異世界に君臨するは 4
山羊角の老人が転生者を串刺しにした頃、松岡、佐藤、竹本の三人は別の区画にいた。
瀕死の重傷者などが多数発生しているため、高い回復能力が必要なメンツが招集された。腕が切り落とされたり、内臓が飛び出してしまった者が該当する。
この事態を起こした元凶の対応に当たっているのは『狂戦士』と『魔剣グラム』の二つのスキルを持つ岡崎だ。
松岡の『完全回復』で大半の兵士は治療を終えていた。
「こっちのグループは治療終わったぞ。そっちは?」
「こっちはあと半分くらい。でもまだ時間が掛かりそう」
佐藤の能力『復元』は、『指定した物体の状態を戻す』能力だ。
使い方次第では前衛での活躍も期待されたが、本人の戦闘センスが低いため支援組に加わることになった。竹本は城内で使える能力ではないので支援組の手伝いをしている。
「回復して傷が無くなってもすぐには動けないんだね」
「『完全回復』や『復元』でも疲労まではどうしようもできないからな。こればっかりは時間に頼るしかない」
「それにしても、岡崎くんは大丈夫なのかな……?」
「大丈夫だろ。あいつのスピードは音速を超えてるし、まず負けないさ」
コツ、コツ、と、奥の通路から足音が聞こえる。その音から岡崎では無いことが分かる。緊張しながら、ゆっくりと通路を確認する。
そこへ現れたのは、褐色で長い耳をした女性だった。
銀髪のロングテールに琥珀色をした鋭い眼、片手には刀身がやけに細い剣を持ち、露出の多い服装をしている。その立ち姿は美女と呼ぶに相応しかった。
「ここにいる転生者は貴様らだけか?」
突然の質問に驚き、誰も答えられなかった。
「ではこれは君達の仲間か?」
腰に付けている物を3人の目の前に放り投げる。
それはさっきまで一緒にいた岡崎の頭だった。
「うわああああ!!!!??」
「きゃああああああああああ!!!」
初めて見る生首に叫んでしまった。恐怖で足がすくみ、震え出してしまう。
「当たりか。となると近くにいるのは死にかけの屑共か」
叫び声を聞いて別室で回復された兵士達が出てくる。
「どうした?!」
「な、あれは、十二魔将!?」
「間違いない。ダークエルフの剣聖、マリーナだ!!」
兵士達は蒼白となり、その場から一斉に逃げ出した。
「逃げろ! 俺達が敵う相手じゃない!!」
「いざとなれば転生者がどうにかしてくれる!」
「早く逃げるぞ!!」
「……下衆共め」
居合の態勢に入り、呼吸を一拍整える。
「『瞬ノ剣:蓮華』」
ピュッ、と風を切る音が聞こえた瞬間、60人以上いた兵士達の首が斬れ落ちた。ボトボトと床に落ちた後、断面から鮮血が噴き出した。噴水の様に血は出続け、体はゆっくりと倒れていく。
あまりの凄惨な光景に竹本は失神した。残りの二人は恐怖が身体を支配してただ震えるしかなかった。
「後はお好きにどうぞ、クトゥルー様」
「あら~、わざわざありがとうマリーナちゃん。じゃあ早速頂いちゃうわん」
オネエ言葉で現れたのは、蛸の頭をした人間だった。
中世ヨーロッパ男性貴族の様な服装で、蛸の触手をした手が見えていた。モデル歩きで歩いている。
「それじゃあ失礼してえ」
上着の前を開いて、どう見ても許容量を超えた巨大な触手達が飛び出し一瞬で3人を捕まえる。
「ひっ!」
「はいは~い、ちょっと黙っててねえ」
思わず声を上げたのですぐに触手を全員の口に突っ込んで黙らせる。
「あら、この男の子『完全回復』のスキルなの? ありきたりねえ」
松岡の全身を巨大な触手で巻き上げる。
「あなたはいらないから、死ね」
パン、と風船の様な破裂音がする。触手を一気に締め上げられ松岡は血と肉と骨のミンチになり、その成れの果てが床に垂れ流しになった。
「---------!!! -----------!!!!」
触手で口を塞がれながらも佐藤は叫んだ。死にたくない一心で暴れだす。
「あらダメよ暴れちゃあ、……ってあなた『復元』能力持ってるじゃない!?」
クトゥルーは目を輝かせて、
「じゃああなたはお持ち帰り決定!! 魔王様もお喜びになるわ~!」
そして失神している竹本も引き寄せて体内に入れ始める。
「この子の『飛空戦艦』も珍しいからお持ち帰りね。しばらく体内で遊んであげるから、無駄な抵抗をしちゃダメよ」
絶望した顔で届かない叫びを上げながら、二人はクトゥルーの体内に飲み込まれていった。
飲み込んだ後のお腹は大きくなることは無く、元のスリムな体型に戻っていた。
「さて、ラディオンちゃんと合流しましょうか」
「……ところでクトゥルー様、何故貴方がここに? 確か別方向からの侵入だったはずですが」
「あら~それ聞いちゃう? 実は勇者スキルの子がいたから頂いちゃおうと思ったら魔王様と鉢合わせになっちゃって~、そしたら『こっちはいいから向こうの手伝いをして来い』って言われちゃったの~!」
「なるほど、そういう訳か」
ガラガラ声の山羊角の老人が話しかける。
「あら、アギパン様。もう終わったの?」
「全く骨の無い連中だったわい。それよりクトゥルーよ、そういう事はすぐに連絡を入れなさい。無用な詮索をさせて時間を浪費させてしまうぞ」
「それは察して欲しいわ~、もう五百年近い仲じゃなあい」
「同じ十二魔将とはいえ、以心伝心とは限らん。しっかり言葉で伝えなければニュアンスの差というのがな……」
「アギパン様、説教はそこまでにしてラディオン様と合流しましょう」
「む、そうじゃったな。ワシとした事が、これこそ時間の浪費じゃったわい」
「え~! 私との会話時間の無駄なの~!?」
「そうでは無くてな…………」
他愛ない会話をしながら、死体を踏み潰して王宮を歩いて行く。まるでそれが常識かの様に。
・・・・・
一方、智春達は王様達がいる大広間に到着した。
「王様無事ですか……!」
しかし、そこには誰も残っていなかった。
「どういう事だ? 王様はどこに行ったんだ?」
「もしかして逃げた……?」
「でもどうやって?!」
その時後ろから誰かが息を荒げて走ってくる音が聞こえた。
「だ、誰か、回復できる、人は、いないか!」
「稲葉くん! どうしたんだ……!?」
稲葉が担いでいたのは太田だった。全身血だらけでピクリとも動かない。
「太田くん!? どうしてこんな……」
「もうダメだ。皆逃げよう! あんなのに勝てるわけない!!」
「落ち着け稲葉、何があったのか説明してくれ」
「王様は嘘を付いてたんだ! 何が勝てる可能性があるだ! あんな化け物どうしろっていうんだ!!」
「落ち着いて稲葉君……」
「落ち着いてられるか! 拙者は逃げる! 国なんぞ知ったことかあ!!」
稲葉は大広間から飛び出してしまった。
「待ってくれ稲葉くん!!」
「放っておけ、それよりも太田だ」
豊田の『魔法技術』で覚えた回復魔法で太田の傷が癒えていく。全て塞がったところで太田が目を覚ました。
「太田くん!」
「こ、こは?」
「大広間だ。稲葉が運んでくれた」
「そうか、太田君はどこに……?」
「それが……、自分だけ逃げ出しちゃって……」
「……無理も無い。あれと対峙すれば皆そうなるさ、ましてやステータスを見たら尚更だ」
「あれって、まさか」
「ああ、魔王だよ」
刹那、凄まじい威圧感が襲い掛かった。
その威圧感は質量を持っているかの様な重さがあり、全身に力を入れていないと潰されてしまう程だった。それは徐々に大きくなる。この場に近付いて来ている証拠だ。そして、
そして『魔王』は現れた。
お読みいただきありがとうございました。
次回は魔王登場です。
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