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フェアリー(物理タイプ)

異世界生活20日目


大事を取って昨日だけ侯爵家に泊めてもらい、翌日。


冒険者ギルドに来るのも5日ぶりか……。5日も経った実感無いけど。


そういえば、作業服は燃えずにすんだようで、きれいに洗濯して返してもらいました。あとほつれとか直してあるぽい……。


メイドさんに感謝。


しかしこの仮面と金髪のヅラに作業服ってむっさ違和感……。そう思ってたら黒い外套をくれました。


何の魔法効果もない安物ですけど……っていわれたけど、生地自体は魔物素材のお高い代物らしい。


森の中をうろついても余裕で耐えれる逸品です。しかし、この仮面に黒い外套ってなんかむっさ厨ニ感。


掲示板をしばらくながめ、森で適当に何か依頼が無いかと探してみるものの……。


時間がちょっと遅めなせいか丁度お手頃なのが無い。また森にいって乱獲しますかね……。トレイン狩りで。


「ヘレンさん、リリィさんちょっといいですか? あと、サトルさんはこられてます?」


なんだろう? 受付嬢に呼ばれてヘレンとリリィと一緒に受付に向かう。


「え……と……? サトルさんですか?」


頷いてギルド証を見せるものの、まだ受付嬢は半信半疑といった様子で、ギルド証と俺を交互に見る。


「おとーさん、顔に大怪我しちゃったの」


軽く周囲を見渡し、誰もこちらを見ていないのを確認して、すっと仮面を外す。


「っ!?」


ガタンと音を立てて受付嬢が後ずさる。うわぁ、傷つく……。まぁとんでもない顔になってるのは鏡みて確認したけどさ。


すぐに仮面をつけ直し、一つため息をつく。


「わ、わかりました。ギルドマスターがお呼びなので、ついてきてもらえます?」


「はい」「はーい」


受付嬢についていき、何度か世話になった仮眠室の横を通り過ぎ、階段を上がって2Fのギルドマスターの部屋へと入る。


ギルドマスターといえば、ジジイか、妖艶な女性か、マッチョなひげのオッサン、メガネの細身の男、あたりを想像するが。


ここのギルドマスターは女性だ。だが妖艶とはお世辞にも言えない感じ。


よく女を捨てて武の道を~……なんていう人が漫画やラノベで出てくるけど、ありゃ嘘だな。女を捨ててるといえばこの人の事だわ。


だって、ボサボサ頭で、タンクトップにジーパンのようなズボン、薄い服には割れた腹筋がくっきりと浮かび上がり、腕や脚は筋肉で太く、重量感がある。


すごく、こう、マッシヴな女性である。実際ガチムチ筋肉だから重たいんだろうなぁ……。


タンクトップの布地をしっかりと胸が押し上げているが、脇毛ボーンで台無しである。


視線がそっちにしかいかねぇよ。タンクトップ着るなら剃りましょうよ……。


「何だ? その趣味悪い仮面」


そして開口一発コレである。俺は無言で仮面とヅラを外す。


「……。悪かったよ。つけてていい」


ため息を一つついて、ヅラと仮面をつけ直し、それからもう一度ため息をつく。


何か今日はため息ばっかりついてんなぁ……。


「さてまぁ、お前達を呼びつけたのは、昇級の話しがあるからだ。丁級から丙級には通常、試験は無い。


が、甲級冒険者が王都に来る用事があってね、そいつと戦ってみて結果によっては各人を丙級にして、パーティとしては乙級と認める事が出来る。


ただこれは、お前達が仲良くしてるミーナやフローラと組んだ場合、だがね。


お前らは戦闘力はあるが、冒険者としての経験値は足りて無い。だからそこを先達のミーナとフローラに補ってもらえるなら、乙級を名乗っていいと言うことだ。


ここで試験を済ませていた場合、結果によってはお前たち個人が丙級から乙級に上がる際の試験は無しでいい。


まぁ、丙級から乙級への試験の先取りだと思えばいい。やるのは三日後。どうだい、やるかい?」


「おとーさん、どうする?」


「サトルさん?」


まぁやってみてもいいかな?


ヘレンとリリィについても嫌そうな顔はしていないし、ひとまず頷いておく。


「じゃあ三日後だ、しっかり準備しときな、甲級は強いよ?」


ギルドマスターの部屋を後にして1Fに戻り、ミーナさん、フローラさんと合流する。


「あー……。それ受けちゃったんですか」


「今調子良いからの。鼻っ柱をへし折っておきたいんじゃろうよ。調子こいて死ぬ奴は結構おるし。


ワシらがいればそんな事はさせんというに」


「何回かありましたねぇ、甲級冒険者と模擬戦させて鼻っ柱折るっていうパターン」


「確かこの手の試験はパーティ対甲級冒険者ソロで力量差を見せるのが主だったハズ。ふふ、甲級冒険者、負けさせてみるかの?」


意地悪い笑みを浮かべて、どうする? と、俺に問いかけてくる。もちろん俺は頷いた。

━━━━━━━━━━━


「さて、勝ち筋じゃが」


森で魔物の死体の山を空間収納に叩き込みながらフローラさんと話す。


いやー、トレイン狩りって出来る狩場だと止まらなくなるなぁ……。中層でやってるからレベルも上がるし……。


「リリィとヘレンが鍵じゃの。高レベルのバンシーやマンドレイクなんぞそうそうお目に掛からんから、初見じゃ何をしてくるかわからんじゃろ。それに……」


魔法の練習をするリリィに視線を向けて、フローラさんがため息をつく。


魔法の練習をしながら、蔦で片手間に魔物をずりずりと引きずって俺の方にもってきてくれる。


どうもSTRの値は低いけど、魔力値が高いおかげで強化率がとんでもないらしい。


「リリィはとんでもないの? 魔法編重のステータスを見て思ったが、アレはそうそう返せんぞ?


伸ばした蔦の先から魔法を飛ばすなんて普通は思いつかん。サトルの頭の中はどうなっとるんじゃ?」


「つま先からでも指先からでも、身体のどこからでも魔法って出るから、蔦も身体の一部なら出来るんじゃないかと思っただけなんだけど……」


蔦の先から飛ばせないの? って、チラっと言ったらほんとにかんたんに実現しちゃうんだもんなぁ……。


俺の発想よりリリィのセンスがやばいとおもう。


ヘレンはといえば、精霊化と実体化を繰り返して瞬間移動で幻惑するような動きをミーナさんに監督してもらって練習している。


「狩りは終わったの?」


俺とフローラさんの会話に割り込むように上から声が降ってくる。


視線を上に向ければ、前に見た昔エルフが居た。


そう言えば名前聞いてなかったなぁ……。


前に会った時のように、妖精のようにフヨフヨと飛び、丁度俺の視線の高さまで降りてくる。


「なんじゃ、昔エルフか。……。なぁ、お主生命魔法使えんか?」


「使えるわよ? 何、怪我でもしたの?」


「サトルがの」


「んー、治してあげてもいいけどー。どこを怪我したの?」


俺の目の前に降りてきて、俺を覗き込むようにするので、ひょいと仮面とヅラを外して見せる。


「ギャアアアアア!?」


すごい勢いで後ろに下がってフローラさんの後ろに隠れてしまった。


そのリアクションに泣きそう……。


「あーびっくりした……。相当酷く焼けてるわね。治せなくもないけど……」


「それと喉じゃの、焼かれてしまってまともに声が出ん」


「お菓子! 甘いもの! それで手を打つわよ!」


「安上がりじゃの」


昔エルフとフローラさんが話している声を聞いたのか、リリィがそばに寄ってきて、蔦で昔エルフの肩をつんつんとつつく。


「甘いものあげるー」


振り返った昔エルフの目の前で、蔦についている蕾が開き、その花から蜜が湧き出す。


「え、マンドレイクの蜜……!? って、こぼれる! もったいない!」


花から零れそうな蜜を魔法でもって球体にまとめ、落とさないように宙に浮かせる。球体のサイズは30センチほどまで大きくなり、昔エルフならすっぽり中に入ってしまえそうだ。


指先でその球体から蜜をすくい取り、ぺろりと舐め取れば、気の強そうな表情が一瞬でトロンとした……なんというか、恍惚としたエロい感じの表情に変わる。


え、何、リリィの花の蜜ってそんなヤバい成分なの……。


「あー……そういやお主等ソレが好物だったっけの」


「そりゃもう……。でもマンドレイクの頭のお花からってほんのちょびっとしか取れないから、食べられる事ってめったに無いのよね。


こんな量をもらっちゃったら、全力で治すしかないわね。


んー、でも、傷痕になっちゃってるから一発で治るかはわからないわよ? あと髪が生えるまでは暇がかかるわ」


「昔エルフなら一発じゃろ。ひとまず喉を治してやってくれると助かるがの。耳を口元に寄せてやらんと聞こえんし。


まぁ……、ハゲは生え揃うまでヅラでごまかすしかないの」


「とりあえずちょっとやってみるわね」


そういって、俺の肩に座り、その小さな手が首に当てられる。


俺からその様子は見えないが、強烈な魔力が渦巻くのを感知すると同時に、首からじわりと、心地よい暖かさが身体に広がり、油断すれば眠ってしまいそうな感覚に襲われる。


「……。魔力9割使ったけど一回じゃ無理だった。でも大分見れる顔に戻ったわよ?」


ほら、と。鏡代わりに、水の板を俺の前に作り出してくれる。


なるほど、多少やけどの傷痕は目立つものの、人間の顔だ。日本人顔に金髪のヅラっていまいち似合わんなぁ……。


「おー。お? 声がまともに出る」


「そりゃ喉を真っ先に治したもの。んー、魔力が馴染むまで少しかかるから、また明日にでもここにくれば、治してあげる。


次でもとの顔に戻ると思うわよ。所で……、この蜜を入れる入れ物って無いかしら?」


「ポーション用の瓶で良ければあるけど」


「それでいいわ」


「……匂うとフェアリーと取り合いになるからの」


「フェアリーも好きだからねー、コレ……。魔力の含有量がすごいから、私達にはたまらない味なのよね」


「魔法使い系にはたまらない品なのかぁ……」


「ハァ!?」


取り出した瓶にひとりでに入っていく用に見える蜜を見ながらポツリとつぶやくと、それを聞いた昔エルフが声を上げる。


「私達はともかく、フェアリーは魔法使えないわよ!」


「奴らは、攻撃と回避に特化したゴリゴリの前衛ファイターだからの……」


え、マジで……。イメージ全然違うんですけど……。ていうかフェアリーってSTR全然無くなかった?


「ようはこーやって攻撃するのよ、ちなみにコレ魔力操作で動かしてるだけよ」


そこらに落ちていた木の枝がふよふよと飛んできて俺の仮面にあたり、カツンと乾いた音を立てて落ちる。


「フェアリーは魔力操作しかできんが、馬力と精度が頭おかしいレベルだからのぉ……。


複数の武器をつかって多角的な攻撃を馬鹿力でやってくるからの。奴らには勝てる気がせん」


ようは……フェアリーのキャラステータスにはこう注釈が入るわけだ……。


『このキャラクターはMAG値をSTRとしても扱う事が出来る』


つまり魔力値をSTRとして、武器を振り回すと。フェアリーのMGI値ってむっさ高かったよなぁ……


「マジの戦闘になったら、武器なんぞ使わずに離れた所から首を直接折りに来るからタチが悪い」


「私達ならレジスト出来るんだけどね……」


どっかの暗黒卿みたいに、手も足もふれずに首絞めて持ち上げて来るんですねわかります。


人体に直接効果を及ぼす場合は物理防御じゃなくて魔法防御参照なのか。


魔防で威力減衰があってからのSTRかVIT抵抗が出来るって感じになるのかな?


「こう?」


そして話しを聞いていたリリィがそこらに落ちていた数本の木の枝に蔦を巻きつけて持ち上げ、ブンブンと振るう。


「擬似的にはそんなもんだの」


「私思うんだけどさぁ……、その子上位種になってない?」


「……マンドレイクに上位種なんぞおったかの?」


「野生の子って太陽と土と水があればいいやって感じで、埋まってるだけで狩りなんてしないもんね……、


花の蜜を拝借したぐらいじゃ微動だにしないし……」


「ねぇ、フェアリーにあってみたい」


「えぇー……」


「フェアリーにも蜜をあげるから、取り合いにならない……よ?」


「むー、まぁいっか。面白そうだしよんだげる」


そう言って、昔エルフが森の木々の合間に姿を消してしばし……。


ほぼ同じぐらいの体長の人物を連れてきた。


容姿は、昔エルフと同じく葉っぱのような意匠の服に、背に透明なトンボのような蝶のような不思議な羽をはやしていて、パタパタとせわしなく動かしている。


羽があるせいだろう、服の背中側はガバーっと開いているようだ。体のバランスを取るためか、スカートから覗く足を割とせわしなくチョコチョコ動かしている。その様子は踊っているようで可愛い。


髪は赤色で自身の体長より長く、動くたびにサラサラと流れ、瞳の虹彩は青い。


総評としては、みんながイメージするいわゆる『妖精』そのもの。まぁ、弓が得意だったり魔法が得意だったりっていうエルフに似た特徴は無いぽいけど


「蜜頂戴ーーーー!!」


なかなか欲望一直線である。


「はい」


「うおー! いっぱいもらったー! 当分贅沢出来るー!」


新しくポーション瓶いっぱいに詰め込んだ蜜をリリィが手渡すと、くるくると踊るように全身で喜びを表現する。


かわいい。


「で、あーしに何か頼みでもあるの?」


「んっと、武器の使い方、教えて」


リリィが蔦で持った木の枝をヒュンヒュンと振り回すと、フェアリーは、面白そうだといわんばかりの表情をし、次の瞬間には周囲から木の枝や石が4つばかり飛んできて、フェアリーの周りに滞空する。


ついでとばかりにミーナさんの腰の剣が鞘からするりと抜け、フェアリーのそばに浮かぶ。


「壊さないでくださいよ!」


「こうやってー、ただぶつけてもいいしー」


木の幹に石がかっ飛んで行き、ざっくりと深く突き刺さる。いや、どんだけの勢いで飛ばしたの……。


「剣なら突き刺してもいいしー、蔦であーしが魔力でするみたいに使うなら腕の長さに気なんて使わなくていいからー」


ふよふよ浮いていた剣が狙いを定めるようにピタリと動きを止め、ヒュンと風切り音を残してすっ飛んでいき、昔エルフのすぐ脇を通過する。


「みぎゃー!? そんなもんこっちに飛ばすんじゃないわよ!」


「切るのもこんな感じに大きく勢いつけたっていいしー」


紐でもつけて振り回すように、ブンと、半径5メートルほどの半円を描くように剣が飛ぶ。


「こーんなふうにー」


さらに昔エルフに向けて、3本の木の枝が連携するように次々に小さく振られる。


あー、そうか。反撃を受ける距離で攻撃しないなら隙とか全然気にしないでいいのか。


「やめろって言ってんでしょ!」


「みぎゃ!?」


昔エルフが手を上に突き上げて振り下ろすと、ズドンという音とともに、見えないなにかに押しつぶされるように、フェアリーが地面に叩きつけられる。


多分、空気の塊でも叩きつけたのかな?


「避けれるようにはしたでしょー」


ぎゃーぎゃーと言い合う昔エルフとフェアリーさん。仲いいなぁ……。などとぼんやりと眺めていると、その声に釣られたのかブラウンウルフが姿を表す。


それに気づいたリリィが、蔦で木の枝や石を掴み、それが一斉にブラウンウルフへと襲いかかる。


「石の槍、水の矢」


その振り回される石が、木の枝が、次々にブラウンウルフへと襲いかかり、それを避けようと逃げれば、逃げた先にある蔦から石や水の矢が追撃し、何度も打撃を受けて動きがにぶった所で蔦に絡みつかれ……。


「ブラスト」


蔦から発生したブラストによってなすすべもなく弾け飛んだ。この間、リリィの本体はぶつぶつと魔法名をつぶやいていただけで、全く動いていない。


なんていうか、うん。オールレンジ攻撃?


「これで本体が耐久特化のクソ硬じゃし、ということはこの蔦も硬いんじゃろ? 絶対戦いたく無いのぉ……」


「同感です……。一撃目で倒しそこねるとやられますよこれ……」


ミーナさんとフローラさんがドン引きしておられる……。


「まぁ、コレをうまく使えば甲級冒険者相手でも勝てるじゃろ」


「勝てるでしょうね」


勝てるらしい。

今回も最後までお読みいただいてありがとうございます。


もしよければ評価、感想等いただけると嬉しいです。


ストックが尽きたので更新速度が落ちますorz

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