外法様 【行方不明】
前半上梨君、後半少しつゆりちゃん視点です。
「天狗?天狗ってあの鼻の長い天狗?」
「そう、その天狗」
「あれって架空の妖怪でしょ?」
つゆりが振り返りながら俺を見上げて来る。ああ、上目遣いが可愛いなあ。
「妖怪、魔物、時には神だね」
「そんなあいまいな物なんだ」
「そう、元々は凶事を知らせる流星を指していたしね」
しかしこのご時世に天狗とは。
「さすがに私も見たのは初めてだよ。実在したんだなあって感じさ」
「話は聞いていたということですか?」
おばさんは頷いた。
「私の祖母からね。ある山に登山道が新しく作られることになって、その工事が滞ったそうだよ」
「天狗の妨害で?」
「最初は悪い霊の仕業ではないかと、疑ったようでね。改めて地鎮を行ったが、改善しないというのでお鉢が回って来たらしい」
「そこで天狗に遭遇したんですか?」
「ああ、祖母の見立てじゃ山の精霊って印象だったみたいだよ。当時は知り合いを呼んで追い払うことは出来たと言っていたがね」
となると霊と同じような対応が可能ってことなのか。
「まあ、見逃してもらったのかもしれないがね」
おばあさんの表情が少しだけ硬い。相当手強い相手と言う認識でいいのだろう。
「この動画に映ってるのがその天狗だとして、どうしておばあちゃんに話が来たの?」
「この撮影者は女子会で知り合ったお嬢さんの兄なのさ。放蕩な男でね。親の会社にコネで入れてもらったのに、自分のやりたいことはこれじゃないと言って、動画配信に没頭し始めたんだとさ」
「それは、また」
子供のわがまま感がすごいが、まあ、それも彼の人生だ。
「最初は大食いしたりゲーム実況したりと迷走していたところ、いつの間にかオカルト系に行ってね。心霊スポットを撮影していたらしい。徐々に本格的にのめり込み始めて、結構ディープな内容になっていたんだとさ。ま、あの映像だから人気にはなりゃしないがね」
「まあ、再生数もたかが知れていますね」
「そしてあれだよ。あの後、動画を見たオカルトハンター豪が連絡を取って来てね。コラボだ何だと浮かれてたらしいが、結局オカルトハンター豪の方は、何も起きずに終わるって形だったわけだ」
「ねー、ねー、おばあちゃん。結局私達は何をすればいいの?」
「その兄は行方不明になってる。ふいっと撮影旅に出ることはあっても、すでに1週間。これは長いってことだ」
「大人が一週間行方不明。これって大騒ぎすることでしょうか?」
俺は疑問を呈した。
「彼はもう一度あの村へ行くと妹に告げている」
「そうだとしても」
「上梨」
つゆりが少し心配そうに見て来る。薄情だと思われるかもしれないが、これくらいのことでいちいち人探しなどしていられない。そもそも行方不明は警察の案件だ。
「これは彼女が私がそっちの話に詳しいと知って、送って来た動画だよ」
今度はメッセージに添付された動画をおばあさんが再生し始めた。
「二階建ての二階の部屋が彼女の部屋なんだが、夜に屋根や壁を叩く音がして不気味に思って撮影したんだと」
「うわ、いた」
「いたの?」
「うん。家の壁にへばりついてるのが見える」
「彼女には当然見えていないんだがね。なんだか不気味だから見てくれと。幽霊でも映っていないかと」
「天狗が映ってるって説明したんですか?」
おばあさんが深刻な顔をする。
「彼女はこの動画を送って来てすぐ、行方不明になった」
◇
「連れ去られたってことで、いいんでしょうね」
「それを確かめてくれってことさ。彼女は母親には私の件を話していたので、その母親からの依頼ってことになってる。警察へ届けるのをためらっているのさ。嫁入り前の娘に変な噂が立ったら困るんだと」
「命の方が大事でしょうに」
「そうだよ、そんなこと言ってる場合じゃないのに」
「その深刻さが分かってるのは私らだけさ」
「あ、そうか」
天狗を「見えない」のだから説明しようとしたら相当難儀になる。さっき上梨は探す必要がないのではないかみたいなことを言っていたけど、さすがにこれならどうかな?私は振り返って上目遣いで上梨を見た。
「そういうことならやぶさかではありませんけど。つゆりと二人で何とか出来る相手なんでしょうか?」
「外法様を何とかしてくれなんて言ってないよ。二人の行方だけ確かめてほしい。知り合いに声を掛けておく。やはりあそこにいて、それに外法様が絡んでいるとなれば、その連中と協力してなんとかしてほしいと思ってるがね」
知り合いって言うとやっぱり加茂さんとか、須賀原さんだろうか。おばあちゃんは顔が広いから別の人かもしれない。
「場所ですが、分かってるんですか?」
「兄の部屋に資料が残っていたんだ。地図に無い村だよ」
おばあちゃんは地図アプリまで操作をして場所を教えてくれた。上梨が自分の地図アプリに緯度経度で登録する。
「もう電車の特急指定席は抑えてある。急いで支度するんだね」
「え?」
このまま行けと言うことらしい。私は上梨と顔を見合わせた。どちらからともなく頷き合った。
行くしかない、よね。




