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螺旋の牛、魔都への跳躍


街から都市へ、跳躍す



テルモピラーから出発し、馬車で移動すること3日が経った。



 まる1日小麦畑を横断し続け、野を超え山を越え、大都市と言える場所までやってきた。



 そこはヨーロッパの古都の様な街並みで、一つの城を中心として栄えているのが見受けられる。


 石造りの建物がまるで日本の大都会の様に400mから15mと、大中小それぞれの高さが建てられ、それらを繋ぐように木と石で造られたスカイウォークがかけられている。沢山かけられているが、ゴチャゴチャしておらず、街並みを損なわない様に工夫されているのが分かる。


 街を歩く魔族は、ゴブリン、コボルト、ミノタウロス、ケンタウロス、リザードマン、エルフ、巨人等、ファンタジーや神話で見る種族が多種混合で存在し、それぞれのサイズに合った通路を使っていた。


 店もそれぞれの種族の物が存在し、どこも賑わいを見せていた。



 一行はケンタウロス族、コボルト族、エルフ族が使う身長2m未満の種族が使う通路を使って走っている。


 ペティと飛蓮は窓から外の風景を眺めていた。


「すごーい!」

「ああ、凄いな」


 ペティは純粋に喜んでいたが、飛蓮は都市の発展具合に驚異すら感じていた。


(おいおいおいおい。冗談抜きで進歩し過ぎだろ……。技術力も明らかに魔族の方が上じゃねえか)


 人族領の街を国を跨ぎながら見てきたが、せいぜい中世ヨーロッパレベルの発展だった。しかし魔族領は人族領の何十倍も発展しているのが分かる。高層建築物とスカイウォークがあるのが何よりの証拠だ。


 田畑中、青子は懐かしく感じているようだったが、影宮だけは目を回している様子だった。


「あ、あんなに高い建物があるなんて……。流石異世界だわ……」

「いや、前の世界でもあったろ」


 飛蓮が指摘するが、影宮は小首を傾げる。


「? 一番高い建物は凌雲閣でしょう?」

「………………ちょっと、生年月日教えて貰っていいっすか?」


 てっきり同じ時代の人間だと思っていた飛蓮だったが、ペティ以外、大分違うことを今更知るのだった。



 ・・・・・・



 しばらくして、街の中心にある城に到着した。



 ヨーロッパにありそうな城は全長500mはあり、城壁だけでも100mはある。外周は堀が掘られ、底が見えない程深く、街から城までの距離も100mはあるように見える。城に向かう為の折り畳み式の橋も、幅40mはありそうだった。


 何もかもスケールが違う建物を目の前にして、もはや呆然とするしかない一行だった。


 馬車は城の中庭を走って、正門の前で止まった。正門も高さ10mはあり、頑丈さもかなりあるように見える。


 正門の前で鎧を着た十数名の兵士達が正門の前で整列して待機していた。兵士はゴブリン族、コボルト族、ミノタウロス族、ケンタウロス族等の様々な種族で編成されていた。


「敬礼!!」


 1名の掛け声で整列していた兵士達が一斉に敬礼し、馬車を出迎える。馬車を引いていたケンタウロス族達も敬礼していた。


 そして、馬車の扉が開き、降りるよう促される。一番最初にペティが降り、その後に続いて飛蓮達も順番に降車する。


 正門で整列していた兵士の1名がペティ達の前に一歩出て来る。


「遠路はるばるお越しいただきありがとうございます! ようこそアステリア城へ! 私、スパルタン隊員『ゴルズ・メギズ』がご案内いたします!」


 キビキビした動きで出迎え、一行を案内する。


 正門がゆっくりと開き、中へ入ると、そこは迷宮の様に入り組んでいた。


 兵士達は難なく移動しているが、無数の階段、複雑に分岐した廊下、不規則な間取り、分かる者にしか分からない構造になっており、初めて入る一行には、まさに無限迷宮そのものである。


「私から離れないでください。逸れると最悪3日は出られない可能性がありますので」


 その言葉にゾッとする飛蓮達だったが、ペティは相変わらず楽しそうだった。




 30分程歩き、一つの扉の前で止まる。


 ゴルズは扉をノックする。


「入れ」

「失礼します!」


 部屋の中にいる誰かからの許可が下り、ゴルズが扉を開ける。


 扉の向こうは、立派な書斎になっていた。仕事で必要になりそうな書類が壁の棚一杯に敷き詰められ、奥には大きな机が置かれている。


 その机に、ミノタウロスの男が座っていた。


 3mもある巨体、赤い瞳に黒の大角、茶色の毛並みに筋骨隆々の肉体、威厳のある風体、重みのある雰囲気はレオールに匹敵するものがあった。


 ミノタウロスの男は書類から顔を上げる。


「ご苦労だった。下がっていいぞ」

「は! 失礼します!」


 ゴルズは敬礼をして、部屋を後にした。


 残された一行は、ミノタウロスの男の視線に緊張していた。しかし、


「ハロー! マァイ ネーム イィズ ペティ!」


 ペティが笑顔で挨拶する。流石に4人全員の呼吸が止まる。


 数秒、空気が止まったが、ミノタウロスの男のフッと声が漏れる音で終わる。


「いや、緊張させてしまったな。楽にしていいぞ」


 そう言って立ち上がり、ペティ達の前に出て来る。


「初めまして転生者達。俺は十二魔将『ラディオン』。よろしくな」


 ラディオンは笑みを浮かべながら一行に挨拶する。最初に見た雰囲気が少し和らいだのを感じた。


「ど、どうも……」


 田畑中が恐る恐る挨拶をし、飛蓮達も小さく礼をして挨拶した。


「さて、疲れているとは思うが、早速魔都へ行くぞ!」

「え、もうですか?」


 困惑する飛蓮を余所に、ラディオンは部屋の扉へ向かう。


「なに、そんなに時間はかからん。付いて来い」


 またしても移動が始まり、目が回りそうな城内を進んでいく。その最中、


「人族領の道中、魔物は殆ど出なかったろ?」

「え? まあ、はい」


 飛蓮がたどたどしく答える。


「だろうな。モルジオナ連邦を占領してから害悪な魔物はなるべく減らしたって話だからな。成果が出てて良かったぜ」


 ラディオンは豪快に笑いながら安心している様子だった。


(……モルジオナ連邦ってこっちの人類で一番デカい国だったよな……?)


 飛蓮は『もう人類詰んでるのでは?』と思ったが、それ以上考えないことにした。



 

 十数分城内を歩き、今度は厳重に警備された扉の前までやってきた。


 幾つものシステムに守られ、簡単に通れない仕組みになっている扉を数度通り、時間を掛けて部屋へ入る事が出来た。


 そこには見た事の無い、通路の入り口の様な物が置かれていた。


 入り口の向こう側は怪しい光で見えず、不可思議な空間が広がっていた。周囲から沢山のコードが繋がれ、随時制御されているのが見て分かる。


 ファンタジーとはかけ離れた代物に、一行は思わず目を疑った。


「あの、これは……?」


 田畑中がラディオンに質問する。


「これは『転移装置』。一瞬で遠くまで行ける凄い技術だ。俺も詳しくは分からん」


 ラディオンは転移装置に近付き、頭に指を置く。


「………………問題無い。さあ、魔王城に行くぞ」


 何の説明も無いまま、ラディオンに転移装置に入るよう急かされる。


「ま、待ちなさいよ!? 本当に大丈夫なんでしょうね?!」


 青子が慌てて聞くが、


「大丈夫だ! 俺は毎日使っているからな!」

「そんな説明じゃ逆に不安よきゃあ!!?」


 ラディオンに押され、5人は次々転移装置に放り込まれた。



 転移装置の中にいたのはほんの一瞬だったが、あまりにも独特な感覚に襲われた。


 

 まるで全身が溶け、こねくり回されて成形された様な、とにかく一瞬別の何かにされた様な感覚だった。



 その一瞬の感覚を通り抜け、5人は転移装置を潜り抜けた。


 潜り抜け終わった際、着地は上手くいかず、全員転がってしまったが、無事に転移できた。


「うう、気持ち悪い……」

「何か恐ろしいぞ、この転移装置……」


 青子と飛蓮は転移装置に恐怖を覚えていたが、


「おもしろかった!」


 ペティだけはとっても楽しそうだった。


 最後にラディオンが転移装置から出て来る。


「何だ、着地に失敗したのか? まあ初めてなら仕方ないか」


 そう言ってラディオンは手を差し伸べ、


「ほら、立てるか?」

「あ、ありがとうございます」


 立つのを手助けした。


 全員を立たせ終わり、ラディオンは転移装置の部屋から一行を連れ出す。


 さっきまでいたアステリア城とは確実に内観が違い、まるで王宮の様な荘厳な通路に出てきた。


「わあ!! みてみて!!」


 そう言って窓に飛び付いたのはペティだった。飛蓮達も窓の外を覗く。


「は、え、は???」


 飛蓮は目の前に広がる光景に、もはや言葉にならなかった。



 まるでSFの未来都市を高い場所から見た光景が、目の前に広がっていたからだ。



 様々なデザインの高層ビルが立ち並び、その中に自然が混ざった街のデザインになっている。スカイウォーク、屋上に設けられた公園の様なスペース、至る所に自然が見え隠れしている隙間の有効活用、さっきまでいた街の造りをそのまま未来に持って来た様な状態に見えた。様々な種族も多数歩いており、まるで大都会のような忙しさも目に映る。しかしそれだけではなく、屋上のスペースでは、楽しそうに遊ぶ子供や、会話する若者、年配の姿も見え、温かさも感じられた。


 更に、空中には巨大な飛行船の様な物が飛んでおり、何か放送を繰り返していた。それにも関わらず、小鳥が飛び交い、蝶の群れすらも視認できた。


 まるで理想をそのまま現実化した様な街が、窓から一望できたのだ。



 影宮と田畑中は情報量の多さに眩暈を起こしかけ、飛蓮、青子はその技術力の異常な高さに茫然自失状態、そしてペティは、興奮のあまり何度もその場でジャンプしていた。


 5人の後ろにいるラディオンは、自慢げな表情で


「目の前に広がる都市こそ、魔王様が統べる魔族領の叡智!! 完成された理想郷!! 『魔都』だ!!」


 声高らかに魔都であることを説明した。


「そしてここが、お前達が目指していた『魔王城』そのものだ!!!」


 

 あまりにもイメージからかけ離れた魔王城とその城下町に、もう語彙なぞどこかへ吹っ飛んでしまった一行だった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『魔王、そして風と夢の少年』

次回で『新しき風』編、完結となります。

お楽しみに。


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