Ruler
そして、時は経ち……
20××年 日本
とある住宅街
1人のスーツを着た青年が、大きな鞄を持って歩いていた。
青年は、一つの個人宅の前足を止める。表札には、『秋桜』という珍しい苗字が書かれていた。
インターホンのチャイムを鳴らし、応答を待つ。
数秒して、インターホンから声が聞こえた。
『はい、どちら様でしょうか?』
出たのは、歳をいった女性だった。
「突然すみません。こちら、ロンドベルさんのご実家でよろしかったでしょうか?」
『え、ええ。そうですけど……』
「私、ロンドベルさんと交流させてもらっていた者です。その証明になるか分かりませんが、直筆のお手紙を預かっておりまして……」
直後、家の中からバタバタと走る音が聞こえ、女性が勢いよく出てきた。
「て、手紙を預かってるんですか?!」
「はい。こちらです」
青年は懐から手紙を渡す。手紙は封筒に入っており、しっかりと封がされている。
女性は震える手で手紙を受け取り、封筒に書かれている名前を見る。
「これは、ロンの、ロンの字だわ……!」
思わず女性は泣き崩れ、その場で膝をついていしまった。
「うう、ロン……! ロン……!!」
・・・・・・
家の中には、小さな仏壇があり、位牌には『ロンドベル・秋桜・ヴェンガドール』の名が書かれていた。その隣に、『ペティ・秋桜・ヴェンガドール』の位牌もあった。
青年は正座をし、眼を閉じて手を合わせた。
仏壇に挨拶を済ませた後、女性、ロンドベルの母親がテーブルの席に案内してくれて、飲み物を出してくれた。
「ありがとうございます」
「さっきはごめんなさい。いきなり泣いたりして……」
ロンドベルの母親は残った涙を拭き取る為に、眼を擦る。
「ロンが亡くなってから、4年も経つけど、まだ心が整理できてなくて」
「いえ、心中お察しします」
「……お気遣いありがとうございます……」
ロンドベルの手紙をマジマジと見ながら、一旦テーブルの上に置いた。
「……見ないんですか?」
「後でゆっくり読むは。今は、あなたからあの子の事を聞きたいの」
青年は頬を掻きながら
「そうですね……。出会いは……」
ロンドベルとの思い出を語り、母親はそれを静かに聞くのだった。
・・・・・・
青年は1時間程ロンドベルとの思い出を話終わり、質問等にも答えた。
ふと、時計が目に入り、大分時間が経っていることに気付いた。
「ああ、これは失礼。随分と長い時間いてしまって……。そろそろお暇します」
青年は立ち上がり、家を立ち去ろうとする。
「では、これで」
「沢山のお話ありがとう。……久し振りに楽しかったわ」
「いえ、俺も話せて良かったです。それでは」
青年は素早く出ようとしたが、一旦止まる。
「すみません、最後に一ついいですか?」
「はい、何でしょう?」
「ロンの、思い出の場所ってどこですか?」
・・・・・・
青年は母親から聞いた、小高い山にある展望台へとやってきた。
歩いて1時間もしないで登れ、街が一望できる景色の良さも併せ持っていた。展望台には広場やベンチがあり、ちょっとした憩いの場の雰囲気がある。
青年は街が良く見えるベンチに座り、鞄から白磁の蓋の付いた入れ物を取り出し、隣に置く。
一息つき、満天の青空を見上げた。
「…………ようやくだ、親父。故郷に帰ってきたぞ」
青年は入れ物の蓋を撫でる。
青年の撫でているそれは、骨壺と呼ばれる物だ。
「流石にこっちにもある物を俺が渡すのは、変な話だからな。こればっかりは我慢してくれ」
ベンチに座りながら、街を一望する。とても平凡だが、綺麗だった。
「大会も終わって、魔人化計画も成功。少々反発も起きたが、何とか争わずに話し合いで解決して一安心だったよ」
他に誰もいない展望台で、1人骨壺に語り掛ける。
「色んな事が片付いて、神に無理矢理言ってここまで来たが、無事に来れて良かった。それに、親父の母親とも話せたしな」
青年は、笑みを浮かべながら語り続ける。
「……そうだ。昔親父とこんな風に話したことがあったな、いつだったか……」
『お前が生まれてから、30年くらい経った頃じゃったかのお』
「ああ、そんなに前か……」
青年の隣にあった骨壺から、半透明の老人が現れる。
老人はベンチに腰掛け、青年と会話を続ける。
『こうして話すのも、何年振りかのお。ヴェンガドール』
「…………多分、3000年以上前だ」
青年の口調が変わる。体の芯まで届きそうな、低く、響き渡る声だ。
「まさか今になって亡霊になったのか?」
『じゃな。何とも未練がましいのお』
「いや、アンタらしいよ」
青年は鼻で笑う。
老人は、青年の方を見ながら
『なあ、ヴェンガドール。これまでの生涯、大変じゃったか?』
優しく語り掛ける。
ヴェンガドールは、フッと笑って、答える。
「なら、聞かせよう。我が、支配者としてどんな生涯を送ってきたか」
青年ヴェンガドールの口から語れるのは、異世界人が転移転生してくる世界で3000年以上君臨する、歴代最強の魔王と、その配下達の物語である。
Fin
お読みいただきありがとうございました。
これにて、『Ruler ~八天眼の魔王と異世界人が転移転生してくる世界~』、堂々完結となります!!
2年間、ありがとうございました!!
また機会がありましたら、お会いしましょう!
それでは!!