機械仕掛けの中で
機械の中で眠るモノ
デウス・エクス・マキナの中枢
そこにはこじんまりとした空間があった。
魔王が余裕で入れる程の高さはあるが、物が置いてある間隔が1人用、1人だけで暮らすのに最適な距離で構成されている。
『本体』の周りに幾つもの画面型出力装置が置いてあり、そこにはノイズ混じりで外の状況が見れるようになっている。出力装置と『本体』には、大量のコードが接続されていた。
魔王は『本体』の目の前に近付き、対峙する。サクラは魔王の後ろ。
「こうして会うのは初めてか、機械のモノよ」
魔王は目を細め、デウス・エクス・マキナの『本体』を見下ろす。
「これが、敵の本体ですか……?」
サクラは敵の正体に驚いていた。
「そうだ。これが敵の本体だ」
目の前にあったのは、機械に入った生物の脳だった。
脳は液体で満ちたガラスケースに入れられ、幾つものコードが接続されていた。おそらく生命維持装置だろう。
デウス・エクス・マキナの繋いでいる画面の一つから、ノイズの様な音が聴こえ始める。
『……何故、何故、勝利できない』
ノイズから、恨みが籠った、低く唸るような声へと変わる。
『私は完成された存在。敗北するなど、あってはならない。それも、二度も……!』
「完成などされていない」
デウス・エクス・マキナの言葉を斬り捨てた。
「いちいち計測と予測を繰り返し、後手で手を打っている貴様など恐るるに足りぬわ」
『先手を打っていた! それを後手と言うつもりか?!』
「先手とは、敵に予測を与える暇もなく自身の最大の手を打つことを言うのだ。貴様がしていたのは最善の後手を打つための手段でしかない」
魔王はデウス・エクス・マキナの本体である機械を片手で掴んだ。
「それと、問答は最初からするつもりはない。早々に散ってもらおうか」
軋む音を上げながら、少しずつ破壊していく。
デウス・エクス・マキナの接続された出力装置から悲鳴が上がり、大量の火花が散り始める。
『グアアアアアアアア!?!?!? 止めろ!! 止めろオオオオオオオオオオオオオ!!!』
「我の世界に手を出した時点で、貴様の死以外で許すつもりはない」
機械はほぼ握りつぶされ、脳が入っているガラスにもヒビが入り、液体が漏れ始める。
『死ぬ! 死んでしまう!! この私が!! 機械の神となったこの私がアアアアアアアア!!!』
「貴様程度神ではない。ただの鉄の皮を被った臆病者だ」
魔王は容赦なく握りつぶし、デウス・エクス・マキナを破壊した。
機械は粉砕され、部品があちこちに散乱する。コードも引きちぎれ、使い物にならくなった。
握りつぶされた拍子に脳は床へ落下し、ただの肉塊へと変わり果てる。
魔王は床に落ちたデウス・エクス・マキナの脳を見て、指を差す。
「【着火】」
魔王の魔法で脳は燃え始め、徐々に黒い灰へと変わり、崩壊していった。魔王は灰となったデウス・エクス・マキナを見続ける。
「……哀れな奴だ」
それだけ言うと、指をパチンとならし、周辺にある画面に対して大量の【雷魔法】を放ち、一瞬で全て破壊し尽くした。結果、この空間の光は全て無くなり、真っ暗になった。
魔王はマントを翻し、背を向ける。
「行くぞ、サクラ」
「はい、魔王様」
サクラは魔王の後を付いていくが、つい後ろを振り向いてしまう。
「どうしたサクラ?」
「いえ、一体あれは何だったのか、と」
デウス・エクス・マキナの正体は生物だった。しかしその生物の正体を知ることも無く、散ってしまった。
「それに、ここで反撃して来なかったことも気になります。ここは最後の砦の筈なのに……」
「最後の抵抗ならしていた」
魔王は指を鳴らす。
周囲に捻じれが発生し、無数の渦が発生した。
「これは……」
「あらゆる事象を渦上にして捻じったエネルギー場だ。空間、次元、時間、存在、あらゆる事象に干渉している。放っておいたら我でも捻じ切られていた」
サクラは魔王の言葉にゾッとする。何も対策せずに突っ込んでいたら、凄惨な死を迎えていただろう。
「ありがとうございます」
「構わぬ。それよりも急ぐぞ。崩壊が始まりつつある」
『千里眼・投影』で外の状況を見ると、デウス・エクス・マキナの惑星が崩壊を始めていた。これだけ巨大な存在を維持する中枢が無くなった以上、起こるべくして起こったというべきだろう。
魔王は入った場所から空間の外へ出る。サクラも一緒に出て、外の状況を確認する。エネルギー炉の膜が消え、エネルギー炉内の機械が少しずつ崩れ落ちている。
「魔王様、急ぎましょう」
「ああ、だがその前に」
・・・・・・
宇宙空間で戦い続けている七つの冠達は、まだ動いている兵器達が機能停止するのに気付いた。
「なんじゃ、もう終わりか」
アズラエルは数千万の兵器達を葬り、周囲には残骸が大量に浮いている状態だった。他の冠達も似た様な状況で、鉄屑が大量に浮いていた。
「そろそろ帰ってくるかのお」
アズラエルが呑気に構えていると、デウス・エクス・マキナから、魔王とサクラが飛び出した。
「おお、良くぞ戻って来た。流石我が夫じゃ」
「当然だ。それよりもここから離れるぞ」
アズラエルは魔王の言葉の意味を少し考え、すぐに思い当たる事象を思い出す。
「……あれを使ったな?」
「ああ」
「なら退避じゃ」
その会話を聞いていたアモン達も、急いでデウス・エクス・マキナから離れる。サザーランドとシャイターンも、デウス・エクス・マキナから距離を取った。
直後、デウス・エクス・マキナの腹の中から黒い球体が現れる。
浸蝕するように出て来た球体は、周囲の物を巻き込んで、徐々に大きくなっていく。
セラフィムは振り向いてその様子を見る。
(【暗黒消滅】か。あれだけデカいとここら一帯は無に帰るな)
【暗黒消滅】は急激に巨大化し、周囲にある動かなくなった兵器達を呑み込み、開いていた異次元の穴すらも吸い込んでいく。
魔王達は遠く離れた場所から、その光景を眺めていた。
「これで後始末も済んだな」
魔王は全てが消えていく様を見ながら一仕事終えたように呟く。
「ところで魔神皇帝。奴の正体は何だったんだ?」
アモンが魔王に問う。
「大して苦戦しなかった訳だが、あれだけの生産能力を有しているならそれなりの経緯があるはずだと思うが?」
「……話しても何も面白くない、矮小なキッカケの存在だ。誇りも、志も無い、承認欲求の塊だ」
魔王はつまらなそうな表情でぼやいた。
『鑑定眼・看破』で思考、行動傾向を見抜くと同時に、対象の過去も理解できてしまう。
魔王はデウス・エクス・マキナの過去を覗き見た。それ故に、矮小と言い捨てたのだ。
魔王の背後に、元の世界に帰る為の次元の穴が開く。
「迎えだ。帰還するぞ」
そう言った魔王の背中は、どこか寂しそうなものがあった。アズラエルはそれを見て、思う所があった。
(同じ絶対強者だと思ったモノが、心底みみっちい存在だった。……対等と言える存在を期待していただけに、それなりにショックだったようじゃな……)
アズラエルは何も言わずに、魔王の後を付いていく。
サクラ達も後に続き、この世界から離脱した。
魔王達が去った後も【暗黒消滅】は肥大化し、ありとあらゆる物を吸収し続けた。そして、デウス・エクス・マキナの創った宇宙は、完全に吸収され、崩壊した。
こうして、機械仕掛けの神との戦いは終わった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『終わりと始まり』
デウス・エクス・マキナ編、最終回です。
お楽しみに。
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