち中にいなくていいのか?」


 とある兵士が呟く。


「いいんだよ、いたらラディオン様とアバンギャル様の邪魔になっちまう。それより、間違って誰か入らないようにちゃんと見張れよ」

「了解です」


 ・・・・・・


 闘技場の中では、ラディオンとアバンギャル、そして転移転生者4名が睨みあっていた。


 バーウィンは細剣、ピュルスは盾と剣、ダルクは黒い長剣、ミシェルは杖を持っている。


「さっきまでいた兵士達を下がらせて良かったのか? 数で押した方が勝算はあったろ」


 ダルクがラディオンに剣先を向けながら質問する。


「いない方が動きやすいんでな。それに、お前ら強いだろうから無駄に怪我させちまう」

「魔族が仲間の心配か。人間の真似事をするんじゃのお」


 バーウィンは皮肉めいた言葉で返した。



 バーウィンのいた世界では、魔族は完全なる悪だった。

 人間を蹂躙し、蔑み、奪い、踏みにじってきた。そして何より、邪悪で下劣な心しかなかった。

 1000年に渡って苦しめられ、バーウィンの世代でようやく打ち滅ぼす事ができた。


 その経験からバーウィンは決して魔族に心を許す事は無い。



 バーウィンの言葉に、アバンギャルが眉をひそめた。


「そっちの世界ではどうだったか知らんが、お前が見てきたモノと一緒にして欲しくはないな」

「貴様らにワシの気持ちなぞ理解してもらいたくもない」

「アバンギャル、話すだけ無駄だ。戦う以外道は無いぜ」


 ラディオンは狙いを定め、槍を構える。


「…………年のせいでしょうか。少々感情で処理しようとしてしまいました」

「反省してやり直せるならまだまだやれるさ。行くぞ」


 アバンギャルも魔力を全身に回し、戦闘態勢に入る。



 互いに間合いを取り、思考する。


 一手目がラディオンにとって重要なのだ。


 大槍での突進は強力だが外せばその隙を突かれる。突進する相手を間違えれば、命取りになる。


 遠距離攻撃もまた同じ、ラディオン自身の遠距離攻撃はどれも隙が大きい。反撃されるのは目に見えている。


 相手が一人ならまだいいが、選択肢があるのは厄介だ。敵は異世界からの転移転生者。見誤れば止められる可能性も少なからずある。


 アバンギャルのサポートもあるが、過信するのは危険だろう。それを弾く術を持っている可能性は高い。


 攻めの一手だが、守りに入るのは得策ではない。


 攻撃向けの大槍は防御には向いていない。下手に下がればそれこそ追い込まれる危険性が出てくる。


 ゆっくりと呼吸を整え、足に力を込めていく。




 バーウィン達もまた、一手目を考えていた。


 【念話】の様な思念会話系の魔術もスキルも持っていない訳ではないが、何時飛び込んでくるかも分からない敵を目の前にそこまで悠長にしている時間は無い。


 しかし、全員の過去の戦歴は長く、大槍を持った敵とも戦った事がある。


 その経験から、既に4人は散開し、それぞれ距離を取っていた。固まっていると、大槍で突進された時に巻き込まれる可能性があるからだ。散らばっていれば、各個対応でき、そこを集中攻撃することもできる。


 待ちの姿勢はこれでいい。だが攻めはどうか。


 誰かが単独で先制すれば、間違いなく大槍の突進に狙われる。かと言って4人全員で各方向から攻撃をして避けられれると、まとまった所を攻撃される可能性もある。


 それぞれ武器を構え、攻防どちらにも対応できる状態にしておく。


 間違えれば死、慎重に見極める必要がある。




 ラディオンは考える。

 だが、考えるだけ考えてそれを放棄した。



 この槍と技術は先代達が受け継いできた物だ。


 その教えの中には、『放つ時は迷うな、貫く事だけに集中しろ』という一文がある。


 槍を放つ時、その一瞬に迷いがあれば、貫く事はできない。放つ時には貫く事だけに集中しなさいというそのままの意味だ。


 ラディオンは槍を放つ時、考え事は全て放棄するようにしている。

 そうする事で迷いが無くなり、ただ一直線に、突きを放てるのだ。


 

 互いに間合いを取ってから1分も経たずに、ラディオンが動いた。


 目標はバーウィンだ。


 動く直前に【身体強化】、【超加速】を発動し、一気に速さを付ける。

 僅か1秒にも満たない時間で最高速に達する。


 そして、突貫する。 




 『極突(きょくとつ)』!!!




 視認不可能な速さで放たれた一撃は、バーウィンの腹を捉えた。


 だが、バーウィンも転移者。


 前の世界で培った技量と相まって、何とか反応して見せる。


 構えていた剣で槍の穂先を腹に刺さる前に防いだ。


 しかし、勢いは止められず、足に力を入れるが地面の柔らかさまではどうすることもできず、跡を付けながら押し出される。


 両手で剣を強く握り、反れないように力を籠め続ける。


「ぬ、おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」


 ラディオンもバーウィンも大声を上げながら力と力をぶつけ続ける。


 あまりの速さと力のぶつかり合いの余波で、周囲にいた者全員が手を出せずにいた。



 何とか止めようと踏ん張るバーウィンだったが、時間も距離も間に合わず、闘技場の壁に叩き付けられた。



「ぐあ!!?」


 あまりの衝撃に壁が大きく凹み、バーウィンは吐血してしまう。


 それでも槍はバーウィンを貫く事は無く、剣で受け止めていた。


「見事だ」

「褒められても、嬉しく、ないわい……!!」


 剣で防いでいるものの、徐々に押され始めていた。さっきの衝撃で上手く力が入らないのだ。


「(いかん、このままでは力負けする……!!)」



「爺さん!!」



 ラディオンに光が一直線に飛んで来る。


 視界の端で見たラディオンは咄嗟に避ける。そのまま壁に当たった光は爆音と共に壁を抉った。


「ちい! 素早い!!」


 光を放ったのはピュルスだった。剣先から光を出していたのだ。


「(ありゃ光魔法か? だが当たらなきゃどうってことねえか)」


 ラディオンは【超加速】でバーウィンから一旦距離を置く。


「逃がすか!」


 ピュルスは光を乱射し、ラディオンを攻撃し続ける。だがあまりの速さに掠る気配もない。


「(アバンギャルはどうしたんだ?)」


 ここまで攻撃されているのに援護が無いのが不思議だった。


 アバンギャルの方を見ると、もう一人の漆黒の転移者に剣で攻撃されていた。【結界魔法】で守っているが、敵の連撃で動けないでいる。


『申し訳ございません、ラディオン様。こちらは防ぐので精一杯です……!』


 【念話】でアバンギャルが状況を知らせた。ラディオンも躱しながら応答する。


『どれくらい持つ?』

『これぐらいなら後10分は持ちます』

『分かった。それまで足止めしててくれ』

『畏まりました』


 アバンギャルとの【念話】を切って目の前の戦闘に集中する。




 ピュルスの攻撃を躱している間に、ミシェルがバーウィンを【治癒】で治していた。


「大丈夫ですか?」

「何とかな。命があるだけマシじゃ」


 口に付いた血を拭い、すぐに立ち上がった。全快したのを確認し、剣を持ち直す。


「ピュルスが時間を稼いでくれたか」

「こっちに来ないように上手い事誘導してくれたみたいですね」

「ミシェルは隠れておれ。巻き込まれるぞ」

「分かっています。お気をつけて」


 ミシェルはバーウィン達から少し離れた場所に移動し、自身に【多重防壁】を展開する。


 バーウィンが一撃で追い込まれたのを見て、【防壁】だけでは破られると思い、より強力な【多重防壁】にした。


 ミシェルは戦闘向きの能力をあまり持ち合わせていないため、防御と回復に専念している。


「(まだ3人共元気だからいいけど、僕一人になったら危険だ。ちゃんとフォローしなきゃ)」


 ミシェルがそんな事を思っている間に、バーウィンがラディオンに突っ込んでいた。


 ピュルスの攻撃はまだ続いており、その避けたタイミングを見計らって攻撃を仕掛けた。


「ぬうん!!」


 ラディオンはその攻撃を弾き、態勢を整える。だがそこに光の攻撃が飛んで来て、態勢を崩していく。


「(ええい鬱陶しい! 試しに【防御魔術】で守ってみるのもありだが、抜けてきたらヤバイしな……)」



 【光魔法】による攻撃はいくつか種類が存在する。


 単に光を熱にしているのか、光で隠して魔力を撃っているのかで防御方法が変わってくる。


 【防御魔術】でも『物理特化』と『魔法特化』、更には『魔術特化』がある。これら全てを一度に張るには魔法魔術に長けている者でなければ難しい。


 ラディオンはそこまで魔法や魔術に長けている訳ではない。


 相手だ転移者である以上、【防御魔術】でミスをすれば命取りになる。だから確実な回避に専念しているのだ。



「(いっそ撃っている奴から倒すか)」


 ラディオンは標的をピュルスに切り替え、一気に距離を詰める。


「かかったな愚か者!!」

「っ?!」


 ピュルスは持っていた盾をラディオンに向けた。



 『拘束の光』!!!



 一瞬、盾が激しく光った。


 ラディオンはその光を直撃し、動きが悪くなった。


「な、んだ?!!」

「我が盾の光は悪しき者を縛る聖なる光!! このままひれ伏すがいい!!」


 さっきまで目にも止まらぬ速さで動いていたが、光を浴びてからはまるで生まれたての小鹿の様に足を震わせてふらついてる状態だった。


「ラディオン様!?」

「余所見している暇は無いぞ!!」


 ダルクはアバンギャルの【結界魔法】に連続して剣を入れ、遂にヒビを入れてみせた。


「ぐうう!!?」


 ヒビを修復しようとするが、連撃が止まないせいで直すどころかヒビが大きくなっていく。




 ラディオンが動けなくなったところに、一斉に攻撃を仕掛ける。


「合わせろピュルス!!」

「任せろ爺さん!」


 バーウィンとピュルスが動けなくなったラディオンを挟み撃ちにする形で剣を振りかざした。


「(まずい……! さっき折れなかったって事はどっちの剣も特別製……! あれに刺されたら間違いなくヤバイ!!)」


 躱したくても体が上手い事言う事を聞いてくれない。


「う、ご、けエエエエエエエエ!!!!!」


 必死に動こうとするラディオンに、2人の剣士が剣を振り下ろす。


「終わりだ」

「我らの神の鉄槌を!!」



 直後、剣が切り裂く音が闘技場に木霊した。



お読みいただきありがとうございました。


次回に続きます。

お楽しみに。

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