バンシーの種族特性
『ぎゅいーん……』
「で、サトルが餌付けしたのか、あのバンシー」
「言い方ァ!?」
人聞き悪いにもほどがありませんかね。大体あってるけど。
「しかしバンシーか。冒険者として味方についてくれるなら非常に心強いな」
「魔法使いからしたら、あの攻撃範囲は憧れる」
「そうなんですかね? そこまで広いとも思いませんでしたけど……」
さっきもそうだったが、一度建物の外に出れば耳栓をつけるような余裕もあったし、そこまで攻撃範囲が広いとも思えなかったけど……。
「そりゃお前人間だからだよ。動物系の耳の良い魔物相手だったりしたら、相当遠くから致命傷だぞ。エルフや獣人でもさっきのでギルド内に居たなら軽く昇天出来る。
それにバンシーの本気の絶叫はマジでヤバい。精神系の状態異常が特盛でつくからな」
「発狂にその下位の錯乱や混乱。他には昏倒、幻覚、暴走、恐慌……。もはや呪いだぞ? マンドラゴラが可愛く見える。
あと、精神系状態異常が強烈過ぎて忘れられがちだが、スタンが混じってるから精神系を万全にしてもキツいらしい」
「そんなにヤバいんだ……」
冒険者登録をするべく、受付に並ぶバンシーこと、ヘレンに視線を向ける。とてもそんなヤバいようには見えない。
まぁ、さっきの泣き声でそのヤバさは身を持って知ったわけだけど。
ナンパした冒険者はご愁傷さま……、支払いの総額は金貨50枚近いらしい。バンシー一回泣かせて五百万円か……。恐ろしいな。
これだけの金額になったのはお酒が原因らしいけど。なんでも瓶に入った酒は基本上等な酒が多く、瓶自体もそこそこお高い。
窓ガラスも当然、日本で買うよりかなり高価らしい。それが全部割れたんだからまぁ……、ご愁傷さま。
割れた窓に応急で板打ち付けるのは俺も手伝ったし依頼扱いでバイト代ももらいました。例によってメシ代と銅貨1枚だったけど……。
銅貨1枚でも報酬に絶対現金が含まれるのはなんか規定でもあるのかね?
「所でさっきから何やってんだ? ぐるぐるぐるぐるよくわかんないモン回してるが」
「魔道具に魔力を充填してるようなもんだと思って貰えれば、大体あってます。まぁ魔力とはちょっと毛色が違うんだけど」
そう、俺は今酒場でジャンさんとだべりながら、モバイルバッテリーに手回し充電器で充電中なのだ。
既に30分ほどやってるが、モバイルバッテリーはほとんど充電されていない。
これレベル上げてなかったら10分も経たない間にギブアップだろうなぁ……。
「クッソ疲れますけど、コレやんないと使えないですからねぇ……」
「身体強化したらどうだ?」
「多分この回す所がへし折れますよソレ」
「その道具まで含めて魔力を通して強化すれば問題ないだろう」
「あ、なるほど」
ヨルクさんの助言を受けて、言われた通りに強化を施して、回す速度を上げる。
これだったら充電に必要な時間も減りそうだしよさげだ。景気よくハンドルをぶん回してみるが、特に問題なさそうだ。
「身体強化は大分なれたみたいだなぁ」
「簡易表示使って、魔力があんまり減らないレベルで管理しながらずーっとやってますからね」
「細く長くか。それも魔力制御には有用な訓練だな。あとは寝る前に使い切っておくのもいいぞ」
「サトルさん、おまたせっ」
受付からトテトテと小走りにヘレンがやってくるので、座るように促すと、素直にちょこんと椅子に座る。
「ステータスはどうだった?」
「こんな感じです!」
━━━━━STATUS━━━━━━
名前 ヘレン
LV:7
HP:100%/100%
MP:100%/100%
STR:下
AGI:並の下
VIT:下の上
DEX:並の上
INT:上の上
MAG:上
魔法適正:有
種族特性:絶叫・金切り声・エナジードレイン・HP/MP/LPドレイン・魔法耐性・呪詛耐性・精霊化及び実体化
スキル:魔力制御LV7 魔力増幅LV5 風魔法LV3 生命魔法LV4 歌唱力LV2
━━━━━━━━━━━
「バンシーのステータスって初めて見たが見事な後衛だなぁ……」
「魔法より何より、種族特性がヤバすぎる」
エナジードレインって、レベル下げられる系のアレかなぁ……。怖っ……。
「しかも冒険者としてすこぶる有用なのが羨ましい」
「そうなんですか?」
「絶叫か金切り声で動きを封じてドレインで殺せば傷が一つも無い素材が簡単に出来るんだぞ? 有用に決まっている。
しかしレベル7であの威力か、恐ろしいな……。種族特性は基礎レベルに応じて強くなっていくんだが……」
「パーティメンバーに最低でも耳栓と、精神耐性のつく装備もほしいな。全方位無差別攻撃だから使い所は難しいが……。まぁそこは自前の風魔法でカバーするのもいいだろう。
例えばゴブリンの集落のど真ん中に精霊化してこっそり入り込んで、思い切り叫べば一発で制圧出来るんじゃねぇか?」
「しかもこの種族特性、セキュリティ完璧だな。有用性やら見た目の可愛さ目当てに襲われたりしても、絶叫に詠唱もタメも要らんから楽に撃退出来るし、口を塞がれても接触状態ならドレインで無力化可能、精霊化で逃走も容易だ」
「ヘレンはすごいんだなぁ……」
ヘレンの方に視線を向け、目が合うと「なあに?」と言わんばかりに小首をかしげてにこりと笑う。
何この可愛い生き物。
両手でカップを持ってぶどうジュースを飲む姿がまたなんとも可愛い。
「そうでなくてもこの美少女とパーティ組めるとか羨まし過ぎる」
「そう言えば、ステータスとかホイホイジャンさんに見せてますけど、やっぱりこういうのって隠した方がいいんですか?」
ラノベとかでは、ステータスとか狩りのやり方とかは基本的に詮索するのはマナー違反だし、
下手に聞いたらぶん殴られてもしょうがないとかあったりしたけど。
「あー……。まぁヘレンちゃんは見せないほうがいいかもな。サトルは……レベル以外オープンでもいいんじゃねぇの?」
「サトルのステータスは見た所で何が得意で何が出来ないかなんてわからないからな。逆に、オープンにしておいたほうが相手が勝手に失望してくれるから、面倒なスカウトとか無くていいかもしれんぞ?
例えば商人の前で空間収納を使ったとしても、真っ白のステータスを見せて、スキルが無いから実用レベルじゃ無いと言えばそこで興味を失ってくれるだろう」
確かに、そこらへんはスキルが真っ白だからこその利点かもしれない。
今度受付で、もし見せてほしいって人が居たらレベルだけ伏せて見せていいって言っとこうか……。
「そういや、サトルは今日で見習い卒業だったか?」
「戊級ですね。依頼を規定数終わらせたので。大半が大工仕事なのがまたアレですけど」
「まぁ、習級冒険者ってそんなもんだろ。ドブさらいだけで戊級になるやつも居るぐらいだし」
「金持ち以外はだいたいクズ武器が報酬でもらえる依頼を受けるがな。ドブさらいも武器をもらえるからそういう依頼だ。
誰もやりたがらないからオマケがつく。むしろオマケがメインか」
「鍛冶屋の失敗作でもゴブリンはっ倒すなら上等だからなぁ。ランクが上がったってことはそろそろ討伐も受けるのか?」
「明日五目狩りに行く予定ですよ。ヘレンと一緒に。あとフローラさんがついてくるって言ってたなぁ」
フローラの名を出した所で、ジャンさんとヨルクさんが信じられない物を見る表情でこちらを向き、一瞬場が沈黙する。
「マジか、あの人基本誰とも組まないのに」
「多分暇つぶしだと思いますよ。俺がスキルが無いのを面白がってましたし。あの人まともに稼ぐ気なさそうでしたし」
「ありそうだな。何日かに一回オーク担いで来る程度だもんなぁ、あの人。
実力だけで言えば甲級あるらしいが、金にもランクにも執着しないらしいからなぁ」
「見ている限り、丙級依頼を片手間でできればやる程度だし、遠征にも行ってる所を見たことがない。王都近辺じゃ、乙級依頼なんてごくごくたまにしかないからな」
「日々のんべんだらりと過ごせれば良いって言ってましたねぇ」
「強いからこその余裕だろうな、なんせ素手にTシャツ、スカート姿で森に入っていくぐらいだから、あの人……。もってく道具は血抜き用のナイフ一本で」
え、あの格好のまま森に入ってんのあの人!?
虫刺されとかで大変な事にならないんだろうか……。
「明日は狩りに行くんですよね?」
「うん、その予定。ヘレンにも頑張って貰う予定だけど、大丈夫かな?」
「がんばります!」
頑張ってくれるらしい。期待しておこう。
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