テンプレスタートかと思いきや?
「ようこそ勇者様方」
そんなセリフを言う高そうな衣装を着た男に、テンプレかよ、なんて考えながらため息をつく。
言葉がわかるのは、そもそも言語が日本語なのか、それとも異世界転移特有の言語理解スキルなのか。
そんな事を考えるうちにも、これ誘拐じゃないかよ! とか、おうちに帰りたい!とかいうよくあるセリフが乱れ飛ぶ。
うん、集団転移なんだ、これ。
しかも俺はどうやら巻き込まれた系。周りみんな学生さんなんだよなぁ。ブレザー姿の男女が30人ばかり。
女の子のスカートから伸びる生足が眩しい! しかし黒のパンストもイイ!
え、俺? 一応社会人だよ。ガッコの屋根裏潜り込んで工事してたんだけどね。
ピッチピチ(古い)の学生さんに一人ポツンと、ホコリまみれで完全武装の作業服姿が混じってるのはなんともシュール。まぁ、ヘルメットと安全眼鏡とマスクは外したけど。
点検口から狭い中に入り込んでるんだから汚いのは当たり前だろ、チキショウ!
学生さんが見たっていう魔法陣も強い光も、屋根裏からじゃひとかけらも見えないまま、突然ここに出現したので意味わからん。
まぁ、学生さんは必死に帰りたいような事を言ってますが。
どうせこのパターンって、魔王を倒したらなんとかなるとか言うヤツだろうしなぁ。
……まぁ、学生さんの言い分に対する回答は以下の通り。
・星の並びが揃うこの日に各地の魔王に対抗する勇者達が現れるという神託があった。
・そもそも誰かが召喚の儀式等を行ったわけではなく、自動的に召喚されたらしい。さらにこの人数は想定外。
・この日この場所に出現するという神託があったから集まって出迎えただけにすぎない。
・送り返せるもんなら送り返すけど、帰し方は不明。
・神託の通り対魔王に頑張ってくれるなら一定の地位や報酬を約束する。
送り返せるなら送り返す、って、そりゃそうか。一部転移だー!って盛り上がってる奴らならともかく、士気が低い連中は居ても邪魔なだけだろうし。
あと、集団転移だとたいてい混じってるクソ野郎とかねぇ……。今回混じってるかはしらんけど。
俺? 俺としては別にねぇ、現代に未練も無いし必死になる必要も無いかなぁ、なんて工具箱に座って傍観してます。
傍観するうちに一人ずつステータスを確認する! っていうテンプレ展開になって、いざ俺の番!
集団転生って『あたり』が2~3人で他がだいたい汎用よりチョイ上ぐらい、キャーキャー言ってる子も居るんでおそらくもうあたりは出ちゃってるんだろう。
そもそもこの集団召喚のパターンって、大概ロクな事になんないんだよなぁ、テンプレだと。
まぁ偏見もあるが、だいったい国がロクでもなくて、戦力として奴隷化する、なんていうパターンがほとんど。ステータスが良かろうがスキルが良かろうが、良いことにはなり得ない。
さっきの回答にしたって信用できるかどうかっていえば、出来るわけが無い。一応真偽判定の魔法道具なんていうのが出てきてたけどねぇ。
ま、ここから逃げ出すようなオツムは俺には無いし、諦観っていうのかねぇ。色々諦めてます、学生さんから相談でもあれば手伝うのはやぶさかではないけど。
巻き込まれた俺はだいたい序盤で死ぬ役回りだろうなぁ。
で……。
ステータスを鑑定するための水晶っていうのに触れた結果が。
━━━━━STATUS━━━━━━
名前 イチノセ サトル
LV:1
HP:100%/100%
MP:100%/100%
STR:並の上
AGI:並
VIT:並の上
DEX:上の下
INT:並の上
MAG:下の上
魔法適正:有
ユニークスキル
無芸大食
スキル:無し
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こんだけです。
いやまぁ、うん……。感想としては……。
やる気ねぇなぁ!? 俺のステータス!
っていうか、ステータス鑑定ってこんな大雑把なのかよ!
しかも何だよスキルの無芸大食って!?
「ス、スキルの詳細を鑑定してみましょう。その水晶に触れたまま、詳細を知りたいと念じてみてください」
言われるままに念じてみてしばし、表示された結果が……。
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無芸大食
何でもおいしく、一杯食べられる。
他のスキルを覚えられない。
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たったこれだけです。
この中で一番の大外れじゃねぇか!
鑑定を担当してくれた神官っぽいおじさん絶句。
その場にも何だかなんとも言えない沈黙が。
これあれだよね、お約束的には、一緒に来た学生さんにボロクソ言われたり、無能扱いされたりするやつ!
と、思いきや。元気出せよ、っていうふうに肩をぽんぽんと叩かれて
「では次の方」
なかった事にされた!? ねぇ、完全になかった事にされたよね、今!?
その後もあれよあれよと話は進み、ひとまず時間が遅いので、部屋を都合するのでそちらに移動して食事を取るという話に。
俺? その後ガン無視されて取り残されてました。
ぞろぞろと移動する学生さんの後ろをトボトボとついて歩いて歩く。
トボトボと歩いているものの、一歩ごとに工具箱と腰道具がガッチャガッチャと音を立てるのがなんとも言えない。
「サトル様。サトル様はこちらです」
と、メイドさんに俺だけ呼び止められた。
俺だけ隔離!? これこのまま森とかに捨てられちゃうパターン!?
まぁ、どうしようもないので、メイドさんに素直についていくと、やたらめったら豪華な部屋に案内された。
「……、陛下からの言伝です。『流石にサトル殿はこの先も戦力になる目が無いし、そのスキルでは今後贅沢どころか生活も苦しいだろう。せめて今日だけは貴賓室で最高のもてなしをしよう。明日、餞別を渡すので城下に降りて好きに生きよ』とのことです」
わーお……。なんか心底同情されてるなこれ……。
こういうのって大体、やくたたずにかける金は無いとかって、夜の森なんかに捨てられるのがパターンだと思ってたけど。
そういや、しょっぱい能力値なのに誰も罵倒とかしてこなかったなぁ……。
どっちかっていうと憐れみっていうか、同情の視線がすごかった。
「私は明日、サトル様が出立なさるまで、サトル様付きのメイドです。いかようにもお使いください」
そう言って、メイドさんはスカートを軽くつまんで頭を下げる。カーテシーっていうんだっけ、こういうの。
「いかようにもって?」
「お望みでしたら夜伽でもいたしますよ?」
「……、そーいうのはいいや、病気とか怖いし。んー、じゃあ、お茶入れてくれる?」
「私は処女です! 人を尻軽女のように言わないでください!」
むくれた表情をしながらも、お茶の準備をしに行ったのだろう、音も立てずに部屋から出て行った。
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「陛下、よろしいので?」
「あの男か?」
宰相の言葉に王はため息を付きながら返事を返す。
「……、いくら無能とは言っても普通はスキルの3つや4つあるものだ、スラムの貧民でもな。それを思うとどうにも不憫でな……。
考えてもみよ。スラムの貧民でも冒険者としてでも這い上がるためのスキルは有る、その気になれば棒きれを振り回していれば剣のスキルも覚えられるかもしれん。
だが、あの男は、それを一切覚えられない暗い未来が確約されておるのだ。
職はつけても下級冒険者、そうでなければ良くて物乞い、奴隷になったなら買い手はつかず鉱山送りだ」
「まぁ、たしかに……」
「城の訓練にはついていけんだろうし、金貨の数枚でも渡して送り出してやるのがよかろうさ、商才でもあればその金で商売でもしてなんとかするだろう。
スキルは無くとも読み書き計算ぐらいは楽にこなせるようだしな。それに、持ち物を見る限り手に職は持っていそうだし」
「……貴賓室になど入れず、そのまま森にでも捨てても良かったのでは?」
「そういうのは後々不和の種になりかねんから思っててもいうんじゃない。というか、滅亡フラグだから絶対やってはいけないと文献にあるのだ」
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はじめまして幸運の黒猫と申します。
見切り発進なのですが、書ける限りは書いて行こうと思うのでよろしくお願いします。
評価等もらえると泣いて喜びます。