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外法様 【宿にて】




 タクシーが山道の途中で止まった。


「あの」


 村長が首を電柱で吊ったという衝撃的な話を聞いたところでの、突然の停車に戸惑って聞く。


「もう暗くなる。山道はガードレールも無くて危険だ。これ以上はこの時間に進むのは無理だ」


 思わずつゆりと顔を見合わせた。


 確かに到着は夜になると予想はしていたが。


「夜になれば明かりも無い。人探しは無理だろ?」

「はあ、まあ」

「今日は引き返す。何なら料金はいらない」

「いえ、そんな。では、近くにどこか宿泊施設はありませんか?そに連れて行ってください。そして明日の朝にもう一度案内してくれませんか?」

「分かった」


 おじいさんは車を器用に転回して、今来た道を戻った。要するに転回できるスペースのあるところで停車したということのようだ。


「明日は朝に案内してもらって、その後、村の入り口で待っててもらうことは出来ますか?メーターを倒したままでいいので」

「ああ、すまない。そりゃダメだ」


 電波の届かない場所らしいので、帰りのタクシーを呼べないのは厳しい。


「ただし暗くなる前に迎えに行くことは出来る。昼は村のおばあさんを送迎する仕事があるんだ。何しろこの辺にはタクシーが二台しか無いからな」


 なるほど。そういう仕事を引き受けているので、タクシー業も成り立つということなのだろう。


「あの、検索しても宿泊施設が出て来なかったんですけど、あるんですか?」

「あるよ。まあ、なんつーんだ、民泊?そんな感じでしかやってないんだ」

「なるほど。急に行っても泊めてくれるんですか?」

「この時間からだから、豪華な晩飯ってわけにはいかないと思うが。まあ、泊まれれば文句ないんだろ?」

「その通りです」


 おじいさんがまたがははと笑った。話が廃村から離れると、本当に気さくなおじいさんだ。


 山道からアスファルトになり、しばらく走ると大きな民家の前でタクシーは止まった。


「ここだ。ちっと待っとれ」


 おじいさんがタクシーを降りて、出て行った。


「思わぬ一泊になったけど、いいよね?」

「逆によかった。だってテントはちょっと嫌だったから」


 俺はつゆりの言葉に苦笑した。


 以前テントでキャンプがしたいと言い出したので、セットで買ってキャンプ場でキャンプをした。大学の仲間に誘われて参加したキャンプコンパみたいなものが楽しかったからだ。

 二人キャンプも楽しくて、少し離れたところでキャンプしていたファミリーとおかずの交換などもして満喫したのだが。


 夜もファミリーに聞こえないように声を押し殺して二人ですることをして大満足だったはずなのだが、翌朝につゆりの靴の中にゲジゲジが入っていたことに気付かずにつゆりがそれを履いてしまって、大恐慌となった。


 それ以降、つゆりはキャンプに行こうと言わない。


 しかし今回は検索で宿が見つからなかったこともあって、そのキャンプセットを持参している。つゆりは気が進まないようだったから、民泊だろうと、夕食が質素だろうと、泊まれるのは渡りに船だった。


「あ、いいみたい」


 つゆりが言うように、おじいさんが民家から出て来て、手で大きな丸を作った。


 タクシーを降りて民家に入ると、おばあさんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい。こらまた急だから、もてなせねえが」

「いえ、泊めてくださるだけでもありがたいです」

「夫婦かい?」

「いえ、まだです」


 俺の言葉につゆりが少し赤くなって微笑んだ。


「そうか、しかし同部屋でいいんだな?」

「はい、結構です」

「そんなら離れを使わせてやる。夜は少し冷えるから、布団をたくさん使っていいから」

「はい、ありがとうございます」


 お風呂も入れると言うので場所を教えてもらう。普通の家にあるお風呂の少し大きい版って感じだ。もちろん温泉ではない。

 晩御飯まで少しあると言うので、先にお風呂をいただくことにした。


 さすがに二人で入ると言うのは図々しいかと、順に入ることにした。浴衣などは無いと言うので、つゆりとジャージに着替えた。


 夕ご飯は鍋だった。山菜やキノコがどっさり入った鍋は少し濃い味付けになっていたがとても美味しかった。


「しかしなんでまたこんなところに?なんもねえぞ?」


 おばあさんの問いに顔を身わせた。さっきのタクシーのおじいさんのように、廃村を話題にすると雰囲気が悪くなる可能性がある。


「えーっと」


 切り出せずにいるとおばあさんの顔から笑顔が消えた。


「まさか、あの村かい?」

「すいません。そうです。しかし興味本位ではなく、人探しなんです」

「あんな村に、入るもんじゃねえ」

「はあ」


 おばあさんが嘆息して立ち上がった。


「いけるかい?」

「あ、ごめんなさい。いけません」


 おばあさんが濁った酒の入った瓶を持って来た。


「なんだい、だらしない」


 だらしないと言われても困ってしまう。おばあさんは結局手酌で湯呑にお酒を注いで自分で飲み始めた。


「お前さん達はいい人のようだ。見れば分かる。村の悲劇をネタに売名しようとしてる連中とは違う」

「いい人かはともかく、売名しようとは毛頭思っていませんね」


 ふっとおばあさんの表情が緩んだ。


「元々このあたりには伝承がある」

「伝承ですか」


 たいだいこうした田舎には大なり小なり伝承があるものだ。しかし村での事件に何か関わりがあるかもしれない。聞いておいた方がいいだろう。


「簡単に言えば、天狗伝説、だね」





誤字報告、いつもありがとうございます。多忙で推敲が特にいい加減になっていて反省です。

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