墓地で泣くのは……
異世界生活五日目。
今日は墓地の管理小屋の修理作業。なのだが。
これから作業する旨伝えるために、神殿に行くと、丁度朝のお祈りの時間なので寄っていかないか? とのことなので寄っていく事に。
ジャンさんいわく、冒険者ならお祈りは行っとけって話だし。まぁ効果の有る無しは別にして、冒険者は命をかける仕事だけあってゲン担ぎを重視するものらしい。
立派な石造りの建物に入ると、THE・教会? 神殿? みたいな感だ。ステンドグラス的な物が高い所の採光窓にはまってるし、いくつも長椅子があったりするし、正面には教壇のような物が置いてあり、奥の壁際には大きな神像が立っている。
この神像がまた……、女神っぽいのにマネキンというか、のっぺらぼうで不気味……。
創造神以下神様の数が多いんで、自分の信仰する神様だとおもってお祈りしてね! ってことであえて顔をつけてないらしい。良いのかそれ?
確かに服というか、胴体部分は相当繊細に作り込んである。
それはさておき、キリスト教だと、礼拝って聖書読んだり歌ったりするんだっけ? 礼拝とお祈りは違うのか。
作法とか知らないっていったら、手を組んで祈ってるだけでもいいとか。結構雑いな。
周囲を見回すと、子連れの人とか、冒険者風の人とかちらほらと人が居る。
少し待つと、神父っぽい服の人(司祭さんらしい)と、いかにもシスターです、って感じの人が並び、礼拝が始まる。
シンと、静かな中に、司祭の人がハンドベルをチリンと鳴らす。
「━━━━━……」
そして声を揃え、朗々と祈りが始まる。なんと言っているかはいまいち聞き取れない。
一定のリズムで抑揚が無く、平坦に、それでも朗々と言葉が続く。だから「━━……」この表現。
これなれないと聞き取れんわ……。だってこれ読経だもん……。
お坊さんが読経してる声って何言ってるか俺はいまいち聞き取れない。複数人だとなおさら。
いや待てや。いかにも西洋風なのになんでお祈りだけ読経なんだよ! 吹きそうになったわ!
持ってるのが普通の本じゃなくて折り本だしさぁ……。あの蛇腹になってるヤツ。
賛美歌歌ったりすんのかと思ったらコレだよ! ギャップがひどすぎてもうね……。ハンドベルがお輪にしか見えんわ……。
異世界来てまでお経聞くとは思わなかったわ、マジで……。
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お祈りを終えたら、気を取り直して(?)墓地へ。
もうちょっとまともな小屋かと思ったけどそんな事はなかった。ガチで『小屋』だわこれ。
小屋の用途としては、物置がメインで、あとは作業中に休憩したりするのに使うくらいかね?
予め中の物品は外に放り出しておいてもらったから今はからっぽだけど。
中は床踏み抜いた所があったし、その上を見たら案の定雨漏りのシミがあるし……。
予算が出たら潰して建て替えるっていうんで、この先雨の多い季節に雨漏りしなきゃいいっていうのと、
床の穴を塞いでくれればいいってことで話は聞いた。その雨漏り修理が大変なんですがね……。
日当銀貨10枚+実費……。日当1万円の仕事だしそれなりでいいよ! とは言ってたので、まぁ雑に修理しますかねって所で。
屋根上がりたくねぇ……。なんたって板張りですぜ……。雨漏りするような板張りの屋根なんて上がったら絶対踏み抜くだろ。
そもそも屋根の板に穴開いてるしなぁ……。風で何かすっ飛んできてぶっ刺さったのかね?
ひとまずこの大穴の上から板を当てて四方にクギを打ち込んで固定して、小瓶に入った液体をクギの上と当てた板の周囲に塗って防水対策。
これ、何か魔物素材らしいんだけど、冒険者ギルドで水に強い接着剤無い? って聞いたら出てきた。
結構お高いんだけど、板当てただけだと漏るかもしんないからなぁ……。まぁ何かコーキング剤打ってるノリです。質感もコーキング剤っぽいし……。
大穴を塞いだら屋根裏に入って、屋根を裏から目視確認して、外の光が見えるような所があれば接着剤の残りで埋める。
屋根が終わったら次は床の修理。
腐った部分を剥ぎ取って、ネダ(床板に対して直角に入った骨)に残ったクギを全部抜いて、新しい板を寸法切りしてはめ込んで、
後はクギを打ち込んで固定していく。
文字にするとたったこれだけだけど、床だけで半日かかってる。
……ネダも腐りかけてるからクギを抜くときにへし折れないか心配になったけどどうにか無事終える事が出来た。
昼にはシスターさんがパンとスープを差し入れにもってきてくれました。
そんなこんなで朝から作業にかかったものの、作業が終わったのは夕方でそろそろ日が暮れようかと言う頃。
「どーにか一日で終わったなぁ……」
工具を片付け、ゴミが散らかった室内を箒で掃いて作業を終わる。片付けまでが仕事です。
「おや?」
小屋から出て、周囲を見渡すと、墓からしくしくとすすり泣くような声が聞こえる。
ふとそれが気になって、墓地をゆっくりと見渡すと、喪服のような真っ黒の服を着て墓前でうずくまる人物が一人目についた。
「どうしましたか?」
声をかけるまで年齢もわからないので、一応丁寧語。
声をかければこちらを向いて驚いた表情。
銀か、白か、それとも灰か。判断に困る色の腰までのどストレートの長髪に、真っ赤な虹彩。病的に真っ白な肌。
歳の頃は15~6か? まぁ、ものっそい美少女なのはお約束。
喪服みたいに思ったけど、よく見ると結構可愛いドレスだな。黒一色だけど。
ゴスロリというには飾りがすくなく、喪服というには華美な感じ。ゴスロリってそもそも白黒のああいう服の事だっけ?
「え、ええと、あなたは? 神殿の人……じゃない……よね?」
「あー、冒険者をやってるサトルって者です。今日はあの管理小屋の修理を頼まれて来てたんだけど、泣いてるような声を聞いて気になったのでね。気は晴れないかもしれないけど、これでも食べて元気を出してくれると嬉しい」
女の子の手に、自分用に買っていたクッキーの袋を乗せる。
日本のお菓子を食べ慣れた俺にはボソボソ感が強い代物ではあったけど……。
それでも仕事した後は甘いものが欲しくなるからなぁ……。
「あ、そういう種族なので……」
「あぁ、そう……? なの?」
墓地で泣くような種族? そういう種族は……、俺の知識だとアレしかないなぁ。
あれって死人が出る屋敷の前とかだった気もするけど。
「…………バンシー?」
「です。あの、気味悪かったりしない? 死を呼ぶ……なんて言われたりすることも多いんだけど」
「バンシーって、予見するだけじゃなかったっけ」
「そうですね、それも確実じゃないし……。甘い……! すごく甘くて美味しい!」
クッキーを食べるとパァッと音が出んばかりの笑顔を浮かべる。ヤバい可愛い。
バンシーって色々伝承はあるけど、モノによってはクッソ怖い外見だったりするんだよなぁ。ソレでなくてよかった。
アンデット扱いされがちだけど、実際の所は妖精とか精霊系の種族じゃなかったっけ。
「帰るなら送っていくけど、どうする?」
「あ、特にお家とかは無いんです。精霊みたいなものなので……」
詳しく聞くと、どうやら特に食事を取る事に娯楽以上の意味は無く、住処も決まった家があるわけでもないらしい。
家に住む必要が無い、とも言うのか。実体はあっても幽霊みたいなもんだから雨風防ぐ家が要らない……。ということらしい。
聞いてもわからんが見てもわからん。手を握らせてもらったけど、普通にあったかいし柔らかかったしなおさらわからん。
俺から見ると人間にしか見えないんだよなぁ。
まぁ普段は目的もなくあっちへふらりこっちへふらりとうろついて、死の予兆を感じたら泣きたくなるのだとか。
「でも、また甘い物は食べたいなぁ。初めてたべたかも……」
「……ならついてくる? 金無いからいつもごちそう出来るとは言えないけど」
思わず、そう言ってしまう。いくら家に住む必要が無いっていってもねぇ……。
流石にこの容姿の女の子を放って行くのは気が引けたし思わずそう言ってしまう。
「えっと、ついていってもいいの……?」
どうもクッキーで餌付けできてしまったらしい。
この子、そのうち悪い人にお菓子につられて攫われないか、とかおじさん心配です……。
なおさら放っておけないなぁ……。
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「あー、やれやれ。今日も一日終わった終わった……」
ジャンが仕事を終えて冒険者ギルドに戻ると、そこはいつもどおりにぎやかで、受付にも、仕事を終えたらしい冒険者が並んでいる。
どうやら、並んでいる中にサトルも居るらしい。あの作業服に黄色いヘルメットは目立つからひと目でわかる。
「依頼達成報告は腹ごしらえでもして時間潰して、少し捌けてからにすっかね」
パーティメンバーに視線を向け、頷いたのを確認すれば酒場の方へと移動する。
酒場に行っても特に何か変わった事があるでもなし、まぁ概ねいつもどおりだ。
新顔の冒険者が女の子に言い寄ってるのはちょっといただけないが……。舌打ちを一つし、手を出すかとそちらに近づいてジャンが青ざめる。
冒険者が言いより、手を掴んでいる女の子は、喪服のような真っ黒なドレスに銀の髪、泣きはらしたような真っ赤な目、それに魔力を感知すればわかるが人間のソレとは違う。
古い墓地でアンデットの掃除などを請け負えば出会う事もあるし、街中でもたまに見かける事がある。
精霊や妖精の一種ともいわれる種族、バンシー。
問題は一つ、目に涙をためて顔を歪めており、今にも泣き出しそうなのだ。
「バンシーが泣くぞ! 耳を塞げええぇぇ!!」
ジャンが叫ぶのと同時か、一瞬の後。
「うわあああぁぁぁぁぁん!!」
この少女のどこから出ているのかという大音量の泣き声に、至近距離に居たナンパ男は耳から血を流してぶっ倒れ、周囲の冒険者は必死で耳を塞ぐ。間に合わなかった者もちらほら居るようだ。
それは泣き声というにはあまりに大きく、耳を塞いでなお頭をグワングワンと揺さぶられるようで、地震でも来たかのように、椅子やテーブルがカタカタと揺れ、ギルドの窓ガラスは一枚残らず割れ、酒瓶も全滅。
そんな中で、サトルが平然とやってきてどうにかそのバンシーを宥め、泣き止ませる事に成功する。
「なんで耳栓とか持ってんだよアイツ」
その後、ギルマスがやってきて事情聴取があったりしたのだが……。
バンシーは魔物ではなく、『人間』として扱われる。
しかもギルドに登録されていない一般人だ。よってギルマスの裁定はこうなる。
『泣かせたヤツが悪い』
もし仕事先の墓地なんかで出会っても、バンシーを刺激しないというのは鉄則だ。彼女らは基本的に無害なのだから。
ただ、すすり泣きではなく、大泣きされたり、叫ばれたりすると大変な事になる。
今回も大変な事になり……、割れた窓ガラスやだめになってしまった酒の弁済、さらには、とばっちりを受けた冒険者の治療費の支払いまでナンパ男がさせられる事になった。
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<<学生さんの会話の一幕>>
「冒険者ギルドでバンシーが出たらしい」
「どこ情報だよそれ!?」
「メイドさん情報だ」
「しかしバンシー、バンシーねぇ? アンデットだっけ?」
「妖精とか精霊の一種だけど、ゲームだとアンデット扱いされることも多いな。
地方によって、美女、美少女と言われたり、非常に醜い姿と言われる事もある」
「醜い姿?」
「鼻の穴が一つで、前歯が突き出ていたり、乳房がだらりと垂れ下がっていたりする。
なお、その乳房を吸う勇気があれば、バンシーの養子になれるとされ、のぞみを叶えてくれるそうな」
「ちなみにこの世界のバンシーは?」
「美女、美少女だな」
「会ってみたいなぁ……」
「探してみるのはいいが泣かすなよ? 悲鳴と泣き声が戦術兵器レベルらしいから」
「なにそれ怖い」
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