4人目 ガイア・ヤマダ Ⅰ
全力系残念少年
「俺は世界最強の男になる!!」
スラーパァの目の前に立つ少年『ガイア・ヤマダ』は声高らかに宣言した。
アホみたいな宣言に何言ってるんだこいつといった軽蔑した目で見つめていた。
「……うん、具体的に教えて」
「こう拳でバーン! 蹴りがシュバババ! で凄いのがドーン! 的な! あれが出来るようになりたい!」
目をキラキラさせながら自分の憧れを語る。
「あー、はいはいはい。これでどーぞ」
何となく理解したスラーパァは適当に力を与える。ガイアは身体を動かして感覚を確かめる。
「すっげえ……! これなら世界最強になれる!!」
「そう、良かったねえ」
魔王より強い力を与えようとしても扱いきれずに魂が崩壊しかねなかったので諦めている。なのでこう言った手合いは適当に十二魔将並みの強さを与えて送っている。
魔王との取り決めで必要な説明をし、転生を始めた。
「ありがとう神様! 俺向こうで最強になるよ!!」
「おーう頑張れ」
気だるそうに返事をして、ガイア・ヤマダは異世界転生をした。
・・・・・
「魔王勝負だ!!!」
謁見の間に到着したガイアは早々に挑戦を申し込んだ。
「よかろう」
魔王はそれに即答する。それを横で聞いていたサクラがスライドしながら魔王に近付き耳打ちする。
(よろしいのですか魔王様? 確かに強い力を感じますが、相手にはならないかと……)
「受けた挑戦を無下にするほど我の器は小さくない。むしろよく果敢に向かって来たと褒めてやりたいくらいだ」
ここ1000年近く全く見ず知らずの者が真っ直ぐな瞳で挑戦してくる事がなかったので、嬉しく思っていた。
サクラはほんの少し嬉しそうな表情を見て、小さく溜息をついた。
「分かりました。魔王城の訓練場で行ってください」
「分かっている」
魔王は玉座から立ち上がり、マントを翻した。
「付いて来い」
一言そう言って謁見の間の扉を開け放ち、訓練場へ向かった。ガイアはその後を追う。
・・・・・
魔王城 訓練場
魔王は【装備変更】で格闘用装備に切り替え、軽く身体を動かす。ガイアも準備運動を行い、筋肉の伸びを良くする。
数分程動き、良い感じに身体が温まってきたタイミングで向き合った。
「今回は殺し合いではなく試合という形式で行う。ルールは格闘。先に気絶した方が負けだ。いいな?」
「それでいいぜ」
ガイアは右手と右足を出し、左手を腰へ、足幅を深く広げる。呼吸を整え表情が真剣になっていく。
「ほう、古式武術か。悪くない」
魔王もまた、両手を前に構え、5mもある巨体で素早くステップを踏む。
「来い。初撃は譲ってやろう」
「なら遠慮なく……!」
ガイアは一気に駆け出し、ものの数歩で時速200㎞を超えてみせた。
「(これが神様の力! これなら!)」
スピードを乗せて跳躍し魔王の顔面目掛けて蹴りを放った。目にも止まらぬ勢いで頭部側面寸前まで蹴りが接近する。
「(入った!!)」
そう思った瞬間、魔王の姿が消えた。
見失った魔王を視線を動かして探そうとした瞬間、股に衝撃が走った。
魔王の拳がガイアの股に直撃したのだ。
空中で上段蹴りの態勢を取っていたため股が大きく開いた状態だった。魔王は当たる直前にしゃがみ、ガイアの股間に右ストレートを叩き込んだのだ。
魔王の力で放たれた拳が生半可な威力な訳が無く、ガイアは股を中心にパアン!! という破裂音を上げて粉砕された。
・・・・・
「……はっ?!!」
ガイアが目を覚ますと訓練場で横になっていた。視線の先には青空が見える。
「起きたか」
身体を起こすと、魔王が石の塊に拳を叩き込んでいた。所謂打ち込みだ。
「既に2時間寝ていたが、まだやるか?」
「…………止めておくよ。何故か勝てる気がしない」
「そうか」
魔王は打ち込みを止め、ガイアの前に立つ。
「初撃を入れられるのを良い事に大振りが過ぎたのがお前の敗因だ。もっと慎重に攻撃すべきだったな」
「口車に乗せられた訳か。いや、それ以前に実力差を見誤ったか」
さっきまでの無邪気な表情が曇る。
「どれにせよ、まだまだ魔王には勝てないって事は確かだ。そうと分かれば修行だな!!」
勝手に自己完結し、勢い良く立ち上がった。
「俺、もっと強くなるよ! そして次は勝つ!!」
魔王に指を差して声高らかに宣言した。笑顔で自信に満ち溢れた表情をしている。
魔王も口元で笑みを作り、
「そうか。楽しみに待っているぞ」
久し振りに無鉄砲で面白い輩が来たと思いながら約束するのだった。
「いい雰囲気の所申し訳ないのですが、私とも軽くお相手してもらいますよ」
そう言って訓練場に入って来たのは、格闘用のスポーツウェアを着たサクラだった。
身体を軽く伸ばしながらガイアの前に立つ。
「魔王様と対等に戦いたいのなら、まず『七つの冠』である私を倒してからです」
サクラは笑顔で言っているが、魔王はその表情の裏に黒い物を感じ取っていた。ガイアはそんな事にも気付かず、
「いいぜ! 超える壁が多いほど燃えるってもんだぜ!」
熱血馬鹿みたいな発言をして構える。
「魔王様。失礼を承知でお願い申し上げます。今この場だけ、審判をして頂けませんでしょうか?」
サクラは魔王の前で跪き、懇願した。
「……良かろう。我自ら審判を務めてやろう。存分に戦うがよい」
「ありがたき幸せ」
サクラは立ち上がってガイアと対峙する。構えを取らず、両手をぶら下げた状態だ。
「? どうした? 早く構えろよ」
ガイアはただ立っている状態のサクラに声を掛ける。
「ご心配なく。これが私の戦闘スタイルですので」
ユラユラ小さく揺れながら立ち続ける。ガイアはその動きに不気味さを感じながら構え直す。
魔王は両者が戦闘態勢に入ったのを確認し手を天に上げた。
「それでは……、始め!!!」
手を振り下ろし、試合開始の合図を出す。
ガイアは手を下ろしたのと同時に一気に間合いを詰める。
「(今度はいきなり大振りせずに軽い攻撃で先制しつつ様子見を……!)」
パァアアアン!!!!! と、破裂音にも近い衝撃音がガイアを襲った。
思考していた意識が一瞬で途切れ、まるで丸かじりして食べ終えたリンゴの芯の様な形に潰れた状態で宙を舞って床に落下し、潰れた。
サクラは最初にいた位置からガイアの吹き飛んだ地点を過ぎた場所にいた。
今の一瞬でサクラは『ビンタ』だけでガイアを打ちのめした。
脱力から瞬間的に力を加え、まるで鞭の様に平手打ちを立て続けに打ち込んだのだ。
サクラは息をゆっくりと吐き出し、呼吸を整えた。
「やり過ぎだ」
「魔王様に言われたくはありません」
魔王はガイアに【復元】をかけ元通りに直した。本人は完全に伸びている。
「ガイアの態度が気に入らなかったか?」
魔王の質問に身体を少しだけ震わせた。
「それ以外に何が?」
「我を思って怒ってくれるのはいいが、感情的過ぎる。もう少し冷静になれ」
「…………お見苦しい所をお見せし申し訳ございません。次から気を付けます」
サクラは渋々謝罪した。
「頼むぞ。こう言った輩はこれからも増えそうだしな」
「はい」
短く返事をし、サクラは訓練場から出ようとする。
「待てサクラ」
それを魔王が制止した。
「何でしょうか?」
「久し振りにスパーリングでもどうだ? 折角その格好になったのだから丁度良かろう」
少し不貞腐れていたサクラの表情が明るくなった。
「……はい!」
こうしてガイアが目覚めるまで、魔王とサクラは楽しくスパーリングをするのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『4人目 ガイア・ヤマダ Ⅱ』
お楽しみに。
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