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外法様 【村の出口へ】

前半、つゆり。後半上梨視点です。




 上梨には強がって行くと答えたが、内心は不安で仕方がなかった。お堂に入って少し心が落ち着いたが、天狗倒しに迫られている時は、心の中にさざ波が立ちっぱなしだった。


 上梨がしっかりと手を繋いでくれているからなんとか持ちこたえているけれど、自分一人だったら、絶対にお堂から出ない。


「じゃあ、元来た道を戻るよ」

「うん」


 上梨は握った手から少し気を流し込んで来ているように思える。それが意図的なのか、自然になのかは分からないが、とても嬉しいことであった。


 お堂から離れて、進むと加茂さんと合流した辺りに出る。


「特に不思議なことは無いな」

「無いね」


 特に不穏な雰囲気も感じないし、何も見えない。加茂さんの予想が外れて、私達は普通に村から出られるのかもしれない。


「進むよ」

「うん」


 やがて足跡を見つけた草地に出る。ここもさっきと同じ。私達が通ったことで、草地も踏まれて分かりやすい道が出来ている。


「本当に何もないけど。取り敢えずこのまま下って村から出てみようか」

「うん、気を付けて行こうね」

「ああ、天狗倒しが聞こえたらすぐ教えて」

「もちろん」


 私は返事と共に上梨の手をぎゅっと握った。


 ゆっくりと廃村の中の道を下って行く。


 見覚えのある廃屋も見え、どんどん下っていけた。本当に何もなく出られるんじゃ、と思った時、上梨が突然止まった。


「上梨?」

「つゆり」


 上梨がこれから下って行く先を凝視している。


「何も、「見えない」けど?」

「ああ、何も「見えない」よ。でもよく見て」

「え?」


 じっと上梨が見ている方向を見る。道の脇の畑だったらしいところは草がたくさん生えて荒れている。その少し先にはさらに草が密集している。


「あ」


 私も気付いた。


 上梨がゆっくりと足を踏み出して下って行く。私は腰が引けそうになるのを我慢して、上梨について行った。


 そしてそこに到達する。


「ここって」

「うん、さっき私達が出てきた草地」


 踏み込んだことで出来た道は明らかにさっき自分たちがお堂から歩いてきて通過した場所だった。








「下ってたよな」

「間違いないよ」


 狐に化かされたみたいな感じだろうか。


「うーん、逆に道を上がっても村からは出られないしなあ」

「いったん戻ろうよ」

「そうだな」


 内心ほっとした。いつ天狗倒しが聞こえて来るかとドキドキしていたからだ。


 お堂まではすんなりと戻れた。加茂さんが面白そうな顔で出迎えてくれた。


「どうだった?」

「元の位置に戻ってました」

「だろう。これはなかなか不思議な現象だよ」

「なかなかどころかすごく不思議なんですけど」


 つゆりが不安げな表情を浮かべて聞いた。


「そうだね。でも豪君の三日籠りが終われば、たぶんこっちは脱出できると思うんだがね。そっちの彼はどうか知らないけれど」

「妹さんの行方を何とか知りたいんですが」

「うーん、外法様に話が通じればいいのだけれど」

「えっと、お礼の件で、話したんですよね?」


 加茂さんが頷いた。


「外法様に「報いろ」と言われたよ。だからお礼の品を差し出したんだけれど、「そんなもんいらねえ」と一蹴されてしまったよ」

「ど、どのあたりで会ったんですか?」

「このお堂の目の前だよ。天狗倒しが目の前でどーんと鳴ってね。上から振って来たよ」


 加茂さん、落ち着き過ぎだと思う。回覧板でも回って来たみたいな言い方してる。


「その、準備してきたとおっしゃってましたけど、対峙して勝てる感じしました?」

「いや、全然しないね。だから三日籠りに方針転換したんだ」

「三日籠りがダメだったら?」

「まあ、やるだけやろうと思っていたんだけどね、君達が来てくれたから、多少勝率は上がったかな?」

「勝てる?」

「うーん、じゃんけんくらいには上がったかなあ」


 たったそれだけか。


「まあ、彼が三日目をもうすぐ迎えるはずだから、それを見て判断しても遅くないしね」

「彼はあとどくらい?」

「詳しくは教えてくれないがね。どうも今夜が明ければ、無事三日籠り終了みたいだよ」

「夜明けまでってことですか?」

「さあ、時間までは分からないけど」


 ちらっと彼を見るがまた例の俯いた姿勢になっている。妹を人身御供に差し出して自分だけ助かるなんて図々しいが、三日籠りが上手くいくかどうかは見てみたいところである。


「さあ、その夜まではまだまだ時間がある。無駄な体力の消耗は避けようじゃないか。何か食べ物は持って来てる?」

「ええ、いざという時はテントを張るつもりだったので」

「ただ、飲み食いすると出ちゃうけど」


 加茂さんがちらりと糞尿に汚れた部屋の片隅を見る。


「臭くて食欲が」


 つゆりが小さな声で訴えて来た。それもそうだ。


「お堂の外に出るのはそんなに危険、ですか?」

「いや、たぶん君らはそれほど危険じゃないと思うな。現に歩き回れたろ」

「でも出られませんでした」

「まあ、このお堂の中にいる者を村の外に出す気は無いみたいだな」

「あの、簡易トイレありますけど」


 豪君が空気を読まない発言をして、全員にジト目で見られた。





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