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昔々の夢


むかしむかし、あるところに―――




 あれはもう何千年前だったか。




 目が覚めたら、『俺』は暗い洞窟にいた。



 意識はハッキリとしていたが、『俺』がどんな人物だったかは覚えていなかった。



 深い雨露の様な洞窟の出方も分からずにいると、一番最初に出会ったのが、『ロンドベル・秋桜・ヴェンガドール』だった。



 初対面で何を言われたか忘れてしまったが、とにかく腹の立つ事を言われて殴り合いになったのは、今でも鮮明に思い出す。



 殴り合った後、『俺』を合成魔獣として転生させたと説明を受けた。勝手な事をするなとまた殴った。




 そんな最悪な出会いだったが、何も覚えていない『俺』に外の事を教えてくれた。魔法に魔術、スキルに体術、他にも一通りの武器の使い方も教えて貰った。



 暗い洞窟の中で、時間を忘れて研鑽に研鑽を重ね、気が付けば100年が経っていた。




 100年と少しが経ったある日、ロンドベルが倒れた。



 寿命を無理矢理伸ばしていたが、限界が来たのだ。



 死の淵に立ったロンドベルは、俺を作った本当の目的を教えてくれた。



 ロンドベルは元々、この世界の住人では無い。異世界から来た人間だった。



 人類に迫る脅威を払う為に呼ばれ、彼はその責務を全うし、英雄として称えらえた。



 彼は、魔族の女性と恋に落ち、結婚して幸せの日々を送っていた。しかし、異世界から来た勇者を名乗る人物に、魔族と言う理由で妻を殺されてしまった。夫だったロンドベルも、悪戯に嬲られ、瀕死に追いやられた。



 彼は復讐を誓った。自分では倒せない事を悟り、『俺』を作った。



 しかし、『俺』との日々を過ごしている内に、『俺』を自分の復讐に巻き込むのは、良くないと思った。復讐が果たせないのは悔しいが、外に出ても問題無い様に育てることに目的を切り替えたのだ。



 その事に『俺』は何の恨み、怒りも抱かなかった。



 こうして100年、共に生きてくれた事への感謝があるからだ。そんな恩人に、負の感情をぶつける事はできない。



 『俺』の意思を伝えると、ロンドベルは笑ってくれた。



 この選択をして、お前を育てる事を選んで良かった、と。



 他に心残りは無いか、と『俺』は聞いた。



 あるとするなら、元いた世界にいる両親に、最後に一目会いたかった、と。



 『俺』は、その約束をいつか果たさせる。例え骨になったとしても連れて行くと、誓った。『俺』の父として。



 そしてしばらくして、ロンドベルは息を引き取った。





 『俺』は洞窟から出て、ロンドベルの墓を作った。



 大きな岩で作った立派な墓だ。



 墓に手を合わせ、別れを告げた。



 直後、100年間流していなかった涙を、大声で泣き叫びながら、流した。




 目一杯泣いた後、『俺』は墓から立ち去った。



 そして、人里へと降りて行ったのだ。



 

 それからは、色んな事があった。




 人に受け入れられ、共に過ごし、友を作り、恋人もできた。だが、裏切れられ、罪人として追い込まれた。



 追い込まれてから、魔族と巡り合い、復讐をするため散り散りになっていた魔族のあらゆる種族を仲間に引き入れ、軍団を作った。


 復讐を見事に果たし、魔族のための国を作ることを決意し、大陸を巡り、多くの魔族を配下にした。


 そして、魔族を統べる絶対の王、『魔王』を名乗る為に、魔王の娘と対峙した。



 何度も敗北し、何度も挑戦した。


 どれだけ惨めであろうとも、決して諦めずに挑み続けた。




 挑んでから10年、ようやく魔王の娘を倒し、勝利した。




 『俺』は、殺すのが惜しい、と言うより、惚れこんでしまったのもあって、彼女に求婚した。



 彼女は呆気に取られていたが、笑って受け入れてくれた。


 ただし、全ての大陸を制覇してからという条件付きではあったが。




 こうして『俺』は、『魔王』を名乗る資格を得たのだった。



 そして、



 そして―――



 ・・・・・・




「―――様、魔王様」


 ふと、魔王の眼が開く。


「魔王様? 公務中に居眠りですか?」


 目の前には、サクラがいた。周囲を見渡すと、魔王城の書斎だ。


 魔王はフッと笑ってしまう。


「……その様だ。らしくないな」

「珍しいですね。魔王様が居眠りなんて」


 サクラは持って来た書類を魔王に手渡す。


「お仕事は……、終えられてましたか。では持って行きますね」

「頼む」


 代わりに、机に置いてある処理が終わった書類を持って行く。


 サクラが出て行った後、魔王は窓の外を見る。


(ペティと、親父の親族と出会ったせいか、随分と懐かしい夢を見たな……)


 ペティと出会ってから、正式に魔族領に入ったことを認める謁見を先日済ませたばかりだった。ペティに残っている存在経歴を調べれば、ペティの元いた世界の座標を絞ることができるとスラーパァ達に確認できた。後は【次元跳躍】の術式を組み、必要な魔力を集めれば向かうことが出来る。


 その準備に没頭したせいか、少しばかり無理をしたのだ。おかげで居眠りをしてしまった。


 魔王は目を細め、窓から入る天からの光を全身に受ける。


(すぐにでも行きたいが、その前に色々と片付けなければな)


 『魔族武闘会』の準備、魔人化計画、他にもやる事は山積みだ。それをほったらかしにして、自身の勝手をするわけにはいかない。


 魔王は関係書類を集め、不備が無いか、起こるかもしれない不測の事態に対する予防策などを次々書類にしていく。


 

 ここまで積み上げてきた物を、ちゃんとやってきたと胸を張れるように。



 父が、『俺』を育ててくれたように。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『魔族領の平和』

お楽しみに。


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