クロスボウを使ってみよう
異世界生活五日目。
『えええぇぇぇぇ!?』
冒険者ギルドに激震走る。
ミーナさんが受付嬢やめて冒険者に復職するって宣言したからだけど。
ミーナさん人気だったもんなぁ……。
受付嬢やめる理由も受付のところで話してたから、多くの冒険者が聞き耳を立てていた。
不動産屋がやらかしたかもって話しもしてたから、突撃する冒険者も居るかもなぁ。不動産屋南無。
まぁ、そこらは俺には関係ない。
さて今日は訓練場に午前は居座る事に決めている。
クロスボウを買ってきたから、ある程度狙いがつけれて、滞りなく再装填出来るところまで訓練する予定なのだ。
訓練場は……割と閑散としている。まぁ、みんな訓練より実戦なんだろうな。訓練したところで金になるわけでもないし。
訓練場なんかで訓練するなら、格下の相手を使って実戦で慣らしをするんだろう。
クロスボウの引き金を引くと、風を切る鋭い音とともに、クロスボウ用の短い矢……。ボルトが的に向かって飛んでいく。
的の端っこにどうにかヒット。続けて新しいボルトを装填する。
装填は身体強化して指で弦を引いて行う。そのほうが早いのと、魔力の制御訓練にもなるから。
「ちょっと狙いがズレとるの」
「クロスボウを使うのは初めてなので……」
声に反応して後ろを振り返る。
「ぶほっ」
思わず吹き出してしまった。俺の背後に居たのはドワーフだろうか?
背の低い女の子で、人間だったなら小学生といっても通ってしまう見た目だ。
背中の真ん中あたりまで伸ばしたゆるふわっとしたウェーブのかかった薄い青色の髪に膝上丈の緑色のプリーツスカート?っていうのかね、学生服みたいなやつ。まぁ、そこまではいい。
黒いTシャツ着用なのだ。しかもでかでかと、やたら達筆な白文字で胸に『洗濯板!』って書いてある。
確かにこの人ぺったんだけどさ。ていうか文字Tあるのかよ……。
「笑ったな?」
こんなん笑うわ。
「いやー、最近笑ってくれる奴が少なくてのー」
あぁ、やっぱり自虐ネタだったんだ、そのTシャツ……。平らですらないアバラの浮いた洗濯板って、流石に言い過ぎじゃありません?
横からみたらかすかには膨らんでるような……?
「初見は笑うだろうけど2回目はなぁ……」
「他にも色々種類があるんだがの」
話しをしながら、手元に視線を戻し、新しいボルトをつがえ、的に向かって撃つ。矢はさっきよりもう少し内側にどうにか刺さる。
せめて10メートル先の止まった的にぐらいまともに当てられるようにしたい。
「そう言えばまだ名乗ってなかったの、ワシは乙級冒険者のフローラ。お前さんはあれじゃろ? スキルが無いとか噂の」
「あー、多分その噂の人物で間違い無いです。習級冒険者のサトルです。って、乙級ですか。大先輩ですね」
次のボルトを装填して撃つ。少し真ん中に寄った。
「ふむ、武器に慣れればまともに当たりそうだの」
「だと良いんですがね」
まぐれ当たりか、次の射撃では的のど真ん中にボルトが突き刺さる。
「レベルを上げたなら大丈夫だと思うがの~。DEXが並より高ければ有効射程内ならすぐ当てれるようになる。
弓と違ってクロスボウはそんなに技術がいらんしの」
「あぁ、そう言えばそんな項目ありましたっけ……。レベルは一応42でしたね」
弦に指を引っ掛けて引く。身体強化をしなければ、指でなんて引っ張れないだろうなぁ、この弦。
指が裂けるわこんなもん。
「そのレベルならスキルがあれば乙級……いけるかのぉ? まぁ丙級まではすぐだろうて。
丙級まで上がったらワシと組むか?」
「それは魅力的ですけど、今はパーティとか組んで無いんですか?」
「ソロだの。普段は煩わしくての。酒代メシ代宿代ぐらいだったら数日に一度、森にでも入れば十分稼げるし。
街の近くの森なら体術で事足りるから武器のメンテもいらんし。
日々のんべんだらりと過ごせればいいワシからすればそんなもんで十分での。
前に組んでいた連中は野心が強くて面倒になったから抜けたのだ。
ワシは名誉も過剰な金も求めとらんというに」
「そんなもんでいいんですか」
「うむ。森に入ってオークの一匹でも狩って丸々持ってかえれば肉と素材で金貨1枚になる。
オークぐらいだったら、出会い頭に首をこう、コキっと捻ってやれば一発だからのぉ。
あとは血抜きして持って帰れば痛みのない肉だから高値で売れる」
そういって、両手で頭を掴んで回すようにするジェスチャー。可愛い顔して怖えなこの人……。
んー、現代風に言うとあれなのかなぁ。出世するよりヒラ社員でのんびりしてるほうが良い的な。
オーク1匹10万円……。美味いな、オーク……。でも豚一頭買いすればもっとするだろうから安いのか。
「本当は今日は片手間で受けられる手頃な依頼でもないかと思って顔を出したんじゃが、お前さんと話すのも面白そうでの」
「俺と話してもあんまり面白い事は無いと思いますけどね」
話ながらも射撃の練習を続けていると、なるほど、ある程度コツつかめば楽に中心近くに当たるようになってくる。
スキルがあればもっと楽なんだろうけどなぁ。
「スキルがなんも無いヤツの話なんぞそうそう聞けんしの」
「やっぱりみんなスキルって持ってるもんですか?」
「少ないヤツでも3~4個は持っとるらしいの。ワシは当然もっと持っとるが、後から生える事も多いし。最近確認しとらんし、また生えとるかもしれんの」
「と言っても、スキルが無いってのは最近知ったんで、なんともですけどねぇ。スキルがあんまり効かない武器って事でクロスボウをすすめられたんですが」
「そうだの、効いてくるとしたら命中精度ぐらいのもんじゃ。んー、そろそろ動く的でも狙ってみるかの?」
「あぶねぇ!?」
動く的でも狙ってみるか、そう言ってフローラは的の前へと移動する。
「身体強化しとるし来ると分かっとるんじゃ、あたらんよ」
そういって飛んでいったボルトを手づかみで止めた。
「ワシを狙うといいぞ? 適当に歩くから狙って見るといい」
「刺さっても知らないからな!?」
その後、昼をすぎる頃までフローラを狙っての訓練を行ったのだが、全てのボルトを掴んで止められてしまった。
徐々にギアを上げて素早く動き、ケラケラと笑いながら矢をつかみ、
訓練に付き合ってくれたフローラさん曰く、この命中率とクロスボウの質ならオークぐらいまでなら脳天を抜いてやれるじゃろ、とのこと。
「しかし、こうまで全部掴まれるとこの先やっていけるか不安になるなぁ」
「ふむ。オークはだいたい丁級パーティか丙級ソロで対1ならどうにか無傷で勝てる相手だから。コレが通用するのは丙級の相手までじゃな。
具体的にはトロールならギリギリ刺さるかの。
しかし、丙級の実力があれば報酬的にも魔法銃に手が届く範囲だからそちらに乗り換えになるだろうの~」
「なるほど……」
「娼婦に入れあげて貢ぐような事がなければ、じゃがのぉ?」
その見た目でそんな事をいいながら卑猥なジェスチャーするの、やめていただけませんかね。
「まー、実際の所はオークとかあのへんは群れる事が多いからのぉ。やはり前衛のメンバーがほしいじゃろ。ちなみにお前さんは接近戦はやるのかの?」
「あー、一応こんなのは……」
空間収納から出したハンマーをフローラに手渡して見せる。
「んー、柄はトレント材か。良いハンマーだの。ちょっと、そこの地面を全力で叩いて見せてもらえるかの?
身体強化はハンマーも含めてするんじゃぞ? 自分の手の延長と考えて魔力をなじませて行けば良い。
慣れんなら時間をかけてもよいぞ?」
「よく材質がわかりましたね?」
「コレでもドワーフの端くれだからのー。多少の目利きぐらいできるわい」
言われるまま、全力で体に魔力を通していき、手に持つ柄にもゆっくりと魔力をなじませていく。
「せいの!」
しっかりと体とハンマーに魔力が乗った所で、ハンマーを大上段に振り上げて地面に対して振り下ろす。
地面にハンマーが触れた瞬間、地面が破裂したかのように土が吹き上がり、小さなクレーターが出来上がる。
「ほ。いいのー。これなら威力だけで言えば乙級と言い張れる。実戦で使えるかどうかは別問題じゃが、そこは練習で埋められる」
言いながらも、俺に木製のトンボを手渡し、自身もトンボを使って吹き上がった土をクレーターに入れて雑に穴を埋めていく。
俺もそれにならい、穴埋めを手伝う。どう見てもいい加減だし、踏み固めているわけでもないが、こんなもんでいい。とのこと。
「丙級まで上がるのを楽しみにしようかの。んー、そうだの。ゴーレムとかカメとか狙い目じゃな。
剣が痛むから不人気じゃし、ソレ故に討伐難度が高めに設定されておるが、その威力でハンマーを振れるならカモでしかないからの。
あとは、ハンマーは上からたたきつけるだけの物ではなく、横から殴りつけても、突いて突き飛ばしても良い。振り上げる時にどついたってかまわん。
確かに振り下ろして叩きつけるのが一番威力を出しやすいが、それにとらわれん事じゃな」
「詳しいですね」
「武器を使うときはワシもソレだからのー。ほれ、ワシもドワーフじゃし。最近ほとんど素手だがの。メンテ代も馬鹿にならんし。
ひょっとしたら体術スキルが生えてるかもしれんの」
そう言いながらわっはっはと腰に両手を当てて胸を張り、豪快に笑う。
なんとも見た目と中身がアンバランスな人だなぁ。すごい付き合いやすそうな人だけど。
「次の仕事は何をする予定じゃ?」
「あー、明日墓地の管理小屋の修理に行って、明後日あたり狩りに出ようかと」
墓地の管理小屋はどうもボロくなって所々穴が開いたりしているらしく、応急でいいので修理してほしいとの事。
本職の大工に頼んで徹底的にやるほどでもなく、冒険者に誰かやってくれる人いねぇ? っていう軽い感じで出された依頼らしい。
神殿の管轄なので、顔を売っておくと良いよ! と、ミーナさんに教えてもらったので受けたのだ。
今日この後下見に行って、それから材料を買いに行く予定。一応材料費は持ってくれるのと、簡単な道具はあるので、使っても良いとのことなので、その確認もしなければならない。無いものは買わなきゃいけないし
「ほう。獲物は何を狩る?」
「五目ですねぇ。討伐証明や素材持ち込みで達成出来るタイプの依頼で済ませる予定なので」
「ふむ、それならワシもついていこうかの。どうせ暇じゃし」
「良いんですかソレ」
「かまわんじゃろ。勝手についてくだけじゃし。なに、死にかけるまで手は出さんから安心せよ」
まぁ、乙級冒険者様がそう言うならそうなんだろう。
ひとまず安全が確保されたということで喜んでおくことにした。
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<<学生さんの会話の一幕>>
「ところでファンタジー大好きFさんよ」
「なんだね、寺生まれのTさん」
「ひたすら城で走り込みと逃走訓練で中世ヨーロッパ感は味わえるんだが、ファンタジー感が全然無いのはいかがお思いか?
いや、逃走訓練がそもそも、ハリセン持った兵士に追いかけ回されるってあたりで、ヨーロッパっていうよりバラエティ番組臭がするんだけどよ。年末にやってるアレ的な」
「見事に雰囲気ぶち壊してくれるハリセンだが、あれ魔法道具らしいぞ? しかもダンジョン産の」
「マジで!?」
「効果は、全力でしばこうが、どこに当たろうがダメージ0。ただし普通に痛い。10分で痛くなくなる。あとめっちゃいい音がする」
「訓練にピッタリだな。確かにクッソ痛いんだよな、あのハリセン……。俺含めてみんなガチ逃走だもんなぁ」
「それと明日ぐらいから魔法含めた訓練やるっていってなかったか? あと、魔物の人なら昨日見かけたぞ」
「マジで?」
「おう。アルケニーだったか? 背中から蜘蛛足生えた女の子だったな」
「ほー。冒険者の従魔かなんかか?」
「一応従魔って扱いだが冒険者じゃなくて仕立て屋だそうだぞ?」
「城に呼ばれるレベルの仕立て屋ってレベルたけぇな……」
「一言二言話させてもらったのと、握手してもらった」
「なにげにコミュ力高いよな、お前……」
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