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プロローグ:新しき風


新しい風が吹く



 人族領 モルジオナ連邦



 の隣国 ムウマ王国



 モルジオナ連邦よりも遥かに小さい国で、面積は約20平方㎞しかない。環境は山と河に恵まれ、他国に長い事攻め込まれず、資源もそこそこある穏やかな場所だ。


 唯一問題があるとすれば、囲んでいる国との関係だろう。



 ・・・・・・



 ムウマ王国国王『ポイティ』は悩んでいた。


 隣国である大国モルジオナ連邦の元重鎮達を中心とした国際連合から、魔族領に勇者を送る様命令されたのだ。


 理由は、モルジオナ連邦が魔族に占領されたからだ。


 勇者の大量召喚を決行し、魔族領に攻め込むまでは良かったが、その後すぐに返り討ちにあいあっという間に連邦全土を掌握されてしまった。


 国際連合はこの事態を重く受け止め、すぐに異世界召喚ができる国を探した結果、ムウマ王国に白羽の矢が立ったのだ。


 ポイティ自身、異世界召喚は好きではない。むしろしたくない位だ。


 召喚する者達の事情をお構いなしにこちらに呼ぶ上に、呼んだ世界に返す事ができない理不尽を押し付ける所業はとてもじゃないが容認できない。


 しかし、ここで拒否してしまうと、国際連合に加盟している国々から関係を切られる可能性がある。そうなると国が立ち行かなくなる。


 普通なら国を選ぶが、それを理由に酷い事をするのは違うと思い、ポイティ王は悩んでいるのだ。


 王の書斎で頭を抱えて悩んでいると、側近の『ゴンザレス』が入って来た。


「王様、少しお休みなられては……」


 ポイティ王はここ数日、この件で一睡もできていなかった。おかげで顔色は悪く、眼の下にクマが出来ている状態だった。


「ゴンザレス、早く返答しなくては連合との関係が悪くなる。だから休む訳にはいかんのだ」

「ならば家臣達に議論を任せればよろしいのでは?」

「それでは議論に参加した家臣達にも責任が及ぶ。それなら私1人で悩み、全ての責任を負った方が良い」

「王様……」


 ポイティ王の意思は固く、何があっても一人で決断しようとしていた。


 そこへ、


「どうやらお困りの様だね」


 書斎の窓から、1人の女性が入って来た。


 黒いとんがり帽子とローブに身を包み、赤いロングヘアを揺らしている。


 彼女はこの国に長年付き合いのある魔女『サラン』だ。見た目30代だが、ここ100年姿が変わっていないらしい。


 ポイティ王は子供の頃から知っているため、親と同様の存在だ。


「サラン様!? いつこちらに?」

「今さっき空から。それより異世界召喚について悩んでいるそうだね?」


 ポイティ王は俯きながら頷いた。


「ええ、そうなのです。どうしても決めきれず……」


 サランは顎に手を付き、


「ならば、良い事を教えてやろう」

「良い事、ですか?」

「そうだ。お前の良心の呵責を無くせる良い方法だ」



 ・・・・・・



 数日後



 サランの助言を聞き、ポイティ王は異世界召喚を決行することにした。


 彼女の話によると、異世界召喚には『条件』を付けられるとのことだ。


 その分魔力消費が多くなるが、微々たるものなので何の問題も無いと判断した。



 召喚場所は王城の中庭、植物が溢れる庭園の真ん中で行われる事になった。


 ここなら魔力も集めやすく、見晴らしも良い為不測の事態が起きても対応できる。


 サランの監督の下、異世界召喚用の魔法陣が作成され、必要な魔力も充填された。後は起動するだけとなった。


 魔法陣の前にポイティ王、大臣、家臣達が集まり、少し離れた位置に兵士が大量に展開されている。国際連合の監視役も来て見張っている。


 ポイティ王は隣に立つサランを見る。


「では、始めてくれ」

「はい」


 サランは魔法陣の傍まで近寄り、杖を掲げる。


 魔法陣から空中に光として魔力が放出され、周囲一帯に眩くなっていく。


 そして、詠唱が始まる。



「『地の礎に門を、空の五精霊に円環を


  理の外より道を紡ぎ 


  創造の循環を標に連結せよ


  

  原初の理、不可視の根源、理外の庭、未開の英知


  願望を叶える刻をここに


 

  神の眼は届かず、無法を超えて顕現する


 

  我が意思を聞きし魂、導きの清流に乗らん


  

  ―――しかし導きは死に迫る絶対薄幸の魂のみと知れ



  我は魔を持って汝らを呼ぶ! 来たれ異界の担い手よ!!』」



 詠唱を終えると同時に、稲妻にも似た轟音と閃光が発生し、その場にいたサラン以外の人間は思わず目を手で隠してしまった。



 しばらくして、光と音が落ち着いたのに気付き、1人、また1人と目を開けていく。


 ポイティ王も手をどけて、目を開ける。


「ど、どうなった……?」


 魔法陣の方向に視線を向ける。



 サランは膝を付いて疲弊しきっていたが、魔法陣の上には、見たことが無い人影があった。



 サランはニッと笑い


「せ、成功じゃ……」


 狙い通りに行った事を喜んでいた。



 サランの付け足した『条件』、それは『どう足掻いても死ぬほどの不幸にあった者のみ召喚する』というものだ。


 理不尽、大病、莫大な不幸によって死を免れない者のみを対象に今回の召喚を行ったのだ。


 

 召喚されれば、魂から肉体を再構成されるため、病気も不幸もなくなる。これならポイティ王の良心の呵責も減らせ、召喚された者も助かるという作戦だ。



 

 こうして呼ばれたのは5名の異世界人。



 その内の1人は、



「……アイ キャン シー ザ スカイ」



 年端もいかない子供だった。






 


お読みいただきありがとうございました。


新章開幕です。


次回は『選ばれた5人』

お楽しみに。


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