表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/139

外法様 【近づく音】




「足元気を付けて」


 上梨がエスコートしてくれるので、なんとか荒れた道も歩けた。さすがの体幹だ。私も結構鍛えているつもりだけど、上梨には敵わないなあと思ってしまう。


 草が生い茂っていて、そこが平らなのか、段があるのか、石があるのか。そう言うことが分からないのだが、上梨は結構すいすいと歩いて行く。不思議だなあ。


 ふとまた音が聞こえた気がして立ち止まってしまった。


 どこかすごくとおくで、どーんという音だ。


「どうした?また音?」


 上梨が察してくれる。私は少し首をかしげながら、取り敢えず頷いた。空耳と言われれば空耳。そのくらい不明瞭な音だった。


「すごく遠くだから。全然分からない」

「なんだろうね」

「どーんて言う地響きみたいな?」

「工事で発破でもかけているのかなあ?」

「葉っぱ?」

「いや、ダイナマイトみたいな爆発物のことを、発破を仕掛けるって言うんだよ」

「へーえ」


 そう言うことなら気にすること無いか。私は気を取り直して上梨の手を握り直した。


「行こうか」

「うん」


 廃屋が散見されるが、どれも廃村に相応しい風情で、すっかり朽ち果てている。屋根が落ちちゃってる廃屋は、家の中にも草が生えている。


「足跡あるな」


 上梨の言葉に見て見れば、確かに草を踏んだ足跡があった。


「大人サイズ。えーっとこっちにも別のがあるな。取り敢えず二人分と」

「加茂さん達かな」

「どうかな。不明瞭な足跡もあるからなあ」


 そして私はまた音を聞いた。


 上梨も立ち止まった。何かを探すように首を巡らせている。


「聞こえた?」

「聞こえた。どーんだった」


 よかった。空耳じゃなかったんだ。しかもさっきよりも少し近づいた気がする。


「ひょっとしてさっきつゆりが聞いた時より、近づいているとか?」

「うん。なんか怖いな」

「外法様の仕業ってことなのかな?」

「天狗がダイナマイト?」

「いや、発破じゃなくて」


 上梨が笑った。別に受けを狙ったわけじゃないんだけど。私、天然なのかな?


「先を急いだほうがいい?」

「かもしれないな。でも足元が悪いから、走ると転ぶぞ」

「上梨が手を繋いでてくれれば平気かも」

「じゃあ、そうするか」


 さっきまでよりも少し歩く速度を速める。


 あ、こっちの方が性にあってるかも。けっこう軽快に歩けるぞ。


 どーん


「おっと、また近づいた」


 上梨が険しい顔で言った。近づいて来るのは、悪い予感しかしない。早く、目的の男性を見つけたいところだ。


「あ」


 二人して思わず立ち止まった。少し開けた場所にすっくと突然電柱が立っていたのだ。


「これだ」


 二人して上を見上げる。取り敢えず誰も首を吊っていなかったので一安心する。


 どーん


「木が倒れる音?」


 また音が近づいた。確かに上梨が言うように木が倒れる音に聞こえなくもない。


「近づいて来るよ。どうする?」

「建物に逃げ込もうにも廃屋だからなあ。もう少し奥まで行こう。近づいてきているけど、まだ距離はある気がする」

「分かった」


 私は上梨を信じて、さらに廃村を進んだ。


 どーん


 上梨に言われたので、何となく倒れる木の音に聞こえて来た。天狗が木を倒しながら近づいているのだろうか?


「ねえ、上梨」

「ん?」

「あの茂み、誰かが分け入った感じしない?」


 私は茂みが不自然に倒れているところを指さした。


「あ、ほんとだ。行ってみよう。どうもこの先も隠れられそうなところはなさそうだ」

「うん」


 私と上梨は茂みに近づいた。近づいてみると、足跡がはっきり残っているのが見えた。私と上梨もその茂みに入った。


 どーん


 どうしよう、上梨。どんどん音が近づいて来るよ。山の向こうで響いている感じだったのが、もう見晴らせる範囲で鳴っているように聞こえる。


「つゆり、「開眼」してもらっていいか?」

「う、うん」


 気持ちは急いているけれど、私は立ち止まって石を取り出した。


「開眼」


 ぐるっと上梨が周囲を見渡す。何も「見えないよ」上梨。


「いないか、やっぱり」

「いたら私、言ってるし」

「だな」


 上梨が私の手を取り、また足早に歩き出した。


 どーん


 近い。


 どうしよう。言い得ぬ怖さで脚がふわふわする。


「上梨ぃ」

「大丈夫」


 恐らく何の根拠もない「大丈夫」だけど、私は上梨がそう言ってくれるのが嬉しい。いきなり殺されたりはしないと信じたい。いや、きっとそんなことはしない。


「あ」


 突然人に出くわした。


「加茂さん」

「よお」


 加茂さんがまるで散歩の途中のような仕草で手を挙げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ