甲級冒険者と対決
昇級試験当日……。
昨日は森での訓練を終えてから、試験に向けて消耗品の準備をしたり、改めてリリィとヘレンの種族特性に新しいのが生えてないか確かめたり、まぁ色々してました。
スキルの調査はミーナさんにお願いしました。鑑定についてはスキルじゃなくて魔法だそうで。
曰く、鑑定魔法は受付嬢の嗜みなのだとか。
よくラノベにあるように鑑定されると不快感が……、とかそういうのは無い。
ただ、不快感とかは無いにせよ、露骨に結構でかい魔法陣が出るんでこっそり鑑定とかはできないらしい。
顔も当然、昔エルフさんにきっちり治してもらいました。おかげで傷痕一つ無い状態に復帰。昔エルフの魔法すごい。
あの子が言うには魔力は食うけどそんなに難しい魔法でもないとか。ベテラン組に視線を向けたらすごい勢いで首を横に振ってたけど。
なお、結局ハゲは治らなかった。生えて来るまで当分ヅラは手放せないようです。仮面もなぁ、状態異常耐性があるのを考えると手放せないのよね。
スキル的に俺の状態異常耐性ガバガバだし……。
で、今日は試験を受けに冒険者ギルドに来たわけなんだけど。
「へー、あんたが試験受けるってパーティ? 聞いたよー、スキル無しのヒモなんだって?」
見慣れない女冒険者に絡まれました。軽装で腰にはショートソード。目利きは出来ないけど、なんとなく装備は高価そうに見える。
まぁ、ヒモって言われると否定できん。
「おとーさんを悪く言わないで」
「サトルさんはスキルは一個しか無いけど、ヒモなんかじゃない!」
俺をかばうように前にでるリリィとヘレン。
「くすくす、女の子にかばわれて、恥ずかしくないのー? ねぇねぇ?」
それを気にした様子もなくそういう女冒険者の後ろに、ギルマスが現れる。
「コイツが試験を担当するシンディだ。揃ってるみたいだし早速訓練場に行くけど、大丈夫かい?」
「大丈夫です」
頷いて、ギルマスについて訓練場へ。
酒場に居た冒険者は……、試験結果に賭けでもするんだろうか? 8割ほどが後ろをぞろぞろとついてくる。
聞いてみた所、やはり賭けをやるらしく、勝敗から俺達が何秒持ちこたえられるかまで結構細かくあるらしい。
さて……、頑張ろうかな。
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サトル達が三人ならんで甲級冒険者のシンディと対峙する。
ワシらは離れた所からその様子を眺める。賭けは当然、サトル達のパーティの勝ちに賭けた。
「ルールは実戦形式だけど、使う武器は刃引きのモン使ってもらうよ。まぁ降参するか戦闘不能になるまでだね。
殺しは無しだが何でもありだ。武器はここにある武器なら好きなの使っていいよ」
「準備が出来たらかかってきなよ。ヒモ男くんがどこまでやれるか試してあげるよ」
小馬鹿にしたようにクスクスと笑うシンディ、ソレを見て心底不快そうな表情を隠そうともしないのはリリィか。
腰の剣を抜こうともしないあたり余裕たっぷりじゃの。
「準備していいんですか?」
「逆にさー、少々強化を積んだぐらいで勝てると思ってるのー?」
「準備中に攻撃してきたりとかしません?」
「別にそんなセコいマネしないよ。存分に準備しなよ」
その言葉を聞いて、まず最初にヘレンが姿を消す。
何度かこの手の『鼻っ柱を折る』ための試験はみたが、いつもこうじゃの。
だいたい、丁級じゃ支援魔法込みで全力でも甲級冒険者には勝てんから実力差を感じさせる意味でも、存分に準備をさせる。
「精霊化して奇襲する作戦かい?」
「いや、精霊憑依じゃの。リリィに憑依するんじゃろ」
隣でつぶやくレイラ……ギルマスの言葉に返答する。
「じゃあ、バンシーの特性や魔法スキルをもったマンドレイクになるわけか……」
リリィの目の色がヘレンのような赤い色に変わり、服もヘレンが着ていたような喪服のような服へと変わる。
四大属性の精霊なんかが憑依するともっと派手に見た目が変わるらしいんじゃが地味だの。
精霊憑依は、能力値の上昇に、憑依する者の種族特性の獲得。それから、魔法スキルが使えるようになる。
リリィは蔦を使って、訓練場の武器置き場の武器を片っ端から手元に持っていき、
サトルは、おもむろに空間収納から椅子とテーブルを取り出してその場に設置し、椅子に座る。
テーブルの上には、木製のボウルに盛られたサラダ。
「ちょっと! 食事の準備とかふざけてんの!? 本当にただのヒモじゃない!」
「思考加速、思考加速、思考加速、肉体強化、肉体強化、肉体強化、恵みの雨、肉体再生、成長促進、鋼体、鋼体、鋼体」
そして遠慮なくリリィが強化魔法を重ねがけしていく。同じ強化魔法なら3回までの重ねがけが効率がいいとされておるからそれに忠実じゃの。
思考加速は闇属性魔法。
恵みの雨と肉体再生はそれぞれ、水属性と生命属性の持続回復。成長促進は植物の成長を促す土属性と生命属性の複合魔法。
なぜか、この3つは同じ魔法を重ねても効果がいまいち上がらん。
肉体強化は……、土属性と生命魔法の複合で、あんまり人気の無い魔法ではある。
見た目からして筋肉がつき、ムキムキになるのじゃが、スピードを犠牲にするためあまり好まれん。
あと服がやぶれるし防具がギッチギチになるのも不評なのよなぁ……。強化率自体はいいんじゃが。
強化は強化する側のMAGと強化される側のVITに依存するから、ふわっとした服で目立っておらんが多分中身はレイラ並かそれ以上にバッキバキじゃろう。
リリィのステータスならVITとSTRがバカみたいに強化されておるはずじゃ。
「行く……。土の壁」
ズドンという音とともに、訓練場の土が盛り上がり、サトル達とシンディの間を隔てる壁を作り出し、ついで、武器をもった蔦が一斉にシンディに突っ込んでいく。
「詰みじゃ」
「はぁ?」
ついで、足元からシンディを中心に半径10メートルほどの円形に大量の蔦が生え、天井まで伸びる。
「なんだありゃ!?」
「準備中に訓練場に『根』を張ってそこから生やしたんじゃよ。シンディとか言ったかの、スピードファイタータイプじゃろ?」
「あぁ、確かそのハズだが」
「相性が悪いのー……」
「抗魔」「抗魔」「抗魔」「風の衣」「ブラスト」「ブラスト」「ブラスト」「ブラスト」「水刃」「水刃」「水刃」「風の槌」「風の槌」「風の槌」
リリィの背後の蔦にいくつも花が咲き、その花の中にあるのは『口』
その口が次から次へ魔法を詠唱し、蔦の『檻』の中で地面が爆ぜ、土煙で何も見えなくなる。
これだけの魔法を同時に行使出来るのは、先にかけた高速思考と、この訓練をしている最中に並列思考のスキルが生えたせいもあるじゃろう。
地中の根からブラストを発動させて土を吹き上げさせて目潰しにしたようじゃな。
ご丁寧に風の衣で外に土煙を逃さんようにしておる。おかげで観客からはシンディの姿が見えんようになった。
抗魔の魔法は闇系魔法で、魔法防御力を上げる効果がある。自分の魔法で蔦や根にはいるダメージを抑えるためじゃの。
「ふざけんな!!」
叫びとともに檻の中で斬撃を飛ばしたようじゃが、土の壁に完全に防がれ、攻撃は通っておらん。
囲む蔦にも飛ばしたようじゃが、ほとんど切れとらんし、切れた数本も切れたそばから即座に再生しておるようだし、意味が無いようじゃの。
「人対人だと思って見るのが間違いじゃ。これは攻城戦じゃよ? 堅固な城壁に守られて数十人の魔法兵とフェアリーの突撃兵が攻撃を仕掛けてくる。
その上優秀な輜重隊による万全の補給があり、斥候による状況把握、斥候からの情報は即座に指揮官に共有され、兵は指揮官に完璧に統率されておる」
攻城戦というより、籠の鳥に『籠』の外からバンバン攻撃しかけとるといったほうが、しっくりくるかもしれんがの。
籠を破る事が出来ないなら、スピードタイプの戦士はなすすべも無かろう。
「いや、甲級冒険者の攻撃は土の壁ぐらいなら諸共吹き飛ばす威力があるはずなんだがな……?」
「その土の壁の中に、リリィがみっしり根を張ってなければ、通ったじゃろうがの。
根も蔦も身体の一部じゃから当然強化魔法は乗っておる。
蔦もまともに切るなら最低でもミスリル。刃引きの剣じゃどうもならんよ。
それに切った所で即座に次が生えるか再生するかじゃし。」
「それで石の壁じゃなくて土の壁なのかよ……。輜重隊ってのは?」
「サトルじゃよ。何を食っとるか見えんか?」
サトルに視線を向ければ、サラダにドレッシングのように赤い液体……、回復ポーションを豪快に回しかけ、バリバリむしゃむしゃとすごい勢いで食べておる。
お茶代わりに魔力ポーションをのみ、真っ青に染まった麦粥をかきこむ。青い麦粥は、薬草や魔力草と一緒に魔力ポーションで炊いた物じゃの。昨日ミーナが作った飯じゃ。
多分常人が食ったら良くて意識が飛んで悪ければ死ぬ。
「うえ……、あんなモン食ってるのかよ……」
何人かの冒険者もサトルの方を見て、顔を青くする。まぁそうじゃろうな。ワシもあんなモン食いたくない。
「あのサラダ……。魔力草なんてそのまま食ったら魔力中毒一直線じゃねぇか……。しかもクソまずいってのによくやるな……。しかもあの量だろ? クレイジーだな……」
そう、魔力草は魔力ポーションの材料なのじゃが、そのまま食べると濃すぎて魔力中毒を起こす。
これを上手に煮出して成分を霧散させんように希釈したものが魔力ポーション、というわけじゃ。
逆に言えば、魔力中毒をおこさんならそのまま食えば回復効率が一番いい。
「サトルに蔦が這っとるじゃろ? その魔力はリリィがMPドレインで吸い上げとる。つまり魔法をうち放題で、蔦や根を張る養分もHPドレインで吸い上げ放題なわけじゃ。
だからあのペースで魔法を連射して飽和攻撃を続けても魔力切れは無い。
無芸大食という唯一のスキルがヘレンの憑依したリリィにガッチリ噛み合った形じゃの」
魔力草も食わせて、魔力中毒を起こす様子がかけらも無かったのは流石に驚いた。
あと、帰ってからの実験ではクソ硬い保存食の石みたいなパンを平気な顔してゴリゴリ食っておったの。
もしかしたら顎の咬合力も馬鹿みたいに強化されておるのかもしれん。
そのうえ今の所いくら食っても『心地よい満腹』より腹がふくれんらしい。食いすぎて腹が苦しい、という事が無いらしい。
つまり、『腹いっぱい』という限界が無く、中毒にもならず、ポーションや薬草をいくらでも摂取出来る。
『食う』事については無敵なんじゃないかの?
ワシが思うに、無芸大食と言うより、食う事への一芸特化なんじゃないかのー……。
今度鉄でせんべい作って食わせてみようかの。案外平気な顔して食うかもしれん
「城壁の修理を迅速に行う工兵に、潤沢な資材。しかも工兵も、魔法兵も、突撃兵も、城壁を破壊してリリィを止めなければ死なん。
しかも同士討ちなんぞ存在せんから範囲魔法がバンバン飛んでくる。スピードファイターじゃ耐えきれんし逃げ切れんじゃろ」
「じゃあ斥候ってのは?」
「あのいくつもある花の中には『口』の他に『目』がある」
足の裏から地面に根を張っとるから当然といえば当然じゃがの。
「火球」「火球」「火球」「風の刃」「風の刃」「風の刃」「ブラスト」「ブラスト」「ブラスト」「水の槍」「水の槍」「水の槍」
足元から、上から、横から、背後から、ありとあらゆる場所から魔法が打ち出され、檻の中を蹂躙する。
あの中には絶対に入りたく無い。
「しかしリリィが怒っとるのー。煽るように指示したのはお主か?」
と言っても、本体はサトルの対面に座ってお茶すすっとるがの。あの中で必死こいて攻撃をさばいとるじゃろうシンディがいっそ哀れじゃ。
「そーだよ。……砂煙でなんも見えないけど死んでないだろうな……」
「攻撃が続いておるということは生きとるじゃろ。『目』で見ておるはずじゃから。しかしのぉ……。砂煙に花粉が紛れ込んどるからいつまで持つかの?」
「花粉だぁ……? げ……、七色……!?」
「死なんように即死と石化はちゃんと外しとるそうじゃぞ? しかも何か忘れとらんかの?」
そういってワシは耳を塞ぐ。花のうち一つが大きく息を吸い込んだのが見えたからじゃ。ソレを見てレイラも慌てて耳を塞ぐ。
「キャアアアアアアアアアアァァァァ!!!」
蔦を使って結界を張っておったようじゃが、悲鳴はそれを貫通してこちらにも聞こえてくる。
「全くいくつ『口』を使って叫んだやら。ヘレン単体でも今やトロールを吹っ飛ばす威力があるんじゃぞ……。ひき肉になってなければいいがのぉ」
「七色の花粉にバンシーの悲鳴、状態異常カチ盛りかよ……」
七色の花粉についてはレイラも知っとったか。リリィに生えた種族特性じゃが……。
食らうとおおよそ想像出来る肉体系の状態異常がすべて付与されとる悪夢のような花粉じゃ。
風系の結界でどうにか出来るから、使うのが分かっていればそこまで驚異では無いが、気づかずに吸い込んで帰らぬ人になる冒険者も多い。高位の植物系モンスターに使うものが何種類かおる。
「悲鳴や魔法に耐えるために足を止め、絡みつかれたら詰みじゃから、もう勝負有りじゃろうなぁ」
「一応聞くが……どういう事だ?」
「体力偏重の上に魔法強化された強靭な蔦は生半可な事じゃ切れんし、何より身体の一部じゃからの。接触したが最後ドレインでごっそり持っていかれる。
引き離せないということは実戦ならそのまま死ぬまで吸い上げられるということ。
本当ならブラストで地面をふっとばした時点で根に触れざるをえなくなるから、もっと早く勝負はついたんじゃろうがのー」
ワシの喋っている途中で、見る見るうちに『蔦の檻』が枯れてしおれていき、いまだにその中にこもる砂煙の中から、蔦にぶら下げられてボロ雑巾が出てくる。
片足に蔦が絡みつき、衣服はズタズタボロボロ。逆さ吊りで大股開きの状態にされて白目を剥いて気を失っとる。流石にこの姿には同情するのぉ。紐パンが脱げそうになっとるし。
「弱い」
レイラの前にポイっと放り投げられるシンディ。弱いと言ったのは、その蔦についていた花じゃな。
あの飽和攻撃にこれだけ持ちこたえたなら、十分強いと思うがの……。
「レベル80を越えてたハズなんだがなぁ」
「もう弱い」
もう弱い。その言い方に嫌な予感がした。
「レイラ、ステータス鑑定の道具を持ってくるんじゃ。鑑定しとかんとマズいかもしれん」
「あ? まぁ、フローラが言うならそうなんだろうさ」
そういって、受付からステータス鑑定の道具を持ってこさせ、気を失ったシンディを鑑定した結果、愕然とした表情を浮かべる。
「やりおったわ。まぁ、サトルの悪口を言っとったからやりかねんとは思っとったがの。ヘレンが最近覚えたらしいからの、レベルドレイン」
「レベルドレインとか……。ここまでやるか普通……」
表示された結果は、レベル1という悲惨な結果じゃった。
こりゃもう冒険者は廃業かもしれんのー。続けるつもりでもゴブリン狩りからやり直しじゃ。
スキルはそのままじゃろうし、武器とスキルにまかせてオークなら狩れるかの?
「試験、合格?」
「あぁそうだな。甲級冒険者を完封したんだ。文句なしで合格だよ。はぁー……、どうすんだよコレ……」
「ルールでレベルドレインは禁止しとらんかったし、どうもならんの。まぁ、無理な依頼を受けれんように降格するしかないかのー?」
「レベルドレインが使えるなんて想定してるわきゃないだろ!」
レイラは頭を抱え、その後気づいたシンディにレベルが下がったことを宣告した結果、ぎゃん泣きされるという落ちがついた。
この試験を観戦していた冒険者達によって、リリィには『不動』という二つ名がつき、サトルには『お父さん』という愛称がつき、王都の冒険者の間には、「お父さんに絶対手をだしてはいけない」という話しが回った。
ヘレンは……。今回リリィに憑依しており全く目立たなかったため、特に愛称も二つ名もつくことは無かった。
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その夜……。宿に帰ってきて晩ごはんたべて、自分の部屋でほっと一息。
ここ数日慌ただしかったのでなんだか久しぶりにのんびり気分。
「おとーさん、リリィ頑張ったよー!」
「うんうん、おとーさんは強い娘を持って誇らしいです」
俺は飯食ってただけだけど、リリィは本当に頑張ってたと思う。
とんでもない勢いで魔法詠唱してたしなぁ……。まぁ魔力供給あってこそなんだろうけど。
所でリリィさん、服はいっつもの白ワンピだけどなんで目が赤いんですかね?
「それでー……、リリィごほーびほしいの」
「ふむ、何がほしい?」
「んふー。それはねー」
ん? リリィさんや、蔦なんぞ出して何をする気かね?
その一見ただの百合の花だけどやたら蜜でぬらぬらしたお花はなんなのかなー!?
流石に触手プレイはハードル高いし、誰も得しないんだけどなー!?
「ちょ……、心の準備が! お待ちになって……アァッーーーー!!」
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
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