各所の反応と初依頼!
「ギルドマスター、報告です。いい報告と悪い報告がありますが、どちらから聞きますか?」
ミーナがギルドマスター室に行き、ギルドマスターに問いかける。
「いつもどおり良い方から聞こう」
悪い報告も有ると聞いて、顔をしかめながら、ギルドマスターが答える。
「今日登録した、イチノセサトル。という人ですが、どうやら多数の属性魔法にくわえ空間魔法を使えるようです。
今日、訓練場で空間収納と転移魔法を発動させたのを確認しました」
「ほう」
空間収納が出来る冒険者というのは貴重だ。魔物の巣の殲滅等、大きな仕事ともなれば、物資の運搬に駆り出されるだろうし、転移が使えるとなれば、緊急時に重宝されるため、何かと優遇される。
「悪い方の報告ですが」
ミーナは、2歩後ろに下がり、ギルドマスターがコーヒーをすすろうとした瞬間に口を開く。
「収納容量は背嚢一個分、転移距離は10センチでした」
「ぶっ! げっほげほ……」
多分吹くだろうというミーナの予想はあたり、2歩後ろに下がった事で吹き出されたコーヒーを見事に回避する。
「国への報告と各種優遇措置はどうしましょうか?」
「……、一応規則だし報告しとけ。優遇なぁ……、規則上はしなきゃならないが、使えるうちに入るか? ソレ……」
大きくため息をついて、頭を抱えるギルドマスターだった。
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「陛下、空間魔法を使える者が現れたそうですよ」
「何!?」
国としても空間魔法の使い手というのは喉から手が出るほどほしい。
王の頭の中で、国のために働いてもらうにはどうするか、いくつもの策が駆け巡る。
「……ただ、収納容量は背嚢一つ分、転移距離は10センチだそうですが」
そしてその駆け巡った策はすべて耳から出ていった。
「……。なぁ、ソレって、もしかせんでもあの男じゃないのか?」
「ご明察です。他にも多様な属性の魔法を発動させることに成功したようですが。
ノロノロ飛ぶ火の矢に、爪楊枝サイズの氷の矢、そよ風のウインドカッターに、身長10センチのゴーレムと将来有望なようですよ?」
「放っておけ。それが普通の魔法使いなら、ベタな所でいけば白金貨を山と積み上げ、貴族の美姫を用意してでも……なのだがなぁ……。
訓練してスキルを揃えれば超一級の魔法使いになるだろうし……普通ならだが。
ともあれ……、空間魔法を使えるヤツなどおらんかった、よいな?」
「御意……」
「……、何でこんなに残念なんじゃろうなぁ、あの男は……」
「無芸大食なんていうスキルさえなければ、皆が羨むほどの給金と、そこそこの地位が約束されるんですけどね……。
魔法制御に始まる各種魔法補助スキルさえあれば……」
「言うな……、詮無いことだ」
王と宰相は、示し合わせたように同じタイミングで大きなため息をついた。
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訓練を終え、時刻はすでに夕方。
一仕事終えた冒険者たちがギルドに帰ってきて報酬を受け取り、三々五々に散っていく。
そんなギルドが活気づく時間に、ギルドの酒場にはクギを打つ軽快な音が響き渡っていた。
まぁ、音の発生源は俺なんだけどね。
宿の手配もなんにもしていなかったので、アルバイトするから仮眠室に一晩泊めてくれと言った所、依頼として冒険者の喧嘩で壊れた椅子やテーブルの修理を頼まれた。
これでちゃんと報酬と依頼達成実績がもらえるらしい。仮眠室のベッドのレンタルは報酬に含まれるそうです。
あ、例の懲罰クエストについての依頼もしたし、俺に絡んできた冒険者から徴収した罰金もきっちりいただきました。
この罰金って相当厳しいらしくて、払えないなら装備や、なんなら身柄すら売り飛ばしてでも払わせるという、恐ろしいシステムだった。
それだけお客になる一般人を大事にしているのかそれとも、そこまで締め付けないと冒険者に歯止めがかからないのか。
ともあれ、もらった金額は金貨5枚。日本円換算だと50万ぐらい……かな?
ひとまず空間収納行きにしておいた。スられてもつまらないし。
「うまいもんだなぁ、『器用な指先』とかのスキルも無いのに。まぁスキルが無くても出来るっていう好例だよな」
ひとまず手持ちになかったのこぎりだけ借りて、クギと木材もあったので椅子から修理を始める。
と言っても、折れた足を切って、新しい足を継ぎ足して、添え木を2方向に当ててクギで固定するだけって簡単な修理だけど。
とりあえず椅子として使えれば見た目はブサイクで良いって話だし。
仕上げはガタツキをチェックして端材を足したり切ったりして調整して終わり。ちゃんと座面のレベル(水平)もチェックしてますよ!
……まぁそもそもの問題として床のレベルが出てなかったけど。微妙に傾いてるよここの床……。
水洗するのに水切りレベルなのかね? 出入り口が一番低いみたいだし……。
違うか……。
「まぁこれぐらいはねぇ……」
「俺がやったら10本に7本は途中で曲がって1回は自分の手を叩くのに。っていうか、3打でまっすぐ根本まで入るのがすげぇわ」
コンコンタンと、最後の一打は木材と一緒に叩くので音が変わる。
俺のやり方としては、一打目で手を離しても倒れない程度に打ち込み、二打目で三分の一から半分ほど、ある程度しっかり打ち込み、三打目で一気に打ち込むのを意識してる。
「はい、これは完成と次は……足の取れたテーブルかぁ……。これは抜けてるだけだから、クギで固定し直せば終わりかな……?」
ここの酒場の物って壊れる前提の安物な気がするなぁ。装飾とかほとんど無いし、クギで雑に固定してある程度だし。
よくある丸テーブルで中央に足が一本ついているタイプなのだが、木が組んであったり、木クギだったりすることが無く、普通に金属のクギだし、なんならハンマーでどついたあとが天板にクッキリ残ってる。
天板は一枚板ではなく、3枚の板を並べて腕に固定していたようで、バラバラだ。
まず最初に、クギを裏から叩いてある程度頭を出し、釘抜きで引っこ抜く。頭がもげた物はニッパで掴んでこねるように引っこ抜く。
次に、無駄に傷まないようにボロ布を床に敷き、その上に天板を裏返して並べ外れた足を乗せ、足から4本でた腕にクギを打ち込んで固定してから表を向ける。
それから受付でインクと糸を借りて、冒険者2人にちょっとだけ手伝ってもらい、インクをつけた糸を張り、パチンと弾いて腕の位置にマーキングをし、表からクギをどんどん打ち込む。
前にクギを打ち込まれていた所からはずらしておき、クギを抜いた跡は簡単に紙ヤスリで処理する。あってよかったサンドペーパー。……使いかけのラスト1枚だけど。
あ、サンドペーパーになるような魔物素材もあるらしいです。鮫肌みたいなザラッザラの魔物皮らしいけど。
そんな感じで破損レベルが修理できる程度の物を修理して、掃除まで終わらせてから受付嬢のミーナさんに確認してもらい、依頼完了の手続きを行う。
「お疲れ様です、いい仕事ですね」
「まぁこの程度ならどうにか。後は修理まで出来ないまでも、屋根裏の雨漏りや木材の腐敗が無いかの点検とかなら出来ますね」
「あぁ……そのうちお願いするかもしれません。本職の人にやってもらうと良いお値段するんですよね。なにはともあれコレで依頼は完了です。これ、報酬です」
と、銅貨1枚と酒場の定食メニューの無料チケットを2枚もらう。
この依頼の報酬は『今夜仮眠室で寝る権利』と『酒場で食事2回無料』と『銅貨1枚』
二回というのは、今夜と明日の朝の分だ。残念ながら酒はつかないらしい。
「それじゃあさっさと食べて寝ようかな……」
チケットを使って定食メニューを頼むと、さすが対冒険者という豪快なメニューで、魔物肉らしいごつい、もはや肉塊とも呼べるレベルのステーキと、サラダ、そこそこ硬いパン、スープが出てきた。
味付けは濃く、ジャンクフードを思い出す感じだった。
……無芸大食スキルのおかげか、残さず全部食べられました。前はこんなに食えなかったのになぁ……。
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<<学生さんの会話の一幕>>
「結局今日は訓練と称した鬼ごっこばっかりだったな……」
「逃走術とかそのへんのスキルが生えるまでやるって言ってたな。
基本的に魔王は縄張りから出てこないヤツが多いから、勝てないと判断したとき、逃げる技能が絶対に必要だそうだ」
「それよりせっかくファンタジーなんだから魔法使いてぇ」
「まぁ、使う気になればすぐ使えるハズだ。スキルレベル分の魔法の使い方は頭にあるだろ?」
「あるなぁ、俺だと初歩の回復系か」
「この世界の魔法はスキルレベルを上げると決まった魔法が解禁されていくタイプらしい。
アレンジはある程度効くみたいだけど」
「ほほう?」
「っていっても、飛翔速度であったり、防御魔法の形状であったりその程度みたいだけどな」
「なるほど」
「ただスキルが無くても効率考えなきゃ無理やり使えるし、スキルカテゴリに属さない魔法っていうのもあるらしい。身体強化もそうらしいな」
「夢が広がる話だな。さて、日がな一日走り回ってくたびれたしおれは寝るかな」
「おう、そうしろ、俺は情報収集逝ってくる」
「その言い回しは古いわ!」
今回も最後までお読みいただいてありがとうございます。
今日は17時にもう一話投稿します。
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