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絶対魔后侵略領


魔后の拒絶のみで完結された領域、侵略



 鎧の物は気が付くと、さっきまでとは別世界に迷い込んでいた。



 そこは真っ黒な風景に囲まれ、白さばかりが目立つ場所だった。


 周囲にはあまりにも細い木々が立ち並び、子供が描いたにしてもあまりにも奇抜過ぎる動物がうろついている。足元にはひび割れた大地が広がり、硬い感触が伝わってくる。


 目線を上げると、無数の骸骨で作られた山があった。途轍もなく巨大な山で、途中十字架がいくつも刺さり、墓場を連想させる光景だった。


 その頂きに、金色に輝く豪華絢爛な椅子に座るアズラエルの姿があった。


 肩肘をついて堂々と座り、鎧の者を見下している。


「ふむ。悪くは無い、が、不十分じゃな」


 アズラエルはそう言って空に手を伸ばした。そして、



〈我は拒絶する。我は否定する。我は否認する〉



〈ここより先は虚無の果て、断絶の大地、行き止まりの空、虚構の海、全ては我の領域なり〉



〈我が認めぬ者は屍となれ。無意味こそが許される。我が足元の踏み台のみが存在意義なり〉



 詠唱を繰り出し、空が歪む。


 歪みから空に海が広がり、鏡映しの様に海と大地が共存し始めた。海には月が沈み、光が大地に降り注いでいる。


 そして、空の海に巨大な鯨の影が現れた。


 一匹だけではなく、海一面に大量の鯨が泳ぎ始めたのだ。


 それを歓迎するかのように、周囲にいる動物モドキ達が騒ぎ出した。



 鎧の者は身構えるが、いつまでも襲って来ない生物たちに困惑している。


 アズラエルはほくそ笑みながら、


「安心しろ。もうすぐ余興は終わる」


 そして、空に伸ばしていた手をゆっくりと下ろし始める。


「これだけ用意したのだ、ちょっとは楽しませてみせよ」


 空の海から、鯨が飛び跳ねた。


 鯨は大地にいる鎧の者に向かって弧を描くようにして仰け反りながら接近してくる。


 鎧の者は直撃すると察知し、高速で鯨の進行方向から見て横に移動する。気味の悪い木々を通り抜け、鯨と接触しない場所まで逃げてみせる。


 その直後、鯨が大地に接触する。


 接触したのと同時に、大地が震え、波打つようにして抉られる。その余波で周囲に衝撃波が襲い掛かる。


 距離を取った鎧の者は地面ごと吹き飛ばされ、数回転がって態勢を立て直す。


 鯨は空へ飛び込み、巨大な水飛沫を上げる。


 飛沫は大雨となって大地に降り注いだ。大地に染み込むと、そこから真っ黒な液体が噴き出した。その液体は空中で形を作り、手となって鎧の者に襲い掛かる。


 鎧の者は次々と襲い掛かる手を剣で斬り落とし防いで見せる。無数に溢れかえる手の洪水に限界を感じたのか、その場から離れ、安全な場所を探して移動を始める。


「逃がすものか」


 アズラエルは鎧の者に指を差す。


 それを合図に、鯨達が断続的に空から飛び跳ねる。鎧の者に向かって飛び跳ねる巨体は、次々と大地へ到達する。遠くから見ればゆっくり落ちてるように見えるが、その速度はゆうにマッハを超えている。それが何度も大地に落ちれば、地面にいる者はひとたまりもないのは想像に難しくない。


 鎧の者は何とか躱し、少ない足場を蹴って飛び回る。衝撃で宙に浮いた岩を蹴り、別の岩へと飛び移りながら回避していく。


 一匹の鯨が接近し、足場にしていた岩ごと削り取り、徐々に鎧の者と距離を詰める。そして、鯨と掠る程度に左腕が接触してしまった。


 直後、左腕が紙吹雪の様に崩壊し、空中に霧散した。


 慌てて押さえるが、出血は無く、断面は真っ黒な空洞だけがあった。そのままバランスを崩し、宙に浮いてしまう。


 だが、大地に落ちることは無く、宙に浮いたまま止まってしまった。


 鎧の者が辺りを見渡すと、急に辺りが暗くなる。そして身動きが取れなくなり始め、窮屈になっていく。


 鎧の者は浮いているのではなく、何か挟まれている事に気が付いた。その正体は、


「わらわの胸の中で死ねるのだ。幸福に思え」


 アズラエルの谷間だった。


 そのままプチプチと潰していき、鎧の者は何とか脱出しようと這い出ようとする。下半身が潰れ、今にも引きちぎれそうだが、何とか腕だけ出た。


「そうだそうだ。この剣は貰っていくぞ。前から苦労していたからな」


 まるで玩具に付いたちゃちな武器を取るように剣を取り上げ、【収納空間】に入れてしまった。


 鎧の者は他に抵抗する手立てが無くなったのを自覚し、そのまま潰されてしまった。


 完全に潰れたのを確認し、谷間に指を入れ、残骸を谷間から掻きだした。そのまま自身の領域にばらまき、無に返した。


「一体倒すのにはちと大掛かり過ぎたが、まあ試験運用ができたから良しとしようかの」


 領域を解除しようとした時、アズラエルは別の存在を感じ取った。


 この領域では、自分以外の存在がいる場合、それらを感じ取ることが出来るのだ。


 アズラエルはゆっくりと手を伸ばし、『それ』を掴み取る。ゆっくりと手を開き、掴んだ『それ』を確認する。


「……なるほどのお。これが今回の騒動の始まりと言う訳か」


 アズラエルは『それ』を握りつぶす。


(魔王にすぐに伝えるとするかの)


 領域を解除し、元の世界を肯定する。


 自分の生まれた世界、元いた場所へと帰還するのだった。



 ・・・・・・



 ザバファール大陸付近海域



「まあまあ、これは大変だわあ」


 シャイターンの分身体が見たのは、海全体に群れを成す魔獣で溢れていた。


 等級はバラバラだが、中には災害級も見える。このまま行けばザバファール大陸の沿岸部分は壊滅的な被害を受けるだろう。


「このままじゃあいけないわあ。ここは私が頑張らないとお」


 頑張るポーズを取り、シャイターンが動き出した。








お読みいただきありがとうございました。


次回は『胎内回帰・聖誕の地』

お楽しみに。


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