選ばれた5人
異世界に呼ばれし5人
異世界から呼ばれた5人は、王城の応接室に通された。
そこは国で一番偉い人のいる城の部屋の一つにしては、慎ましい雰囲気の部屋だ。
5人はソファに座り、ポイティ王と面会している。
1人目は顔に青い痣のある長髪の若い女性、2人目は片足が義足の少年、3人目はくたびれた中年、4人目は真っ白な髪、赤い目をした少女、5人目は金色の短髪で色白の肌を持つ子供だ。
「えー、諸君。ようこそムウマ王国へ!」
ポイティ王は笑顔で歓迎する。
が、5人は何が起きたのかまだ完全に呑み込めていないのか、呆然としている様子だった。
声を掛けても反応が無いので、ポイティ王が困っていると、傍にいたゴンザレスが咳払いをして喋り出す。
「事態が呑み込めていないとは思いますので、私からご説明します」
ゴンザレスは5人にどうゆう状況なのかを教える。
「皆さんは我々の事情で異世界から召喚させて頂きました。異世界から召喚された際、皆様には我々には無い強力な力が備わっているはずです。大変ご迷惑なお話だとは思いますが、どうか我々の願いを聞いて頂けないでしょうか?」
深々と頭を下げ、ゴンザレスは懇願する。
それを見たくたびれた中年が
「あ、頭を上げて下さい!!」
慌てて止めようとする。
「むしろ私は感謝しています! 20年会社に奴隷の様に働かされ、言いがかりをつけられて懲戒解雇されて露頭を迷った挙句、おやじ狩りに遭って怪我と病気になって死にかけていた所をこうして助けてもらったのですから、命の恩人です!! 迷惑なんてことはありません!!」
早口で自身の経歴を喋り、異世界に召喚されたことを感謝していることを伝えた。
それにつられて、青い痣の若い女性も喋り出す。
「私も、この痣のせいで酷い差別と迫害を受けて、最後には言い掛かりをつけられて殺されました……。だから命を拾って貰えたと思っています」
白髪の少女も
「私も同じ。気味が悪いって言われて周囲に散々いじめられた挙句、両親に殺されちゃったの。こうやって呼ばれたこと、むしろ嬉しいくらい」
3人の境遇に、ポイティ王は涙が零れそうだった。
「そうかそうか……。そんなに大変な思いをしたのなら、しばらく国にいるといい。まずは疲弊した精神を休息させなさい」
ポイティ王はこういう苦労話には弱い人物だ。
自身も相当な苦労をしてきたので、気持ちが分かるのだ。
その様子を傍から見ていた義足の少年は、溜息をついて目を逸らす。
「はー……、やだね。不幸自慢なんかして。俺も結構苦労したけど、喋る気にはなれねえや」
嫌な顔をしていると、視線の先に金髪の少年が足をパタつかせて嬉しそうに遊んでいた。そんな呑気な様子に再び溜息をつく。
「随分と余裕だなお前……。これからどうなるか分からないのに……」
金髪の少年は義足の少年の方を見る。
「イット イィズ フォー サムシィング?」
「え、え」
突然の英語に困惑し、さっきまでの勢いを無くし、しどろもどろになってしまう。
金髪の少年は屈託のない笑みを浮かべて近付いて来る。
「マァイ ネーム イィズ 『ペティ』。よろしくね」
ゆっくりとした口調で自己紹介する。
「……日本語喋れるじゃん!?」
義足の少年は日本語が喋れることにツッコんだ。
「最初から日本語で喋ってくれよ……」
「ソーリー。マムの言葉、ちょっとしか、いえない」
義足の少年は言葉の意味を考える。
「………………それって、お父さんが英語で、お母さんが日本語ってこと?」
「イエス」
ペティはニコニコしながら答える。
「つまりダブルか。良い所の坊ちゃんだったんだな」
偏見が入った感想をぼやいた義足の少年に対し、ペティは首を傾げる。
「? どういう意味?」
「だから、金持ちでいい暮らしをしてたんだろうっていう意味だよ。説明させんな」
不貞腐れる義足の少年だったが、ペティは更に首を捻る。
「ボク、ずっとベッドだったから、分かんない」
ペティの言葉に、義足の少年の動きが止まる。
「……何だって?」
「ずっと、ベッド。見てたのは、マシーンと、シーリングばっかりなんだ」
英語に疎い義足の少年でも、出て来た単語の意味は分かる。
ペティがどんな生活をしていたのか、少しずつ想像できてきたが、したくなかった。もしそうなら、相当過酷な人生だったことになる。
何より、それを裏付ける証拠に気付いてしまった。
ペティの呼吸だ。
ペティの口調と呼吸の仕方が、以前聞いたことのあるリズムに似ている事に気付いてしまったのだ。
それは、病院で聞いた、人工呼吸器のリズムだ。
普通ならそんな呼吸のリズムにならない。それなのにペティは無意識に行っている。それが何よりの証明になっている。
義足の少年はその事実にきまずくなってしまう。
「あー、その。なんか、悪かったな」
「? どうして?」
「聞き返さないでくれ……」
1人気まずくなる義足の少年だった。
・・・・・・
ポイティ王との話が進み、ようやく自然に話せるようになった。
「さて、そろそろ名前を教えてもらってもいいかの?」
ポイティ王が尋ねると、最初に中年の男性が立ち上がる。
「失礼しました。私は『田畑中 正』です。よろしくお願いします」
お辞儀をして、社会人らしい礼をして挨拶する。
「『影宮 ウミ』です。よろしくお願いします」
青い痣の若い女性も自己紹介をした。
白髪の少女も、
「『漆樹 青子』よ。以後お見知りおきを」
貴族の様な仕草で自己紹介をした。
義足の少年は少しムッとした表情で、
「……『天上坂 飛蓮』。よろしく」
渋々自己紹介をする。そして最後に
「アァイ アァム 『ペティ』!」
嬉しそうに自己紹介をして、転移転生者全員の自己紹介が終わった。
ポイティ王は何度も頷きながら、全員の名前を頭の中で復唱して記憶する。
「ふむふむ。しかと名を覚えたぞ。ワシはポイティ。この国の王じゃ。よろしくのお」
にこやかに名乗り、これからの事を話し始める。
「さて、ゴンザレスの言っていた我々の願いについてなのじゃが、まずこの世界の現状について話さねばならん」
「それも、私から説明させて頂きます」
ゴンザレスは【収納】から、少し大きめの世界地図を取り出す。
「この世界は、大きな一つの大陸で成り立っています。北西にある大陸の3割が、人間の土地となっており、残りの7割が魔族の土地となっています」
地図を5人に見せながら、指を差して説明する。
「これを『人族領』、『魔族領』と分けられています。ここまではいいですか?」
飛蓮が手を挙げる。
「何でしょう飛蓮様」
「何でそんな極端な土地分けになってるんだ? あまりにも取られ過ぎだろ」
「ごもっともです。それは今から1500年前の話になりますが、少々話が脱線して長くなるので、今は割愛させて頂いてもよろしいですか?」
「あ、分かりました」
ゴンザレスの表情を見て察した飛蓮は、質問を引っ込めた。
ゴンザレスは説明を再開する。
「我が国『ムウマ王国』はここ、とても小さな国で、様々な国に囲まれています。今回、北にある『モルジオナ連邦』を中心とした国際連合からの要請で皆さんを召喚しました。その要請内容が、魔族領の統治者、魔王の討伐です」
その説明に、正、ウミ、青子の表情が固まる。飛蓮は舌打ちした。
「そんな事だと思ったよ、どうせ命を賭けて戦って来いってことだろ?」
「ですがそれは絶対に無理ですので、そんな事はさせません」
ゴンザレスの言い切りに、飛蓮は少しこけてしまう。
「させないのかよ!」
「では、何をするんですか?」
正の質問に、ゴンザレスは微笑みながら
「皆様には、魔王との謁見をお願いしたいのです」
本来の目的を話した。
「謁見、ですか?」
ウミは戸惑いながら質問する。ポイティ王が頷き
「そうじゃ。話に聞くと、魔王は好意的な者にはしっかりと話を聞くとのことじゃ。なので謁見し、魔族領の実態を調べて欲しいのじゃ」
「それが本当の目的なんだ……」
青子は膝を抱えながら納得する。
釈然としない顔をする飛蓮の隣で、ペティがワクワクしながら聞いていた。
「ファンタジーワールド……! たのしみ!」
「遊びに行くんじゃないんだぞ……」
半分呆れる飛蓮だったが、内心興味はあった。
(昔に流行った異世界ものの定番みたいな世界か。それはそれでどんなもんか気になるな)
口にはしないが、ワクワクしていないと言ったら噓になる高揚感があった。
(ここまで来たら行くほか無いか)
半ば諦め、素直に行く事を決意した。
こうして、5人の異世界人は、魔族領へ向かう事になるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『出発、魔への谷へ』
お楽しみに。
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