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3人目 ジャン・ボルディコフ Ⅰ


彼はそんな事は望まなかった。



「どうして私なんだ?!」



 男はスラーパァに掴みかかろうと迫った。


 しかしスラーパァに手が届くはずもなく、まるで一時停止したかのように動作の途中で止まってしまった。


「……いきなり掴み掛かろうとするなんて、感心しないね」


 スラーパァは不満そうな表情で男を見る。


「ジャン・ボルディコフ。男。年齢38歳。職業軍人。死因は絞首、処刑されてここへやってきた。……君の人生は不幸だったと思うけど?」


 何が不満なのか理解できないと言った感じでジャンに近付く。


「私の人生を、勝手に評価しないで頂きたい……!!」


 ジャンは掴み掛かる直前の態勢のまま喋る。


「私は、誇りある軍人として職務を全うしてきました……。国のため、国民のために、敵国と懸命に戦い続けました。ですが、私の国は敗北し、私は戦犯として処刑された。私が守ってきた国民に罵倒されながら……」


「じゃあ不幸じゃないか」


 スラーパァは呆れた溜息を吐きながら結論を言う。


「私の人生はどうでもいい! 問題は、どうして私に千載一遇のチャンスを与えたのかという事だ!!」


 ジャンは怒りの表情で叫んだ。スラーパァを睨み、かなり興奮しているのが分かる。


「こんな機会を受けていいのは、私が理不尽に殺した敵国の民間人であるべきだ! 敵国の民というたったそれだけの理由で、盲目的に殺された彼らが救われるべきなのだ!! それを、私が受けていいはずがない……!!」


 怒りから辛さのある表情へと変わる。


「最後の時に思ったのだ。彼らは殺される恐怖をこんなにも受けていたのかと、どれだけ辛い思いをして死んでいったのかと。私は後悔した。そして、死ぬ事を受け入れた……。それなのに……」


 俯き、黙ってしまった。


 彼は今までの行いを後悔し、その罪を死として受け入れた。なのに生き返るチャンスを与えられれば憤りを感じるのも無理は無い。


「あっそ、でもこれ決定事項だから」


 しかし神族であるスラーパァにはそんな事は関係無い。


「クジ引きで引いた結果はもう元には戻せない。それが当たりだろうがハズレだろうが結果は結果。事実として確定し変更はできないのさ」


 さっきまでの独白なぞ最初から聞いてはいない。星の数ほど存在する矮小な生命に一々気を掛ける暇など無いからだ。


「とりあえず異世界へ行くのは確定だから、死にたいなら向こうに着いてから勝手に死んでよ。生きろなんて言葉、死にたい奴に掛ける程の善性は僕には無いからね」


「……そうか。なら、そうする」


 ジャンは俯いたままスラーパァに答えた。



 ・・・・・



 ジャンとスラーパァの会話が終わった後、スラーパァは魔王に今回のジャンについて報告していた。


 スラーパァの領域を占領した魔王の領域で対面して報告を行っている。


「てなわけで、向こうに着いた早々自殺するみたいですよ」


「ふむ……」


 魔王はジャンの経歴に目を通した。


「死ねば許されるなぞ本気で思っているとは、短絡的な奴だ」


「人間にとってはそれが一番腑に落ちるんじゃないですか? どっかの世界で目には目を歯には歯をって言ってるくらいですし、死には死をって」


「妄言だな。罪を背負って勝手に死ぬのは現実からの逃亡に過ぎない。それを美徳だと勝手に思い込んでるだけだ」


「なるほど」


 少し雑談をして、ジャンの対応をどうするか決める。


「この人間、自殺させるつもりはない」


「どうするんです?」


「本気で罪を償いたいなら生きて償ってもらう」


 


「ジャン・ボルディコフは、地底領へ直接転移だ」



 ・・・・・



 ジャンが次に目覚めた時には、巨大な洞窟の中にいた。


 鍾乳洞の様に尖った岩が大量にぶら下がり、地面はゴツゴツとした岩場ばかりだ。


 周囲を見渡し、ゆっくりと立ち上がる。


「ここは、どこだ……? 随分と蒸し暑いが……」


 数歩歩いて進んでいると、目の前に何か巨大な物が落下し、凄まじい衝撃波が襲い掛かった。


「うわあ?!!」


 衝撃波に揉まれて転倒し、何回か転がり停止する。落ちて来た物の方へ視線を向けると、そこには巨大な悪魔の様な生物がいた。


 人型ではあるが、身長10mはあり、背中に蝙蝠の様な翼を生やし、頭には大きな角があった。鼻息を荒げながら、ジャンを見下している。


 ジャンは見た事の無い生物に恐怖を覚え、後退りした。


「ジャン・ボルディコフだな?」


 巨大な怪物の肩にまた別の怪物がいた。


 顔に一切の毛は無く、眉毛も睫毛も無い。あるのは禍々しい大角と黄色一色の眼、顎の付け根まで裂け口、スリムで華奢なな肉体に張り付く漆黒のスーツ、鋭く尖った爪を強調する黒い皮手袋、黒い光沢を放つ革靴で身を包んでいた。


「お前の事情は聴いている。死んで償いたいらしいな」


 聞いていた魔王と大分容姿が違うが、とりあえず返答することにした。


「……そうだ」


「私は大悪魔アモン。魔王の命により貴様に死よりも最適な償いをさせてやろう」

 





お読みいただきありがとうございました。


次回は『3人目 ジャン・ボルディコフ Ⅱ』

お楽しみに。


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