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恐ろしい侵略者

異世界生活四日目


特に二日酔いで頭痛がひどかったりするわけもなく、普通に目が覚めた。


スキルのおかげかしらね?


「おはよーございます……」


寝起きに顔を洗う代わりにクリーンをかけ、昨日注文したハンマーを受け取りに行く。


「おう、できてるぞ。ちょっと使ってみるといい、直しが要るならやるぞ?」


そういって、店のおやっさんはカウンターの下からハンマーを取り出し、カウンターに置く。


注文通り、片方は尖らせてあり、柄は細く、ヘッドも小さく軽そうだ。


それを手に取って、手首だけで軽く振り、カウンターをコンコンと叩く。


手に馴染んで扱いやすく、振ったバランスも問題なさそうだ。


「問題無いです」


「しかし何で片方尖らせたんだ? 攻撃用じゃ無いんだろ?」


「サビを取ったり腐った部分を剥いだりする時に使うんですよ」


「なるほどな。あぁ、それ、強度は値段なりだから、力任せにぶん殴ったらへし折れるからな?」


「流石にそんなバカやりませんて……、さて、俺は仕事行ってきます」


「おう、気をつけろよ?」


武器屋を後にして冒険者ギルドに行くと、ミーナさんに捕まった。


受付に座っていない所を見ると今日は非番なのだろうか?


「サトルさんに指名依頼があるんですけど、いいですか?」


「俺にですか? 何故に……?」


「家の屋根裏の点検をお願いしたいんです」


「あー、了解しました。でも、俺も専門じゃないんでだいたいしか出来ないですよ?」


「かまいません、お願いします。依頼書を作りますので少し待ってください」


受付のお姉さんにミーナさんの依頼を受ける旨伝えて、ミーナさんの後をついていく。


……やっぱり受付嬢って、冒険者ギルドのアイドル的な存在なんだろうなぁ。


背中に感じる冒険者の嫉妬の視線がヤバい、というか「ミーナさんの家にお呼ばれだと……!」みたいな呪詛が聞こえてくる。


仕事ー! 仕事ですよー!


あー、でも昼飯ぐらいは出てくるかもしれないなぁ……。


何か食べさせてもらっても絶対言わないようにしよう。殺される。


━━━━━━━━━━━


「ここが私の家です」


案内されてきたのは、冒険者ギルドから徒歩で15分ほど行った所にあるこぢんまりとした2階建ての一軒家。


レンガと木造のハイブリッドな感じだなぁ……。屋根裏は木なのかね、これ。


鍵を開けて玄関を入っていくミーナさんについていく。


「1年ぐらい前に中古で買ったんですけど、時々変に軋むんですよ。屋根裏を覗いて見ても私にはわからないですし」


軋む……ねぇ? 柱が腐って変な荷のかかりかたしてるのかね?


「んー、ちょっとつついてみますか……」


二階に上がり、10キロハンマーを取り出して柄で天井板を一つずつ、つついてまわれば、そのうちひとつがゴトンという音とともに軽く浮く。


その板を柄で持ち上げてずらすように動かすと、天井にポッカリと穴が開いた。多分ここが点検口だろう。


「そこのテーブル、土足で上がってもいいですか?」


「後で拭くのでかまいません」


了解を取ってから、テーブルを点検口の真下に持っていき、さらにテーブルに椅子を乗せ、ハンカチを三角に折ってマスク代わりに装備して、天井裏に入っていく。


「まだ電池あるかなっと……」


ハンドライトを点灯させれば、ホコリまみれの天井裏が明かりの円の中に浮かび上がる。


和天井と違って天井板はそこそこ厚みがあったので、踏み抜く事は無いだろうけど念の為に骨のある場所をちゃんと踏むように動く。


和天井って板が薄いから下手に踏むとズボっというか、ベキっと行くんだよな……。


そんな事を考えながら、屋根の骨や柱を今朝受け取ったばかりの小さなハンマーでコンコンと叩きつつ、雨漏りの痕跡が無いか目視で確認していく。


コンコンと叩くと、バサバサとものすごい量のホコリが上から落ちてくる。まともなマスク、ほしいなぁ……。


「異常なし……」


コンコン。


「異常なし……」


ゴン。


「ンンッ!?」


柱の一つから、明らかにおかしい音がする。せいぜい雨漏りして柱が腐ってる程度だと思ってたけどこれはひょっとして……。


俺は恐る恐る、柱に耳を当てる。


カラカラカラ……。


「……」


間違いない、この家には奴らが居る……。恐ろしい侵略者が……。


ひとまず点検口まで戻り、階下へ顔を出してミーナさんに声をかける。


「ミーナさん、柱に穴あけてもいいですか?」


「ええ!? 大丈夫なんですかそれ!」


「小さな穴ですから大丈夫かと」


「お、お任せします!」


工具箱を空間収納から取り出して、5ミリの木工ドリルを手回しドリルに取り付け、問題の柱にゆっくり慎重に穴を開ける。


━━━━━━━━━━━


「ど、どうでしたか?」


天井裏から現れた俺を不安げな表情で見るミーナさんに、俺は沈痛な表情をして首をゆっくり左右に振る。


「な、何があったんですか!?」


「これです」


中身のお金をすべて放り出した財布代わりの革袋をテーブルに置き、広げる。そこには数匹の侵略者が居た。


「……柱をシロアリが食ってました。少なくとも柱が2本はやられてます。1階の床下はもっとヤバいかもしれません」


後おそらく、柱を叩いて落ちてきたホコリだとおもってたモノは、シロアリが食った後の木くずだ。


多分間違いない。


「そ、そんな……」


ミーナさんの顔色がどんどん青白くなっていく。そりゃあそうだろう……。


買ったばかりと言ってもいい家がシロアリに食われているなんて知ったらそうなる。けして安い買い物では無いのだし……。


まぁ、乙級冒険者的にはそこまで大金でもないかもしれないけどさ。でも王都の家なら……。


都心に家を建てるとして……ウン千万? とかになるのか? 億行くのかしら、わからん。


まぁ、金貨数百枚~千何百って所かね。あ、でも中古物件買ったならもっと安いのか。


「正直いってどこまでやられてるかわかりませんし、俺には対処のしようが無いです。ただ非常に言いにくいのですが……」


点検を仕事として受けた限りは言いにくいけれど、俺は宣告しないといけない。


「は、はい」


「シロアリって普通床下に巣を作るんですよ。それが屋根裏に居るって事は、そうとう食われてますよ、この家……」


高確率で手遅れだということを……。


「泣きそうです……」


「こういうのはあんまりオススメ出来ないんですが。床下を見て手遅れだったら、黙って家を売り飛ばすのも手です。


駆除するなら、家まるごと凍らせるか、食われた柱に穴を開けてそこから毒を流し込むとかですかね。


専門じゃないので、的確なアドバイスはできませんけど……。


まぁ駆除したとしても、それでも柱の補強なり交換なりっていうと大仕事になりますし、金はかかりますよ」


「床下、見てもらっていいですか?」


「わかりました、見ましょう。ただ、床板を剥いだ跡があると、家が売れないかもしれないですよ?」


「う……、うぅ……、それでも確認をお願いします……」


1階に降りて、なるべく目立たない場所の床板のクギを抜いて、床板を剥がし、そこから床下に潜り込む。


結果は……。全滅。


ひどい所では叩くとハンマーがめり込むような場所もあった。そこをハンマーの尖ったほうで叩いて軽く剥いでみたら居るわ居るわ……。


ここ1~2年とは思えない食われ方だ。それこそ前の家主の頃からシロアリは居たのだろう。


床下から這い出して、クリーンを使い身ぎれいにして……。やっぱり魔法って便利だなぁ……。


そして状況をミーナさんに説明したときの落ち込みようといったら……。


いや、リアルorzって初めてみましたよ。


「点検お疲れ様でした。所で、そろそろお昼ですけど、食べますか?」


「昼代が浮くのは歓迎なので、是非」


どうにか復活したミーナさんがお昼を食べさせてくれるということなので、ありがたくいただく事に。


メニューは、ピザっぽいパンとスープとサラダ。かな?


ピザより硬めだけど結構美味しい。サラダもドレッシングがいい味出してる。スープもコンソメスープっぽくて美味。


腹も減っていたのでぺろりといただきました。俺が食べるのが早かったのかミーナさんが驚いた顔をしていらっしゃる。


いや、冒険者って飯食うの早いんじゃなかったでしたっけ?


じゃあなんで驚いてるんだろ……、まぁいいか。


「それにしても気になるんですが……」


「はい?」


「柱に対して床板がきれいすぎるんですよね」


「どういうことですか?」


「床板が柱に比べて全然食われてないので、多分、床板だけ張り替えて売ったんですよ。


前の家主がそうしたのか、不動産屋の仕業なのかは今となってはわかりませんけどね」


「はぁ……。家を買って落ち着けると判断したから冒険者から受付嬢に変わったんですけどね……」


「まだ買って1年でしたっけ? 早いうちに気づけたので良かったのでは?」


「そうですね……、まだ腕はなまってませんから、また冒険者活動を頑張るとします」

今回も最後までお読みいただいてありがとうございます。


もしよければ評価、感想等いただけると嬉しいです。

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