終わりと始まり
戦いが終わり、新たな始まりが来る
デウス・エクス・マキナとの戦いを終え、帰還した魔王達はそれぞれの日常へと戻って行った。
魔王は仕事に視察、会議など忙しい日々、七つの冠達もそれぞれの役割をこなす日々へ戻った。
たった数日の出来事だったが、一手間違えれば魔族領に多大な損害が出る出来事だっただろう。
その出来事をほんの少し、魔王は思い出していた。
「……機械仕掛けの神、か」
独り言を呟く。
覗き見た過去には、デウス・エクス・マキナの始まりがあった。
・・・・・・
始まりは、小さな星の小さな島からだった。
幼い頃から秀才で、周囲から『天才』ともてはやされた。
周囲の期待に応えるように、あらゆる分野でずば抜けた成績を叩きだし、右に出る者は誰一人いなかった。
時は経ち、成人してからは島を飛び出し、その頭脳を存分に活かせる研究に専念した。
新たな発明を次々と生み出し、世界の常識を何度も塗り替え、世界は新たな発展を遂げた。
だが限界は来る。
年老いていく体に、頭が引っ張られていくのを感じた。
同時に、死に近付くことに恐怖したのだ。
それを回避したい一心で、肉体を捨て、機械の体へ移り変えた。
こうして永遠の命を手に入れたのだった。
もちろん、周囲もそれを望んだ。
死という概念から解放される素晴らしい発明は誰もが欲した。
しかし、それを見て、嫌悪した。
自分に群がる虫の様な塵芥の存在に、卑しい亡者の声に、吐き気を感じた。
機械の身体を手に入れても、感情は人のままだ。
損得や合理などでは測れない、拒否する感情が優先された。
その結果、自身以外の生命を全滅させた。
あんな汚らわしい物は存在してはいけない。
未来永劫、残り続けてはいけない。
この星にも、どんな世界にも、いてはいけないのだと、結論づけた。
その感情は理念となり、行動の礎となった。
そして、星のあらゆる資材を喰いつくし、宇宙へ、多次元に飛び出した。
これが、『機械仕掛けの神』の始まりである。
・・・・・・
「くだらない」
魔王は一蹴し、吐き捨てた。
(度量、精神、強度、何もかも矮小。全てを恐れ、全てを拒絶した弱者の成れの果て、神などと呼ぶには程遠い存在だ)
少しでも自身に近い存在だと期待したが、あそこまで酷い存在だったことに、失望を通り越し、怒りを覚えていた。
(我は違う。全てを受け入れ、全ての頂点に立つ覚悟がある。あらゆるモノを圧倒する絶対の強者、それが我だ)
自身のあり方を再確認し、デウス・エクス・マキナの様な哀れな道へ踏み外さまいと誓うのだった。
・・・・・・
魔王が書斎で仕事をしていると、サクラから【念話】で連絡が入る。
『失礼いたします魔王様。ご報告があって連絡させて頂きました』
「何だ?」
『先ほど、人族領から転移、転生者が魔族領への入領許可を申請してきました。いかがいたしましょうか?』
「理由は聞いたのか?」
『はい。魔王様への謁見を求めています』
「ほう」
人族側からこうやって正面から会いに来る者は珍しくない。しかし転移転生者がこうして訪ねて来るのはここ500年無かった。
珍しいこともあるものだと思いながら、
「良かろう。厳正な審査を通過した場合のみ、入領を許可しよう」
『分かりました。早速準備に取り掛かりますので、失礼いたします』
サクラからの【念話】が終わり、再び静かな時間が流れる。
それと同時に、魔王は新たな風が吹くのを感じた。
(新たな来訪者か。さて、どれほど期待するか)
心の内で淡い期待を持ちながら、来訪者の到着を待つことにした。
・・・・・・
始まりがあるモノにはいずれ終わりが来る。それが永遠に近い時でも。
しかし、新たな始まりがあるのも事実である。
始まりと終わり、終わりと始まり
それだけは、変わらないのかもしれない。
それは、魔王も例外ではないのだ。
お読みいただきありがとうございました。
今回でデウス・エクス・マキナ編は完結となります。
次回から新章へ入ります。お楽しみに。
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