狩りに行こう!
異世界生活六日目
今日は五目狩りの日、って事で冒険者ギルドにやってきました。あ、流石にもう仮眠室ではなくて宿を取ってます。
ヘレン? ちゃんと別の部屋で寝てたよ? ははは、同室で寝るわけないじゃないか。
ええ、一緒の部屋にしたら性的に襲うから駄目って言い含めました。
ギルドに行くのはまぁ……。依頼を受けるわけでもないんだけど、フローラさんと待ち合わせしてるし。
「お、来たの。ん? そっちの子も見ん子じゃが、新人かの?」
ギルドに入るとすぐにフローラが俺を見つけてこちらにやってくる。
今日のTシャツは白に黒文字で『大平原』。やっぱり自虐ネタなのか……。
「バンシーのヘレンです。よろしくお願いします」
ペコリと行儀よく頭を下げてお辞儀する。今度カーテシー教えよう。きっとその方が可愛いから。
「1年ほど受付をやってましたけど、バンシーの冒険者って初めて見ますね。記録上でも見たことが無いです」
そういってフローラさんに続いてこちらにやってきたのはミーナさん。
この前ゴブリンの集落に行った時と同じ服装で、腰に剣を、片手に短槍を持ってらっしゃる。
あれ、なんでミーナさんまで?
「ミーナとは昔組んでた事があってのー。まぁツレじゃな。今日はミーナも連れていくからの」
「サトルさん、ちゃんとパーティ登録はしましたか? やっておかないと面倒ですよ。経験値が分配されないですし」
そういえばやってないな……。経験値が分配されないなら都合も悪いし、やっておこうということで、ミーナさんに教えられるままに、ヘレンとのパーティ登録をする。
さすが元受付嬢。書類の書き方等、丁寧に教えてくれたので簡単にできました。
パーティを組むっていうのは魔術的な物らしく、血を少し取られました。
指に針を刺して血を取る……わけではなく、ひげそり失敗してちょっと流血してたんで、ちょうどいいからってそこから採血されました……。
いや、電気カミソリでひげを剃る現代人に、ナイフでひげそりはハードル高いっす。
ヘレンは左腕に針を刺してた。指先じゃないのは、武器を握る時に痛みが気になったりしないようにってことらしい。
「準備が出来ているなら早速行きたい所じゃが……、道具屋で耳栓を調達しておいたほうが良さそうだの」
「そうですね」
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そんなわけで森にやってきました。
といっても、森の入り口付近で、振り向けば森の外に広がる平原が見えるぐらいの位置だ。
「さて、それじゃあ始めますかね……」
魔法を使って小さな穴を掘り、そこに空間収納から取り出した天板を外した小さな樽を入れ、その上に1メートル角ぐらいのサイズの箱を置く。
予め樽の口に合わせた穴を開けてあり、側面にも直径50センチほどの穴が開いている。側面の穴は森の奥に向ける。
レベルが上がってから、収納のスペースが大きくなったから、これぐらいの箱なら入るのだ。
「なんじゃ? その箱は」
「共鳴箱ってヤツです。森ででかい声で話してると魔物が寄ってくるって話しを聞いたんで、だったら呼んで定点狩りしようかと」
「んー、まぁ間違っちゃおらん。それで背後から敵が来づらいように森の境界なのかの?」
「そういう事です。木に登っておいてください。ヘレンもね」
俺の言葉に従い、3人が木に登ったのを確認してから、スマホを埋めた樽の中に入れ、自分も木に登る。
なんで箱の中に直接スマホを置かなかったのかと言うと、いきなり箱をぶっ壊しにかかられてもスマホが壊されないように。
電波なんてものが無い今、カメラと音楽再生と電卓ぐらいの機能しかないけど、役立つので壊れるのも惜しい。
「あと2分後に音が鳴ります」
5分の無音のデータを先頭に置き、そこから連続再生されるようにセットして、一時間後に音声が停止するようになっている。
当然音量は最大だ。音が届く範囲ってどれぐらいかなぁ……。
素の音量でせいぜい学校のグラウンドの端から端まで聞こえるかどうか……? 検証したわけじゃないからわからん。
でも共鳴箱含めてもせいぜい……風向き次第で頑張って500m届けば御の字かね? そんな届かんか。森は遮蔽物多いし……。
耳のいい魔物ならもっと遠くから聞き取るかもしれないけど。スマホの音って意外とデカイようで小さいからなぁ。
森の奥に向かってクロスボウを構え、待つ。
ヘレンについては、もし敵が増え過ぎたら叫んでもらう事になっている。
ミーナさんとフローラはいよいよどうにもならなくなったら手を貸してくれるらしい。
時間が経過すると、大音量の音楽が森に響き渡る。ランダム再生にしたけど最初に流れ始めたのは……。ネギ振りたくなる曲だなぁ……。
結構な音量に、フローラが驚いた顔をしているのが見える。
音楽が流れ初めてから待つこと数分。早速最初の客が現れる。音の聞こえる範囲に居てよかった。
パッと見る限りグレイウルフとかそのへんの狼系のモンスター。数は4匹。
音源の箱を気にしてばかりで、こちらには気づいていないらしく、動きもゆっくりだ。
しっかりと引きつけてクロスボウを連射し、4匹を続け様に仕留める。
レベル補正か先日の訓練の成果か、走っていない的ならどうにか狙った場所に当てられる。4匹は脳天をきっちりと射抜けていた。
仕留めたらすぐ、ボルトを装填しておかわりに間に合うように急ぐ。
「何じゃ今の連射は」
「空間収納に装填済みのを入れてあるんですよ。とは言え、5つしかないのでそれ以上の数になると手が足りなくなります」
いわゆるニューヨークリロードなんていうやりかただ。装填済みの新しい銃と交換するっていうシンプルな方法ではある。
TRPG的に言うなら、補助動作で弾の切れたクロスボウを投げ捨てて装填済みのクロスボウに持ち替え、主動作で射撃します。ってな感じ。いやまぁ、投げ捨てずに収納してるんだけどさ。
クロスボウの数が5個しか無いので敵の数が5匹を超えたら、ヘレンが魔法で援護してくれる手はずになっている。
さらに10匹を超えたら叫ぶという事で予め決めてある。
とりあえず4匹処理して装填が終わっても追加が来ないので、一度木から降りて1体にハンマーを叩きつけ、頭をかち割り、音にくわえて血の臭いでも敵をおびき寄せる事にする。
それを伝えるとヘレンが風の魔法を使って臭いを周囲にちらしてくれる。
「なるほどのー……。連射出来ない欠点を数で補うということじゃの」
この後はもう流れ作業で、ポツポツと4~6体ずつあらわれる敵を、クロスボウで仕留め、時にヘレンが魔法で仕留めてくれる。
「わああああ!!」
一度複数のグループが丁度タイミングよく来たのか、15体ほど現れた時には、ヘレンが思い切り叫んだ。
耳栓をしていてもキツいその大音量は現れた魔物のほとんどを一撃で仕留めるほど。
恐ろしい威力だ……。問題はその声が更に魔物を呼んだらしく、来る量が増えてしまった所か。
結局曲が止まってもしばらくの間魔物は森の奥から現れ続け、箱の周囲には死屍累々と死体が転がる惨状が出来上がる事になった。
しかしまぁ、なんというか……。シューティングゲームみたいだなぁ……。通常ショットがクロスボウ、ヘレンの叫びがボム。みたいな……。
「さすがバンシー……、相当森の奥まで叫び声が届いたみたいじゃの?」
「あれは、なんですかね?」
「トロールじゃの、取り巻きにオークまでおるのー。良い金づるじゃ」
森の奥から叫び声につられて現れたのか、まだ見たことの無い相手、身長3メートルほどの巨人が現れた。
肌の色は黄土色で、顔は非常にブサイクで腹も出ている。手には丸太のようなデカイ棍棒。アレでどつかれたら痛いだろうなぁ……。
「やれるかなぁ……」
「だめならワシとミーナでもらうぞ?」
「本気で叫ぶ?」
あぁ……今までのって本気じゃなかったんだ。
「頼める?」
「しっかり耳を塞いでね? あと、風魔法で指向性はつけるけど、落ちると危ないから木からは降りたほうがいいかな」
ヘレンの言うまま、木から降りて両手でしっかり耳を塞ぐと、それを見たヘレンがすうっと息を吸い込む。
「キャアアアアアアア!!」
トロールが10メートルほどまで迫った所で発せられた強烈な金切り声は、耳栓をして、その上から手で塞いでもなお耳に届き、
ヘレンの正面では、木の幹がその絶叫によって裂け、まともにその金切り声を浴びたオークは弾き飛ばされ、トロールは耐えたものの耳から血を流す。もう絶叫っていうか衝撃波……? どれだけ威力出てるんだろうか……。
ドラゴンの咆哮って言われても納得しかねない威力だよこれ。
オークは弾き飛ばされたその場で白目を剥いてぶっ倒れ、トロールはふらふらと千鳥足で数歩歩いた後に膝をつき、えへえへと気持ち悪い笑いを漏らす。
これが精神系状態異常か……。怖え……。コレ多分、『絶叫』と『金切り声』の併用だよなぁ……。
「サトル、ぼーっとしとらんでトドメじゃ」
「トロールってドタマかち割っても良かったっけ?」
「トロールは目玉を錬金術師が欲しがるのと、他にも革や骨も使うので、傷は少ないほうがいいですね」
「ふむ……。なら……」
左手にクロスボウのボルトを持ち、右手には手に馴染んだネイルハンマーを取り出し、身体強化の強度を上げて、状態異常からいまだ立ち直れないトロールの耳に、クギを打ち込むようにボルトを叩き込む。
ボルトの芯を捉えた一撃はきっちりと衝撃を鏃に伝え、耳から逆の耳へと貫通させる。
巨体を誇るトロールも、頭を貫通されては無事では居られなかったようで、ぐらりと傾いてその場に倒れ伏した。
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