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外法様 【エピローグ】

最期は酒々井つゆりのおばあさん視点です。




「彼らはあなたを探しに来た人達です」


 加茂さんが妹さんに言った。豪君はすでに荷造りを始めている。その豪君が加茂さんに何かを渡す。


「靴は無いので、靴下を重ね履きしてください。我々の物ですが、きちんと洗ってあります」

「は、はい。あの、兄は?」

「お兄さんの行方は分かりませんでした。あなたは外法様と呼ばれる山の神様のような存在にさらわれていたのですが、彼らが取り戻しました」

「そうなんですか。ありがとうございます」


 どこまで信じているか分からないが、まあ、暴れたり泣かれたりするよりはいい。


「もうすぐ朝が来ます。それまでにこの村を出て、迎えを待ちます。歩けますね?」

「はい、それは大丈夫だと思います」


 突然のことに動揺しているだろうに、健気な子だ。あんな兄でも慕って助けたいと考えていたのだから、根っからいい人なのだろう。


 結局村の出口まですんなりと出られた。


 妹さんは足元を気にしながら歩いていたので、気付かなかったのだろう。例の電柱の上で、天狗がおいしそうにきせるで煙草を吸っているそのすぐ下に、彼が首を吊った状態でぶら下がっていた。つゆりは繋いだ手をぎゅっとしてきたが、それを口にしなかった。俺も。


 タクシーが来るのを待つ間に計算したら、今日中に帰れそうだと分かった。


「遅番のバイト出ようかな」

「え?ほんとに?」

「つゆりは明日の一限の講義、出た方がいいやつだろ?」

「ええー、でも上梨が遅番だと朝起きられないかも」

「7時でも余裕だろ。もう大人なんだから、自分で起きないと」

「うー、分かってるけどー」

「バイトが一人辞めて店長がずいぶん無理してるんだよ」

「分かった、起きる。自分で」


 低血圧というわけでもないが、つゆりは時折寝坊する。しかし今回は力をとことん使ったわけでもない。起きられるんじゃないかな。


 俺は励ますようにつゆりの頭をわしわしと撫でた。







 どーん


 アパートがぐらぐらと揺れた。一気に覚醒して起きた。地震か?それも相当大きい、直下型?


 隣でつゆりが同じように飛び起きていた。


 時計を見ると朝の7時だった。


 どこかで男が野太い声で笑っている声が聞こえ、やがてそれが消えた。


「今のって?」

「うん、そうだろうね。煙草のお礼か、気まぐれないたずらか」


 俺はそう言ってまた布団へと倒れ込んだ。


「あー、二度寝、いいなー」


 つゆりが抱きついて来る。


「つゆりは起きないと。一限行くんだろ」

「おはようのキスだけ」


 まったくもう。もちろんそれくらいはするけれど。







「すまないね。おたくに行ってもらおうと思ったんだけど」

『いえ、無事に終わったのならそれで。それに加茂君がたまたま来ていたと言うじゃないですか。つゆりちゃんももってますね』

「まあ、そうだね。一つ借りってことにしておいてくれよ」

『ははは、出番もありませんでしたから、そこまでは。相談一回分でどうでしょう?』

「分かったよ、ありがとさん」


 電話を切って、メッセージを確認すると、例の妹からお礼のメッセージが来ていた。両親からもくれぐれもよろしくとのことだった。


 何か変なことをされなかったかと聞くと、それはなかったけどと断り書きとともに写真が添付されてきた。


「きのこ?」


 数種類のきのこが大きな葉の上にこんもりと積まれている映像だった。これがベランダに置いてあったらしい。


「まさか、惚れたんじゃあるまいね」


 外法様が村娘に惚れて神隠しで連れ去って、伴侶にしたなんて話も聞いたことがある。今回は何もされていないようだが、外法様が妹を気に入った可能性はある。


 鍋にでもしておいしくいただきなさいと返信しておく。もし今後も続くようなら知らせなさいとも添えて。


 それにしてもと思う。


 出会った外法様が、以前に祖母が出会った外法様だったなんて驚きだ。


 それに出会った孫娘は、やはり持っているのかもしれない。


「いや、上梨君が持っている可能性もあるか」


 なぜそこだけ口に出して言ったのか、自分でも分からなかった。

 



外法様編終了です。またしばらく間を置いて閑話か次のシリーズに行くかは、沸いてきたアイデア次第です。気長にお待ちください。評価、感想には感謝です。

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