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魔族領の平和


平和とは



 魔族領 アージェスト海域 ルルイエ 



 オカマバー オールドワン クトゥルーの個室



「計画は実行前段階に入ったわ~。ゴーサインをもらえればいつでもいけるわよ~」


 クトゥルーに任せていた人族改造実験は大詰めに入っていた。


 大量に入ってきた異世界人のデータ、神達の力の断片、異次元のエネルギーによって、この短期間で急激に実験が進んだのだ。おかげで新たな種族の確立に成功、魔術への昇華も完了した。後は人族領に発動するだけでいい。


 魔王は目の前にいるクトゥルーを見ながら


「ならば、時期は魔族武闘会閉会式直後のサプライズとして行おう」

「あら~! 素敵じゃないそれ」


 クトゥルーはクスクス笑いながら同意する。


「仕込みはこちらで進めておく。クトゥルーは武闘会の準備を進めろ」

「仰せのままに」


 忠誠の姿勢を取り、魔王の命に従った。



 ・・・・・・



 魔王城の書斎に戻った魔王は、数日後に開かれる『魔族武闘会』の書類に目を通す。しっかりと記憶しているが、過信せずに確認する。


 山の様にある書類に目を通していると、扉をノックする音が聞こえる。


「失礼します」


 ノックしたのはサクラだ。


「入れ」


 魔王は一言許可をし、サクラが入って来る。


「魔族武闘会の最終確認書類です。ご確認を」

「ご苦労」


 魔王はサクラから追加の書類を受け取り、そちらにも目を通す。


「いよいよですね」

「ああ、魔族領最大のイベントの一つだからな」




 魔族武闘会



 それは10年に一度開催され、魔族領にいる者全てが参加できる祭りであり、十二魔将、七つの冠の座を手に入れられる唯一無二の大会でもある。


 トーナメント式のバトルイベントを始め、アスレチックからスポーツ、あらゆる競技と戦いに挑める大会だが、希望者は前日に行われる『魔族一斉テスト』を受けてボーダー以上の得点を取り、大会で上位に食い込めれば、十二魔将か七つの冠への挑戦権を獲得できるのだ。


 もし十二魔将の半数以上に勝てれば十二魔将に、、七つの冠の4名以上に勝てれば七つの冠に就任することができる。


 また、十二魔将達は七つの冠に、七つの冠は魔王への挑戦権獲得の機会でもある。


 例え負けたとしても、進んだ分評価され、適した場所からスカウトされる。


 その為、多くの参加者が集まり、必死になって駆け上がろうとするのだ。


 


 魔王は最後の書類にも目を通し終え、机の上に置く。


「今回はシヴァが本格的に参加するからな、どうなるか楽しみだ」

「システムトリムルティも優秀ですが、シヴァ自体も強大な力を秘めていますから。大番狂わせが起こっても不思議ではありません」


 サクラは微笑みながらシヴァへの期待を口にする。


「そうだな。後50年もすれば、七つの冠に入るかもしれんな」

「だとしたら、私もうかうかしていられませんね」

「精進するといい」


 互いにフッと笑い、微笑み合う。


「……そろそろ会場の視察のお時間ですね。すぐに向かいますか?」

「そうしよう。サクラも付いて来い」

「仰せの通りに」


 魔王は席を立ちあがり、サクラと共に特設会場の視察へ向かうのだった。



 

 ・・・・・・




 それから数日後



 ついに魔族武闘会開会式の日がやってきた。



 海上に造られた島に特設会場が用意され、島には10年に一度の祭りを見に、あらゆる大陸から多種多様の魔族が押し寄せていた。その数およそ500万。


「はい押さないで! 順番に並んで入って下さい!!」

「エリアAからCは右へ! DからGは正面! HからMは左へ向かってお進みください!!」


 ウィナーを中心としたゴールデンマッスル、メリッサ率いるインセクターの面々が警備に当たり、次々流れて来る魔族達を誘導する。


「ホテルハスターですね? でしたらエリアF-3Dになります」

「アスレチッククロニクルマウンテンはエリアMを抜けて会場D5になります!」


 エル率いるエルフ族の軍隊も案内所に展開し、受付と案内に分かれて迅速に対応し続ける。


「こちらエリア間高速馬車となります! 予約された方はこちらの受付までお越しください!」

「便はまだありますので、慌てずにお並び下さい!!」


 アバンギャル率いるスパルタンは、エリアの間を行き来する馬車を走らせる。種族ごとに分かれ、遠いエリアまで高速で送り届ける。


 海上で星の落とし子達が巨体の種族を船で誘導、案内し、上空ではシステムトリムルティが空を飛ぶ種族をドローンを使って誘導、案内していた。


 初日の移動からてんやわんやだが、本番はこれからなのだ。



 ・・・・・・



 開会式に参列する参加者たちは、既に前日の内に島へ上陸し、会場の地下控室にいた。


 開会式まであと数時間。それぞれの時間を過ごしている。



 テルモピラーの戦士、アッカードは、学園のエルフ秘書、アインハルトと共にいた。


「貴方も参加ですか、アインハルト殿」

「ええ。生徒の引率のついででしたが、今回こそ十二魔将になるつもりです。前回はS級冒険者に遅れを取りましたが、対策済みです」

「腕っぷしだけは十二魔将に匹敵する連中が多いですから……。まあ負ける気はありませんが」

「運よくトーナメントで当たったら、その時は容赦しませんよ」

「望む所です」


 互いに不敵な笑みを浮かべ、戦いへの意欲を見せた。


 その隣で、アインハルトが引率している生徒、『アイエー・ケルケ』が緊張して固まっていた。


 彼女こそ、魔王が学園で気に掛けた少女であり、実力を開花、急激に付けた、生涯が一変した生徒である。




 トラロック城総務部部長バロックは、ライオネル調査団副団長ダリダリと一緒のベンチに座っていた。


「今回は参加したのか、どういう風の吹き回しだ?」

「……うちの上司の命令ですよ。スキルアップのためとか何とか」


 ダリダリの質問に、ダルそうに答えるバロックだった。


「あのクソ上司、勝手に参加登録しやがって……」


 バロックは悪態をつきながら、大きな溜息を付いた。


「まあ仕方ないだろ。あんなんだし」

「そうですけどねえ……」


 ぼやくバロックの肩にダリダリは手を置く。


「まあ勝ち上がって直接殴れば問題無いだろ! それがいい!」

「気が重い……」


 バロックは笑うダリダリをチラ見する。


「ところで、その人間の体、まだ使うのか?」

「朽ちるまでは使うだろ?」

「うへえ」


 寄生して乗っ取った人間の体で答えるダリダリに、バロックは少し引いた。



 

 一方で、人族用控室にはマサル、茨木、ソフィア、アンシェヌ、ガイア、そこに何故かゾーンのファリハ、セスがいた。


「ここ、人族専用だったわよね?」


 アンシェヌがファリハ達に質問する。


「監視役です」

「あ、はい」


 短く、ピシャっとした冷たい返事に、アンシェヌはただ納得するしかなかった。


 その隣では、マサルがゴツゴツと隆起した筋肉を躍動させながら筋トレをしていた。その様子をウットリした目で見つめる茨木とソフィアがいる。


「茨木さん、今日の筋肉はどうかな?」

「最高……」


 以前、惚れこまれて精を極限まで絞られ続けたのだが、その犯人が茨木だ。


 今ではマサルが茨木を圧倒する程の精力を持ち、ソフィアと共に夜を満足させている。


 そんなラブラブハーレムな状況を、ガイアは下唇を噛んで見ていた。


(師匠、世の中は残酷です……)


 地獄の日々を過ごしていたガイアに取って、マサルの状況は妬ましい以外の言葉が見つからなかった。




 各々が時間を過ごしている内に、開会式まで、あと2時間となった。




 ・・・・・・




 会場の外では、大会に合わせて多数の出店がされている。



 主に料理がメインで、肉、魚、野菜、デザートなど、200以上の店が軒を連ねていた。


 その中の一店舗『フラウのケーキ』では、クレープを販売している。


 店主のマイカと、パートで来ているパシーパは順調に売り上げを伸ばしていた。


「お待たせしましたー! ミルククレープ3つでーす!」


 会計を終えたお客にクレープを渡す。


「またのご利用お待ちしております!」


 クレープを受け取った3名の客、アンジュ、ユーコ、ディーパは店の前を離れ早速食べ歩きする。


「やったあ! これ魔都でしか売って無いから食べたかったんだあ!」

「けどラッキーだったよね。開会式の抽選に当たるなんて」

「おかげでスマイル様を直に声援送れるんだからついてるう!」


 テンションが上がりまくった状態で、混雑の中を歩いて行く。


 その様子を楽しんでみていたのが、トゥーデだった。


「いいのお、いいのお。若いおなごが沢山おって」


 変態の目つきでウロウロしていたが、その後ろをチーターのトキトウが引き留める。


「いい加減にしろよ爺さん。それでさっきエルっていうエルフに〆られただろうが……!!」


 暗いオーラを漏らしながら、トゥーデに詰め寄る。


「ほほほ、あの程度でめげんよ」

「めげろ! てかもげろ!」


 そんなやり取りをしながら、開会式の会場へと向かう。


 


 ・・・・・・



 開会式の会場の控室は、十二魔将、七つの冠、魔王で分けられている。



 控室はどれも豪華絢爛な内装で、サービスも充実した部屋になっている。【空間拡張】でかなり部屋が広くなっており、シヴァ、サザーランドといった巨大な者達も余裕で入れる特別仕様だ。



 十二魔将達の控室では、一つの巨大なテーブルに、それぞれが席に着いている。


「あー! 緊張する! 開会式って何でこう緊張するんだ?!」

「うるさいぞラディオン。少しは落ち着け」


 顔を抑えながら緊張しているラディオンに、レオールが腕を組んだ状態で注意する。


「まあまあ、慣れないものは慣れませんよ。私もまだ緊張しますから」

「貴方はいい加減慣れて下さい。何年やってるんですか」

「手厳しいな、マリーナは……」


 スマイルはヘラリとした表情で頭を掻いた。


「程々の緊張感はあった方がいいじゃろう。魔族領最大の祭り、失敗はできん」

「アギパンは硬すぎんだよ。こういうのは楽しむのが一番だ」

「緊張は筋肉に無駄な硬直をもたらす!! リラックスも大事だぞ!!」


 アギパン、ヴァンダル、ビクトールはそれぞれ助言する。


「こういうのは適当でいいだろう。面倒なんだから」

「それは魔王様に失礼ですよ?」

「ひえ!?」


 悪態をつくフェニーチェだったが、ティターニアの圧力に屈し、縮こまってしまう。


 それらを見ていたシヴァは


「どれが一番いいの?」


 と素直に聞いてしまった。


「あんまり難しく考えなくてもいいわ♥」

「シヴァちゃんはお行儀よくしていればいいのよ~」

「そっか! そうする!」


 リリアーナとクトゥルーのまとめに納得し、笑顔で答えるシヴァだった。


『皆様、あと1時間で開会式です。ご準備を』


 システムトリムルティが時間を知らせ、十二魔将全員が会場に向かう準備を始めた。



 ・・・・・・



 七つの冠の控室は、空間が歪むほどの殺気に満ちていた。


「魔神皇帝への挑戦権、今回は私が頂こう」

「何を言うアモン。挑戦するのはこの私、セラフィムだけだ」

「我を忘れてもらっては困るな。今回も拳の塵にしてやろう」

「さえずるなよ矮小共。儂に勝てると思うてか」


 アモン、セラフィム、ディアーロ、サザーランドの4者が睨み合い、既に火花を散らしていた。そのせいで同じ部屋に補佐としていたアズラエルの四天王、サザーランドの龍の部下数名は気絶してしまっていた。


 一方で、アズラエルとシャイターンは高みの見物をしていた。


「勝手にやっとれ。まあ我も負ける気は毛頭無いがの」

「私は戦う術が無いからどうしようもないわねえ」

「お前は無効試合じゃろが」


 そんなやりとりをしている間に、アズラエルがサクラがいない事に気付く。


(……魔王の所か。まあ、秘書じゃからのお)



 ・・・・・・



 魔王の控室には、魔王とサクラ、補佐の侍女、執事、魔王城騎士団の面々がいた。



 魔王は椅子に座り、窓の外、島全体を見ながら茶を飲んで時間を待っていた。サクラは傍で待機し、次に動くまで待機している。


「……今回も無事に開催できたか」

「そうですね」


 上司と部下ではなく、親と子としての口調で、会話が始まる。


「大会の開催は、10年、魔族領を守れた証だ。でなければ、開催どころではないからな」

「この大会の本当の意味、ですね。以前も話してましたね」

「ああ。直前で色々とごたごたがあったが、間に合って何よりだ」


 魔王は茶を口に付け、一口飲む。


「こうして、多くの種族が混ざり合い、誰も死なずに競い合い、笑い合うことが出来る時間が存在する。これこそ、平和の証なのかもしれぬな」

「……そうだね、お父さん」


 互いに微笑み、今ここにある平和を噛みしめる。



 時計が鳴り、入場する時間を知らせる。


 魔王は茶の入ったカップを置き、マントを翻しながら席を立つ。


「行くぞサクラ」

「はい、魔王様」


 魔王とサクラは、開会式の会場へ赴くのだった。



 ・・・・・・



 人族の里



 一方で、博士の家で、大画面で大会の中継を流していた。



「これでよし。ギリギリ間に合った」


 博士は薄着で映像装置の調整をしていた。画面の前には、エイジ、ヒイラギ、マッケンを始めとした女神召喚組と、ペティ達ムウマ王国召喚組が観戦していた。


「お疲れ博士、ジュース飲む?」

「いらん。エナジードリンクをくれ」

「無いですよお、そんなの……」

「後で買っとくよ。おっと、始まるぞ」


 開会式開始の音楽が鳴り、会場が一斉に盛り上がる様子が映る。


「何だか、オリンピックみたいだな」


 飛蓮は半分興味なさげに呟く。


「ですね。凄く楽しみです!」

「私も! こんなに大掛かりなのね、オリンピック!」


 田畑中と影宮は盛り上がっていた。


「まあ、楽しみの度合いは人それぞれね」


 青子も少し興味なさげだった。


 そんな中、ペティは目を輝かせながら画面の向こうを見ていた。


「これが、祭典……! クール……!!」


 ワクワクしながら見ていると、画面に魔王が現れた。ペティは少し前に身を乗り出す。


「マアイ ネフュー マオー!」



 ・・・・・・



 魔王は、会場全体が見渡せる、ドーム型会場の一番高い場所にいた。



 目の前には所狭しと集まった魔族領の民達、その多種多様性には、圧巻の一言だった。


 

 マントを翻し、魔王は声高らかに宣言する。



「これより! 魔族武闘会を開催する!! 全力を持って挑むが良い!!!」



 会場は最大級に盛り上がり、歓声が鳴り止まない。



 こうして30日に渡る戦いの日々が、幕を切って落とされた。







お読みいただきありがとうございました。


次回、『Ruler』


次回で完結となります!


お楽しみに!!



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