黄金の海原を進む
要塞から、黄金の海原へ
レオール達に歓迎された一行は、要塞テルモピラーの応接室に案内された。
要塞の中は石造りとなっており、壁は分厚く造られ、砲弾すら弾き返しそうな堅牢さを誇っているのが、素人目でも分かる。窓は敵を最低限見るだけ小窓しかなく、明かりは外に漏れない小さな物しか壁に設置されていない。ドアは鋼鉄で出来ており、簡単に壊せないだろう。
そんな要塞の内部を通って辿り着いた応接室は、身長4mもあるレオールが余裕で過ごせる広さがある。
内装は、インテリアとして数々の武器が飾られ、暖炉が設置されている。ちゃんとした家具はソファとテーブル位だ。
5人はレオールと対面しながら、ソファに座る。
「わーい! フカフカ!」
ペティは相変わらずの調子で、ソファで軽く跳ねていた。流石に青子が無言で静止させる。
レオールは両脇にお腹の大きくなった女性4人を傍に座らせ、背後にレオールに似た戦士達が整列させている。
戦士の1名が持って来たティーカップに入った茶を、上品に一口飲む。
「今は俺の妻達が妊娠しているため、これくらいしか出せん。許せ」
「あ、いえ。お構いなく……」
田畑中は頭を下げながら、出された茶に口を付ける。
「……美味しい」
思わず出た感想に、レオールはニッと笑う。
「そうだろう。俺の嫁が選んだ上質な逸品だ。美味いのは当然だ」
自慢げに語りながら、両脇にいる女性達を抱きかかえる。
他の3人も、恐る恐る口を付ける。
香り、味、口当たり、どれを取っても一級品の領域だ。とても飲みやすく、美味しい。
(毒は、入ってなさそうだな。一先ず安心か……)
飛蓮は警戒を解かずに茶をすする。
ペティも遅れて口をつけ、そのままグイグイ飲み干してしまった。
「お菓子もありますよ~」
そう言ってレオールの戦士『ピュロス』がペティにお菓子が詰まった鉢を渡す。中にはクッキー、チョコレート、パウンドケーキ等が入っている。
ペティは目を輝かせて
「サンクユー!」
クッキーを手に取って食べ始める。
「ヤミー!」
美味しそうに口一杯に頬張り、幸せそうに食べていく。
そんなペティを余所に、飛蓮はレオールと向き合った。
「どうしてここまで歓迎してくれるんだ?」
飛蓮の直球な質問に、レオールもまた真剣な表情で向き合う。
「それは、ムウマ王国が『親魔族派』だからだ」
「親魔族派……?」
「そうだ。人族領でも魔族に対する姿勢が国によって違う。魔族を嫌う『反魔族派』、魔族との共存を望む『親魔族派』、どちらでもない『中立派』、この3つが基本的な区分だ。そしてムウマ王国は昔からの親魔族派で通っている」
「ま、待って下さい?! じゃあ、私達が教えられた知識は殆ど嘘なんですか?!」
田畑中が慌てて質問する。
講義では、『魔族とは断交している』『人類と魔族は敵対している』と教えられた。この話が本当なら、嘘を教えられたことになる。
「向こうにいる間はどうしてもそう言わなければいけないだろうな。反魔族派の国のスパイに聞かれたら大変な事になる」
「なるほど、ムウマ王国は国交の都合上、あくまで反魔族派だというスタンスでいないといけなかったのですね」
影宮の結論に、レオールは頷く。
「親魔族派だと公言している国はまずいない。バレたら反魔族派の国際連合から何をされるか分からないからな。反魔族派に大国がいるから尚更だ」
レオールはティーカップを置き、前のめりの態勢になる。
「だがここまで来ればそんな心配はない。心から歓迎し、魔王様への謁見も保証しよう」
「っ」
飛蓮は息を飲んだ。
魔王との謁見。
強大な存在とされている魔王と対面できるのは、願ってもいないことだ。
戦う事はできなくても、どんな存在なのか知ることができるのは、非常にメリットがある。
(無理って言われる存在がどんなものか、一目見たいと思っていたところだ)
恐怖よりも圧倒的に興味が沸いている飛蓮は、隠しきれずにソワソワし始めてしまう。
レオールはソファに深く腰掛け
「まあ魔王城に行くまでまだ移動が必要だ。今日の午後にでも迎えの馬車が来る。それまで少し待っているといい」
リラックスしていくよう5人に促した。
とは言え、本当に味方か分からない相手の前でリラックスできる筈も無く(ペティは除く)、馬車が到着する3時間、緊張が続くのだった。
・・・・・・
魔族領から馬車が到着し、5人はテルモピラーから出て馬車と対面する。
「……なあ、これは馬車か?」
飛蓮は訝しげに見送りに出てきたレオールに問う。
「まあ馬車だな。お前達の言葉で言うと」
目の前にある馬車は、ケンタウロス族の兵士達が引く馬車だった。ゴリゴリのマッチョ4名で引いており、さっきまで乗っていた馬車の2倍のスケールだ。
「ここからは我々が君達を運ぼう!! よろしく!!」
爽やかな笑顔で挨拶してくるケンタウロス族達に、飛蓮は軽く引いていた。
(俺の『アキレス』より脚力強そうなんだが……)
引きつった顔をしている飛蓮を余所に、ペティはケンタウロス族に目を輝かせて周囲をグルグル回っていた。
「すごい! すごい! ホース! ケンタウロス!!」
「いい反応だ少年! 特別に背中に乗ってもいいぞ!!」
楽し気に会話をしているペティ達を、4人はただただ見ているしかできなかった。
「……無知とは時に無敵ね」
青子が感想を漏らす横で、レオールが咳払いをして注目させる。
「ここから魔王城まで先は長いが、良い物が見れる事を保証しよう」
「良い物?」
「見れば分かる」
レオールはそれだけ言い残し、迎えのケンタウロス族達に後を任せる。
「さあ皆さん、どうぞ乗って下さい!」
兵士に指示され、5人は馬車に乗り込んだ。乗り込んだのを確認し、息を合わせて発進する。
「じゃあな、異界の者達。また会おう」
レオールは手を振って、飛蓮達をテルモピラーから見送った。
馬車は人族領の馬車とは比較にならない速さで谷を走り抜ける。
しかも、揺れは殆ど無く、新幹線に乗っているような感覚だった。
馬車の中も豪華で、前の世界にいた時にテレビで見たリムジン並みの内装だ。
繋がった大きなソファ、固定された煌びやかなテーブル、外が広く見れる巨大な窓、ウェルカムドリンクまで完備されている徹底ぶりだ。
あまりの好待遇に思わず警戒してしまう飛蓮達だったが、ペティが最初から喜んで跳ねたりするおかげで、警戒も薄れてしまった。
走り始めて30分して、青々とした草原と畑が広がる平地へと出た。
道はしっかりと舗装され、振動は一切なく快適に進んでいる。人族領のインフラ整備とは比較にならない程発展しているのが分かる。
「これは凄い……。こんなにも綺麗に舗装されている道路がこの世界でもあるなんて……」
田畑中が感動していると、影宮が何かに気付いた。
「ねえ、あれは何かしら?」
影宮の視線の先、進行方向にある光景を指摘する。
地平線の先が、青々とした緑から黄金に切り替わっていた。
猛スピードで走る馬車に乗っているため、その黄金の大地の正体はすぐに分かった。
黄金の大地の正体、それは立派に育った小麦が、地平線の先まで埋め尽くしていたからだ。
どこまで見渡しても小麦畑で、風に吹かれて黄金が更に際立って輝きを見せている。
その圧倒的な光景に、5人は思わず息を飲んだ。
「これは、凄いわね……」
「あの巨人さんが言っていたのは、これの事だったのね……」
「どんだけ育てるんだよ、これ……」
青子、影宮、飛蓮は圧巻の光景に、思わず感想を零していた。田畑中は開いた口が塞がらず、ペティは初めて見る綺麗な光景に心躍らせていた。
黄金の海原を横断する道を駆け抜ける馬車に乗り、一行は新たな十二魔将が待つ城へ、連れられるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『螺旋の牛、魔都への跳躍』
お楽しみに。
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